【チョイン 父の病室】
父の手を握りしめ、静かに語りかけるチョイン。
−父さん、父さんは...7ヶ月に満たない僕を、保育器で育てて下さって...僕に、骨と肉を下さったでしょう?それなのに、心臓がなくなったようです...ソヨンは、ソヨンは...僕の心臓のような人なんです...心臓を失いました。父さんも、病院もこんなことになってしまったのに...僕は心臓をなくして、どうやって生きていきましょうか?
チョインがうつむいて涙を流すのを、父チョンミンは悲しそうに見つめていた。
【チョイン 納骨堂】
チョインは納骨堂に向かい、その中の一つの部屋に収められた自分の笑顔の写真と、ソヨンとの婚約指輪を悲痛な表情でじっと眺めた後、その足でカン
チョルの眠る部屋へと向かう。
−カンチョル兄さん、あれほど取り戻したかった記憶も、愛する人も、見つけました。それでも、もしかすると、何一つ思い出せなかった頃が、今より幸せだったかもしれません。それでも、これから...孤独な
闘いを始めなければならないようです...
自分を罠に嵌めた人物を探すため、チョインはたった一人で、闘いへの道を歩み始める。
【ポソン病院内】
病院内では以前のように明るく屈託のない笑顔で振る舞うチョインは、父を車イスに乗せると、気分転換に病院内を散歩に連れ出す。チョインは病院での自分の位置を徐々に取り戻しながら、取り戻した記憶を書き出し、自分
と父チョンミンが何故こんな目に遭ったのか、そして指示したのは誰なのかと、糸口を模索し続ける。
【理事会事務局
〜部屋に戻り資料に目を通すチョイン】
チョインは失踪中に病院内で起こったことを確認するため、重い足取りで理事会事務局に向かい、会議資料のコピーを受け取る。チョインは部屋に戻るとすぐに資料全てに目を通
し、ホワイトボードに自身の拉致前後の記憶などを書き出し、病院で起きた事を照らし合わせる。そこで一つの関連性に着眼したチョインは、早速思い当たる人物を訪ね始める。
【チョイン オ理事の元へ】
チョインが生きて戻ったことで衝撃を受けていたオ理事は、指示をした相手のチェ・ボックンとの通話で憤りが収まらない。そこへチョインが自分を訪ねてきたことで慌てるオ理事。唖然としてチョインを見たまま立ちつくすオ理事に、チョインが笑顔で語りかける。
−お電話は...お済みですか?
−...え、ええ...生きて戻られたと聞いていたんですが、私が少し立て込んでおりまして、連絡もできませんでした。良かった...さぁ、お座り下さい。
チョインを頭からつま先までまじまじと見るオ理事。
−どこにもお怪我はありませんか?
−私には分かりませんが...頭の側に傷があり、脇腹にも銃創があるようで、火傷した痕もあるようですが?
−それはそれは...ところで、こちらにはどんなご用件で?
−(少し微笑んで)ああ、オ理事に贈り物がありまして。ご覧になりますか?
包んでいた布をほどき、遺骨箱を見せるチョインは、驚いて身を引くオ理事に挑戦的に話し続ける。
−何です?気に入りませんか?オ理事が、私の遺骨だと送ったものなのに、その表情は何です?...オ理事。オ理事が直接、私の遺体を確認したのに間違いありませんか?
−(震えながら)...いい、いいえ...そうではありません、それは違います。
−直接確認したのでは...ないと。それでも...少しおかしいですよね?身分を確認もせず、遺体を..家族でもなく、何故、オ理事に送ったんでしょうか?それで、こんな考えが浮かびましたよ。この遺骨という物を送ったのは、私を拉致した...犯人たちだ...
−違います!私は違います...私は絶対に違います、違います...
無表情のままオ理事を見るチョイン。
−どうしてでしょうか?脳医学センター!...開設発表が出た後に、株価が何と、10倍にもなり財閥となったオ理事...
冷や汗を流すオ理事が、何も言えずにその手で汗を拭こうとすると、チョインがオ理事の胸元からハンカチを引き抜き、理事の汗を拭くと、理事の手に握らせる。
−ハンカチ程度は持って歩けるでしょう?オ理事...この遺骨は、中国に送り返してですね...遺骨箱は別に保管しておきましょうよ。すぐに使う事態になりそうですからね...
冷たい目でオ理事を一瞥し、チョインは理事の部屋を出て行く。慌てたオ理事は、まさに韓国を発とうとしてたチェ・ボックンに連絡を取ると、報酬を10倍にするからと伝え、チェを呼び止める。
【チョイン 診療部長の部屋へ】
オ理事と同じように、チョインを見て震えだす診療部長だったが、チョインは書類を手に堂々とした笑顔を見せる。
−ですから、ここにサインさえすれば、懲戒委員会を通じて倫理委員会がまた開かれると、いうことですね?診療部長。
−...ええ、その通りです...
書類にサインするチョイン
−どのみち、診療部長は、倫理委員会で、またお会いすることになると思いますが...私は...診療部長に対して全く、悪い感情がないこと、ご存じでしょう?
−...も、もちろん...
−そのように仰っていただけて、私も安心しました。では、倫理委員会でお会いしましょう。
チョインが部屋を後にした途端、力が抜けたように椅子に座りこむ診療部長の元に、オ理事から電話が入るが、すでにチョインが投じた一石は、彼らに大きな波紋を広げ始めていた。
【チョイン ソヌの部屋へ】
事情を知り、戻ったきたソヌがドアを開いた途端目に入ったのは、チョインが明るく笑う遺影だった。驚いて後ずさりをするソヌに、チョインは手に持っていた遺影を下ろし、笑顔を見せる。
−驚いた?
−何の真似だ?片づけておけ。
−怒った?
ソファに座る二人。
−子供みたいないたずらはやめろ...
−オ理事に会って来た...僕の遺骨、オ理事が持って来たとか..
−ああ、そうだ。オ理事とどんな話をしてきたんだ?
−オ・イングン...だったんだろうか?
−何がだ?
−僕を拉致して、6ヶ月間も戻れなくさせた奴...
−チョイン...お前がこの前検査を受けた時、兄さんに言ったことを覚えていないのか?無事に戻れたんだからもういいじゃないか。過ぎたことを根掘り葉掘り...
−いや、考えが変わった。昨日一晩中考えてみたら、すごく悔しくてやりきれないよ。僕を拉致して、父さんの手術にも戻れないようにした奴が誰なのか、必ず...知らなければならないんだ...
−チョイン、もう一度言うが、事を明らかにして混乱させて何かいいことでもあるのか?すでに過ぎたことだから...
−兄さん!兄さんは、少なくとも...そんなふうに言うべきではないだろう?弟が...少しどころか6ヶ月もの間どこで何をしてきたのも思い出せないのに、死んだと思っていたら生きて戻ってきたのに、一体どんな奴らがこんなことをしたのか、兄さんが前に出てでも...探すべきじゃないのか?
−イ・チョイン...
すっと立ち上がるチョイン
−今俺の目に映る兄さんも、同じだな...
−何だと?
−弟が...遺体でもなく遺骨になって戻ってきたなら、遺伝子鑑識をするとか!でなければ!それを送った奴らがどんな奴らなのかを...(ソヌを睨みつけるチョイン)確認だけでもするべきじゃないのか?それもしないのなら...僕を殺そうとした奴らも、
兄さんも...どんな違いがあると?兄さんも...僕がいなくなるのを望んでいたんじゃないのか?
ソヌも立ち上がり、怒りに満ちた表情でチョインに近づく。
−お前は今何の話をしてるんだ?俺が何故お前が死ねばいいなどと考えると言うんだ?おい!...お前が砂漠で発見された時はもう、腐敗が進んでいて...顔すら確認できなかったと聞いたんだ...遺骨箱が来た時、お前がはめていた指輪も共に来たんだ。当然お前だと思うしかない状況だったんだ...その上俺はその時お前を探し...中国の各地を訪ね歩いていた状況だった...それなのに、どうしてお前が俺に、そんなことが言えるんだ?
互いの胸中を探るように厳しい視線を交わしていた二人だったが、チョインが突然力が抜けたように浅い溜息をつき、目線をそらす。
−ごめん...どうかしていたようだ...この頃は本当に僕がどうかしたんじゃないかと思う...記憶も取り戻せないのに...ある時は、こんなふうに戻ってこられたことだけでも感謝すべきなのに...またある時は...一体どんな奴らが僕を殺そうとしたのか...必ず探し出して...そいつの頭に銃を撃って殺したいくらいになる!
チョインの言葉に息を飲むソヌだったが、そんなソヌにチョインが倒れかかるように抱きつく。
−ごめん、兄さん...それでも兄さんは僕を分かってくれるだろう?
かつてそうしたように、優しくチョインの背中をポンポンと叩くソヌ。
−ああ...外傷ストレスの症状だろう...
−ありがとう...行くよ。
一度背を向けたチョイン、ソヌの方に振り返る。
−それと...万が一、万が一、またこんなことが起こったら...写真は、もっといいものがあれば...この写真はひどいよ...そうじゃない?
ソヌの部屋を出たチョインを待っていたのはソヨンだった。病院内の椅子に座るチョインとソヨンの間に、重い空気が流れる。チョインがすぐに気持ちを整理しようとせず、時間をかけてみようと話すと、ソヨンはソヌを愛しているとチョインに正直に伝える。チョインは怒ることもせず、ソヨンの気持ちを受け入れる。涙を流すソヨンを、自分の苦しみを隠して優しくいたわるチョイン。
−大丈夫だ...ソヨン...だから泣くなよ、ソヨン。僕は大丈夫だから泣くなよ。お前がそう決断したのなら構わないよ。泣くなよ、ソヨン。お前がそんなに泣くと、お前の心臓がつらいだろう?
苦しむソヨンの手を取り、優しく握りしめるチョイン。
【病院の廊下】
傷ついたチョインが一人うつむいたまま病院の廊下の椅子に座ったまま動けずにいると、チングンがビールを片手にチョインを勇気づけに来る。日中病院内で革命を起こしたかのように行動したチョインが、がっくりと気落ちしている様子を心配するチングンがビールをすすめるが、チョインは今飲んだらおかしくなりそうです、と酒の誘いを断る。黙って傍に座っていたチングンに、チョインがようやくポツリポツリと語り始める。
−えっと、先輩...。実はね、僕と、とっても似ている人が一人いるんですよ。幼いころ病気だったことに始まて、似てるんです、10本の指を100回合わせても足りないくらいにすごく似ている人なんです。その人と僕がすごく似ていて、全てが似ていて...まるで血縁みたいに...同じ運命の元に生まれた人みたいに、一生を共にしたい友だったんです...それが、もうそうできないようです...友が、もうできないと...これも、運命でしょうか?こんなものも、運命なんでしょうか?
【チョインの部屋】
チョインは病院の階段でオ理事と診療部長の会話を耳にしてしまい、この件の背後にいる人物は誰なのか、記憶を辿りながら、真犯人がオ理事と診療部長ではないことが明らかな以上、残るのは母と兄ソヌだけだという考えに達するが、理由が明確に分からず、確信を持つことができない。かつて父チョンミンが自分に病院を託すつもりだと打ち明けた時のことを思い出すチョイン。
−救急医学センターに転科する決心はついたか?
−決心など必要ありますか?父さんがしろと仰るならするんです
−イ・チョイン...
−はい、父さん
−父さんはお前を信じて、救急医学センターを始めるぞ。それでもいいか?
−もちろんです。父さんの一生の夢だったではありませんか
−そうだ、一生の夢だった...だが、その夢をかなえるためには、お前と父さんは数多くの反対と、数多くの涙を流さなければならないかもしれない。(遠くを指さし)あそこに見えるあの土地が、救急医学センターを設立する場所だ。
−あそこですか?わ〜、交通の便がいいですね!
−だろう?患者が来院するのに楽だろう。(封筒を手にする父)そしてこれはあの土地に係る贈与文書だ。署名しろ...
−あの父さん、僕にはこんなものは必要ありません...ソヌ兄さんにあげてください。父さん、本当ですよ、父さんが死にそうな私を助けて下さっ
て、ここまで育てて下さったことだけでも、生きている間で恩返しできるか分かりません。それに、この紙切れのためにソヌ兄さんとの仲が悪くなるのが嫌なんです。だから、兄さんに
あげてください。
−父の意思を継ぎたければ受けなさい...それが運命というものだ、拒んでも必ずしなければならないこと...お前にとって救急医学センターはそんな運命なんだ...
大切そうに封筒を受け取り、書類に目を通したことを思い出しながら、父を車いすに乗せてその時と同じ場所に立つチョイン。
−父さん、こんなふうに争わなければならないのも、父さんが下さった運命ならば、私は一歩も引きません。父さんの夢、必ずかなえます...イ・ジョンミン患者、そろそろ戻りましょうか?
チョインが車いすの父の前に座り込み、ストッパーを外そうとすると、チョンミンが左手の人差し指を動かし、チョインに訴えかける。
−父さん、今指を動かしましたね?父さん!
急いで病室へ戻ったチョインは、父が徐々に回復していることが明らかであることに気付き、希望を抱く。
【救急医学科】
チョインが持ち場に戻ると、騒々しい雰囲気の中、患者の一人が暴れていると看護師から聞かされその場に向かう。チョインの前で暴れているのは、頭に怪我を負ったチェ・チスだった。チスを見た途端、心の奥にしまいこんでいた憎悪心が湧き出すチョイン。チョインに気付いたチスは、驚いて目を見開き、大勢の病院スタッフらが見ている中で、“オ・ガンホ!”と声を上げる。込み上げる怒りを抑えながら、冷静さを失わないチョインは、チスを相手にもせず淡々と薬物を投与し、検査を始める。CT検査の結果を見たチョインは、チスが重傷であることに気付くと、ベッドの上に横たわるチスの元へ向かう。
身動きの取れないチスの前に座るチョインは、チスを冷たい目で睨む。
−チェ・チス...こんなふうに会えるとはな...
−...オ・ガンホ...
−お前...30分以内に手術を受けないと...死ぬかもしれないぞ...。だから俺が、お前の頭を開いて、血腫除去の手術をするつもりだ...。だからと言って助けると言う話じゃないぞ。手術すると言っただけだ...期待してろ...
チョインの言葉に恐怖を感じたチスは、力を振り絞ってベッドから這い出し、その衝撃で点滴も一緒に倒れ、周囲が
チスに注目する。チスはオ・ガンホが自分を殺そうとしていると大声を張り上げ、病院内は再び騒然とした雰囲気になる。その様子を遠くでソヌが見守っていることに気付かないチョインは、冷淡に対応し、スタッフらに緊急手術に入る準備を始めさせる。NSを待たないのですかという声に、待っている時間はない、自分が直接手術すると宣言するチョインだが...
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