壁画の完成式の日、大勢の前に立ち挨拶するソンジュの堂々とした姿をチョンソは遠くから見つめていた。
−痛みも、悲しみも、別れもない世界...天国をプレゼントすると、以前一人の人と約束しました。今私は、その約束を守るため、この場所にいます。私の心の中に永遠に生き続けるその人へこの壁画を贈ります。その約束を守らせてくれたハン・チョルス画伯を紹介します。
拍手喝采の中、テファが前に出される。
−天国は、私には行くことのできない国です。この壁画の前では...この世の全ての人が慰められ、許しを得ることのできない人も、癒されることを願います...
チョンソを探すテファは、2階にいるチョンソの姿を見つけて突然駆け出す。
−チス!チス!キム・ジス!
チョンソの手を掴むテファ。
−離して!離して...離して!離してよ!
涙を浮かべて怒りに満ちた瞳でテファを睨むチョンソの表情に、テファは全てを悟る。
−壁画の前で待ってる...今夜12時に...お前に話があるんだ。絶対来いよ。
テファを突き飛ばし、チョンソはグローバルランドへ戻っていく。記憶を取り戻したチョンソを前に、ユリと継母はソンジュ
やミン会長に知れぬようチョンソを陥れる方法を思いつく。
一方テファはチョンソを元の場所に戻すために勇気を出してソンジュを訪ねる。紳士的な態度でテファに接するソンジュ。
−許して下さい...キム・ジスさんを好きになってしまいました。あなたが好きなのを知りながら、好きになってしまいました。許して下さい...
−申し訳ありません...申し訳ありません....
涙をこらえて謝罪を続けるテファの手を握るソンジュ。
−壁画、素晴らしかったです。ありがとう。
−いいえ。壁画、壁画を描いているとき私は幸せでした。私も...頼みがあります。今夜の12時、回転木馬の前で待っています。
ソンジュの部屋を出たテファを、通りがかったユリが見つけると、ユリは慌ててテファを呼び止めるがテファは歩き続ける。
−お兄ちゃん、チョンソ、どこまで思い出したの?あの夜の事故のことも全部?
−そうだ...
−チョンソが記憶が戻ったの
−関係ない...どのみち全部伝えるつもりだ。もう全ての嘘は終わりにする...。
−私のことは?事故のことは言わないわよね?違うよね?
−チョンソにこれ以上嘘はつきたくない!
−お兄ちゃんお願い!だめよ、絶対だめ。
−ユリ、お前もチョンソから奪ったもの、全部返せよ。
−お兄ちゃん...
−全部返すんだ...な?
回転木馬前にやってきたチョンソの前にソンジュが駆け寄り、彼女の手を握りしめる。
−僕に話があるんだって?何...突然僕を好きになったとか?
−だとしたら、私を受けとめてくれますか?
−....今日、チョンソを見送りました。チョンソに、許しを乞いました。他の人を好きになったことで、怒っているはずだよ...。僕、キム・ジスさんをチョンソだと思っていたんです。とても恋しくて、本当に会いたかったから...。あるときからはハン・ジョンソではなくキム・ジスでもいいって思い始めました。チョンソとは全く別人だけれど、あなたの全てを好きになりました。
チョンソはソンジュに寄り添いながらも、すでにソンジュが自分をキム・ジスと思い込んでいることに悲しみが押し寄せる。
−あなたはいい香りがする...チョンソのように...今度はあなたの番ですよ...
−チャ・ソンジュという人は、すごく無礼で、意地っ張りでしょう。それでも、その中に秘められた涙と真実を感じ始めたの。そして....とっても昔から...知っていたような感じ...あなたの探すその女性...ハン・ジョンソが私なら、だんだんその人が羨ましくなってきて、気になり始めたの。それに今は、ハン・ジョンソになりたい...
−それなら僕たち、お互いに想いあっているんだね?
笑顔を浮かべ“デートしよう”というソンジュに促され、シンデレラの衣装に身を包むチョンソ。
−シンデレラになった気分...時間になったら戻らなければならない....
−後で王子様がまた探しに行くじゃない?
−ずっと待たなきゃならないんですか?
−帰る時は靴を一足置いて行くのを忘れちゃだめだよ。
片方の靴をチョンソの足から取ると、“持っていなくちゃならないな”とふざけるソンジュに、チョンソが頬笑みを浮かべる。
−そうやって笑っていて...
壁画の前で回転木馬に乗る二人。
−回転木馬に乗って、壁画を見られるようにしたかったんだ...これを見た全ての人が幸せになれるように...全ての人が幸せなら、チョンソも幸せなはずだよ。チョンソは天国にいるけれど、その壁画の中にチョンソがいるんです...。あの壁画がチョンソです。チョンソ、美しいでしょう?
ソンジュの一言一言に、胸が締め付けられるチョンソだったが、ソンジュになかなか真実を切り出せず、全てを自分の胸にしまいこんでしまう。別れ際、ソンジュが沈んだ表情で切り出す。
−それでも僕ら、別れなくちゃならないね...それぞれの道へ...。僕をここに呼んだのは、ハン・チョルスさんだ。あの人を...愛しているの?
−ハン・ユリさんを...愛しているの?
ソンジュと別れた後、行き場のないチョンソは重い足取りでテファの待つ家へと戻るが、扉には鍵がかけられていた。
−オッパ!オッパ!オッパ、そこにいるのは分かってるの。扉を開けてよ、開けてったら!
テファは扉を開けず、二人は扉越しに言葉を交わす。
−行け!行けよ!ここに何しに来た!何故だ!...戻れ。戻ってお前の居場所を探せ。
−オッパ...
−頼むから行けよ!
−オッパ!扉を開けて!早く開けてよ!扉を開けて!
扉の前に近づくテファ。
−ハン・ジョンソ...ハン・ジョンソ!お前全部分かっただろう?俺がどんな奴なのか、俺がお前に何をしたのか!もう分かっただろう?
−どうしてこんなこと?どうして?どうしてよ!
−愛していたから...死んで地獄へ落ちたとしても...お前を奪いたかった...お前を手に入れたかったんだ...
−話してよ...あの日に何があったのか、私に話しなさい!弁明だけでもしなさいよ!どうしてあんなことしたのよ!私をこんな目にあわせてどうするつもり!開けてよ、扉を開けて!
−...俺を許すな...
−許さないわよ...オッパ、絶対に許せない
−そうだ、俺を許すな!俺は出て行くぞ...誰も知らない場所へ、出て行くぞ...だから戻れよ...頼む、戻れ!
−どこへ?どこへ?行く場所がないのでどこへ?責任とってよ!戻る場所がないじゃない!責任とってよ!
−行け!頼むから行ってくれ!
扉越しに泣き叫ぶ二人には、進むべき道すら見えてこなかった。
翌日行くあてもなく出社したチョンソを待っていたのは、ミラとユリの策略通りにチョンソに対して猜疑心を抱いた周囲の偏見だった。そんな中ミン会長は、チョンソに会社をやめるよう促す。ミン会長の言葉に従い、チョンソは会社を辞める決心を固め、ソンジュのもとに辞表を届けに行く。
−今までありがとうございました。
−ハン・ジョンソ...チョンソになろうとする必要はなかったんだ。言ったでしょう?ただ僕は、キム・ジスさんが好きだったんです。
チョンソに近づき、彼女の涙をふきながら両手で彼女の頬を包み込むソンジュ。
−これまで...チョンソだと思い込んできて、無礼を働いたこと、申し訳なかった。許してくれるでしょう?
ソンジュの言葉にうなずくチョンソの瞳から次々と涙があふれる。
−さようなら...
ソンジュが自分をキム・ジスと信じて疑わないことで絶望したチョンソは、ソンジュへの想いを振り切り社長室を後にする。
その頃テファはチョンソに別れの手紙を書いていた。
「ハン・ジョンソ、俺、お前がそばにいて本当に幸せだったよ。お前と暮らした5年間、その5年が俺の人生のすべてだった。これまで俺だけが幸せだったみたいだ。ごめんな...お前はそうじゃなかっただろうな...。一緒に幸せになりたかったのに、その幸せ、そろそろお前に取り戻してあげるよ。もうお前の居場所に戻れ−テファ」
そんなテファの元へ父ピルスが借金をした相手の男たちが突然姿を見せる。借金を返すために模倣画を描けと脅されるテファだったが、逆に“殺せ!”と怒鳴り返し、ますます痛めつけられることになる。
一方、一度は別れを告げていながらも、心はチョンソを求めているソンジュは、チョンソの後をそっと追い続ける。そこでソンジュは彼女が同居している男性の家ではなく、旅館に入る様子を目にしてしまう。