【ジェイン 出張先のホテルからウォニンへ電話】
日本に出張中のジェインは、ソウルに一人残してきた妹ウォニンが気にかかり、電話をかける。
‐お皿洗った?
‐えっとね、食べて来た・・・
‐ちょっと、お姉ちゃんが作って置いておいたでしょう?温めなおして食べなって。だからお小遣いたまらないのよ。
−渡しておいてお小言?
−無駄遣いするなってことよ。
冷蔵庫からビールを取り出して嬉しそうにカンのふたを開けるウォニン。
−ビール飲もうとしてるでしょ?
青ざめてきょろきょろと周りを見回すウォニン。
−違うよ!
−冷蔵庫には2本ビールが入ってるんだからね。戻ったら確認するよ。
−そうだお姉ちゃん、大家さんが家賃が入ってないって言いに来たわ。
−え?今日は何日?あ!払うのを忘れてたわ。
−そんなことも忘れて何?出張先の免税店で何買おうか考えて、他の事みんな忘れたんでしょう?
−そうよ、ブランド品には目がないの。これでいい?
−ママに電話しようか?通帳にお金入れてもらうように・・・
−やめて。家にお金なんてないもの。大家さんには戻ったら払うって伝えておいて。ウォニン、夜景が最高よ。このホテル最高。
真っ白なホテルの壁を見つめながら、思い描いた景色そのままを伝えるジェインの言葉に、すぐに冗談だと気が付くウォニン。
−またふざけちゃって。日本のホテル、そんなに素敵?
−だからあなたも一生懸命勉強しなさい。お姉ちゃんみたいに出張で素敵なホテルに泊まれるわよ。
−ホテルはバスタブが素敵だって聞いたから、十分堪能して、ぐっすり眠ってね。ばいばい!
【テソン 滞在中のホテル〜船上パーティ】
日本に滞在中のテソンは、ホテルのフロントに届けられた船上パーティの招待状を受け取るが、自分がなぜ招待されたのか全く見当もつかない。退屈しのぎに船上パーティに向かったテソンは、韓国から商用で来た女性ジェインに関心を抱き、声をかける。思いがけない場所で韓国人に会えたことでいったん喜んだジェインだったが、二人で会話を始めると、女性を見下したようなテソンの態度に苛立つ。そんな二人の目の前で、真っ暗な海の中に人が転落する。驚いたジェインは大きな声で人を呼び、テソンに「早く助けて!人が死にそうなのよ!」と飛び込んで助けるよう急がせる。ソニョンを失ったときのことが脳裏に蘇ったテソンは、「誰が死なせるか・・・」とつぶやくと、上着を脱ぎ、海に飛び込む。テソンを待っていたのは、コヌクだった。すべて用意周到に準備していたコヌクは、水中でテソンを押さえつけると、彼が意識を失うのを確認し、水上へと向かう。
【クァク班長とボム コヌクの施設へ】
警察に保護された少年の背中に、痛々しい傷があったことを施設長から聞かされたクァク班長は、大きな手掛かりを得たことを感じる。「ホン・テソン」少年の写真と資料を確認しようとしたクァク班長は、そのページだけが破かれているとの施設長の言葉に眉をひそめる。
【船内 救急室】
テソンを罠にはめるためコヌクに力を貸した男性は、ベッドの上で先に目を覚ますと、静かにその場を後にする。恐怖心を与えるため、暗闇がどんなものかを思い知らせるため、テソンを夜の海に誘い込んだコヌクは、ベッドで横たわるテソンの表情を一瞥すると、足早に部屋を去る。
目を覚ましたテソンは、寄り添うジェインの姿にソニョンの幻想を見る。ジェインが席を外した途端、海の中で何者かが自分を沈めようとしたことが蘇り、恐怖心がこみあげるテソン。沈黙を破るようにジェインの携帯電話が大きな音を立てて鳴り響くと、テソンは勝手に電話に出てしまう。相手は自分の母親、シン女史だった。驚いて何も言えずに電話を切ったテソンだったが、シン女史に自分から電話をかけなおす。
ジェインって誰?と問いかけるテソンに、シン女史は知る必要はない、と冷たく言い返す。
−隠してる娘でもいるんですか?
−ギャラリーを手伝ってくれている人よ。どうして電話したの?無駄な話をして。
−具合が悪いんだ・・・
−そう?病院に行きなさい。切るわよ。
−待って!
−お金が必要なの?
−金は使いきれないほどあります!そんなことご存知でしょう?切ります・・・
−ちょっと!彼には会った?
−誰です?
−まだなのね。あなたに1人つけるわよ。
−そうですか・・・今度はどれくらいで帰しましょうか?
−1週間よ。いえ、数日でもいいわ。短ければ短いほど都合がいいの。一生連れて歩いてもいいわ。
実力を見せてごらんなさい。うちの家族に面倒な子はあなた一人で十分なの。だから久しぶりに役に立つことでもして
みせなさい。
−嫌だと言ったら?
−好きにして。一文無しになろうがなるまいが。
義理の母の冷たさに、テソンは心の底から悲しみが込み上げてくる。自分は誰にも必要とされていない人間なのか、彼女のせいで、いつもそんな思いに支配されていたテソンは、孤独感に包まれる。涙を浮かべるテソンの前に、ジェインが戻ってくる。テソンの涙を見てしまったジェインは、部屋を出て行ったテソンの後を追う。船上で花火を見ながら、テソンのそばにそっと立つジェインは、“綺麗”とつぶやく。
テソン:普通さ、子供が具合の悪いとき、母親は何て言う?
ジェイン:「どこが痛むの?」「すごくつらい?」うちの母はそう言ってくれた・・・。子供がつらいと、母親はその十倍つらいんですって。
テソン:そうなのか。彼女が実の母さんなら、そう言うだろうな。
ジェイン:ソニョンって、誰ですか?さっき私にソニョンと・・・
テソン:「すごくつらい?」俺にそう聞いてくれた人。
ジェイン:電話でも、してみたらどうです?
テソン:出ないよ。
ジェイン:なら出るまでかけてみたら?
テソン:出ないんだよ・・・。ああ、寒い。
ジェイン:上着も持たずに出るからですよ。少し待っていて。持ってきます。
歩き出したジェインの腕を掴んだテソンは、ジェインを抱き寄せる。戸惑ったジェインはテソンの体をそっと離し、さっきは飛び込ませてごめんなさいと謝罪するが、突然強引にテソンに唇を奪われ、怒りに満ちた表情でテソンの頬を打つと、
テソンに背を向けてその場を後にする。
【コヌク テソンの元へ】
テソン所有のヨットを綺麗に洗い、身支度を整えたコヌクは、テソンの滞在するホテルの部屋をノックする。ゆっくりとテソンの前に歩み出たコヌクは、
仮面を被ったように別の表情を作り、穏やかな笑顔を浮かべながら挨拶する。
−初めまして。シム・ゴヌクです。
−お前か?俺の付き人は・・・
この瞬間から、気ままに日々を過ごすテソンの付き人として、コヌクは復讐を実行するため着々と
テソンのプライベートに介入していく。コヌクに3つのミッションを与えたテソンは、自分につきまとう男がコヌクの協力者とは知らず、その男を連れてくるように指示を出す。2つ目の指令は、面倒なことになったヨットだった。だがコヌクはすでにヨットの鍵を
手に持っており、綺麗に掃除しておいたと言ってテソンを驚かせる。3つ目の指令は、コヌクも予測していなかったことだった。ムン・ジェインが何をしに来たのか調べてほしい
とのテソンの言葉に、一瞬コヌクの表情が曇る。
【ジェイン 日本人陶芸家の講義へ】
ガラスの仮面を求め、ジェインが日本人陶芸家の講義に顔を出すと、その場にコヌクが来ていることに気が付き、講義後コヌクのそばに駆け寄る。
−どうしてここに?講義室であなたを見かけてビックリした!
−ある人に会いに来た・・・
−誰?この大学の人?
−うん
−会えたの?
−うん
−思ったより優秀なのね。日本に仕事で来るなんて。
−おかげさまで。
−うん?とにかく嬉しい!不思議だけど、ここで会えて。私ね、行く場所があるの。ここには仕事を終えて来たの?
−終わってはいないけど、大丈夫だ。
−そう?一緒に行こうか?
ジェインの笑顔を見つめながら、ホン・テソンがジェインに関心を抱き始めたことに気づいていたコヌクは、しきりの心を痛める。「何食べようか?」と言うジェインに、コヌクは突然「なぜホン・テソンなんだ?」と問いかける。
−なぜ、ホン・テソンなのかって。
−ねぇ、ナポレオンのこんな言葉を知ってる?パリでは人徳ではなくて豪華な馬車が尊敬されるって。豪華な馬車!素敵じゃない。
無言でジェインの言葉を受け止めるコヌク。
−食べに行かないの?
−うん、先に入っていてくれ。
−あんたは?
−すぐ行く。
−それなら注文しておくね。何がいい?
−何でも。
−私の好きなもの頼むからね。
−うん。
ジェインの後姿を見送ったコヌクは、テソンからの電話を受けると、ジェインが日本に来た理由を伝える。テソンにすぐに戻れとの指示を受けたコヌクは、店で一人待つジェインを残し、タクシーに乗り込む。
【テソン ジェインに接近】
駅で列車の到着を待つジェインに、船上パーティで出会った男性、ホン・テソンが近づいていく。テソンに警戒心を抱くジェインだったが、駅の待合室で彼の名が「ホン・テソン」であると知り、目を丸くしてテソンを見つめる。半信半疑のままのジェインは、テソンが荷物も持っていないことを不審に思う。
【電車内】
テソンはコヌクが用意したチケットを手に、ジェインと同じ列車に乗り込むと、彼女の了解も得ずに隣に座り込む。そこへテソンの荷物を手にしたコヌクが姿を見せる。二人の視界に入らないような席に座ったコヌクは、列車に揺られながらソニョンを思い出し、涙を浮かべていた。テソンとジェインのそばに歩み寄るコヌク。
ジェイン:あ!コヌク!どうしたの、ここには何しに来たの?
コヌクとジェインが知り合いだったことに驚いて言葉のでないテソン。
コヌク:出張だよ。
ジェイン:そうなの?席はどこ?(目の前の席を指して)ここに座ってよ。
不愉快な表情を浮かべるテソンを意識しながら、コヌクはジェインの前に腰掛ける。ジェインが嬉しそうにコヌクに語りかける様子に、テソンはいら立ちが募るが、互いに知り合いであることは口に出さない。ジェインが席を立っている間、テソンはたまらずコヌクに問いかける。
テソン:知り合いなのか?どこで知り合った?
コヌク:モネと親しい間柄なので、何度か面識があります。
テソン:なぜ言わなかった?俺が調べてみろと言ったとき、お前すでに誰だか知っていたんだろう?
コヌク:聞かれなかったので・・・。紹介しましょうか?
テソン:紹介?いや、彼女が求めているガラスの仮面を手に入れて、シン女史を困らせる。知らないふりしてろ。
2本の缶コーヒーを手に席に戻ったジェインは、コヌクの隣に座ると、1本をコヌクに手渡す。まだ雪が残ってるね、と景色を見つめてつぶやくジェインを、優しい瞳で見つめるコヌク。
ジェイン:ねぇ、コヌク!どうして画家が風景画を描くか、考えたことある?美しい風景を見ていると、画家がなぜ風景画を描くのかわかる気がする。美しい景色が、季節とともに過ぎ去るのが惜しくて、風景画を描くのかもね。でしょう?
テソン:冬の間の雪なんて珍しくもないしうんざりだけどな!
ジェイン:ちょっと!人によって美しいと思うものは違うのよ。手に入れたいものもね。あのね、そちらに話してるんじゃないんですけど。どうして割り込むの?
テソン:それで何が手に入れたいの?
ジェイン:知ってどうするの?
張りつめた空気を和らげるように、コヌクがテソンに語りかける。
コヌク:お互い、自己紹介しましょう。シム・ゴヌクです。
テソン:ホン・テソンです。
コヌク“ホン・テソンだって”とつぶやきながらジェインを見つめ続ける。
ジェイン:何を見てるのよ。
コヌク:いや・・・どこかで聞いた名前のような気がするからさ。ホン・テソンさん、もしかして、お金持ち?
眉をひそめるテソンに、もう一度同じ言葉をつぶやくコヌク。
テソン:ああ、金持ちだよ!
コヌク:羨ましいな。
ジェインを見て“金持ちだってさ”とつぶやくコヌク。コヌクとジェインが親しそうに会話を交わす姿に、嫉妬心を抱くテソンは、黙り込んでしまう。
【列車を降りた三人】
テソンは最後まで互いに知らないふりを通そうとコヌクに提案すると、先に駅を離れていく。コヌクはジェインが宿泊の予約をしていないことを知り、自分の予約している宿に一緒に行こうか、と声をかける。
【テソン ガラス陶芸家の工房へ】
テソンはコヌクから手渡された韓国の焼酎入りの手土産を手に、陶芸家の風間氏を訪ねていく。ジェインより一歩早く到着したテソンは、ジェインが求めていたガラスの仮面を求めて、風間氏とともに車に乗り込む。テソンに後れを取ったジェインは、すぐにタクシーに乗り込むと、二人の後を追う。
風間氏に追いついたジェインは、テソンが風間氏の車から降りてきたことに驚きを隠せない。先に購入を申し出たのは自分だと言い張り、まったく譲ろうとしない。二人が韓国語で言い争い始めたことで嫌気が差した風間氏は、雪の降る中、二人を残して車を走らせてしまう。