【チョイン 手術室へ】
厳しい表情で手術着を身につけ、手術に向かう準備をするチョインの脳裏に、中国での出来事が鮮明に蘇る。チスに殺されたカンチョルの悲痛な表情や、これまで自分やヨンジに対してチスがしてきたことを思い出し、悔しさを噛みしめながら凍りついたような表情で手術室へと向かうチョイン。そんなチョインの後ろ姿を追うように、ソヌがゆっくりと手術室へ向かう。
−患者が誰かなど関心もない...殺してお前が解離性遁走を装ったことを...証明しろ...
チョインが直接メスを握ることに驚いたチングンは、それほど急ぐ状態でもないだろうとチョインに進言するが、チョインはNSを待つ時間はないと冷淡に答え、チスの頭部を切開し、手術を始める。切開
してみるとCT撮影時よりも血腫が広がっていることが分かり、専門医が必要だと考えたチングンはチョインを制止するが、聞く耳を持たないチョインは淡々と手術をすすめる。チョインはチングンの心配をよそに、手術を無事に終えると、チングンから兄のソヌが手術の様子を終始見ていたことを知らされる。急いでソヌを追うチョイン。
−ソヌ兄さん!(ソヌに駆け寄るチョイン)手術を見に来たのなら、見に来たと声をかけてくれよ〜。兄さんが見てどうだった?僕の手術...最高だろう?
−その程度の手術はレジデント3年目になればできる手術だろう?
−そうかな?うん、そうかもな。(ソヌの肩に手を伸ばし)ああ、兄さん...この頃、清州に行ったことは?
−清州?なぜそんなことを?
−ああ、ある人が、清州で兄さんを見たって言ってたよ...清州行った?
−誰がそう言ったんだ?
−そうだな...僕が直接兄さんを見たのかな?
顔色を青くするソヌに、ふざけながら続けるチョイン。
−おい、何をそんなに驚いてるんだ?キム・ヒョンジュ科長と電話で話したんだよ。清州ポソン病院に行って挨拶したとか...僕、手術を終わらせてくるから...
すっとソヌに背を向け手術室へ戻るチョインを、緊迫した表情で睨むソヌ。ソヌが歩き出すと、チョインが固い表情で振り返り、清州での出来事を思い出す。清州で自分がイ・チョインであるという記憶の断片を取り戻し始めた夜、ベンチの隣に座り電話を手にした男性が、まさか兄ソヌだったのではないかという考えがしきりにチョインを苦しめていたのだ。
−何があっても、清州で終わらせなければなりません...
まさか、この世で最も信頼し、尊敬していた兄ソヌが...と、苦しむチョイン。チスが目を覚ましたとの知らせを受けたチョインは、冷たい表情のまま、注射器を握りしめてチスのいる回復室へと歩き始める。手に握った筋弛緩剤を注射器に注入し、ドアを開けるチョインは、チスのベッドわきの点滴に筋弛緩剤を注入しようと手を伸ばすが、人命を尊ぶチョインには、その薬物を注入することはできなかった。諦めてカーテンを開いたチョインは、ベッドにチスの姿が見当たらず、1枚のメモが残されていたことに衝撃を受ける。
−オ・ガンホ、いや、イ・チョイン。命を助けてくれた礼はオ・ヨンジに会って返すからな...
慌てて回復室から飛び出したチョインは、ヨンジに危険が及ぶことを恐れ、外に向かいながらヨンジの携帯電話を鳴らし続ける。車に乗り込み、エンジンをかけながら祈るチョイン。
−ヨンジさん...お願いだ、電話を取ってくれ!
車を走らせた瞬間、ヨンジの“もしもし...イ・チョイン先生...”という声が聞こえ、車を止めるチョイン。
−ヨンジさん...
−先生...
安心したように二度ため息をつくチョインは、もう一度ヨンジさん、と呼びかける。
−はい、先生、オ・ヨンジです!
安堵の微笑みを浮かべるチョインは、心を鎮め、いつもの調子を取り戻して語りかける。
−今何してるの?
−私は今仕事中です
−ああ、そうだった...夜食店をしてると言ってたね...そういえば、僕もお腹が空いているな...もしかして、ソウルまで配達できるかい?
−(笑いながら)ソウルまで配達したら、ガソリン代も上がりますよ...
−ヨンジさん...急ぎの用事があるんだけど、明日会えないかな?
−どんな用ですか?
−今手術に戻らなきゃならないから、長く話せないんだ。だから明日来てくれたら話すからね、分かった?明日会おう!
ひとまずヨンジの無事が確認できて安心したチョインだったが、姿を隠したチスがどこへ行ったのか、全く見当もつかない。病院に戻り、チスのCT画像を見ながらつぶやくチョイン。
−チェ・チス...お前がいくら優秀な特殊部隊出身者とはいえ、この状態では...清州どころか身の置き場もないだろう...どこへ行った...チェ・チス...
チスを保護していたのは、チョインの兄ソヌだった。利用できるものは全て利用するつもりのソヌは、チスからチョインがオ・ガンホとして生きていた頃の話を聞き出そうとしていた。チスの話から、ヨンジとチョインの関係を知ったソヌは、新たなカードを手に入れたことで冷たいほほ笑みを浮かべる。
【倫理委員会】
ポソン病院では、清州に左遷されていたキム・ヒョンジュを呼び戻すための倫理委員会が開かれていた。医薬品の不正利用が原因で左遷されたことを知ったチョインは、自分が中国で医療奉仕活動のために持ち出したものであり、ヒョンジュには全く落ち度はないと主張する。証明できるものはあるかという委員らに、チョインは自分が失踪中、福建省の土楼などを訪ねた兄イ・ソヌが証明してくれるだろうと堂々と答える。ソヌは一旦証明すると答えるが、持ち出した薬品の中には中国の医療活動には必要のない抗精神性医薬品が含まれていたこと、そしてその薬品を持ち出すための書類にサインしたのがキム・ヒョンジュであると主張する。ところがチョインはそのサインはヒョンジュ本人のものではないと切り返し、二つのサインを照らし合わせ、ヒョンジュの正当性を周囲に示す。他の誰かがヒョンジュのサインを真似た署名をして薬剤を受け取ったことに対し、厳しく追及しなければならないと言い、チョインはポソン病院内に新たな革命を起こす。
【副院長室】
ヒョンジュの件で再び病院内に闘争が起こることが予想される中、副院長は診療部長に責任を負わせ、病院から出て行くよう警告する。
【ヒョンジュを歓迎する医師ら】
誰よりもヒョンジュが戻ってきたことに喜びを感じていたチングンは、笑顔で何度もヒョンジュを抱きしめる。恥ずかしそうにチングンから離れたヒョンジュがチョインの姿を探すと、そこへチョインが姿を見せる。
−キム・ヒョンジュ科長!
−イ・チョイン先生..
−申し訳ありませんでした。僕のせいで、苦労したでしょう?申し訳なかった分、心より歓迎します。
笑顔でヒョンジュを抱きしめるチョイン。
−うん...ありがとう
二人を見ていたチングンが、“もうやめろ、離れろよ”とチョインをヒョンジュから離す。
−体の方はどうなの?
−体?僕の体がどうかしました?ああ..(頭を指差し)ここですか?どうしましょう?まだ何も思い出せないんです。
−そうなの?何も覚えていないの?
−必要なら、思い出すでしょう。(笑顔でポケットから名刺を取り出すと)ああ、科長、そろそろ名刺を変えなければね?
チョインから清州病院で手渡した名刺を受け取ったヒョンジュは、チョインがやはり解離性遁走ではないと察する。
【オ理事、診療部長と密談後】
診療部長に話を聞いたオ理事は、自分が窮地に立たされると予測し、慌てて病院内を歩いていると、チョインの足に躓いて転倒してしまう。笑顔を浮かべて理事に歩み寄るチョインは、“大丈夫ですか?オ理事。私の手を握ってください”と言い右手を差し出す。オ理事が掴んだ手を強く掴み返すチョイン。
−オ理事...オ理事が握ったこの手ですが...オ理事をこうして立たせることもできるし、床に座り込ませることもできますよね?いくら考えてみても、私の拉致事件は...オ理事が一人でやったとは、到底信じることはできないという話ですよ...。私を拉致して、殺そうとした奴は誰なのか、そして最終的にオ理事が共に教唆したのは誰なのか...それだけ教えてくれたら、オ理事をこうして立たせてあげますよ。考えてみて、連絡下さい。
オ理事の手をパッと離し、背を向け歩き出すチョインの後ろ姿を見ながら、ソヌを脅す考えが浮かぶオ理事は、すぐにソヌの部屋へと向かう。チョインの事件はソヌの母ナ・ヘジュが指示したも同然だと言い、ソヌに高額の報酬を要求するオ理事。ソヌはオ理事の存在が疎ましくなり、チェ・ボックンらにオ理事を始末してくれと指示を出す。
【ヨンジ ポソン病院へ】
ヨンジの姿を病院内で見かけたチョインは、ヨンジの名を呼びかける。
−早く!早く!
チョインが手招きする様子に、走り出すヨンジ。
−早く行こう、遅れてる!
あっけにとられたままのヨンジの手を取り、チョインは病院内の健康増進センターに向かう。センター長に挨拶するチョイン。
−名前はオ・ヨンジ、年齢...ヨンジさん年齢は?
−あ、26歳です...
−年齢は26歳で、ご覧の通り血色も良く、とっても丈夫です!日本語、中国語もできて、中国在住の韓国人の言葉も上手にできます!残りは直接面接すればいいと思います。以上です!
−イ・チョイン先生が話してくれたあのお嬢さんね...オ・ヨンジさん?
−(ヨンジの代わりにチョインが答える)ええ、そうです。センター長、よろしくお願いします
センター長に頭を下げながら、ヨンジにも挨拶を促すチョイン。何が起こったのか分からないままのヨンジを置いて、チョインは戻ってしまう。
−オ・ヨンジさん、それでは面接を始めましょうか?
−何の面接でしょう...
−今日は健康増進センターのコーディネーターを面接すると聞いていませんか?
促されるままセンター内に入るヨンジの様子を、ガラス越しに見つめていたチョインは、安堵の表情を浮かべてその場を後にする。
【ソヌ チェ・ボックンと密談】
ソヌはチェ・ボックンに会うと、オ理事の殺害を依頼し、その後チョインを、と指示を出すと、チェに高額の報酬を手渡す。
【チョイン、ヨンジとカフェへ】
並んでコーヒーを手に語り合う二人。
−面接はどうだった?
−もう...何がどうだった?ですか...突然来てと言って、くるなり引っ張っていかれてあれこれ聞かれて、どんな神経でどうだったなんて聞くんです?
−変だな...それでどうして合格したんだろう?
驚いてむせるヨンジ。
−え?合格した?
−合格だそうですよ。ヨンジさん、だからね、明日からうちの病院の健康増進センターに出勤だよ。
−え?明日ですか?そんなのだめですよ...夜食店も開けてあるのに、それに来週ガイドの仕事も入っているんです...
−ならどうしましょう?うちの病院はあまりにもキチッとしていて、合格したのに出勤しないと、損害賠償請求して永遠に病院出入り禁止にさせてしまうのに...
−ええ...どうしよう...(ハッとして怒った表情になるヨンジ)先生...私がどこかのバカだと思ってますか?大韓民国でそんな話があるとでも?北朝鮮でもそんなことはないのに...
−ハハハ...騙されないな...とにかく、ヨンジさんは帰れませんよ。
−どうしてですか?
−僕が、ヨンジさんを傍に置いておきたいからです...
驚いて言葉を失うヨンジに続けるチョイン。
−行こう。食事をおごってあげるから!
ヨンジの手を取り歩き出すチョインの前に、病院に戻ったソヌが姿を見せる。恥ずかしそうにチョインの手を離すと、ソヌに挨拶をするヨンジ。
−兄さん、ヨンジさん、健康増進センターの面接合格したんだ!
−そうか、それは良かった...(ヨンジを見て微笑みながら)オ・ヨンジさん、私が電話した時はびくともしなかったのに、チョインがどんなことを話して呼び出したのか気になるな...
−いえ、急用があったので...
−とにかく良かった。これからは家族のように仲良くしましょう。
−ほら!もうヨンジさんは身動きが取れないよ!だからこうなったことで、兄に月給でも上げてもらって...早く!
−では、またお目にかかりましょう...
ソヌがその場を離れると、困ったようにチョインを見るヨンジ。
−どうしてこんなことするんですか?困って死にそうですよ...
−え〜?嬉しくてたまらない顔してるくせに何だよ...ついておいで!
ヨンジの手を取って歩き出すチョインを、ソヌはしっかりとその目に焼き付け、チスを隠している病室へと向かう。チスからヨンジの兄オ・ガンチョルがチョインを助けた人物であると聞かされたソヌは、チョインがオ・ヨンジを守ろうとしていることからも、彼が解離性遁走を装っているとを確信する。
【チョイン、病院内の自分の部屋へ】
チョインの部屋に入ったヨンジは、驚いたように部屋を見回す。
−ここに...住んでいらっしゃるんですか?
−どうしたの?失望した?
−...いいえ...はい...先生のような方なら、はるかに広い素敵な部屋にお住まいだとばかり思っていました...
−病院の宿舎はこんなものですよ。救急コールが鳴ったらすぐ行かなければならないから、少し目が閉じられる場所であればいいんですよ。不便かな?
−いいえ...大丈夫です..
−不便でも何日かはここを使ってください。清州にある荷物はオフの日に一緒に取りに行こう、分かった?
ヨンジが“はい”と返事をすると、チョインは笑顔になり、ポケットからガムを取りだしてヨンジに差し出す。ガムを受け取り、これは何ですかと尋ねるヨンジ。
−ガムですよ。ガムの包み紙みたいに僕のそばにピタッとくっついていてくださいよ。
その夜、2段ベッドの上にヨンジ、下の段にチョインが横になると、チェ・ボックンのことが気になったままのヨンジが、思い切ってチョインに切り出す。
−先生...ひょっとして最近変な人たちが訪ねてきませんでしたか?
−変な人?誰です?
−清州空港での話ですが、中国で先生を拉致したかもしれないチェ・ボックン社長とそっくりな人を見たんです...ひょっとして先生をまた訪ねてきたらどうしようと...心配して...だから私がソウルに来たんです...
オ・ヨンジさん...ここは大韓民国で、しかもソウルですよ...人を拉致したら監獄行きですよ。心配しないで...
−本当に大丈夫ですか?
−こら〜、僕は仮にもポソン病院の二番目の息子ですよ。何かあるはずがないでしょう?心配しないで睡眠でも取ってください
−(下にいるチョインの顔を覗き込むヨンジ)本当に何事もないですね?
−あ〜、ヨンジさん...本当に疑い深いね〜、僕寝るところだけど?眠れないなら、下りてきてマッサージでもしてくれるとか?
−(慌てて)おやすみなさい!
チョインは心の中で、ヨンジを守りきれないかもしれない恐怖感に襲われながら、ヨンジの話しの中の“チェ・ボックン”という名をしっかりと頭の中に刻み込む。
【オ理事 チェ・ボックンに拉致される】
ソヌの指示でオ理事を連れ去ったチェ・ボックンだったが、目を離したすきにオ理事に逃げられてしまう。命からがら逃げ出したオ理事が真っ先に連絡を取ったのは、チョインだった。チョインは検査を受けるソヨンを見送った後、オ理事からの電話を受ける。妻と子供に対し殺人教唆をした父親にはなりたくないと言い、チョインを殺そうとしてのが誰なのかを話し、株も手放して妻と子供と発つと言うオ理事の言葉を聞いて、厳しい声で答えるチョイン。
−では私を殺せと指示した人物が誰なのか、先に話しなさい
−では私が中国でイ・チョイン先生を殺そうとした奴の名前と電話番号を教えたら、私を信じて約束を守ってくれますか?
−それは...中国の件だけ、殺人教唆したということですか?
−もちろんです...イ・チョイン先生を殺そうとした奴の名は、チェ・ボックン社長です...
【チョイン チェ・ボックンに接触】
オ理事との電話を終えたチョインは、自分の部屋に戻ると怒りに満ちた表情でチェ・ボックンと電話で話始める。自分を殺そうとした男の声が聞こえてくると、チョインは低く冷たい声で話始める。
−チェ・ボックンさん...
−どなたです?...どなたですかと聞いているじゃありませんか...
−中国から...チェ・ボックンさんを良く知る者です...
−ははは...そうですか?私とどんなお知り合いで?
−チェ・ボックンさん..中国でイ・チョインを殺そうとしただけでは足りずに、オ理事まで...殺そうとしたそうですね...
−お前は誰だ?
−誰か知りたいなら直接会いましょう...
チェ・ボックンと会う約束をしたチョインは、ソヌがチェから情報を得て、チェ・チスを現場に向かわせたことを知らないまま、たった一人で約束場所へと向かう。
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