【ギャラリーを飛び出したジェインを追うコヌク】
ぼんやりおぼつかない足取りで車道に出てしまったジェインの腕を掴んだコヌクは、両手でジェインを支えると、
彼女の瞳が涙で濡れているのに気が付く。
−お前・・・
−コヌク、あの人たち、何がそんなに偉いの?そうよね・・あの服だって・・・
シン夫人が自分に洋服を贈った真意を悟ったジェインは、自嘲気味に笑い出す。
−今思えばプレゼントとして受け取ったものを、私にくれたのね。私があの服を着て、喜んでいるのを見て、さぞ可笑しかったでしょうよ・・・
−何のことだ?
−ちょっとね。あの人たちを喜ばせよう
だなんて・・・私いつも馬鹿みたい。シン夫人にとって私なんてただの雇われ人で、あの家の人にとって私は、他の世界に住む人間で、いつだってあの人たちの目には私がそんなふうに映るのよね。大したこともないように・・・。私がどんな思いで生きてきた
か・・・
涙が次々とあふれ出すジェインを、しっかりと見つめるコヌク。
−俺が、ホン・テソンになってやる。今俺はホン・テソンだから、俺に怒りをぶつけろ。初めて会ったあの時のように、俺に怒ればいい。どのみち本当のホン・テソンには、何も言えないだろう?言ってみろ・・・
ジェイン:ホン・テソン・・・あんた・・・あんたのためだったのに、この仕事を始めてから、作品まで手放したのは初めてだった。あんたのためにしたことよ。あんたを帰国させようと、そして、どうにかしてあんたと上手くやりたかったの。それがこのザマは何?仮面は割れて、シン夫人の信頼も失って・・・あんたみたいな男に手を出すとどうなるか、また思い知らされたわ・・・
コヌクの胸にジェインへの愛おしさが込み上げ、二人は自然に寄り添うと、コヌクはジェインにそっと唇を重ねる。 自分の感情に戸惑い、何も言えなくなるコヌク。
−どういうつもり?あんたも私が軽く見えるの?
−そんなんじゃない
−それなら、私のことが好き?好きなの?
本心が言えず、コヌクはジェインから目をそらしてしまう。
−あんた、私をなぐさめようとして追いかけて来てくれたことは分かってる。ありがとう。ありがたいけど、あんたもしっかりしなさいよ。
あんたにも起こりうることよ。あんたは私と同じなの。シン夫人がモネをどれだけ大切にしているか・・・そうね、あんたが望んでるんだから、もう一度頑張ってみたら
?最後までお互い粘ってみよう。
ジェインはコヌクに背を向け、その場を去っていく。通りに車を止め、じっと二人の様子を見守っていたテソンは、思いがけない二人の姿を目にしてしまい、衝撃を受け、
急いで車を走らせる。
【ジェイン 屋台へ】
屋台で一人焼酎を飲みながら、ジェインは向かい側の空席にも杯を置くと、独り言をつぶやく。
−ムン・ジェイン、さあ、あんたも一杯飲もう。生きていれば、痛い目にあう日もあるわ。そうよね?
コヌクが自分を見守っていることには気が付かないまま、ジェインは屋台を後にすると、悔し紛れに道端にある空き缶に八つ当たりを始める。たまたまジェインが
投げ飛ばした空き缶が、草陰にいた男女を直撃してしまい、怒った男性がジェインの後を追いかけていくと、ジェインを見守っていたコヌクがサッと男性の道を遮り、ジェインの代わりに謝罪する。怒りの収まらない男性がコヌクの胸倉を掴むと、「面倒なことにならないうちに行ってください。謝りましたよね・・・」とコヌクが鋭い目つきで男性を見下ろす。コヌクを恐ろしく感じた男性は、強がってコヌクを平手打ちしてみせると、すぐにその場を逃げていく。
急いでジェインの後を追ったコヌクは、二人で語り合った階段に座り込んで眠り始めているジェインを見つけると、ゆっくり階段を上っていき、そっとジェインの隣に座り、自分の肩にジェインを抱き寄せる。コヌクはジェインの痛みを、自分の痛みのように感じながら、彼女に寄り添い続ける。明け方、ジェインのバッグから携帯電話を取り出すと、アラームを直後にセットし、そっとジェインの傍から離れるコヌク。ジェインが目を覚まし、歩き出す姿を確認した後、コヌクも家へと戻っていく。一人部屋に戻ったコヌクは、その夜ジェインと写した写真を胸に、
穏やかに目を閉じる。
【モネ チャン監督に電話】
コヌクと連絡が取れず焦りが募るモネは、コヌクの所属するアクションチームのチャン監督に連絡を取るが、コヌクからは連絡はないと言われてしまい、気を落とす。そんなモネの元に、コヌクが自ら姿を見せる。
【コヌクとモネ カフェ】
−オッパ、日本から戻ったら真っ先に連絡くれると思ってたのに
−あれこれと、片付けることがあってね。元気だった?
−ええ。そうだ、私練習室なくなっちゃったの。お姉ちゃんとママが練習室でコヌクオッパに会うんじゃないかって、取り上げたの。オッパがこんなに早くテソン兄さんを連れて帰るとは思わなかったみたい
モネの話を聞かず壁にかかるアフリカの写真を見つめるコヌク。
−オッパ?何見てるの?
コヌクがモネの背後に飾られた写真に見入っていることを悟ったモネ。
−私このカフェ良く来るのは、この写真が見たいからなの。オッパはアフリカに行ったことはある?
−アフリカは、人を本当に妙な気分にさせる。あの広大な草原の上に、マサイ族がゆっくりと歩いていくの
を見ると、怒りも、喜びも悲しみも、好き嫌いの感情が、全て虚しくなるんだ・・・
−そう?私には良く分からない。私はただオッパだけ見つめていられたら幸せだし、ときめくわ。世の中の全てが私のものになった気がするわ。オッパさえいてくれたら、他は何もいらないの。来てくれてありがとう、オッパ。
【テラ 夫と自宅で】
百貨店の仕事を任され、出勤することを夫に報告したテラは、夫に「父に事業資金の話をしたの?」と単刀直入に問いかける。事業拡大のためだから、すぐに返せると言い繕う夫に、借りた
をお金一度も返したことがないと切り返すテラ。
−お父様を止めてください。しばらく援助できるような資金はないと伝えてください
テラの毅然とした一言に、夫は気分を害して席を立ってしまう。
【テソン コヌクの前へ】
ジェインとコヌクの親密な姿を目にしてしまったテソンは、車を持ってきたコヌクを見ると、掴みかかって問い詰めたい衝動がわき上がるが、つとめて冷静を装いながら、一言釘を刺す。
−お前誰の下で仕事してる?もう一度電話を切ったら殺すぞ・・・
苛立つテソンを嘲笑するコヌクだったが、あの夜のことをテソンが見ていたことにはまだ気づいていなかった。車に乗り込んだテソンが、コヌクに問いかける。
−あいつは?追い出されたテソンについて、調べてみたか?
−はい
−どこまで分かった?
−天使院から逃げ出したそうです
−それはもう分かってることだろ!
−ホン会長宅に来る前に暮らしていた場所が、ミリャンの方だそうです。ですから今日にでも行ってみようと思います。
−そうか?知らなかった。どうして分かった?
−秘書室のキム室長から伺いました。
−キム室長?
ハンドルを握り、今はテソンの付き人であるコヌクが、あの少年であることには、テソンはおろか、秘書室長も気づいてはいなかった。
【ジェイン ギャラリーへ】
翌朝、いつものように出勤したジェインは、机の上にある割れたガラスの仮面を、淡々と片付けはじめる。先に出勤していた同僚のジュヨンが、ジェインに語りかける。
−ねぇ、これどうするの?ひとつしかないのに
−シン夫人がいらないって言ったでしょう?本人が必要ないならいいのよ。
−どうしたの?突然どうしたのよ、怖いよ。ところであなたの仕事用の車だけど、シン夫人が返して欲しいって。
−そうなの?幼稚だわ・・・
−あなた館長にそんな言い方したことなかったじゃない?
−今度はタクシーの領収証を見せるからね
ジュヨンが手にしていたギャラリーのオープン招待状を、ジェインが「私が持っていくわ」と受け取り、シン夫人の部屋へ向かう。
−ギャラリーオープンの招待状です。昨日出来あがりました。
ジェインを無視したまま、すぐさまジュヨンに内線電話をするシン夫人。
−ジュヨンンさん、あなたに頼んだでしょう?自分の仕事を他人に押し付けてどうするの?
そんなシン夫人に謝罪するジェイン。
−昨日のことは、本当に申し訳ありませんでした。ホン・テソンさんに無礼な振る舞いをしたこと、謝ります。館長が求めていた作品だったので、理性を失ってしまいました。失礼しました。
−ムン・ジェインさんがこんな人だとは思わなかった。大胆なのね。バカにしてるの?いいえ、うちのテソンをバカにしているのね?
−いいえ、そんなことはありません。
−これは言っておくけど、私の下で働きたいなら、自分の身の程を知りなさい。
−・・・はい
−二度とあんな振る舞いをしないで。人間一度は失敗するものよね。二度目は許さない。わかったの?ムン・ジェインさん。
−はい、良く分かりました。
シン夫人の部屋にジュヨンが入ってくると、奨学金の贈呈式の時間が予定より早まったためすぐに出かけなければ間に合わないことを知らせる。専属の運転手と連絡が取れず、ジェインが外に出てタクシーを探していると、コヌクの姿が目に映る。コヌクに語りかけるのが少し気まずく感じたジェインだったが、ためらっている場合ではないため、思い切って呼びかける。テソンの母であり、ギャラリーの館長シン夫人の送迎を頼まれたコヌクは、一瞬ためらったあと、「待ってるから」とジェインの申し出を受け入れる。
出かける準備をして外に向かうシン夫人の前に、東部署のクァク班長が姿を見せる。
−失礼します。シン・ミョンフンさんはどちらに?
−“シン・ミョンフンさん”ですって?宅配ならそこに置いて行ってくださいな
歩き出すシン夫人の道を遮る刑事。
−こんにちは。東部署のパク・ユンファンです。
−刑事?刑事が何の用で私を訪ねるのかしら
−ホン・テソンさんに関して、ちょっとお伺いしたいことがありまして
−テソンがまた何か問題を?そんな話なら聞きたくありませんわ。(ジュヨンを見て)テソンの事務所にご案内してちょうだい
−いいえ、そのホン・テソンではありません
離縁されたホン・テソンの子供の頃の人相書きをシン夫人に見せるクァク班長。
−覚えていらっしゃいますよね?
人相書きから目をそらし、ジュヨンに外に出るようにと言いつけるシン夫人。
−ホン会長宅に養子入りし、その後離縁された少年、ホンテソン。ご存知でしょう?
−私、こんな子知りませんわ
ジェインが車の準備ができたことを伝えにくるが、クァク班長はシン夫人に話を続ける。
−もしかして、今どこにいるかご存知では?
−どうして私が?家を出たのはずっと前のことなのに
−この子をご存じでいらっしゃるのは、間違いないんですね・・・
−何も知らないわ。関心もありませんし。今忙しくてお話する時間がないの。今度また来てくださいます?いいえ、来る必要もありませんね。私はこの子がどこで何しているのかも知らないし、ひとつも知っていることはないから
無関心を装って歩き出すシン夫人の背中に向かって話を続けるクァク班長。
−事故について捜査中なんです!
−知らないって言ってるでしょう!しつこい人ね。ジェインさん、行きましょう
【シン夫人 コヌクの運転する車へ】
コヌクの運転する車に乗り込んだシン夫人は、運転手には目もくれず、刑事の探しているホン・テソン少年のことを思い出していた。
−ホン・テソン、あの子について突然何なのかしら・・・
運転手がガムを噛む音が気に障ったシン夫人が、「ちょっと、誰が勤務時間中にガムを噛んでいいといったの?」と運転手をにらみつける。運転手がコヌクだったことに驚いたシン夫人。
−ここで何してるの?
−こんにちは〜
−よりによって何故この車?これテソンの車なの?
−はい
−どうりで不快だと思ったわ。今日は本当に何なのよ・・・、ジェインさん、よりによって何故この車に私を乗せたのかしら
−ムン・ジェインさんは悪くありませんよ
−何?そのガム出しなさい!だらしないわね。雇われている人間として目上の人間に最低限の礼儀を守るべきでしょう?ガムをクチャクチャして、汚いわね
−ガムを噛むと、頭が良くなるそうですよ。噛むたびに血流が早くなって
−だから噛み続けるって?
−出しますよ
【ギャラリー ジェインとジュヨン】
ジェイン:ねぇ、さっきの人誰?
ジュヨン:ああ、刑事ね?ところで館長はもう怒ってないの?
ジェイン:多分ね。私が上手くやればいいのよね。やめても私が損するだけだもん。ところで刑事が館長に何の用なのかしら・・・
ジュヨン:ホン・テソンについて調べてるみたいだけど、あのホン・テソンじゃないのよ。
ジェインはふと別のホン・テソンが気になるが、それ以上は知る由もないため、招待状を届けるために外出する。
【コヌクとシン夫人】
アメリカまで行って勉強した人がなぜここで仕事をしているのかと問いかけるシン夫人に、コヌクは鋭い表情を浮かべながら、冷たい声で答える。
−両親を探そうと思いました。私を捨てた、両親を・・・
−探してどうするの?
−探して聞いてみなければならないんです。私をどうして無残に捨てたのか、雨の夜、冷たく追い出した理由は何なのかと・・・
−雨の降る夜?
−モネの心をつかんで財産を狙っているようだけど、そんな夢は見ないでちょうだい。天が崩れてもそんなことは起こらないから
クスッと冷たく笑うコヌク。
−何を笑ってるの?
−いいえ、ただモネがお母様にそっくりだな〜と思いまして。お母様に似て、品があり、優雅で、美しいですよね。
コヌクの薄気味悪い微笑みに耐えられず、「車を止めて!とめないの?」と叫びだすシン夫人。
−ここは橋の真ん中ですから、もう少しすれば目的地ですのでそちらで止めますよ
−ふざけてるの?早く止めなさい!
−それなら急いでお連れしますね
車のスピードを上げるコヌクに、驚いてまた叫び声をあげるシン夫人。
【シン夫人 目的地に到着】
シン夫人を待つテラは、目の前に止まった車からコヌクが降りてくるのを目にすると、心臓の鼓動が高鳴る。テラとシン夫人の前に、子供たちを乗せたバスが到着し、耳の不自由な子供たちが降りてくると、何か急いでいる様子でシン夫人に手話で語りかける。
その様子を見ていたコヌクは、早足で子供たちに近づくと、すぐに手話で話をはじめ、子供たちがトイレを探していることを察する。テラに「トイレはどこです?」と尋ねた後、コヌクは子供たちにトイレの場所を手話で伝えると、安心したように子供たちはその場から走り出す。
テラ:手話ができるの?
コヌク:ええ、少し
テラ:どこで習ったの?
コヌク:ずっと昔、父さんから・・・です
テラ:お父さん?
コヌクの意外な一面を目にしたテラは、一層コヌクへの関心が深まり、車に向かい歩いていくコヌクの後姿から目が離せないまま立ち尽くす。
【クァク班長 テソンの元へ】
テソンを訪ねたクァク班長は、テソンから離縁された少年がミリャンに暮らしていたとの情報を得ると、早速部下イ・ボムを伴いミリャンへ向かう。
【テソン 父の元へ】
建設現場から大量の資材が消えたとの報告を受け、怒りがおさまらないホン会長は、息子テソンにこの一件を任せることで彼を成長させようと考える。テソンは父の話を聞きながら、面倒なことを背負わされ、気が重くなっていく。
【コヌク ミリャンへ】
家から連れ出されたあの日以降、コヌクは幼い頃過ごした家のあるミリャンを訪れたことはなかった。幸せな記憶が蘇ることで、悲しみがより深まるのが怖かったからだ。あの家に、父と母とともに温かい日々を過ごしたあの家に、一歩一歩近づくコヌク。コヌクの脳裏に、子供の頃の記憶が次々と蘇ってくる。幸せだった日の記憶が・・・。父と母、そしてチェ・テソンがいた日々の思い出たちが、昨日のことのように次々とコヌクの心に浮かぶ。
−父さん・・・会いたいよ・・・
かつて暮らしていた家は、当時のそのまま、時を重ねていた。母のサンダルに恐る恐る手を伸ばし、胸に抱くコヌク。
−母さん・・・母さん・・・
そんなコヌクの前に、一人の年配の男性が姿を見せ、怪訝な表情でコヌクの表情を覗き込む。
−通りすがりに、この家が目に留まったものですから・・・この家、空き家ですよね?
−ここの夫婦が亡くなってから、ずっと空き家さ。何しろ不便だしな。どうもソウルの青年のようだが、この家が欲しいのかい?
−はい、できれば買いたいと思います
−家の主はもういないしな。そういえばあの夫婦には一人息子がいたが、20年経っても一度も父母の墓参りにも来ない薄情な子だ
−お墓・・・ですか?
−この家に暮らしていた夫婦の墓だよ。事故で亡くなった後、病院に安置されていた遺体を村長が引き取って、山に埋葬してあげたんだ。縁者もいない墓だが、年に一度ほど誰かが来るようで、きれいに掃除されている
−誰が、来ているんですか?誰が?
−知らんよ。噂によると、年配の男らしいから、息子ではなさそうだしな
−そのお墓は、どこにありますか?
丘の上にポツンと建てられた両親の墓へと、伸びたた草を踏みしめながら歩み寄るコヌク。“キム・ボンス チェ・ヨンヒの墓”と記された墓の前に立つと、しまいこんでいた感情が胸の奥から込み上げる。
〜コヌク 両親墓前での独白〜
ここに、忘れ去られた二人が眠っている。思い出すら消えてしまった彼らには、こんなにも小さく荒れ果てた墓
が残るだけなのに・・・彼らを死に追いやった奴らは、何事もないように暮らしいてる。奴らが忘れ去ったある時の、ある瞬間
の、残酷で非情な選択が、奴ら自身にどんな結果をもたらすのか、必ず・・・思い知らせてやる。奴らから全て奪うことができ
るなら、俺は、喜んで悪魔を選ぶ。神が奴らの味方なら、悪魔は俺の味方だ・・・俺には怖いものなどない・・・
ジェインとの出会いで一瞬揺らいだコヌクだったが、両親の墓の前に立ったことで、両親と自分から全てを奪ったホン会長とその家族への復讐心を改めて強くする。
【テソン ジェインの後を追う】
テソンの元にギャラリーオープンの招待状を届けたジェインは、終始テソンに冷淡な態度で接すると、用件だけ伝えてヘシンビルを後にする。車に乗ってジェインを追うテソンは、何度もジェインに呼びかけるが、ジェインはテソンを無視して歩き続ける。車を降り、ジェインに駆け寄るテソン。話をしようと言うテソンに、私は話すことはないと冷たい目で見つめ返すジェイン。
−俺にどうしろっていうの?ガラスの仮面をくっつければいいのか?でなければ、日本に行って龍先生にもう一度作ってもらうか?
−ホン・テソンさん、羨ましいわ。言いたいことを素直に言えて。壊したければ壊し、怒鳴りたければ怒鳴・・・我慢して気を遣って生きなくていいから羨ましいです。でも私は違うの。相手の顔色も見なきゃならないし、汚くて面倒な仕事も、最後まで粘らなきゃならないの。それで?あなたが乗れって言ったら乗って、話があるといえば聞かないといけないのかしら?どいてもらえます?
呆れたような顔でテソンを一瞥し、ジェインはバスに乗り込む。ジェインが気になって仕方がないテソンは、父に指示されたことすら忘れ、ジェインの乗るバスに乗り込むと、機嫌を損ねたままのジェインを食事に誘う。
【ジェイン テソンとレストランへ】
テソンとレストランに入ったジェインは、席を外している間にテソンの母シン夫人がテソンと話す様子を見てしまい、とっさに身を隠すと、二人の会話に耳を傾ける。
−あなたがここに何の用?
−お母さんこそ何の用です?優雅な方がこんな店に・・・
−関係ないわ。何しに来たの?
−ガールフレンドと食事ですよ
−女?そうね、あなたのそばには女がいないとね。今度はどんな女?誰に会おうと構わないけど、家に連れてこようなんて思わないことよ。素性もわからない子を連れて来られても迷惑なの
−シン女史!「ごはん食べたの?食事を抜いちゃだめよ」とかそんな言葉をかけてくれないの?
−女に頼んだら?面倒な子ね
シン夫人のテソンに対する冷たい態度を見てしまったジェインは、普段通りの明るいトーンでテソンに語りかけ、彼の冷え切った心を温めようとする。突然態度の変わったジェインに一瞬戸惑うテソンだったが、屈託のないジェインの笑顔にいつの間にか癒され始める。コヌクとの関係を問いかけるテソンに、ジェインが“ただの友達よ”と答えると、テソンはホッと安心したように微笑む。
【コヌク ヘシンの新たな情報を得る】
ヘシングループの株を買い集めている財団は、シン夫人とホン・テラが運営する財団であるとの情報を協力者から得たコヌクは、テラへの接近を企てる。
【コヌク 建設現場へ】
テソンから建設現場の資材紛失事件に関して調べるようにとの指示を受けたコヌクは、作業着を身に着け、ヘルメットを被ると、現場作業員から情報を得る努力を始める。事件を解決に導くことがテソンの一層の信頼を得ることはもちろん、会長の信頼も得るであろうと確信したコヌクは、全力を尽くして資材を盗んだ真犯人を探し始める。
【ジェイン 書店へ】
テソンに今以上に近づくため、ジェインはモネから聞いた話を思い出しながら、ゴルフや外国語会話の本を手に取り、知識と教養を一層深める努力を始める。
−お姉ちゃんは5か国語が話せるの。子供の頃から、英語にフランス語スペイン語、日本語、全部習ったの。私はね、英語以外はダメ。
【コヌク モネと待ち合わせの場所へ】
コヌクと食事の約束をしたモネは、コヌクを家族として迎え入れたい一心で、まず姉のテラから巻き込もうと企て、テラもその場に呼び出す。呼び出された場所に向かったテラは、モネとともに席に着くコヌクの姿を見て息をのむ。モネと並んで座るコヌクの目線とテラの目線とがぶつかるたびに、テラは必死で平静を装いながらも、ワイングラスを持つ手が震えてしまう。テラに対し、コヌクを父の会社で雇ってもらいたいと訴え、テラの夫は大切にされているのに、自分と将来結婚する予定のコヌクの待遇も良くして欲しいと話す。
テラ:父さんは付き合うことは認めたけれど、結婚を許したわけじゃないわよ
モネ:同じことよ!
黙ったままステーキを切るコヌクを見据えるテラ。
テラ:モネと結婚するつもりはあるの?
コヌク:・・・いいえ、結婚の考えはありません
テーブルの上のモネの手に、自分の手をそっと重ねるコヌク。
コヌク:モネが、まだ若いでしょう?
テラ:つまり、今は結婚するつもりはないのね?
モネ:そんなんじゃないわ!私がまだ若いから、もう少し後でってことでしょう
モネの一言に姉テラが黙り込むと、モネは席を立ち、テラは夫からの連絡を受け、淡々と返事をして電話を切る。
コヌク:ご主人、かな?
テラ:シム・ゴヌクさん。はじめはモネに偶然を装って近づき、モネの心をつかんだ。次はテソンに取り入ったわね。
黙ってテラを見つめながらステーキを口に運ぶコヌク。
テラ:次は、誰かしら?
うっすらと微笑みを浮かべながらテラから目を離さないコヌクに、テラはワインを一口飲んだ後、問いかける。
テラ:私なの?
テラの問いかけに答えないまま、コヌクもワインを口に含む。
テラ:家族に一人、また一人と近づく目的は何なのか、考えてみたわ。お金が必要なの?
コヌク:ホン・テラさんも結局は、その程度ですか?大富豪ではありませんが、金には困ってません
テラ:それならどうして?いいえ、関係ないわね。理由は何であれ、私はあなたに落ちないわよ。あなたみたいな人に、関心すら持っていませんから。
コヌク:関心がないと・・・。それでももし、俺があなたに近づいたら?
テラ:・・・許さないわ
コヌク:楽しみだな・・・
コヌクの目線を避けるように、テラが席を立った途端、モネが席に戻ってくる。「先に帰るわ」とレストランを後にするテラを、コヌクが追っていく。雨の中運転手を探し外に出るテラに、傘を差すコヌク。「車が車で待ちますよ」というコヌクを拒み、テラが道路に飛び出した途端、一台の車が通りかかり、コヌクは傘を投げ出して咄嗟にテラを抱き寄せる。