【ジェインとウォニン 部屋で】
出張から戻ったジェインの荷物の中に、綺麗に包装された箱を見つけたウォニンが、「なんだろう」とわくわくしながら箱に手を伸ばした途端、ジェインに「開けちゃダメ」とピシャッと叩かれてしまう。シン夫人への手土産だと話すジェインに、ガラスの仮面は手に入ったのか問いかけるウォニン。
−ガラスの仮面はあの人が持ってくるわ
−あの人?日本で彼氏でもできたの?
−学校行かないの?私も出勤しなきゃ。早く。
−お姉ちゃん、大家さんから家賃の催促の電話来たの。払ってね。
−分かったから早く行きなさい!
ウォニンが部屋を出ると、携帯電話を取り出したジェインは「ちょっと早すぎるかな・・・」と迷いながら画面を見つめる。そんなジェインの携帯電話にメールが届き、1件目は広告メールだったことで、気落ちするジェインだったが、次に届いたメールはシム・ゴヌクからのものだった。
「ソウルに戻った」
コヌクのメッセージを見て浮足立つジェインは、早速返信のメッセージを打ち始める。
「Welcome。ホン・テソンも一緒?」
と入力しかけたジェインは、考え直すと、再び入力しなおす。
「Welcome。一人で戻ったの?」
「いや、二人だ」
ホン・テソンがソウルに戻ったことを知ったジェインは、期待に胸を膨らませながら美容院へ向かっていた。鏡の中の自分を見ながら、ジェインの脳裏に日本でのテソンとの記憶が蘇ってくる。
【空港 コヌクとテソン】
どこにお送りしますかと問いかけるコヌクに、テソンが迷わず東部警察署と答えると、コヌクは表情を曇らせる。
【ジェイン シン夫人の元へ】
ガラスの仮面が他の人の手に渡ったことを伝えるジェインに、誰の手に渡ったのかと問い詰めるシン夫人。シン夫人の様子に、焦りを感じたジェインは、仮面が手に入る確信もないままに必ず展示できるよう努力しますと答えてしまう。
【東部警察署】
警察署に入るテソンに、入らないのかと問いかけられたコヌクは、外で待つと答えると、警察署前で待機する。そこへソニョンの事件の担当刑事二人が通りかかり、コヌクは刑事らの会話から、彼らがソニョンの所持品を探していることを察すると、様子をうかがうために署内のテソンのそばに向かう。コヌクを秘書であると刑事に紹介したテソンは、クァク班長から捜査の状況を聞かされる。事故のあった夜、ソニョンが口論した相手の男性は、かつてホン家に養子入りし、追い出された後、ソニョンと同じ施設で育った人物ではないかと話すクァク班長に、ソニョンからまったく話を聞かされなかったテソンは驚いた表情を浮かべる。ホン家に養子離縁された男性について本名や住所など分かることがありますかと、問いかけられたテソンは、彼女がホン・テソンという名前が好きだと言うのは、聞いたことがあると答える。黙ったまま話に耳を傾けていたコヌクは、ソニョンがテソンと交際していることを知った日のことを、思い出す。
〜コヌク回想〜
ソニョン:テソン!あの人の名前もホン・テソンなのよ。
ソニョンの言葉を聞き流しながら、熱心に作業を続けるコヌク。
ソニョン:久しぶりに会ったのに何を一生懸命やってるの?ねぇ!私の話聞いてるの?
コヌク:うん、ごめんソニョン姉さん。
ソニョン:何これ?ヘシングループの資料?
立ち上がったコヌクは、“わ〜久しぶりの姉さんの手料理だ”と嬉しそうに食卓に向かう。ソニョンはコヌクの机の上にある資料の中の写真に、自分の恋人ホン・テソンの写真があることに気が付く。
ソニョン:テソン!
コヌク:コヌクと呼べって・・・
ソニョン:私の付き合っている人よ
〜回想ここまで〜
刑事との話を終え、一旦帰ろうとしたテソンが、ふと刑事の方へ振り返る。
テソン:ソニョンのダイアリーは読みました?ソニョンは毎日持ち歩いて、いろいろ書き込んでいました。家にダイアリーは?変だな・・・手放したことはなかったのに。いつでも必要なら連絡ください。
テソンの後について歩くコヌクの後姿に、その場に居合わせた事件の日の目撃者の男性が、何か思い出しながらじっと見入っていた。
【テソンとコヌク 車内で】
テソン:テソン!
コヌク:はい?
テソン:ホン・テソン・・・ホン・テソンという名の男を当たって見てくれ。
コヌク:・・・・
テソン:何故返事をしない?
コヌク:分かりました。
テソン:今でも覚えてる。不愉快な奴・・・ソニョンがあいつと?テソンって名前が好きなのも、そいつのせいなのか?一体どうなってる
ソニョンを失った悲しみで胸を痛め続けていたコヌクは、テソンの言葉に耳を傾けながら、涙を堪えていた。
【ブティック モネとテラ】
姉に日本に行かせてくれと頼むモネに、電話もつながらず、いつ戻るかも分からないのは、モネを利用しているだけだと断言するテラ。ところがモネはいつものように姉の意見には耳を貸そうとしなかった。二人の前にシン夫人が姿を見せると、ブティックの店員が準備しておいた洋服を持ってくる。その中から一枚の服に目を付けたシン夫人は、好みではないと切り捨てる。VIPのお客様へのプレゼントであり、低価格帯の洋服であることを店員に聞いたシン夫人の脳裏に一人の女性の顔が浮かび、「別に包んでおいて」と気に入らない服を取り置くように言いつける。
【ジェイン】
仕事中、家主に2か月分の家賃振込の電話をしたジェインは、自分の銀行の残高を見てため息をつく。そこへシン夫人がやってくると、唐突にジェインに洋服をプレゼントする。VIP用に準備された洋服とは知らないジェインは、憧れのシン夫人に洋服を選んでもらえたことで喜びが込み上げ、頬を赤らめると、ガラスの仮面を必ず手に入れようと心に誓う。
【コヌク テソンの部屋へ】
部屋に戻ったテソンに、ふいにコヌクが問いかける。
−ガラスの仮面のためだと思いました。また韓国へ戻ると言った理由です。
−重かった。でも俺のために死んだわけじゃないなら、少しは心が軽くなる。部屋に女の物がある。化粧品や洋服、全部片付けてくれ。
−全部片付けるというと・・・
−片付ける、この意味も分からないのか?全部捨てろってことだよ
−その方は、愛する方ではなかったのですか?愛する人ならば、何か思い出を感じるものをひとつでも残すだとか・・・
−おい、余計なお世話だ。普段は淡々と仕事をするお前が、関心を持つなんてな
−もしかして後になって、探すかもしれませんし・・・
−必要ない。全部捨てろ
ショックを受けて立ち尽くすコヌクをよそに、テソンはマンションを後にし車で外出してしまう。一人テソンの部屋に残されたコヌクは、ソニョンの持ち物を整理しながら、やりきれない想いでいっぱいになる。
テソンが向かったのは、ソニョンが眠る納骨堂だった。 テソンがソニョンの遺影の前で彼女に語りかけている頃、コヌクはテソンとソニョンが並んで写る写真を手に、あの夜のことを思い出していた。
ソニョン:コヌク!私、この人を愛してるの!だからやめて・・・お願いだからやめてよ
コヌク:愛?ゴミ箱に捨てても惜しくもない思い出が・・・愛だと?
ソニョンを失った悲しみで慟哭するのは、コヌクだけではなかった。ソニョンを愛していながら、その気持ちを上手に伝えることが一度もできなかったテソンもまた、悲しみに暮れていた。
テソン:ソニョン・・・もし、もしお前の死に、あいつが少しでも関わっていたのなら、俺が許さない・・・
テソンの部屋の中に残る、ソニョンの持ち物の整理を終えたコヌクは、心の中でソニョンに語りかける。
−姉さん、ごめん。俺は止まることなどできない。ヘシングル−プとその家族に・・・彼らが犯した罪の重さを、思い知らせてやるまでは。全てが終わった後、そのときに罰を受けるよ。見守っていてくれ、姉さん・・・
【ジェイン ブティックへ】
タグについていたブランド名を見たジェインは、そのブティックを訪れ、何食わぬ顔でシン夫人から譲り受けた洋服を返品しようとする。
店員:領収書がなければ困ります、お客様。
ジェイン:この前私が来たときは他の女性店員さんだったわ。きっと私を覚えているはずよ。返品できませんか?
店員:そうですか、少しお待ちを。
店員が紙袋を開き、商品を確認し始めると、ジェインは携帯電話を取り出してコヌクに連絡を取る。
ジェイン:どこなの・ソウル?
コヌク:うん、ホン・テソンの家に行くところだ?
ジェイン:どこに行くって?
コヌク:ホン・テソンの家だよ
ジェイン:あの人も家に戻ったの?
コヌク:ホン・テソンの家だ、当然戻るだろう。どうして聞くんだ?
ジェイン:いいえ、分かった。またね
通話を終えたジェインは、思い直したように店員に話しかける。
ジェイン:すみません。その洋服ください。家に戻って領収証を探してまた来ます。
店員:そうなさってください。
ジェイン:ありがとう。
【警察署】
ソニョンの携帯電話や日記などが見つからないことを不審に思っていたクァク班長は、ふとテソンの秘書コヌクのことが浮かぶ。コヌクが持つ雰囲気の薄気味悪さが、なぜか気にかかるクァク班長。
【コヌク ホン家前】
バイクにまたがり、ホン家の前に向かったコヌクは、ホン会長を乗せた車の後部ドアをノックすると、 窓を開けた会長に、「戻りました」と一礼する。コヌクを見た会長は、嬉しそうに車から降りてくると、コヌクに家に入るよう促す。会長の後を歩き、ホン家の門の前に立ったコヌクは、幼いころこの場所で受けた仕打ちを、ふたたび胸に刻みつけると、鋭利な復讐心を隠しながらホン家に足を踏み入れる。
応接室に通されたコヌクは、会長にテソンを落ち着かせるにはどうしたらいいかと問いかけられると、仕事をさせてみてはどうかと答える。「思いのほか頭の回転が速く、判断力もあり、決断力をお持ちです」とのコヌクの言葉に、息子を褒められたことで素直に喜ぶ父親の顔を見せるホン会長だった。
そんな二人の前にジェインを伴ったシン夫人が姿を見せると、会長はモネの交際相手シム・ゴヌクだとシン夫人に紹介する。怪訝な表情でコヌクを見据えたシン夫人は、見ず知らずの人を家に入れないでほしいと夫に話し、コヌクにモネが戻る前に帰ってほしいと伝える。コヌクが部屋を後にすると、シン夫人が騒ぎ立てる。
−何よ、あんな人を家にいれるなんて!素性も知れないゴロツキよ!
−ゴロツキがどうかは見ていれば分かるさ
他人のふりをして黙って様子を伺っていたジェインだったが、テソンのことが気になるあまり、コヌクの後を追っていく。
ジェイン:ホン・テソンはどこ?
コヌク:来てないよ
ジェイン:何よ、ホンテソンと一緒に戻ったんじゃなかったの?
焦りを隠せないジェインの肩に、ポンと手を置くコヌク。二人の背後から、ジェインを呼ぶシン夫人の声が響き渡る。
庭に向かい、離れの建物に入ったコヌクは、当時を懐かしむように一歩一歩階段を上っていく。寂しさを紛らわすように口に含んだキャラメルの思い出は、コヌクに痛みも思い出させる。当時のように、箱に入ったキャラメルに手を伸ばし、一粒口に運ぶコヌクの瞳から涙があふれ出す。そんなコヌクの後姿を、ホン家のお手伝いの女性が目にしてしまう。ホン家の中で、唯一優しく接してくれた女性の姿を前にしたコヌクは、慌てて涙をふくと、「すみません、箱が目について」とつぶやいて部屋を出て行こうとする。一度呼び止められたコヌクだったが、女性が何も言い出せない様子を見て、自分から問いかける。
−お宅で以前暮らしていた子をご存じですか?ホン・テソンさんがその人を探しています。誰に聞いたらいいのか・・・
−なぜお坊ちゃまがその子を?
−さあ...何かご存知のことは?
−存じません
女性の言葉に頷き、コヌクは軽く会釈をして離れを出ていく。
その頃、ジェインはソファーに座るシン夫人の前に、蛇ににらまれた蛙のように立っていた。
シン夫人:ジェインさんから見てあの男性はどう?
ジェイン:どうでしょう・・・
シン夫人:世間知らずであんなゴロツキみたいな男!
(ジェイン心の声:ゴロツキじゃないわ)
シン夫人:余計な話をしたわね。とにかくガラスの仮面についてはこれからも努力してくれるのよね?
ジェイン:ええ、もちろんです。それでは失礼します。
部屋を後にするジェイン。
シン夫人:ガラスの仮面を持って帰ると言ったのは誰よ・・・
ジェイン:ガラスの仮面どうしよう?ああ、困ったな。
ぶつぶつ独り言をつぶやきながら門から出てくるジェインを、コヌクが待っていた。
ジェイン:まだいたの?先に出たでしょ?私を待ってたの?
コヌク:車は?
ジェイン:ギャラリーに置いてきたわ
バイクに乗れというコヌクに、スカートだからといったん断るジェインだったが、ヘルメットを渡され、上着を脱ぎジェインに寒いだろうからと手渡されると、嬉しそうにヘルメットをかぶり、後ろのシートに飛び乗る。
−掴まってろ。落ちるぞ
束の間のほっとする時間を共有したコヌクとジェインは、夜空の下で素直に語り合う。
ジェイン:どうして会長の家に?
コヌク:モネのためだ
ジェイン:ああ、モネね
コヌク:豪邸だよな
ジェイン:うん、初めて行ったとき気絶するかと思った。この世にこんな豪邸があってこんな豪邸に暮らす人がいるんだって。私は33坪のマンションに暮らせたら十分なのに、別世界だったわ
コヌク:何が別世界だよ
ジェイン:ちょっと、あんたの家も豪華なの?
コヌク:ああ!
ジェイン:もう嘘までつくなんて
コヌク:さっきは他人のフリ、サンキュー
ジェイン:お互いさまじゃない。私たち何してるのかしらね。笑っちゃうな
コヌク:ホン・テソン来たよ
ジェイン:さっき聞いた
コヌク:どうする?会わせてやろうか?
ジェイン:正直今はホン・テソンより、問題はガラスの仮面なの。シン夫人に大見得切ったのよ。必ず準備して間に合わせるって
コヌク:会って頼んでみたら?
ジェイン:私が頼んだら、きっと逆効果よ。母親を困らせるのが目的だもの。あなたなら差し出す?
コヌク:俺より、ホンテソンを良く知ってるんだな・・・
ジェイン:そうかな?そうね、あなたのこと全然知らないわ!あなたのこと話してみて
コヌク:俺?何を知りたい?
ジェイン:そうね、う〜ん、ご両親の職業とか、何が好きなのか、夢は何か・・・(コヌクを見て)どんな人なのか
ジェインを見つめ返すコヌクが、一瞬真剣な表情を浮かべる。
コヌク:本当に知りたいか?
ふとジェインから目をそらし、空を見つめるコヌク。
コヌク:知りたいことが多すぎだな!お前の目標だけしっかり捕えろよ。ホン・テソン!
ジェイン:またそんな冷たいこと言って・・・
階段をのぼり始めたジェインに、「ガラスの仮面は?」と問いかけるコヌク。ジェインはコヌクから借りていた上着を返すと、「必要なのよ!またね」と答え、ふたたび階段をのぼり始める。
−俺の・・・夢?
【ヘシンビル】
コヌクを伴って出勤するテソンに、前回テソンがやってきた際、冷たく追い払った警備担当者が謝罪する。二人は社内に通されると、会長、夫人、テラの待つ部屋へと入る。会長から、テソンにヘシン建設のロボットテーマパークを任せるとの言葉が飛び出し、シン夫人は火がついたように怒りだし、反対する。テソンを非難し、逆上するシン夫人を冷たい目で見ていたコヌクに、シン夫人がふと目線を移す。出ていくようにとのシン夫人の言葉に、部屋を後にしたコヌクは、自分の背中に大きな傷を負わせた秘書を一瞥すると、あえて彼に語りかける。
コヌク:あの・・・お聞きしたいことが
一方会議室では、猛反対するシン夫人をよそに、会長はテラは百貨店を、テソンはテーマパークを頑張りなさいと言いつける。
その頃コヌクは場所を移して秘書と向き合っていた。
秘書:追い出された子?何故突然?
コヌク:ホン・テソンさんが調べてほしいということです。
秘書:資料を探して連絡します
コヌク:ありがとうございます・・・どうかなさいました?
秘書:シム・ゴヌクさんと言いましたね?シム・ゴヌクさんの過去の資料が全くありませんが・・・
コヌク:秘書というだけで、他人の身元調査も堂々となさるのですね。ずいぶん自然に質問されますよね。でしょう?
秘書:モネお嬢様のお相手なら、当然です。
コヌク:何が気になるんです?
そこへ話を終えたテソンが姿を見せると、コヌクからキーを受け取りビルを後にする。テラは妹モネが胸を焦がす相手と知りながら、コヌクに会うたびに揺れ動く自分の心に気が付き始めていた。コヌクと同じエレベーターにたまたま乗り合わせたテラは、コヌクに手を握りしめられ、逆らえなくなってしまう。コヌクが降りて行った後、そっとスカーフに手を伸ばし、胸の動悸が収まるのをじっと待ちながら、コヌクの後姿を見送る。
【ギャラリーDIDIN】
シン夫人からプレゼントされた服を手入れしていたジェインは、同僚との話からガラスの仮面のことをふいに思い出し、コヌクに連絡を取る。
ジェイン:私だけど、この前話したガラスの仮面のことだけど、ホン・テソンに話した?
コヌク:ホン・テソン、今ヘシンで仕事してるぞ
コヌクの言葉に、目の前の洋服を急いで手にしてギャラリーを飛び出すぐジェイン。
シン夫人から送られた洋服を身に着け、ヘシンに到着したジェインは、コヌクと通話しながらエスカレーターに乗る。
ジェイン:私、今向かってるところだけど、ホン・テソンさんはどこに行けば会えるの?
コヌク:今、出たところだよ。いったんエスカレーターを上ってみろ
ジェイン:見えないわ
コヌク:後ろだよ こっち!
コヌクを見つけて駆け寄るジェインは、周囲を注意深く見回すが、テソンの姿が見つからずキョロキョロし続ける。
コヌク:飯まだなら一緒に食べようか?
ジェイン:あの人、先に行って待ってるの?もう、どこか教えてくれたらそこに行くのに。どう?似合うかな?
コヌクはジェインの頭の先からつま先まで見つめて、ポンと手を叩く。
コヌク:うん!だけど、ホン・テソン、たった今外出したばかりだ
ジェイン:ちょっと!
コヌク:出てくるって言うのに、止められないさ。ちょっと待ってとも言えないし。
ジェイン:ふざけてるのね?
おどけた表情のコヌクをにらむジェイン。
ジェイン:私、言ったよね?ガラスの仮面が必要だって。それを手に入れたいからホンテソンに会わせてって。それなのにふざけてるの?あんたにガラスの仮面がいるって何度も言ったでしょ!
コヌク:そんなに大切なもの、どうして日本で彼の元においてきた?何がなんでも持って帰るべきだったな
ジェイン:あんた、私がどうして彼の元に置いてきたのか知らないで聞いてるの?
コヌク:どうしてだ?ホン・テソンに仮面を渡して彼を韓国に連れ戻したかったのか?いや、お前に直接届けてくることでも願ってたのか?
ジェイン:そうよ、そうだったらいいと思った。あんたはそんな私の気持ちを知っててからかってるのよね?切羽詰ってるのよ、シン夫人は待ってるし、そうでなくても頭が痛いのに、ああ、もういいわ!あんたに何言っても仕方ない。いつも私のことからかって・・・分かったわ。私が手に入れる!私が手に入れればいいことよ!あんたの助けなんかいらない!
苛立ったジェインはコヌクに背を向け、化粧室へ向かうと、着てきた服を脱ぐと、普段着に着替える。 鏡を見てため息をつくジェインに、コヌクからの電話が入る。
ジェイン:何よ
コヌク:ああ、ドライブに連れて行ってやる
ジェイン:結構よ!
コヌク:駐車場で待ってる
ジェイン:嫌だってば!
コヌク:待ってるぞ
電話が一方的に切られてしまい、仕方なしに駐車場に向かうジェインが、コヌクの姿を探していると、彼女の前にテソンが現れる。
ジェイン:ああ、テソンさん!
テソン:ここで何を?
ジェイン:えっと、会う約束をしてる人がいて・・・ソウルに戻られたんですね
テソン:はい、まぁ。
ジェイン:お元気でしたか・
二人の姿を見たコヌクは、そっとその場を立ち去っていく。
【テソンとジェイン カフェで】
カフェでテソンと向き合ったジェインは、さっそくガラスの仮面を持ってきたのかと問いかけると、テソンに譲ってもらえないかと伝える。冗談ではぐらかすテソンを前に、ジェインは耐えられなくなり、名刺を手渡すと 「もし気持ちが変わったら連絡を」と席を立つ。帰りかけたジェインに、すぐに送りますよと明るく語りかけるテソン。テソンの言葉を信じたジェインは、嬉しそうに微笑み、待っていますと話す。
【ジェイン ブティックへ】
必要のなくなった高価なドレスを手に、再びブティックに足を運んだジェイン。
店員:一度お召しになられたようですね
ジェイン:いいえ、家で袖を通してみただけです。誰でもするでしょう?きて見たら良く似合わないし、サイズも合わなくて。
明らかに嘘だと感じたブティックの女性店員は、一度ジェインを残して何かを確認すると、また戻ってくる。
店員:一度はお返しします。でも次回からは必ず領収証を持ってきてください。
ジェイン:はい
店員:でもあの服ですが、VIPのお客様用へのプレゼントとして準備したコレクションなんですが、本当に他の職員が売ったんですか?
ジェイン:VIPプレゼントのコレクション?私が購入したものですけど・・・それじゃ
【ウォニンとコヌク 売店前】
ウォニンがアイスクリームを買う姿を見かけたコヌクは、突然「俺のも!」とウォニンに語りかける。コヌクだと気が付いたウォニンが、すかさず「お金ちょうだい」と笑顔を浮かべると、コヌクは素直にお金を差し出す。
ウォニン:お?お金が手に入ったのね
コヌク:そうだ。今日は俺も懐が温かいんだ。
ウォニン:じゃあね〜
コヌク:おいチビ!
ポケットから飛騨のお土産さるぼぼを取りだすと、「やるよ」とウォニンに手渡すコヌク。さるぼぼを手にしたウォニンが叫び声をあげる。
コヌク:なんだ気に入らないのか?
ウォニン:全く二人して趣味が同じね!
同じさるぼぼを手にしているウォニンに、驚くコヌク。
コヌク:どこで手に入れた?
ウォニン:別にいいでしょ。おじさん・・・おじさん恋人いる?稼ぎはいいの?もしかして持ち家あるの?
コヌク:なんだよ?
ウォニン:それがね、いいアイディアが浮かんだの!
コヌク:最近俺に興味を持つ人が多いな・・・またな
ウォニン:またね!
コヌクの後姿を見ながら、ウォニンは「何か“持ってる”ね・・・」とつぶやく。
【コヌク 携帯電話を見る】
「ホン・テソンに会えたわ。ガラスの仮面をくれるって。ところで、今度私をからかったら許さないわよ!」
ジェインからのメールにクスッと微笑むコヌクは、すぐそばを通り過ぎるジェインの車に気づくことはなく、ジェインもまたコヌクの姿に気づかずに二人はすれ違う。
【テソン マンション】
ガラスの仮面を手に、テソンは何か企みながら微笑むと、自分の顔にガラスの仮面をつけてみる。
【ギャラリー DIDIN】
ジェインの元にテソンから荷物が届くと、さっそくジェインはシン夫人の部屋に荷物を運ぶ。ジェインからガラスの仮面だと聞かされたシン夫人が、ジェインが退室した後、期待に胸を膨らませ、さっそく箱を開けてみると、中は空だった。シン夫人に呼ばれ、部屋に向かったジェイン。
ジェイン:お呼びですか?ご覧になりました?
シン夫人:何よこれ!
中に入れられたテソンの写真に目線を写し、「これだけでしたか?」と答えるジェイン。
シン夫人:ガラス仮面を買ったのは、この子なの?こんな相手にガラスの仮面を奪われたのね、ジェインさん!
ジェイン:はい・・・
シン夫人:こんなアマチュアに!大切な芸術品を取られてどうするつもりなの!!この役立たず!
怒りを抑えきれずに金切り声をあげるシン夫人の前に、ホン・テソンが姿を見せる。
テソン:ちょっと声が大きいよ・・・
仮面を渡しなさいという夫人に、どうしようかなとふざけるテソン。テソンを罵倒し続けるシン夫人の言葉に、テソンも怒りが込み上げ、抑えきれず、仮面を壁に叩きつけて壊してしまう。
テソン:お望みのガラスの仮面、置いて行きます・・・
背を向けたテソンを引き止め、頬を打とうとしたのは、ジェインだった。
ジェイン:龍先生が作られた作品よ!こんなふうに簡単に壊しちゃいけない作品なの!あなたがどんなに偉いか知らないけれど、壊していいものじゃないのよ!どうしてこんなに軽々しく壊すの?何をしたか分かってる?
部屋の外で待機していたコヌクは、ジェインの声の様子に驚いて部屋に近づく。
冷たい表情でジェインに歩み寄るシン夫人。
シン夫人:ムンジェインさん
ジェインの頬を強く叩きつけるシン夫人。
シン夫人:何様だと思って口を挟むの?身の程をわきまえなさい!人には身分に合った境界線があるのよ。あなたごときが私しゃしゃり出て、私の息子に手をあげて許されると思うの?ガラスの仮面?10個でも、お金を出してまた買えばいいのよ。こんなもののためにあんたごときが息子をバカにして・・・あんたごときが何よ!私の部屋からすぐに出ていって。
ショックを受けて何も言えず部屋を出るジェインの目に涙が浮かぶのを、コヌクは目にしてしまう。たまらずジェインの後を追うコヌクに、一人になりたいとつぶやくジェイン。
母親の行動に驚いたテソンは、真意を問う。
テソン:いまさら母親面ですか?さっきの言葉、本心ですか?
シン夫人:念のため言うけど、錯覚しないで。いまさら母親面する気はないわ。ただ彼女に思い知らせたかっただけ。ヘシングループ、そして私も、身の程をわきまえない人間が許せない。ヘシンに泥を塗るようなことはやめなさい。
テソン:何も言わなければ良かったのに・・・“それでも俺の母親だ。少しは俺を愛してくれていた”と、錯覚しただけで済んだのに。感謝するだけだったのに。
ジェインを見守って歩き続けていたコヌクは、車道にふらふらと歩いていくジェインを引きとめる。
コヌク:お前・・・。俺が、ホン・テソンになってやる。今俺はホン・テソンだから、俺に怒りをぶつけろ。初めて会ったあの時のように、俺に怒ればいい。どのみち本当のホン・テソンには、何も言えないだろう?言ってみろ・・・
ジェイン:ホン・テソン・・・あんた・・・あんたのためだったのに、この仕事を始めてから、作品まで手放したのは初めてだった。あんたのためにしたことよ。あんたを帰国させようと、そして、どうにかしてあんたと上手くやりたかったの。それがこのザマは何?仮面は割れて、シン夫人の信頼も失って・・・あんたみたいな男に手を出すとどうなるか、また思い知らされたわ・・・
ジェインの痛みを共に感じたコヌクはジェインの頬に手を伸ばすと、テソンが見ていることに気づかないまま、ジェインの頬をそっと包み込む。