ユリと共に5年ぶりに韓国へ帰国したソンジュは、空港に着いた途端、ユリに“迎えは来ない”と話し、一人で先に帰るようにと伝える。飛行機の中で隣り合わせた女性と約束をした振りをするソンジュに、ユリは見透かしたように答える。
−ここまでする必要はないのよ。ここはソウルです。オッパの少しのおふざけが記者の大きな記事につながるの。
−一度だけ見逃してくれよ。これまでユリの言うことを良く聞いてたじゃないか。
−戻るなりチョンソ姉さんに会いに行かなきゃならないんですか?チョンソ姉さんが亡くなって5年も経つのに…オッパは何一つ変わっていないのね。いいですよ、理解しなくちゃね。今日の夕方7時、パーティがあるのはご存知でしょう?お母様が心配されますので、遅れないでくださいね。
ユリはソンジュの心に今も生き続けるチョンソの存在に怯えながら生きていた。ユリがソンジュと別れた途端、母ミラが姿を見せる。
−ママ!…チョンソ、連絡なかった?
−テファもあなたのパパも連絡がつかないわ。忘れちゃいなさい。
−5年前のあのこと、一度も忘れたことはなかったわ…不安でたまらないの。
ミラとユリは、自己保身だけを考え、テファとチョンソが姿を現さないよう願っていた。一方、テファとチョンソは5年間、ハン・チョルスとキム・ジスとしてともに暮らした時間の中で、お互いを誰よりも大切に想う間柄になっていた。市場で商売をするチスはスケッチをするチョルスの姿を見て駆け寄る。
−国展の準備、ちゃんと出来てる?
−ああ、今度の感じは…良く出来てると思うんだ…!
−もう、毎日そのセリフ!オッパ、私たち今日仕入れのついでに海に行こう。オッパ海好きじゃない!
−ああ、いいね!
−風も気持ちよくて、国展の絵の構想も出来る。
−それなら刺身も食べよう!行こう、行こう!
海辺に出かけた二人は偶然チョンソの暮らしていた白い家を見つける。チョンソは白い家を見ても記憶が戻らず、純粋な好奇心からあの家に行ってみたいとテファに話す。
−誰か住んでるのかな?どんな人が住んでるのかしら。まるで天国みたい。
海辺で絵を描くテファの隣で、チョンソは遠くから聴こえるピアノの音色に気がつく。
−オッパも聞こえる?ピアノの音…
白い家にはソンジュが来ていた。チョンソとの別れが信じられないソンジュは、チョンソの死に疑問を抱き続けながらチョンソの姿をいつも探し求めていたのだ。かつてチョンソのために奏でたメロディを思い出の白いピアノで弾くソンジュは、近くにチョンソがいることに気づくはずもない。
ソンジュはチョンソの家で彼女との思い出を懐かしむように少しの時間を過ごし、母やユリたちの待つパーティへと向かい、翌日から任される仕事への意気込みを見せる。
−まず専属モデルから変えなければなりませんね。
ソンジュの一言に、これまでモデルを務め続けてきたユリの母ミラが表情を曇らす。気まずい雰囲気の中、ソンジュが言葉を続ける。
−すべてが新しいのに、正直テ・ミラ先生だけ古いイメージですね。
ソンジュの失言とも取れる言葉に驚いたミン会長は、あわててミラを擁護する。
−テ・ミラさんは私たちのグループと一緒に成長されたスターよ。すべて新しいのがいいというわけでもないし…
困った表情のミン会長を前に、ミラは穏やかな素振りで伝える。
−ミン会長が手放してくださらなくて。どうしましょう...そろそろ私を手放してくださる?
−まさか放さないわよ。絶対に。
ソンジュはチョンソの死に疑問を抱いていたため、チョンソの継母であるミラに対し、常に猜疑心を抱き続けていた。そんなソンジュの態度にいらだつミラは、ユリにソンジュの心を捕まえておくよう釘を刺す。ソンジュはユリに対しても何の感情も抱いていないため、婚約相手にもかかわらず、心を開くことができずにいた。
記憶をなくしたチョンソは、テファの父を命の恩人と信じていたため、市場で稼いだお金をテファの父に渡していた。
−お酒じゃなくてご飯食べてくださいね。
−ああ、ありがとう。お前には迷惑かけるなぁ。
−そんなこと言わないで下さい。私にとっては父のような人なんですから。火事の中から私を救ってくださったじゃないですか、亡くなった両親もきっと感謝しているはずです。
−そ、そうだな。恩は忘れちゃならない。それだけは覚えておけよ。後で何があってもだ、分かったか?
翌日、初仕事のためグローバルランドを視察していたソンジュは、回転木馬を見つめながらチョンソを思い出し、チャン理事に壁画について話す。
−ここがよさそうです。どんな人からも目に届く...
−壁画のコンセプトは?
−天国…天国にしましょう。
ソンジュは母ミン会長に、業績が一番良くないセーフモールを任せてほしいと願い出る。
そんなある日、チョンソはテファの誕生日の靴を選ぶため、ソンジュが任されたセーフモールに向かう。店内の壁画の画家募集に関する張り紙を見ていたチョンソの姿を、店内を視察していたソンジュが見かけてしまう。チョンソにそっくりな女性を見て息を呑むソンジュは、仕事中だということすら忘れ彼女の後を追い、走り続ける。
−チョンソ!ハン・ジョンソ!
チョンソの名を呼びながら駅の構内まで追うソンジュだったが、記憶を失っているチョンソの耳に、その声は届かない。とうとうチョンソを見失ったソンジュは呆然とホームに立ち尽くす。反対側の電車にふと目をやったソンジュは、電車の中にチョンソの姿を見て、言葉を失う。
回転木馬の前に戻ったソンジュは、チョンソのいない寂しさに、どうしようもなく悲しい気持ちに包まれる。
−チョンソ…どこにいても君が見える。似ている人が皆、君に見えるよ…君は僕の傍にいないのに、君は天国へ旅立ったのに、なぜ僕の前に姿を見せるんだ…
そんなソンジュの様子など知る由もないテファは、チョンソからの電話を受け、グローバルランドへ向かう。回転木馬の前で無邪気に微笑むチョンソの表情を遠くから見つめるテファは、重い気分を吹っ切るようにチョンソに向かって走り出す。チョンソは回転木馬前の白い壁を指すと、ここに天国を思い浮かべるような壁画が描かれるの、と話す。
−壁画?
−うん、私ねオッパの名前で応募しちゃったんだけど…ヤッホー!オッパが選ばれたよ!描くでしょ?描くわよね?
−おい、これを見せるために呼んだのか?デートだなんて言って…
−描くでしょう?描くわよね?考えてみて。ここにくる人みんながオッパが描いた絵を見て喜ぶわ。もしうまく行けば、画廊がサポートしてくれるのよ。そうしたらオッパの名前が知れ渡るじゃない!ねぇ、描くでしょう?描くでしょ?
−嫌だ。
−嫌?話にならない…どうしてよ!
−ただ嫌なの!
−ハン・チョルス!嬉しくてそんなこと言うのね?そうでしょう?壁画が完成したら私が大きなプレゼントあげるから。婚約指輪あげる!有名な画家になったら、お金もたくさん稼いでくれるもの。婚約できないこともないわ。それでも嫌?描くのが嫌?婚約が嫌?早く言ってよ!答えて!でも..。天国ってどう描くのかしら...
−お前を描けばいい。
−描くのね?OK? OK?
−O.K.!
テファがようやく頷くと、チョンソは喜んでテファの背中に飛びつく。二人のいるグローバルランドに、ソンジュが現れると、ソンジュは悲痛な面持ちのまま回転木馬前の椅子に座り、チョンソに別れを告げる。
−チョンソ…今日婚約発表をするんだ…つらいだろう?僕(の心)が君を放さないから…つかまえたままだから…もう送ってあげるよ。忘れるよ。ただ一度だけ君に会いたい。無理だよな…だけどただ一度、一度でいい…
そんなソンジュが顔を上げた瞬間、チョンソの笑顔がソンジュの瞳に飛び込んでくる。一度はまさかと思い目を伏せたソンジュが再び顔を上げると、その女性はチョンソそのものだった。チョンソに違いないと確信したソンジュは回転木馬に向かって走り出す。降りてきたチョンソがテファと歩き出すと、ソンジュはなりふりかまわず大声でチョンソの名前を呼ぶと、彼女の腕を掴む。
−ハン・ジョンソ!
突然見覚えのない男性に抱きしめられたチョンソは驚き、身動きすらできない。
−お前はチョンソだろう?ハン・ジョンソ!
ソンジュが再びチョンソを抱きしめると、隣で見ていたテファがソンジュを振り払い、あわててチョンソの手を取り走り出す。ソンジュはチャン理事の説得も聞かずに仕事や婚約発表の予定を全て投げ出して彼女のあとを追う。
グローバルランドから出ても走り続けるテファの様子にも戸惑うチョンソは、躓いて転んでしまう。チョンソを心配し、振り返るテファ。
−大丈夫か?
−チョンソ…ハン・ジョンソって誰?あの人、私を知ってるみたい。以前の知り合いなのかしら…オッパあの人知らない?
−...大丈夫かと聞いたんだよ。大丈夫かって…
チョンソが頷くと、テファは黙ったまま一人で歩き出す。痛む足を引きずりながらテファに追いついたチョンソ。
−オッパ!もしかして記憶が戻るかもしれないじゃない。あの人…
−お前、俺が言っただろう?数十回言ったがまた話そうか?お前はうちの父さんの友人の娘で、お前の家は大火事で、お前は両親と記憶を失った。そしてお前と俺とで5年暮らしてきた!俺の言葉がそんなに信じられないのか!
−違うよ…
−じゃあ何だ?何を確かめたいんだ?お前俺の言葉を信じてないな...ああ、分かった、俺は嘘つきだ!そんなに俺の言葉が信じられないなら行けよ!行って全て聞いてみろ!
−チョルスオッパ!
テファの後を不安そうな表情で追うチョンソだったが、突然の出来事に一番戸惑っていたのはテファだった。どうしていいか分からずにテファはチョンソをおいたまま一人でバスに乗り込んでしまう。置き去りにされたチョンソの前にソンジュが再び姿を見せる。
−チョンソ…
−私を知っているんですか?私の名前はキム・ジスですが...私を知ってるの?
−いいや、君はハン・ジョンソだ。僕だよ、チャ・ソンジュだ。分からないか?
目の前に突然現れた愛しいチョンソに、ソンジュは思わずチョンソの帽子を取り、彼女の頬に触れる。ソンジュを思い出すことのできないチョンソは、テファが気になってたまらずその場を去ろうとするが、ソンジュにまた抱きしめられてしまう。
−何するんです?人違いですよ。
ソンジュを振り払い、バスに乗り込むチョンソだったが、彼女をあきらめることができないソンジュは走り出すバスの後を追い続ける。そんな姿を見つめながらも、チョンソは全く記憶が戻らない。停留所で止まったバスに追いついたソンジュは、チョンソの前に歩みよると、二人の思い出の写真を取り出しチョンソに見せる。
−これを見てくれ...君と僕とが写った写真だ。君だろう?君そのものだ!それにこの家、この家は君が住んでいた家だ。僕たちここで毎日のように遊んだだろう?一緒に貝を拾ったり、ブーメラン投げたり、ピアノも弾いたじゃないか!お前いったいどうしたんだ?他人みたいにどうしたんだ!からかってるんだろう?ふざけてるんだろう?
ソンジュの様子に驚いたチョンソは、写真を見る余裕もなく、バスから降りてしまう。
−私その人じゃありません!違います!どいて!
ソンジュはチョンソの名を呼び続けながら市場まで追い続ける。
−回転木馬が好きだっただろう?毎日乗りたいってせがんだじゃないか!
−本当に何なんですか!
−チョンソ、これも覚えていないのか?
二人で分け合ったネックレスを取り出すソンジュだが、チョンソの目にははいらない。
−留学に行くとき、分け合っただろう?分からないのか?俺たち一緒に留学に行くはずだったろう?戻ったら回転木馬で会おうって...お前はチョンソだよ!チョンソ!
チョンソを抱きしめるソンジュだったが、痴漢!と叫んだチョンソの声に驚いた周囲の人に取り押さえられてしまう。
店に戻ったチスは友人のチェヒにチョルスのことを尋ねる。チョルスが心配なチスはチェヒの誘いを断り、家路を急ぐ。その様子をソンジュは静かに見守っていた。店の名前「イカロス」を胸に刻み、チョンソにそっくりな女性の姿を見つめながら。