テファが怪我を負った
との連絡を受けたチョンソが急いでテファの家へと向かうと、そこには大けがを負わされ、傷だらけのテファがぐったりと座り込んでいた。ピルスから二人で逃げるようにと言われ、全ての事情を悟ったチョンソは、タオルでテファの顔についた血を拭きながら一人で生きてもいけない人を置いてどうして出ていけるのかとテファに行き場のない怒りをぶつけて涙を流す。帰れと言うテファの言葉を一旦受け入れながらも、行くあてのないチョンソは一人宿へと戻っていく。
その夜、チョンソの部屋にソンジュが突然姿を見せる。
−誰にでもそうやってドアを開けるの?
−ここにはどうして...
−僕が聞きたい言葉ですよ。何かあったんですか?喧嘩?
−社長...
−ああ、"社長"じゃないでしょう?名前を呼んでよ。僕の名を知ってるでしょう?チャ・ソンジュ。
出かけましょうと声をかけるソンジュに、ここが気楽なんですとチョンソが答えると、ソンジュは強引に部屋に上がり込み、突然靴下を脱いでリラックスし始める。
−寝ないの?
−出かけないの?
−寝たら出るよ。
−出たら寝ますよ。
ソンジュがチョンソの布団に横になり、帰るそぶりを見せないために、チョンソはソンジュに出かけましょうと声をかける。何一つ二人を縛るもののない時を過ごしながら、チョンソは真実を隠したまま、キム・ジスとして接し続ける。屋台でおでんスープをすすりながら微笑み合う二人。
−キム・ジスさん...
−はい!チャ・ソンジュさん。...今日は何も考えなくてもいいでしょう?お酒も飲んで、嫌なら怒って、心の向くままにしましょうよ、私たち。私が誰だろうと、そちらが誰だろうと関係なしに、どう?嫌ならいいけど。
−O.K.!
ソンジュは食べ慣れないものをたくさん食べたせいか、お腹を壊してしまい、チョンソはそんなソンジュを連れて近くのトイレに駆け込む。ソンジュがいない間、預かったコートを抱きしめ、懐かしいソンジュのぬくもりに触れるチョンソは、ポケットからこぼれおちたあのペンダントを手に胸を痛める。そこへ戻ったソンジュ。
−あ、これ、ポケットから落ちて来たんです...
−チョンソと僕とが持っていたものです。
−チョンソさん、忘れていないんですね?
−忘れるのは易しくないですよ...捨ててしまえば...
−捨てないで!...チョンソさんを完全に忘れたら、その時捨てても遅くないでしょう?また戻ってくるかもしれないでしょう?
ポケットにペンダントを戻し、コートを返したチョンソは、また気持ちを切り替えてキム・ジスとして振る舞い始める。飲みすぎたチョンソを心配したソンジュは、彼女から焼酎の瓶を取り上げると、チョンソが思わず"オッパ!"と昔のように呼び掛けてしまい、ソンジュの顔色が曇る。
−けんかしたんですか?
−はい...
−どうして?
−私に嘘ついたんです。
突然昔のようにチョンソにおでこをぶつけてくるソンジュ。
−だからって怒ることないだろう...
−どんな嘘か分かれば、すごく驚くはずよ...
−チスさん、もう帰ろう。
立ち上がろうとするソンジュにしがみつくチョンソ。
−帰るの?...後悔しない自信はありますか?
目の前にいる女性がキム・ジスという女性だと信じていたソンジュは、徐々に冷めた顔色を浮かべ始める。
−いいわ...帰ろうというなら、帰ります。戻れと言われたら戻るし、ダメと言われたら戻らない。どうしますか?
−帰りましょう。
−そういうと思ったわ。...私のオッパ、バカみたいな人なの。私がいなかったら、生きていけない人なの。
もう一杯だけといいチョンソに焼酎を注いだソンジュを、涙を浮かべて見つめるチョンソ。
−本当に忘れたんですか?ハン・ジョンソ...
−やめてくれ
−愛は戻ってくるって言ったでしょう?忘れたら、忘れてしまったら戻れないでしょう?...私、私が誰か知ってる?私チョンソです。ハン・ジョンソ...。
全く信用できずに呆れたように笑うソンジュ。
−キム・ジスさん...
−私が...チョンソなんです!私がハン・ジョンソなんです!私がチョンソだってば、私がチョンソなの、私がハン・ジョンソなのよ...
泣きながら訴え続けるチョンソを黙って見つめていたソンジュが彼女を抱き上げようとした途端、チョンソは気を失って倒れてしまう。そんな彼女を抱きかかえながら階段を降りたソンジュは、眠ってしまったチョンソをおぶい、しっかりと歩き始める。愛しいソンジュの背中で、チョンソは昔を思い出しながらうわごとのようにつぶやく。
−オッパ...オッパの背中、とても温かいね...
チョンソを宿に送り届けたソンジュは、"オッパ"とうわごとを言うチョンソの頬にくちづけると、壁にもたれかかったまま眠りにつく。目を覚ましたチョンソは、ソンジュに別れを告げてテファの待つ家へと戻る決心をし、荷物を片手に部屋を後にする。
−オッパ...さよなら...
テファを見捨てることができないチョンソは、一人で出て行こうと車に乗り込むテファを引き止める。
−私を置いて出ていけるとでも思ったの?行こう!早く、行かないの?オッパ、どこへ行く?う〜ん、東海へ行こうか。日の出を見に。
−日の出?
−太陽が昇るのを見たら、気分がよくなるような気がするの。日の出を見て、全てのことを忘れて、新しく出直すのよ!オッケー?
−オッケー!
チョンソに心を開いたテファは、助手席にチョンソが乗り込むと、車を走らせる。一人残されたソンジュは、チスとの本当の別れに胸を痛めていたが、もうどうすることもできずにいた。
移動中の車の中で眠ってしまったチョンソの頬に触れたテファは、チョンソが高熱を出していることに気が付き、慌てて薬局へ向かう。自分が熱でうなされていながら、テファの心情を気遣うチョンソの優しさに、テファの胸はますます苦しくなっていく。
−チョンソ...ごめんな...ごめん...お前にこんなことすべきじゃなかった...こんなことはダメだったのに...あの時俺は正気じゃなかった...俺が地獄へ落ちたとしても、お前さえいれば、お前さえそばにいれば、幸せだと思ってた...だけど、幸せなほどつらかったんだ...すごくつらかった...ごめんよ、チョンソ...ごめん...許してくれるか?
その頃、職場にチョンソの気配を感じられない寂しさに包まれていたソンジュは、キム・ジスがデザインしたマフラーをユリに手渡され、ユリとともにグローバルランド内を歩いていた。“この世にただ一つの愛”というコンセプトを元に制作された商品を手にしながら、悲しみをこらえていたソンジュに、テファからの電話が入る。テファの言葉を聞いた途端、電話を投げ捨て駆け出すソンジュには、もうユリの声すら届いていなかった。
−チョンソ、ハン・ジョンソと一緒にいます。私の話をしっかり聞いて下さい。私はチョンソが憎くて、嫌いになって手放すんです。あなたを愛しているから。チャ・ソンジュさん、チョンソを幸せにしてください。チョンソを幸せに出来る人は、あなたしかいない。約束して下さい、チョンソを守ると...
猛スピードでチョンソの元へ車を走らせるソンジュの脳裏に、これまでの出来事が次々と浮かび、溢れる涙を止めることができないまま海辺の家へと向かう。その頃テファは眠っているチョンソの手から二人の婚約指輪をはずし、ポケットにしまいこんでいた。チョンソの幸せを願いながら、彼女の携帯にクローバーを残すテファは、静かに荷物を取り出すと、チョンソに顔を寄せ、静かに別れを告げる。
−いつもお前のそばにいる...愛してる、チョンソ...
そこへソンジュの車が到着すると、それに気付いたテファは、急いで姿を隠す。車内で目を覚ましたチョンソは、テファの姿が見えないことを心配し、車から降りると、そこに思い出の家があることに一瞬驚きながら、すぐにテファの姿を探す。
−テファオッパ!オッパ!
チョンソが見つめる先に立つ男性は、チャ・ソンジュだった。ソンジュとチョンソとして、5年ぶりの再会だった。涙を浮かべてチョンソにゆっくりと近づくソンジュ。
−.....チョンソ...
−オッパ...
−ハン・ジョンソ...
−ソンジュオッパ...
−愛する者同士は...
−出会えるものよ
−どんなに遠く離れても...
−結局...出会えるものよ
分かち合ったペンダントを一つに合わせた二人の顔は、涙でぬれていたが、徐々に喜びを感じ始め笑顔を浮かべる。
−ハン・ジョンソ、そうやって笑うんだ...
チョンソの頬に両手を伸ばすソンジュ。
−チョンソ...お前なんだな?チョンソだろう?
答えるかわりにうなずくチョンソ。
心から再会を喜ぶ二人は、何度も何度も名を呼び合うと、互いの手を取り、夜の海辺を昔のように駆け出し、じゃれあい、そして熱く抱きしめ合う。海辺の家に戻った二人は、暖炉の前で互いのぬくもりを感じながら、昔の写真を手にしていた。
−昨日のことみたいなのに、時間がずいぶん経ったのね...
ソンジュとの幸せな時間を過ごしながらも、チョンソはテファの残したメッセージに心を痛めていた。
−チョンソ、幸せか?幸せになれよ。俺、もうひとつだけ嘘をついた。俺がハン・テファだということ、ユリの兄だということ、言わずにいてくれたらうれしいよ。つらいだろうが、ユリを許してくれないか?俺の最後の願いだ。幸せにな...
ソンジュはチョンソの手を取り、迷うことなく"家に帰ろう"と言う。
−帰れない...今度...
−何を言ってる?今行くぞ
−いいえ、時間が必要なのオッパ。
−5年だ...5年の間、皆お前を待っていたんだ。
−...オッパ、私のこと好き?愛してる?
答えることのできないソンジュ。
−私たちそんなのいけないわ。私がオッパを愛したらいけないじゃない...いくら好きで、幸せでも、私たちそうしたらだめなのよ。
−チョンソ...
−ユリはどうするの?オッパの言う通り、5年が経ったの。それまでオッパにも私にもいろいろなことがあったわ。その出来事を、一瞬で整理できることじゃないわ。オッパ、理解してくれる?私行かない。
−バカだな...誰が家へ行くと言った?お前の家に行くんだ。
−オッパ...
−俺がいつお前に愛してると言った?家に戻るぞ、今すぐ。
ソンジュはチョンソを助手席に乗せ、ハン家に向かい車を走らせる。隣に座るチョンソの手を握りしめるソンジュ。
−一番してあげたかったことなんだ。お前の手を握ってあげること...
二人がハン家に向かっている頃、テファからの電話を受けて全てを知ったユリが慌てて母ミラに事情を話し...