【チョイン ソヨンと食事へ】
ソヨンから夕食の誘いを受けたチョインは、毎日自分の帰りを待つヨンジに、“夕食の約束があるから遅くなる”と誠実に連絡をし、ヨンジにどこかへ出かける時はかならず電話をしてと伝えると、ソヨンとの約束の場所に向かう。チョインのためにご飯の上に花を飾って準備していたヨンジが残念そうにしていると、そんなヨンジの前にソヌが現れる。
久しぶりにソヨンと向き合ったチョインは、食事の場を用意してくれてありがとうと伝えると、その言葉はソヌオッパに言ってくれというソヨンの言葉に表情を曇らせる。その場にヨンジを連れて現れたソヌを見て息が止まりそうになるほどショックを受けるチョイン。心を鎮めながら笑顔を浮かべソヌに語りかけるチョイン。
−兄さん、僕が無事に戻ったことを祝してパーティを準備してくれたんだって?...ありがたくて涙が出るね...
−(ヨンジを見るソヌ)オ・ヨンジさんが清州からソウルに来た記念も含めてだから、一人だけ祝うわけじゃない...
−今日はずいぶん祝う事が多い日なんだな...
−そうだ、そうなるな...祝う事がまだあるから...
冷たく重い空気が流れる中、食事を始めた4人だったが、重い雰囲気を破るようにソヨンがヨンジに語りかける。
−ヨンジさんはいつも明るくて、北朝鮮を脱出した人ではなくてソウルの人みたいね...チョインが失踪したとき、中国にある脱北者収容所に行ったんです...
チョインとソヌの表情が暗くなる。
−そこにいる人たちは、とても痛々しくて、弱々しく見えたのに...
−僕を探しに、脱北者収容所まで行ったの?
−うん...ソヌオッパと一緒に...
チョインがソヌをじっと睨みつける。
−そうか...それなら脱北者収容所全部回ってみたんだろうね...
−ううん...私が心臓が苦しくなって倒れてしまったから、後でソヌオッパが一人で探しに行ったのよ。結局見つけられなかったけれど...
−....ソヨンとソヌ兄さんと、脱北者収容所まで来たことなんて、知らなかったな...
じっとソヌの目を睨み続けるチョインに、ソヌがそこには俺の探す弟はいなかったと淡々と答え、脱北者の方と記憶喪失の患者だけだったとつぶやき、フッと笑う。雰囲気がおかしいことを察したソヨンがヨンジを気遣うと、ヨンジが話題を変えるように、他に祝うべきことはなんですか、とソヌに問いかける。
ソヌがソヨンの手を握りしめ、ソヨンと自分とが結婚することをチョインに話すと、驚いて顔色を青くするチョイン。
−だめだ、キム・ソヨン...この結婚、僕は反対だ。だめだ、キム・ソヨン!
−お前が何で、私たちの結婚に反対するんだ?錯覚しているようだが、俺は今お前に許しを得ようとしているわけじゃない...。イ・チョイン、ソヨンに対するお前の感情がどうあれ、兄さんが結婚すると言ったら、祝うべきじゃないか?
震えながらソヌを見据え、冷たく低い声で続けるチョイン。
−イ・ソヌさん、そうじゃないことは分かってるだろう...
反対する理由を言えとチョインを問い詰め、ソヨンの前では話せないことを知りながらチョインを追い詰めるソヌ。理由が言えないなら祝福しろというソヌ。
−...いや、笑わせるな...イ・ソヌさん、あなたの口から直接言わせて見せるからな...。そしてキム・ソヨン、良く聞け...他の人は知らないが、もうイ・ソヌはだめだ。絶対にだめだ...ヨンジさん、行こう
立ち上がり、ヨンジの手を取りレストランを出るチョインとヨンジの後ろ姿を見送りながら、ソヨンがソヌに抗議するが、どうしてもチョインには伝えたかったと
悲しそうに笑う姿に、それ以上何も言えなくなってしまう。
【車の中 チョインとヨンジ】
−ごめんね、ヨンジさん...
−私は大丈夫です...私の行く場所ではなかったようですね...申し訳ありませんでした
−そんなことないよ、ヨンジさん...ヨンジさんが傍にいてくれて、心強かったよ...。僕のせいで夕食も食べられず、本当にごめんね
−ごめんねとは言わないでください...先生が私に申し訳なく思うのが嫌ですから
ヨンジを見つめて手を握りしめ微笑むチョイン。
−ヨンジさん...この次は...今日の夕食よりはるかに美味しい食事をご馳走します...。ああ〜、今晩は何故こんなにもカムジャマッカリマンドゥククが恋しいんだろう?
−カムジャマッカリマンドゥククのことですか?それなら私がいくらでも...
ヨンジが何かを察したように黙りこみ、チョインの横顔を見つめる。
−先生...もしかして...
−早く帰ろう、お腹空いたな〜
【脳医学センター ケースカンファレンス】
翌日、病院内でポソン病院院長イ・ジョンミンのケースカンファレンスが開かれる。イ・ソヌの手術により植物状態になったこと、そして手術前後のCT写真の比較で腫瘍が術前より術後の方が大きくなっていることを指摘したチョインに対し、ソヌはCT画像では正確な腫瘍の大きさを確認はできず、唯一の方法は手術により開くことで、執刀医のみの知るところだと反論する。腫瘍の除去手術が確実だったのであれば、何故患者が今も植物状態なのかと追及するチョインに、ソヌは患者の状態を診ましょうといい、会議室に父イ・ジョンミンを連れてくる。チョインは一瞬目を疑ったが、車いすに乗せられた父の姿がそこにあった。騒然とするスタッフらの間を抜け、ソヌとチョインの元に連れてこられた父の姿に、チョインは怒りに満ちた表情でソヌに反論する。
−最小限の良心があるのなら...父さんを巻き込むべきじゃないだろう?
−先に挑発してきたのは...お前だ...
大勢のスタッフらが見守る中、ソヌは父に近づくと、チョンミンの意識回復とある程度の感覚機能の回復を周囲に示すかのように、聞こえたら指を動かしてくださいと話す。ソヌの言葉通りにチョンミンの指が動くのを見た医師らは、ソヌの手術は成功だったと口々にソヌを支持する。チョインは兄ソヌが父の運動機能回復に気付いていたことに愕然とするが、自分にも確認させてほしいと申し出た上、父に歩み寄る。父の前に座り、目線を合わせるチョイン。
−父さん...ここまで来させてしまって、申し訳ありません...私もこうなるとは思いませんでした...お父さん、どうしましょうか?ソヌ兄さんの話を認めて、退くべきですか?父さん、意識が回復されたのなら、私がどうするべきか、知らせてくださいませんか、父さん?
不安な表情のチョインをじっと見つめた後、目を閉じたチョンミンは、手をガタガタと震わせ始める。驚いて様子を見守るチョインとソヌの前に、一人の医師が近づきチョンミンの様子を真剣に診察する。単純けん痙攣だと分かった瞬間、ソヌの表情はみるみると青ざめていく。慌てて父にすがりつくソヌ。
−父さん...そうではなく、指をもう一度動かしてみて下さい...
チョインが見守る中、父は全くソヌの言葉に反応せず、その目線はチョインの方だけを見つめていた。父の目を見てうなずき、ソヌを見据えるチョイン。
−悲しいことですが、患者が運動能力を回復したのではなさそうですね、センター長!いえ、運動機能を回復したとしても、それは奇跡であり、手術成果ではないことを...ご存じでしょう?
立ちあがったチョインは、組織検査報告書を手に、手術で腫瘍以外の部分の脳組織が0.5cm以上も切除されたことを周囲に知らせ、さらにその事実を隠そうとしたことも指摘する。スタッフらがざわめく中、ソヌが執刀した他の手術の患者が味覚喪失したり、嗅覚を喪失したりした例をあげ、さらに味覚喪失した患者チェ・ユラに関しては、ポソン病院での受診履歴があり、ソヌと同じ飛行機に乗っていたことは仕組まれたことではないかとの疑問を提示する。
−チェ・ユラ患者、診断書です。6か月前に清州ポソン病院で脳腫瘍の診断を受け、さらにセンター長の手術を受ける一週間前、CTとMRIを再撮影、ポソン病院のお偉い方々の提案でイ・ソヌ先生の帰国する飛行機の同乗したということです。いつ救急の状態に陥るかもしれない脳腫瘍患者を飛行機に乗せ、患者の生命を担保に、脳医学センターを正当化し、広報に利用することが...センター長の方式で、脳医学センターの方式ということなんですか!
画面に映し出されたチェ・ユラ患者の診断書に代わり、ソヌが機内で執刀した処置の新聞記事が映し出され、スタッフらは騒然とし、ソヌの元で学んでいたレジデントたちの間に一気に不信感が広がる。
会議の後、副院長らと対策を練り終え、重い足取りで病院内を歩くソヌを、チョインが待ち構えていた。
−対策会議は終わりましたか?
−...イ・チョイン、これでお前が勝ったと思ったのなら、誤算だ...
−これで終わったと思うなら、誤算だ...
余裕に満ちた表情で、ソヌの肩をポンと叩き、チョインはその場を後にする。疲れ切ったソヌの元に、カン医師が訪ねてくる。カン医師はアメリカの病院から交換教授の件を見送ったとの連絡が入った事実を伝え、自分自身もソヌの脳医学センターの運営方式に異論を唱える。
【ヨンジを迎えに行くチョイン】
チョインは一緒に昼食を取ろうとヨンジを健康増進センターへ迎えに行く。ヨンジはチョインとソヌの間に何か起こっていることを噂で耳にし、心配していたため、外のベンチで食事を取りながらチョインに切り出す。
−あの、あのですね、先生...もしかして、この頃病院で何かありますか?
−(何も思い浮かばないといった表情で)病院で何かなければどうします?医者に飢え死にしろと?
−そんな話じゃありません...さっき健康増進センターで聞いたんです。イ・チョイン先生とイ・ソヌ先生と...
−...ヨンジさん
食べていたパンを置いて、ヨンジを見るチョイン。チョインは両手でパッとヨンジの耳をふさぐ。ビックリしてじっとしたままのヨンジに、僕の話が聞こえるかと問いかけるチョイン。
−ええ?良く聞こえません...
チョインは片方の手をふとヨンジの耳からはずす。
−病院で、どんな話が聞こえても...こうして耳をぴたっと閉じていて...そうしたら後で話してあげますよ、分かった?
パンがのどに詰まったふりをしたチョインは、ヨンジの飲みかけのジュースを手に取ると、“こっち側で飲んだの?”聞くとすぐに反対側にせずそのまま豪快にジュースを飲み始める。チョインの仕草を見て幸せそうにほほ笑むヨンジを、チョインがじっと見つめる。
−何をそんなに見てるんですか?
−そうだね、どうしてだろう?ヨンジさんの顔が思い出せなくて...また見ておこうと思ってね。愛する者同士は、会っても会っても、また会いたくなるものでしょう?...僕はヨンジさんを愛してるのかな?
−...驚かせないでください...
呼び出されて戻るチョインの後ろ姿を見つめながら、ヨンジはチョインの言葉に清州でのチョインとのやりとりを思い出し、もしかして、との思いが浮かぶ。
【ポソン病院 臨時理事会場】
理事陣10名が集まり、会議の開始を待つ中、診療部長が会議の開始を宣言すると、チョインが遮るように会議の主導権を握り、進行を始める。
チョインはイ・ジョンミン院長から贈与された土地に関する贈与契約書を提示し、自分が無事に生きて戻った以上、この土地に建設するのは脳医学センターではなく、無条件に救急医学センターであると宣言し、周囲が凍りつく中、会議を終結する。
【チョンミンの病室に向かうチョイン】
−父さん...分かります、父さんのお気に召さないことは...それでも、父さんの夢を叶えなくてはならないでしょう?それが運命だと仰ったでしょう?それでケースカンファレンスの時...私を助けて下さったのでしょう?そうでしょう?
チョインの問いかけに答えるように、父の指がイエスを示す動作をする。
−父さん...救急医学センター、必ず建てて見せます...私を信じてくださいますか?
再び父がイエスの意思を明らかにすると、父の指先にチョインが触れ、その手をしっかりと握りしめ、悲しそうに微笑む。
【健康増進センター】
ヨンジはセンター内でチョインとソヌの噂話をするスタッフらの様子に気付きながら、チョインに言われた通り必死で耳をふさぎながら仕事をするが、兄弟の不仲の原因がチョインの中国での失踪であることを知り、責任を感じて肩を落としていると、チョインからのメールが入る。
−ヨンジさん、僕、手術に入ります。12時には終わりますから、食堂で会いましょう。夜食を食べよう。
【病院内食堂】
チョインとの約束の時間、ヨンジが恐る恐る食堂に入ると、すでにチョインが食事の準備をする姿があった。
−何でこんなに遅くなったの?お腹が空いて死ぬかと思った!(ヨンジを手招きして)早くおいで!
ヨンジはある決意を胸に、チョインの準備した食卓の前に座ると、チョインがかしこまったようにヨンジに伝える。
−今日の夜食を、準備いたしました。ヨンジさんもお腹が空いたでしょう?
−いいえ...
−そうなの?じゃあ僕が全部食べようかな。
スープを皿に盛り付け始めるチョインを真剣に見つめるヨンジ。
−先生...今日は先生にお話があります...。先生が中国で拉致された時の話しですが、その時...私がチェ社長という人のことをお話したことがありましたよね?それが、実は、私はそのチェ社長にお金を受け取って、先生を監視して...
自分が作ったカムジャマッカリマンドゥを皿に盛り、ヨンジに“食べて”と差し出すチョイン。
−先生、先生がイ・ソヌ先生と争うのが、ひょとすると全部私のせいでは...
−ヨンジさん。僕は中国で拉致されたことで兄さんと争っているのではないんですよ。
−え?
−だから、どうでもいい話はやめて、早く食べよう...
スープを幸せそうに口に運ぶチョイン。
−これは...ヨンジさん、このカムジャマッカリマンドゥククがですね...なんとなく中毒性があるってこと、全くヨンジさんみたいだってこと知ってる?
ヨンジはこのチョインの一言にハッとした表情になり、驚きと期待の想いを抱きながらチョインをじっと見つめる。
−先生...もしかして、記憶が全て戻ったんですか?
微笑みながらヨンジを見つめるチョイン。
−...先生...それなら、中国も...カンチョル兄さんも、清州も...全部思い出したんですか?
−...はい...全部覚えていますよ...
−全部覚えていながら、誰が拉致したかも...それも知りながら、知らない振りをしたんですか?
静かにうつむくチョイン。
−(涙を浮かべて)...先生、私が悪かったんです...私の欲のせいで、先生をこんなことにしてしまいました、ごめんなさい...
震えて涙を流すヨンジの手を握りしめるチョイン。
−ヨンジさん...僕はヨンジさんのせいで兄さんと争うのではないといったでしょう?実は、気になることがあるんだ...。ヨンジさんがソウルに僕を訪ねてきて、また会えた時の話しだけれど、僕がオ・ガンホとして出会ったオ・ヨンジさんを好きなのか...でなければ、中国でイ・チョインとして出会った、ガイドのオ・ヨンジさんを好きなのか、それが...気になるんです...でも、もう関係なくなったよ。僕の目の前にいるオ・ヨンジさんは、いつも同じ人だから...いつも、ありがたくて、いつも愛らしくて...
−先生も、全部分かっているじゃありませんか...私はいい人じゃありません...
−そう?それなら...僕が好きになったことを取り消そうか?
−...それは嫌です...
チョインに見つめられ戸惑うヨンジの体を引き寄せ、チョインはヨンジに突然くちづけをする。驚いて身動きとれずにいるヨンジの手を握りしめたまま、チョインは“さぁ、食べよう”と声をかけ、二人はようやく互いの心をつなげ合いながら、温かいスープを口に運ぶ。
【ソヨン、チョインの元へ】
チョインは、父チョンミンが気持ちを表現できるよう、パソコンを用意し、ヨンジに介助を依頼する。チョインの父とは知らないまま、ヨンジは温かくチョインの父の手助けを始める。
一方、新聞の記事からソヌとチョインの間に起こっていることを知ったソヨンは、ソヌの病状をチョインに知らせようとチョインの元を訪ねるが、チョインはソヨンに気付かずにヨンジと共に持ち場を離れて行く。
チョインを連れ、チョンミンの病室へ急いだヨンジは、嬉しそうにチョンミンが初めて打った文字が何であったかを伝える。
−この先生は、先生のお父様でいらっしゃいますか?
−どうして分かったの?
−先生のお父様が、初めて書かれた文字です...
“イ・チョイン、私の息子”
父の意識回復をはっきりと感じたチョインは、ヨンジにお礼をしたいと話し、ソウルの夜景を見たいというヨンジと夕方6時にロビーで会おうと約束する。
その頃、チョインの宿舎に向かったソヨンが、手紙を置いて出ようとした瞬間、1枚のメモを目にして足を止め...
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