【モネのアトリエ】
コヌクが帰ってしまった後、ソファーに膝を抱えて座りもの思いにふけるモネの元へ、テラが歩み寄る。
‐オム常務は見送ってきた。モネ、あの人に二度と会わないで。
‐嫌よ!
‐モネ、あの人がどんな人か、ちゃんと調べたことあるの?どうしてつきまとうのか、何をしている人なのか、知ってるの?
‐嘘つきのオムおじさんより100倍も1,000倍もマシだわ。オムおじさん、恋人がいるのよ。女優チェ・ヘジュと付き合ってるの。
‐知りもしないで
‐本当よ。あの人、コヌクオッパは私に本気だもん。
‐あの人が本気だとどうして分かるの?
‐モネ、もう一度あの男に会ったら、パパとママに言うわよ。どうなるか分かってるでしょ?
‐お姉ちゃん!
‐この辺で終わらせてあげる。あなたのためにも、あの人のためにもね。どういう意味か分かるわね?オム常務のことは私が調べてみるから、確実になるまで黙っていなさい。
自分を理解しようとしない姉の態度に腹を立てたモネは、ソファーから立ち上がると、部屋に閉じこもってしまう。
テラは、コヌクに触れられた右手に手を伸ばし、彼に惹かれ始めていることに、まだ気が付かないまま、コヌクを思い出していた。
【コヌク 部屋へ】
部屋に戻ったコヌクは、1枚の名刺を手に、モネのアトリエ前で出会った女性のことを思い出していた。
女性の名は、ムン・ジェイン・・・。なぜ彼女が故意にコーヒーを手にぶつかってきたのか、彼女との会話から察しがついたコヌクは、あえてホン・テソンであることを否定せず、そのまま別れたが、なぜかその女性のことが気になってしまう。
【警察署】
ソニョンの転落事故死に関して糸口が見つからないことに気落ちしていたクァク班長とイ・ボムは、思いがけない目撃証言を得ることになる。別件で警察署で取り調べを受けていた男性が、クァク班長らの手元にあるソニョンの写真を見ると、彼女が喧嘩をしているのを見たと証言する。事故の少し前の時間、ソニョンが口論していた相手の男性を“テソン”と呼んだことも聞き出した二人は、先日事情を聞いたばかりのソニョンの恋人、ホン・テソンが脳裏に浮かぶ。イ・ボムはすぐにホン・テソンに連絡を取るが、なかなか電話が通じずに苛立つ。
【コヌク チャン監督の部屋】
ムン・ジェインに関心を抱いたコヌクは、彼女に連絡を取り、あの時のシャツの汚れを洗濯してくれないかと問いかける。ジェインが快く承諾すると、コヌクはその部屋の主人が誰か分からなくするために、チャン監督の写真を隠す。
【クァク班長 テソンと通話】
電話がつながった途端、大声で怒鳴る部下イ・ボムを制し、クァク班長は穏やかな口調でテソンに語りかけ、もう一度聞きたいことがあるので会えないかと話す。
‐あの夜にコンビニの近くでソニョンさんがテソン!と呼ぶのを見たという目撃者がいるんです。
‐ソニョンではありませんね
‐はい?
‐ソニョンは私を呼び捨てにはしません。テソンさん、と呼びますから。
テソンの言葉に、慌ててソニョンの写真を手に目撃者に再確認させるクァク班長。
‐喧嘩すれば呼び捨てにもなるでしょう?
‐喧嘩だって?ソニョンは私に一度だって怒ったことはありません。いっそ怒ってくれたなら・・・
‐それならソニョンさんの周辺には他のテソンさんがいるってことですか?
‐ソニョンには私以外に付き合いのある男性はいません!
‐そういうことではなく、友達だとか、会社の同僚であるとか・・・
‐彼女には俺以外の男はいないって言っただろ!
‐これから伺います。今どちらですか?
‐もうほとんど確認されたでしょう?私は日本に行きます。二度と戻らないと思います。
‐日本ですか?
‐あなたなら、あんな家に住みたい?
電話が切れてしまうと、イ・ボムがクァク班長に問いかける。
‐あいつ日本に行くんですか?出国禁止にするべきでは?
‐いや、まだ容疑者でもないんだ。(寝ている目撃者を起こすと)おい、確かだな?テソンと呼んだんだな?
‐ええ、確かですって・・・どうして信じてくれないんですか?
クァク班長は、彼女の携帯電話の履歴に他のテソンがいないかどうか調べるよう、イ・ボムに指示するが、目撃者の男性は後姿しか見ていない、と曖昧な返事をする。
【ジェイン コヌクの元へ】
コヌクをホン・テソンだと信じ込んでいるジェインは、服を洗濯してほしいという申し出を快く受け入れ、呼び出された場所へと向かう。古びたアパートの一室の部屋をノックするジェインの前に、ラフなスタイルで「来たの?」と姿を見せるコヌク。
‐本当に来た・・・。入って。
雑然とした部屋に恐る恐る足を踏み入れるジェイン。
‐来てと仰ったでしょう?そのシャツを洗濯して欲しいのかと・・・
‐それで、直接洗濯するの?
コヌクの態度に苛立ちながらも笑顔を作って答えるジェイン。
‐それなら費用だけでも出しましょうか?お望み通りにしますので。
‐いや、それなら洗ってくれ。
ジェインにシャツを投げつけるコヌク。
‐それなら俺はこれで。
早々と部屋を出ようとするコヌクを慌てて引き止めるジェイン。
‐え、ちょ、ちょっと待って!
‐なに、話でも?
‐いいえ、そういう意味じゃなくて、もしかして主人もいない部屋で私一人で洗濯するってことですか?
‐それならそちらが洗濯している間、俺は何を?
‐ああ、それならここで洗わなくてもいいですよね。私の家に持って帰って綺麗に・・・
‐俺の服を知らない人に持ち出されるのは嫌だな。洗うのが嫌なら返してくれ
コヌクの手から慌ててシャツを取り戻すジェイン。
‐やりますよ!洗えばいいことですよね、誰がやりたくないなんて・・・(周囲を見回すと)ここには洗濯室はありますか?
‐洗濯室って何だよ・・・(バスルームを見て)そこでどうぞ。ではどうぞよろしく。
ジェインの肩をポンと叩くと、コヌクは口笛を吹きながら部屋を出て行ってしまう。
【ジェイン バスルームで洗濯】
洗濯板でシャツを洗い始めたジェインは、ぶつぶつと独り言をこぼす。
‐ああ、自分の洗濯物だって手洗いするの嫌で洗濯機使うのに・・・何よこれ。それにしてもいくら息子が愛人の子だからって、ひどいわ。金持ちって怖い。本当にこれを洗ってほしくて私を呼んだの?
【コヌク 売店前】
売店の前に座り、牛乳を飲むコヌクの足元に、サッカーボールが転がってくる。少年たちがコヌクに「おじさん!ボールとってください」と声をかけると、コヌクは少年たちを連れて空地へと向かい、無邪気にサッカーで遊び始める。
‐おじさん、サッカー選手だったの?
‐もちろん!小学校のときね。
‐ストライカー?
‐いや、ゴールキーパー。
‐それならおじさん、僕たちのシュート全部止められる?
‐もちろん、おじさんがどれだけ上手か見せてやる。おじさんが1点取られるごとに、お前たちにアイスクリームを買ってやる。
‐わ〜い!わ〜い!
【ジェイン 帰り際】
洗濯を終えて一旦帰りかけたジェインは、振り返り部屋の様子を見ると、散らかった部屋を片付け始める。
【コヌク 子供たちと売店前】
少年たちの放つシュートをすべて止めず、コヌクは彼らにアイスクリームを買ってあげると、喜んでアイスを頬張る少年たちの表情を見つめ、「嬉しいか?」と問いかける。
‐ああ、上手くいくはずだったのにな・・・
‐おじさん、本当にゴールキーパーだったの?
‐そうだよ、キーパーだ。
‐なのに1本も止められないの?
‐おい、おじさんが下手なんじゃなくて、お前たちが上手なんだ!
‐嘘だぁ
‐本当だ!(着信音が鳴る携帯電話を取り出しながら)大人になったらサッカー選手になれよ!
「ロープ」(モネ)からの着信を確認したコヌクは、電話には出ないまま携帯電話をポケットにしまい込む。
【モネの部屋】
電話に出ないコヌクに苛立ったモネが、外出しようとバッグを手にした途端、テラが「ランチにしましょう」と部屋に入ってくる。
‐どこへ行くつもり?
‐アトリエ。
‐アトリエはしばらくダメよ。家にいなさい。
‐どうして?私は人形?一日中家にいなくちゃならないの?どいて、出かけるの!
モネの腕をつかむテラ。
‐あなた、あの人に会いに行くつもりね?
‐違うわ。
‐それならどこへ行くの?ずっとこうするつもり?ママとパパに言おうか?
‐ちょっと!分かった、話して。全部話して!オムおじさんがチェ・ヘジュの恋人だということも、私がコヌクオッパを好きなことも話しちゃって。むしろ良かったわ。話しちゃってよ!
テラとモネの言い争う声に気が付いた母親が、部屋に現れる。
‐いったい何の話をしてるの?オム常務が誰と付き合ってる?コヌクオッパ?
【テラ、母親に説明】
モネの婚約者であるオム常務が、女優チェ・ヘジュを金銭面でサポートしていることは、証券業界でも有名だと、テラから聞かされたシン女史は怒りを隠せない。この結婚は白紙に戻した方がいいとのテラの話には首を横に振り、こちらから破談にすると、夫ホン会長の進めている仕事に不利であることを計算し、相手から破談を申し出るように仕向けようと企てる。さらにコヌクに警戒心を抱いたシン女史は、モネにカン運転手をつけて監視し、誰も彼女に近づけないようにとテラに指示する。
【コヌク 部屋に戻る】
アパートの扉を開き、綺麗に掃除された部屋を見て目を丸くするコヌクの前に、洗濯物を手にしたジェインが笑顔で姿を見せる。
‐まだ終わってないの?
‐ええ、主人もいない部屋を空けるわけにもいかなくて、帰れませんよ
‐何で掃除までしてくれてるの?
‐ああ、申し訳なく思う必要ありませんよ。ただ私はもともと綺麗好きで・・・
‐俺のことが好き?
‐はい?
‐だって、俺はただシャツだけ洗ってと頼んだはずだけど
ジェインに近づくコヌク。
‐俺のことが好きなのか?ホン・テソンだから・・・
この一言に、ジェインが心の奥にしまい込んだ感情が妄想となって膨らんでくる。
‐ははは・・・ああ、汚くって耐えられない!
ジェインは手にしていた洗濯物を乱暴に放り投げ、コヌクにじりじりと詰め寄る。
‐そうよ!あんたがホン・テソンだからやってあげたんだよ。あんたがホンテソンでなかったら、するはずないでしょ?ああ、腰が痛くて死にそう。あんた今までどれだけ間違い重ねてきたの?これからはお姉さんがちゃんと守ってあげるわ。正しく生きようね。
あっけにとられるコヌクの頭をなでるところまで思い描き、我に返るジェイン。
‐人のパンツどれだけ握りしめるつもり?
‐あ、あ〜!洗おうと思って!
ジェインに背を向けながら問いかけるコヌク。
‐本当に俺がモネの兄だから、してくれたのか?
‐もちろんです。モネには優しくしてもらっているので、モネのお兄さんにも何かしてあげたくて。それにしてもお天気がいいですね。洗濯物が良く乾きそうです!
‐仕事が終わったら帰って。
淡々と告げるコヌクに、言葉が出てこないジェイン。
‐帰らないの?
‐か、か、帰ります・・・
ソファーの上に洗濯物を置き、挨拶すると部屋を後にするジェイン。コヌクは少し距離を取りながら、彼女の後をついて歩く。コヌクが付いてくることに気が付いていたジェインは、バス停でコヌクに「送ってくださるの?」と問いかける。ただ用事があるだけと答えるコヌク。彼が車も持っていないことを知ったジェインは、モネとのあまりの違いに驚きを隠せない。ジェインが乗ったバスに一緒に乗り込むコヌク。
‐もしかして、私について来てるんですか?
‐いや、用事があるんだ。仕事してないの?暇そうにしてる。
‐(呆れたように笑って)この前名刺を・・・
‐ああ、アートコンサルタント。アートコンサルタントって?
‐展示企画をするの。美術館で展示する作品を選んだり、作家にあったり、最近では館長が・・・だからテソンさんのお母様が準備していらっしゃるギャラリーをお手伝いしています。初の企画展ですから、忙しくて。テソンさんはどんなお仕事を?
‐遊んでる。
コヌクの横顔を見つめていたジェインは、バランスを崩して倒れそうになり、コヌクに支えられたまま身動きできなくなってしまう。
‐ずっとこうしてるの?
‐いいえ・・・ありがとうございます。
‐いつもこうなの?
‐はい?
‐いつもこうしてぼんやりして転んだりするの?
‐いいえ、そうじゃなくて、私はしっかり者だって言われます。
‐自分で自分を褒めるのって、恥ずかしくない?
気分を害したジェインは、無言のままでバスを降りる。そんなジェインから距離を置き、コヌクは彼女の後ろを歩き続ける。ジェインは振り返り、モネから私の話を聞いてませんか、と問いかけながら、またつまずいてよろけてしまい、コヌクに支えられる。
‐ほら、また・・・
‐私はいつもしっかり者で・・・
‐はいはい、賢いんでしょう?よく躓くし、ぼ〜っとするのも上手だ。
‐えっと、ここが私の家です。
‐そう。それじゃ。
「何よ、用事があるとか言いながら、私を送ってくれたのね?私に興味があるのかな・・・」ジェインが独り言をつぶやきながらコヌクの後姿を見つめていると、不意にコヌクが振り返り、口元をふと緩ませる。
【ウォニン 売店前】
友人たちとのじゃんけんに負けたウォニンは、売店前の椅子に座るコヌクに父の煙草を買ってきてくれと頼み、1,000ウォン手渡すが、コヌクはウォニンの意に反し、自分のドリンクを買って来てしまう。
‐おじさん!煙草は?
‐買ってない
‐それならお金返して
‐俺を覚えてないの?
‐おじさん誰なの?
‐バス停留所の1,000ウォン。
歩き出すコヌクを追いかけるウォニン。
‐ああ、あのときのおじさん!それなら残りの1,000ウォン返してください。
‐利子!
‐おじさん、私高利貸しにでも借りたの?1,000ウォンの利子が1,000ウォンって何?
‐俺の好きだろ。
‐もう、大人のくせに。1,000ウォン返してよ!
手に持っているドリンクをウォニンの目の前に持っていくコヌク。
‐どうしてこんな貧しい少女から奪えるの?
‐おじさん一文無し。バス代もない。
‐おじさん!(コヌクの携帯電話の音を気にしながら)うるさいのよ。電話に出るとか!ああ、うるさくて言葉失っちゃう。
モネからの電話だと察したコヌクは、ウォニンに携帯電話を差し出す。
‐それなら君が出て!
‐何?ロープ?・・・もしもし?はい、ロープさん?おじさんが電話に出たくないって言ってるの。はい、電話しないでね。は〜い。
電話を終えたウォニンがコヌクに「お金」と手を差し出すと、コヌクは日本語で「アリガト」と言い残して少年のように無邪気に笑いながら走り去る。
【チャン監督 部屋に戻る】
仕事を終えて部屋に戻ったチャン監督は、日中コヌクがジェインに掃除させたことをまったく知らずに戻ったため、驚いて部屋を出ようとする。
‐あ!すみません。部屋を間違えました!
ふと振り返り、綺麗に掃除された自分の部屋だと気が付くと、「泥棒だ!」と叫びながら預金通帳が隠してある米びつを慌ててひっくり返す。大切なお金と通帳が無事で胸をなでおろすチャン監督。「ああ、驚いた・・・誰が部屋をこんなにきれいに掃除したんだ?」
【テラ シン女史とエステ】
母とともにマッサージをうけながら、モネからの電話に手を伸ばすテラ。
‐お姉ちゃん、私よ。カン運転手さんについて来ないように言って!恥ずかしくて死にそう。
‐恥ずかしいことなんてないでしょ。終わったら家に戻りなさい。
‐嫌よ。帰らない!家には帰らないからね!
モネが大声を張り上げ、一方的に電話を切ると、テラにシン女史が「誰なの?」と問いかけると、モネの様子を伝える。テラを担当する女性の職員がテラに語りかける。
‐奥さまはお肌が若々しいですね。
‐まさか、この頃は肌の状態が悪くて・・・
‐そんな、こんなに美しいのに。誰が見ても20代だと思いますよ。
‐20代なんて、そんな・・・
テラの様子を見て、シン女史も「あなたが私の娘だから言うわけじゃないけれど、本当に綺麗よ。あなたに娘がいるなんて誰が信じるかしら。パク検事は幸せね」とつぶやく。
目を閉じたテラの脳裏には、しきりにコヌクの姿が浮かんでくる。
‐冷たいお水をちょうだい
‐はい、奥さま。
シン女史が驚いた表情でテラを見る。
‐のどが渇いたの?あなた冷たい水嫌いでしょう?
‐ええ、少し暑くて・・・
【モネ カン運転手から逃げる】
隙を見てカン運転手の監視から逃れたモネは、タクシーに乗り込むと、コヌクの所属するアクションスタジオに向かう。モネの前に、トレーニング中だった女優チェ・ヘジュが現れ、誰を訪ねてきたのかと問いかける。ヘジュには答えず、チャン監督にコヌクを訪ねてきたと話しかけるモネ。コヌクは不在だと言われたモネは、自分はコヌクの恋人だと伝えるが、チャン監督に笑われてしまう。チェ・ヘジュとチャン監督の会話から、その週の日曜日にコヌクが遊園地での撮影を予定していることを知るモネ。
【ホン家】
シン女史がカン運転手に怒鳴り声をあげていると、ホン会長が帰宅する。
‐何を騒いでる?
‐何でもありません。
テラに目線を移す会長。
‐何でもありません。ただモネが・・・
‐モネがどうかしたのか?
夫の言葉に「オム常務に女がいました。チェ・ヘジュという女優です。そのことで話をしていたんです」と正直に伝えるシン女史。ホン会長はそれが事実なら婚約は破棄するが、このことについては自分が処理するから下手に動くなとシン女史に釘をさす。
【ジェイン、ウォニンと映画鑑賞】
映画館を出たウォニンは、自分から行動を起こそうとしないジェインの携帯電話に手を伸ばすと、“ホン・テソン”あてに勝手にメールを送ってしまう。ウォニンの計らいで再びコヌクに会うことになったジェイン。
【ジェインとコヌク コーヒー片手に散歩】
‐これを飲もうと、電話くれたの?
‐ええ、缶コーヒーを・・・もしかしてインスタントコーヒー嫌いですか?ごめんなさいね、シン女史もインスタントコーヒーが嫌いですものね。
‐これが一番美味しいけどな
‐そうですか?思ったより大らかなんですね。モネも味にはうるさいのに。
‐電話もらって期待したんだ。部屋も汚くて、洗濯物もたまっているから。
‐それなら家政婦さんでも呼ばなくちゃ。
‐家政婦さんよりずっと上手だったよ・・・
公園を並んで歩く二人に、一人の女性が「写真を撮ってください」と声をかける。ジェインがシャッターを押す姿を見つめながら、コヌクは幼い頃、両親と
外出した時の幸せな時間を思い出し、胸を痛めていた。ジェインもまた、幼い頃の父と一緒だった時代を思い出し、お花見に行く日は、一日バスに乗っているだけなのに楽しかったと思い出話をはじめる。
‐今は?
‐今は当然嫌です。人も多いし、長くバスに乗るのも嫌だし、買った海苔巻も・・・何より父がいないでしょう。その時はパパ、ママ、私、妹四人だったのに、今は三人だもの。三人じゃ楽しくないわ。
親を失うことで喪失感を痛いほど味わったコヌクには、ジェインの心情が手に取るように伝わってくる。ゆっくりと歩き続ける二人に、カメラマンが「写真を撮りましょうか?恋人同士でしょう」と声をかける。「そんな仲じゃないですよ」とためらうジェインをよそに、コヌクはジェインの肩を引き寄せると、
カメラマンに「おじさん、きれいに撮ってね」と話し、笑顔を浮かべる。
【コヌク 協力者と待ち合わせ】
ヘシングループを陥れるための準備を進めるコヌクは、情報を集めてくる協力者から、テラの夫が検事であるため彼には触れない方が良いと助言されるが、「なぜです?面白くなりそうなのに」と答え、冷たい微笑みを浮かべる。
【コヌク モネの元へ】
大学構内を歩くモネは、コヌクのハーモニカの音色に気がつくと、音がする方へ駆け出す。突然目の前に現れたコヌクに心躍るモネ。コヌクは優しい笑顔を浮かべ、モネに「プレゼント」と言いながら、ハーモニカを手渡す。
‐どうして電話に出なかったの?どれだけ会いたかったか・・・意地悪ね。これからは電話に出てくれる?会ってと言えば、会ってくれて、会いたいと言えば駆けつけてくれるでしょう?それと私が・・・
‐どうして俺がそんなことを?俺は君にとって何でもないのに。
‐オッパ・・・
‐俺は君のオモチャじゃない。数か月遊んですぐ飽きて、すぐに捨ててしまうようなモノ・・・そんなモノになりたくない。
‐そんなことないわ!違うわ。オッパ、今までそんなこと思ってたの?
‐うん
‐いつから?
‐君が、俺を隠したいと気づいた時・・・
アトリエの暗い部屋にコヌクを隠したことを思い出し、返す言葉がないモネ。気落ちしたモネの腕に手を伸ばすコヌク。
‐モネ、こんなことやめよう。君は堂々として嘘のない姿が一番可愛いよ。俺のために不安になり、隠したり、苦労したり、苦しむのはやめろ。俺は大丈夫だから、気を遣わなくていい。な?それじゃ、行くよ。
モネに罪悪感を抱かせることを意識したコヌクは、思い描いた通りの反応をするモネに背を向け、歩き出す。
【バイクで夜の街を疾走するコヌクの独白】
-
俺には3つの名がある。両親が呼んでくれた名前、チェ・テソン。ヘシングループが強要した名前、ホン・テソン。そして仕方なしに選んだ名前、シム・ゴヌク。俺も時々、自分が誰なのか分からなくなる・・・
【テラ モネの部屋へ】
‐モネ、オム常務から電話よ。携帯電話にかけても出ないからって、家にかけてきたのよ。
‐嫌。
‐分かった。
‐ちょっと待って、出るわ。
オム常務からの電話に出たモネは、コヌクに会いたい一心で、オム常務を利用し遊園地へ行くことを思いつく。電話を終えたモネに問いかけるテラ。
‐突然どうして遊園地なの?
‐最後にどうしても言っておきたい言葉があるの。
【映画撮影】
コヌクがバイクにまたがる姿を見つけたモネは、撮影中にもかかわらず車を降りてコヌクに駆け寄る。ヘジュを乗せたコヌクのバイクが通る道に立ち、行く手を阻むモネ。
驚いたチャン監督が「カット!」の声を上げる。オートバイに乗ったまま、「撮影中だ。どいてろ」とモネに冷たくするコヌク。
‐嫌よ!
‐どけ!
‐ごめんなさい。隠そうとしたこと、嘘をついたこと、全部謝るわ!
オム常務が駆け寄り、モネの手を取ろうとするが、モネはオム常務の手を振り払うとコヌクをまっすぐ見つめて続ける。
‐これからはもうあんなことしない。家族にもあなたを堂々と紹介する。私の好きな人だって、ホン・モネはシム・ゴヌクを好きだって!
ヘルメットを取ったコヌクは、表情を変えずに困ったように黙り込む。オム常務に手を引かれていくモネのそばにバイクを移動させ、オム常務に話しかけるコヌク。
‐その手を離せよ。彼女が嫌がってる。
‐お前!
モネに「車に行ってろ」と叫ぶオム常務。モネが車に向かうと、コヌクがバイクから降りてオム常務の前に立つ。
‐恋人に怒鳴るもんじゃない。
‐お前、俺の恋人と付き合ってるのか?
‐誰だ・・・モネか、チェ・ヘジュか?二人ともあんたには関心なさそうに見えるけどな。チェ・ヘジュもお前の女なんだな?
‐モネに話したのか?
‐怖いんだな?
‐最近おかしいと思ったら、全部お前のせいか。おい、二度とモネの周りをうろつくな。分かったか?
‐・・・吐き気がするぜ
‐何だと?
‐金持ちの家に生まれたからって、あちこちの女に尻尾を振るその姿・・・吐き気がするんだよ
コヌクの言葉に腹を立て、
拳を振り上げたオムは、逆にコヌクに突き飛ばされてしまう。立ち上がれないままのオムを見下しながら歩み寄るコヌク。
‐バス代あるのか?
コヌクの言葉に、すでにモネの車がないことに気が付くオム。
‐ソウル行きのバスは30分後だな
財布から紙幣を取り出したコヌクは、オムに紙幣を投げつけると、オートバイにまたがりモネの後を追う。一度路上でコヌクの姿を見つけたモネだったが、また見失い、肩を落とす。家に戻ると、コヌクを思うあまり、モネは高熱を出して寝込んでしまう。
【テラ コヌクと待ち合わせ】
モネのためにも一度コヌクに会ってみる、とシン女史に話したテラは、早速コヌクに連絡を取り、待ち合わせの場所で彼を待つ。コヌクが現れたことに気づいても、表情を硬くしたまま席を立たないテラ
に、コヌクが先に声をかける。
‐こんにちは。これが4度目、ですね。
‐座って。
‐お茶は・・・
‐結構です。
‐モネのことです。
‐モネか・・・
コヌクに見つめられ、身動きもできないテラ。沈黙を破るようにテラの携帯電話が鳴る。
‐ちょっと失礼。もしもし、ソダム?・・・うん、フランダースに出てくる犬の名前?
コヌクが「パトラッシュ」と一言告げる。
‐パトラッシュですって。今ね、ママ外にいるから後でお話しましょうね。
‐ソダムがパトラッシュを好きなんだね。ネロの唯一の親友なんだ。
コヌクの話には答えず、平静を装いモネの話を始めるテラ。
‐単刀直入に言います。モネとどうするつもり?
‐どうするつもりもありませんが、何かないといけませんか?
‐それなら、どうするつもりもないまま、彼女の心を揺らしてるの?あの子があなたのせいでどうなっているか、わかるの?食事もできず、眠れなくて・・・
‐初恋の経験は?
‐何ですって?
‐初恋の経験があるかと聞いたんです。相手は誰かは重要じゃない。その感情を知っているなら、食事もできず、眠れもしない、熱病のようなものだ
とわかるはずだ。
答えられないテラから少し目をそらすコヌク。
‐今のご主人はあなたの初恋じゃないみたいだ。
‐シム・ゴヌクさん。何がお望み?望みは何かいえば・・・
‐残念だね。望むものがない・・・。好きなら会うし、嫌いなら会いません。そして、望むものがあれば、俺のやり方で手に入れます。誰にも
干渉させない。それがあなただとしても。では失礼します
立ち上がりかけたコヌクを制するテラ。
‐あなた、あなたのせいでモネが傷ついて苦しんで死んでも構わないの?あなたがふざけるたびにあの子は傷つくの
よ。
‐あなたは?あなたは傷ついたことはあるんですか?誰かに一度でも傷つけられたことはあるんですか?
‐・・・何?・・・
‐モネに伝えてください。俺のような奴のせいで傷つくなと。ではお先に。
【ジェイン、モネに電話】
シン女史からモネを食事に誘ってあげてくれと頼まれていたジェインは、モネに連絡を取る。ジェインの話から、コヌクもその席に来ることを
察したモネは、コヌクが実の兄ではないことをジェインに黙ったまま、待ち合わせ場所のレストランへと向かう。