チョンウンと共に母の菩提寺へ向かったウノは、母の遺影の前に1時間もじっと立ち続ける。そんなウノの体調を心配するチョンウンの表情をずっと見つめていたウノは、母とチョンウンがとても似ていることに驚く。帰り際、ウノがチョンウンに語りかける。
−ありがとうチョンウンさん。僕を治してくれてありがとう。
−ウノさんが先ですよ。ウノさんが先に私を治してくれたんですよ。あの、ウノさん...。
−どうぞ、お話ください。
−前はそうじゃなかったんです。そんな丁寧に話さなかったんですよ、私に。そんなかしこまった言い方をされると私どうしていいか分かりません。
−チョンウンさん...
−“チョンウン”と、以前は呼んでくれました。
−もしかしたら私はこのまま一生、私がいたという島や診療所、それからチョンウンさんも思い出せないかもしれません。そんな考えがしょっちゅう浮かぶんです。無意識のうち、その記憶を、その瞬間を拒否しているのかとも思いました。もし私が、チョンウンさんを最後まで思い出すことができなかったら、チョンウンさんと僕はどうしたらいいんですか?
−そんなこと…考えたこともありません。
−今から考えてみて。僕も考えてみます。長い時間は必要ない、少しだけ考えてみましょう。無責任に見えるようで恥ずかしいけれど、そうしてみましょう。
−…ウノさんだけ考えてくれればいいの。私はいつも同じ気持ちだから。
−僕のために長く歩かせてしまって申し訳ありません。
−いいえ大丈夫です。歩くのは好きですから。駅までお送りしたいのですが、疲れたのでここで失礼します。
ウノのよそよそしい口調が寂しいチョンウンだったが、ウノと同じように、丁寧な口調で挨拶を交わす。
−チョンウンさん、僕はチョンウンさんを「チョンウン」と呼び、チョンウンさんは僕を何と呼んだんですか?
−島にいたときは一度も呼びませんでした。島を離れる日、初めて呼びました。
−何と?
−このバカ...
−何ですって?
−“行かないでよ、バカ!”、そう呼びました。
チョンウンと別れた後、ウノはチョンウンが自分にとってどんな存在なのかを考え続け、彼女の優しさ一つ一つを思い出すと、たまらずチョンウンの住む部屋を訪ね、チョンウンに外から大きな声で呼びかける。
−チョンウンさん!チョンウンさん!
ウノの声に気づいたチョンウンは嬉しさのあまり走って外に飛び出す。ウノの表情が少し明るさを取り戻したことに喜びを隠せないチョンウン。
−僕は、家にいる時間より病院にいる時間の方が長くて、時間を作れたとしても,1,2時間です。月にオフが2回あるけれど、救急のときはそれさえも分かりません。だから僕はデートする時間を作るのも大変なこともあるかもしれません。その点だけチョンウンさんが理解してくれるのなら、僕がこの先島での時間を思い出せなくても、今初めて会った二人のように、初めからスタートしてみたいと思っているんだけれど…そうしてもらえますか?そうしてくれたら嬉しいなぁ。
チョンウンは感激のあまりうつむいたまま何一つ答えることができない。
−何故何も言わないの?うん?少し笑って見えたけれど?ちょっと顔を見せてよ。笑っているの?泣いてるの?
ようやくウノとチョンウンは、互いの顔を見て微笑みあうときを迎える。 記憶を全て取り戻したわけではないウノは、チョンウンに電話でウンソプとの関係を尋ねる。チョンウンは、ウンソプとは親しい間柄ではないことをきっぱりと宣言し、さらにウノにミンジョンとの関係も率直に質問する。お互いの状況を理解した二人は、これ以上この話題には触れないようにしようと話し合う。ところが、チョンウンは心の奥でウンソプを心配し続ける自分に気がついていた。
そんなある日、チョンウンが島のチンテを連れ、ウンソプが居候するキョンアの家を訪ねることに。チョンウンを忘れられずに苦しみ続けるウンソプは、チョンウンの姿を遠巻きに見つめ、思わず彼女の後をそっと追い続ける。ウンソプに気づきながらも知らないふりをして歩き続けてきたチョンウンだったが、ウンソプを心配し、大声で独り言を言うように装い話し始める。
−今戻らないとバスも終わっちゃって大変!私は元気だけど、ある人のことがとても心配。みんな心配してる、家に帰った方がいいのに!私もすごく心配してるわ...ひげも剃っていないのね、山賊みたい!ハンサムで綺麗好きなあの人に会いたいな。食事もしてないみたいね、やせちゃって。私を心配させている人は、もう心配させないで…
ウンソプは足並みを早めてチョンウンのすぐ後まで来ると、いきなりチョンウンを抱きしめキスをする。驚いたチョンウンは、そんなウンソプの瞳をじっと見つめると、無言でウンソプに背を向け走り去る。
一部始終を見てしまったウノが、呆然とチョンウンの後姿を見つめるウンソプに話しかける。二人は少し歩みを進め、お互いの顔が見えないほどの暗い場所へ移動する。
−この程度が楽だ。暗くて。どうせなら一晩中歩くか?俺はまだ車に乗れないんだよ、ウンソプ。好きなのか?答えろよ。好きなのか?お前の目がそんなに輝いていたなんて初めて知ったよ。あの人…嫌いな人はいないよな?あの人のために家を出たのか?これは過程の話だが、ウンソプ。もしチョンウンさんがお前の彼女になれば家に戻るか?
ウノの言葉に腹を立てたウンソプはウノの頬をいきなり殴りつける。
−偉そうなこと言うなコノヤロウ!お前の女をお前の目の前で抱きしめたんだ!お前が俺を殴るのが普通だろ?そうだ俺はあの女を好きだ、愛してる。だけどあの女はお前だけを愛してる!俺があの女を想う気持ちとあの女がお前を想う気持ちは完全に同じなんだよ!彼女も俺みたいに心臓から血が流れてる!お前以外の事はどうでもいいらしいぞ...それなのに、お前は俺の前でどうしてそう冷静なんだ?そんな女を俺がお前の目の前で抱きしめているのに、そういい子ぶるなよ!お前は偽善者か!偽るな!
−ソプ...話を聞け。覚えてはいないが俺が島で彼女を愛したようだ。彼女のことを思い出せないが、彼女を見るたび胸が痛くて涙が出るんだ。今でも彼女を見るとなぜか胸が痛い...なぜそうなのか、分かったよ。母さんに似てるんだ…彼女に母さんが重なって見えるんだ。分からないだろうが、嘘だと思うだろうが、ウンソプ…俺はお前を愛してる。
−黙れ
−お前が欲しいものならなんでもやれる。ガンダムもアトムもお前のためなら惜しくない。けど、母さんをお前に譲れないように、母さんに似た彼女だけは渡すことはできない。母さんをまた失うのと同じだから…
その夜、ウンソプは酔いつぶれてしまい、バーで眠ってしまう。ウンソプの携帯電話に登録されていたチョンウンの元に連絡が入り、チョンウンはウンソプを迎えに出ようと急ぐが、そこにウノが現れる。何度連絡をしても電話に出ないチョンウンが気がかりだったウノは、チョンウンの表情から、彼女の心情を悟る。無事にウンソプを病院に連れてきた二人は、病院の屋上で語り合う。
−電話、必ず出てくれよ。人間というのは、初めから最後まで同じ道を行くのは難しいようだね。なぜなら道は一つだけではないから...歩いてみると心惹かれる道が次々現れる。気づいてみたら初め思っていた道とは違う道に行くこともある。遠まわしに言うのは難しいな。まぁ、初めから遠まわしなら、最後までそうしなきゃな。一瞬他のものが目に入っても、そのせいで混乱しないでくれたら嬉しいよ。混乱してもしばらくそれを見つめているとはっきり見えてくる顔があるよ、チョンウンさん。ああ、カッコ良く話すのはほんとに難しいな。でもどうせなら最後までカッコ良くするよ。混乱の中で見えてくる顔に、恥ずかしくなければそれは正しい。僕はある人の顔が少し少し見えてきてる。チョンウンさんもそうだったら嬉しいよ。チョンウンさんが僕を待っていてくれたのと同じくらい、僕もチョンウンさんが混乱の中に俺の顔を見つけてくれるのを待ってるよ。カッコイイなぁ。ああ、僕ってこんなにカッコよかった?結論は何かというと、電話には必ず出てよ。
ウノの話を聞きながら、チョンウンは下を向いたまま何一つ答えることができない。
その頃、母の浮気相手が病院にいるのを見つけたウンソプは、いきなり相手に殴りかかる。
男がナイフを手にすると、ウンソプはそのナイフで男に怪我を負わせてしまう。怖くなってその場から逃げ出したウンソプは、泣きながら街をさ迷い歩き、チョンウンの名を呼び続ける。
ウンソプとウノの気持ちの間で心が乱れるチョンウンは、一度島へ戻る決心をし、バスの中からウノへ連絡する。
−ウノさん、チョンウンです。私の話だけ聞いて。何も言わないで。私の話を聞いて。気持ちの整理がつかなくてウノさんの顔を見られないの。島に帰ってよく考えてから電話する。
−一つだけ言わせてくれ。ウンソプが…いや、今どこにいるの?行くにしても一度会ってくれ。
−考えがまとまったらまた戻ってくるわ。混乱の中でウノさんの顔がしっかり見えたら、そのときの恥ずかしくない私が戻ってくるわ。
チョンウンからの電話が切れてしまい、ウノは慌てて走り出す。チョンウンを引き止めるとめ、勇気を出して車に乗り込むウノの脳裏には、運転している間中、チョンウンとの島での記憶が蘇っていた。
チョンウン!ソ・ジョンウン!!
ウノは、かつての呼び方でチョンウンを呼ぶが...