【ポソン病院 第5回 定期理事会】
チョイン率いる救急医学センター設立推進派とソヌの脳医学センター設立推進派との直接対決当日、これまで姿を隠していたオ理事が姿を見せ、副院長ヘジュとともに会議場へやってくる。少し遅れて姿を見せたチョインとソヌが、会議室前で対峙する。
−イ・チョイン、これが最後の機会だ。救急医学センターを諦めて静かに引き下がれば、誰も怪我することはない...
−誰の台詞だ?...お前の口から...理事会のスタッフに言えば、許すことはできなくても、情状酌量にしていやろう...
−今の言葉...理事会が終わる前に後悔するだろう...
ソヌはチョインに冷笑を浮かべながら警告するが、当然チョインはソヌの言葉を受け入れず、二人は厳しい表情のまま会議室に向かう。
会議が始まった途端、チョインの携帯電話にチェ・チスからのメールが届く。ガイドの仕事をするヨンジの姿が写る画像が添付されたメールを目にし、顔色が失せて行くチョイン。小声で“ヨンジさん”とつぶやくチョインの表情を見て、ソヌが再び冷笑を浮かべる。チョインの様子がおかしいことに気付いた周囲の理事らに対し、ソヌは、チョインに個人的な急用ができたようだと話すと、チョインは黙ったまま席を立ち、恐る恐るチスからの電話を受ける。
−オ・ガンホ!...久しぶりだな...
−...チェ・チス...
全ては兄ソヌが仕組んだことだと察したチョインは、ソヌを厳しい目で睨んだまま、チスと通話を続ける。
−何が望みだ?
−オ・ヨンジは俺が連れて行く。会って話そう
一方的に電話を切ったチスに、チョインが震えながらチスの名を呼び続けると、ソヌがチョインに近づいていく。周囲に悟られぬよう言葉を交わす二人。
−イ・ソヌ...まさか...違うだろう?
−俺が言っただろう?救急医学センターをあきらめれば、誰も怪我しないと...
−あきらめはしない...
−それなら、救急医学センターの代わりに、オ・ヨンジをあきらめると言う事か?
−いや、どちらも全部、絶対にあきらめはしない
チョインはどう動くべきか考えを巡らせながら一旦席につき、会議は再開される。だが、その会議場に突然警察がやってくると、チョインをチェ・ボックン殺害容疑で逮捕すると告げ、チョインの両手に手錠がはめられてしまう。ソヌが準備した罠に足を取られかけたチョインは、危険にさらされているヨンジのことを想い、胸が張り裂けそうになる。病院内が騒然とする中、チョインは警察に連行される。
−ちょっとまってください...トイレに行ってはいけませんか?こんな経験は初めてで...とても不安で...
チョインの言葉に頷いた警察らは、チョインを連れてトイレに向かう。個室に入ったチョインは、何としてでも抜けだしてヨンジの元へ向かうために、命懸けの危険な賭けをする。ボールペンの部品とガーゼを使い、自らの気管をふさいだチョインは、意識がもうろうとした状態で扉を開く。病院内の救命センターに運び込まれたチョインの元に、会議場でチングンから連絡を受けたヒョンジュが駆け付ける。
【救命センター】
ヒョンジュが駆けつけ、チョインの様子を診ようと手を伸ばすと、チョインが何かを訴えるようにヒョンジュの手を握りしめ、くしゃくしゃに丸めた紙を手渡す。事情をすぐに悟ったヒョンジュは、警察らを追い払い、カーテンを閉めると、トイレットペーパーに書かれたチョインのメモに急いで目を通す。
−科長...私は潔白です。それを証明するためにも、病院を抜け出さなければなりません...ヨンジさんが危険です!助けて下さい!
チングンもメモを読み事情を悟ると、二人はすぐにチョインが飲みこんだものを気管から取り出し、看護師に隠すように伝えると、警察に緊急手術をしなければならないためチョインの手錠を外してくれと訴える。
−それはちょっと困りますね...
−人を殺すつもりですか?あなたたちが容疑者移送中に見殺しにした、私が証言しますか?
チングンが“早くしてくださいよ、人が死ぬんだよ!”と急き立てると、警察はしぶしぶチョインの手にはめらた手錠を外す。急いで手術室にチョインを運んだヒョンジュとチングンに、“後でお話しします”と言い、チングンから手術着を受け取り、手術室を抜けだしたチョインはヒョンジュに何かを耳打ちすると、携帯電話を手に急いで病院を出る。
【理事会会議室】
会議室に戻ったヒョンジュに、ソヌはチョインの状態を尋ねる。ヒョンジュは手術室でチョインが助かったことを伝え、さらにオ理事と診療部長に“イ・チョイン先生が安否を伝えてくれと仰っていました”と話し、二人に釘を刺す。設立するのは脳医学センターか、救急医学センターか選択する投票が終了し、結果が発表される。
−脳医学センター4票、救急医学センター6票で、救急医学センター設立と決定しました。
脳医学センター設立擁護派だと信じていたオ理事と診療部長は、既に副院長とセンター長であるソヌのしてきたことに嫌気が差し、チョインの下につくことを決めていたのだ。全てのことが思惑通りに運ばないソヌの顔色はみるみる青ざめていき、終始無言のまま会議室を後にすると、膨れ上がる憎悪心を抑えきれず、チェ・チスに接触を試みる。
【チョイン ヨンジの元へ】
不安が押し寄せる中、車を走らせるチョインは、ヨンジの携帯電話を鳴らし続ける。
−お願いだ...お願いだから電話に出てくれ...お願いだ、ヨンジさん...
−...イ・チョイン先生
−ヨンジさん!今どこにいるの?今どこですか?
すでにチェ・チスに拉致されていたヨンジは、恐怖に震えながら涙を浮かべてチョインに返事をする。
−こ...ここですか?
−私が迎えに行きますから!
−.....先生、来てはいけません!
−え?何を言ってるんです?
チスに脅されながらも必死でチョインを守ろうとしたヨンジは、チョインに向かって叫ぶ。
−先生、来ないで!来ないでください!
チスはヨンジを殴って気絶させると、ヨンジの電話を手にする。様子がおかしいことに気付いたチョインがヨンジの名を呼び続ける。
−ヨンジさん?何があったの?ヨンジさん?ヨンジさん!
−オ・ガンホ...オ・ヨンジがお前を好きなんだな?
−チェ・チス...
−オ・ヨンジを助けたければ、今から言う場所に来い...一人で来るんだぞ、分かるな?
−そこはどこだ! どこなんだ!!...分かった...今から向かう...
【チョイン チスの指定した場所へ】
その夜、ヨンジが捕らわれている場所に着いたチョインは、携帯電話の録音機能をオンにすると、暗い部屋にゆっくりと足を踏み入れ、チスに呼びかける。突然背後から殴りかかられ倒れたチョインは、チスにチェ・ボックンを殺したのはお前かと問いかけ、チスが自分が喉を切って殺したと答えるのを全て録音しながらも、絶体絶命の危機に陥る。物音で意識を取り戻したヨンジが、チスがチョインの喉元に刃物を向ける姿を目の当たりにし、思わず“先生”と声を上げる。チスの一瞬の隙を見て反撃したチョインは、チスに拳を振りおろし、刃物を奪い取り、チスに向かいその手を振りかざす。
−先生!いけません!
−...ヨンジさん...見ないで...
−先生、だめです!
涙を浮かべてチョインを止めるヨンジだったが、チョインの怒りは頂点に達していた。
−ヨンジさん...関わらないでくれ...
チョインが刃物を振りおろそうとした瞬間、ヨンジが続けて叫ぶ。
−愛しています!...先生を愛しています...私が愛するイ・チョイン先生の姿を、もう忘れてしまったんですか?私が愛する人が傷ついてダメになる姿を...死んでも見たくはありません...
ヨンジの言葉に我に返ったチョインは、そのまま身動きが取れなくなってしまう。
−先生は、私に家族になろうと仰ったでしょう?私は二度と...愛する家族を失いたくないんです...
ヨンジの言葉に涙を滲ませながら体の力が徐々に抜けて行くチョイン。その場に踏み込んできた警察により、チスは連行され、チョインにかけられたチェ・ボックン殺害容疑も晴れることになる。
憔悴しきったチョインに近づき、その胸に顔を寄せるヨンジ。
−ヨンジさん...僕はまだやることが残っているんだ...少しだけ待っていてくれる?
涙を流し、不安な面持ちでチョインを見つめるヨンジ。
−先に帰って待っていてくれ...僕を信じてくれる?
−はい...先生を信じています...
チョインはヨンジの無事を確かめるように、彼女を強く抱きしめる。しっかりとつないだ手を離し、先に宿舎へ戻るヨンジを見送ると、チョインは携帯電話を取り出し、兄ソヌへと連絡を取る。ソヌはチスと連絡が取れず、苛立ちながら車を走らせていた。ソヌはチョインからの着信に気付くと、恐る恐る電話を受け、チョインの待つ場所へと向かう。暗い部屋でソヌを待っていたチョインは、ソヌが入ってきたことに気付がつきながら、チョインは小さな明かりを灯したり、消したりを繰り返し、ソヌに背を向けたままソファーに腰掛けていた。ソヌが部屋の灯りをつけようとスイッチに近づく。
−灯りをつけるな、イ・ソヌ...。お前の顔を見たら、殺してしまいたくなるから...
無言のままチョインの近くのソファーに腰掛けるソヌ。
−何故僕を殺そうとした?...いつからだった?幼いころからじゃないだろうな...。保育器で、僕の手を初めて握ってくれたのは...イ・ソヌだったから...
−そう、そうだった...あの時はまだ弱々しくて、可哀想な子供に過ぎなかったから...
−そうだな...それならいつからだろうか?アメリカから戻った時でもないだろうな...。あの時のイ・ソヌの顔は僕が以前から知る顔だったから。そうだろ?
−ああ、そうだ。その時までは、純粋で優しい弟だったからな...
−それなら、僕を殺そうとした理由が、たかが...脳医学センターのためだったのか?
−今"たかが"と言ったか?父さんの愛情を独り占めしたお前にとっては"たかが"かもしれないが、俺にとっては違う...イ・チョイン、俺は父
さんに認められたくて、俺が愛した女性の心臓を治してやりたくて
専攻した胸部外科をあきらめて、神経外科を選択した...父の後を継ぎ、神経外科で最も認められる医師になりたくて、毎日17時間休むことなく手術室にこもった...。だが、父
さんは俺を認めてくれただろうか?...俺には何の機会さえも与えてはくれなかった...
−それが...僕を殺す理由になるのか?だからと言って...(ゆっくり立ち上がりソヌの方に振り向く)どうして...兄が弟を殺すんだ!!
−アメリカから戻ったら、生まれて初めて父さんに認められ、脳医学センターを設立しようと思っていた。だが俺を待っていたのは、お前の名前となった、センター設立地譲渡契約書だけで!...父
さんは、実の息子俺ではなく!イ・チョイン、お前を選んだと...。そして、ソヨンも奪いたかった...初めから俺の女だったソヨンを、また取り戻したかった...。イ・チョイン、お前に分かるか?俺がいくら努力しても手に入れられないものを...お前はたやすく手に入れた...
二人の目から、涙が溢れ出す。
−だから...父さんとソヨンを僕から引き離すために、オ理事と、母さんと共謀して、僕を中国へ送ったのか?
−母さんは違う!
−ごまかすなイ・ソヌ!...お前がかばっても、僕の両親を殺し、倒れた父さんを放置したお前の母親が!罪を逃れられると思うのか?...覚えているか?幼い頃、僕が毎日笑いながらついて
歩くたび、何がそんなに楽しいのかって、母さんに叱られただろう?僕はその時、何も楽しくなんてなかった...。僕がこうして笑えば、母さんが一度でも
、僕を見てくれて...笑顔で温かく抱きしめてもらえるかと思ったんだ。それなのに、ただの一度も抱きしめてもらえなかった。それどころか母さんとさえ呼べなかった。母の胸に...一度も抱きしめられなかった僕も...僕も生きてい
た...僕も生きていたんだ!!母さんがそうだったとしても、イ・ソヌ、お前は..僕を捨てたらだめだった...お前は僕が...この世で一番、最も愛していた兄だったから...僕の偶像だったから!神のような存在だったから!!
チョインの言葉に胸が痛み、涙を流すソヌだったが、何ひとつ言葉を返すことができない。そんなソヌの元へチョインが近づき跪くと、その手を握りしめて泣きながらソヌへ訴える。
−イ・ソヌ...いや、ソヌ兄さん...ただ、すまないと、悪かったと、その一言だけ言ってくれ...そしたら全部元に戻せる...僕は、イ・ソヌの弟で...イ・ジョンミンの息子で、ナ・ヘジュの息子でありたいんだ...。ソヌ兄さん、ただ...“チョイン、俺の弟、すまない”その一言だけ言ってくれ...その一言だけ...頼む!!
子供のように泣きじゃくり、兄の手を握りしめたままだったチョインの顔を一度も直視することが出来ないソヌは、無表情のまま冷たく答える。
−いや、言えないな...俺の弟イ・チョインは、すでに中国で死んだからだ...
絶望したチョインは、喪失感に打ちのめされながら、最後につぶやく。
−それなら...僕も、兄さんを...消さなきゃならないな...
チョインは握っていた兄ソヌの手を離し、呆然と部屋を出て行く。ソヌはそんなチョインの足音に耳をじっと傾けていた。
−イ・チョイン、それで許されるのなら、100回でも、いや千回でも言える...。だがそれには、遅すぎる...すまない俺の弟...本当にすまない...
ソヌを部屋に残し一人外に出たチョインは、兄のいる部屋を悲痛な表情で見つめ、兄ソヌと決定的な別れの時を迎えたことを改めて感じ、重い足取りでその場を後にする。ソヌはしばらくの間動けずにいたが、ソヨンに最後のつもりで電話をすると、通話中に意識を失い倒れてしまう。
【チョインの宿舎】
疲れ切ったチョインはヨンジの待つ宿舎へと戻り、ヨンジを顔を見るとすぐに彼女を抱きしめる。
−先生、大丈夫ですか?
−...ヨンジさん...もう全て終わりました...全て終わったのに...終わったら、幸せになると思ったのに、どうしてこんなに苦しんだろう?
−先生、どんなふうに終わったのかはわかりませんが...先生がつらければ、その方もつらいでしょう...でも、つらかったことは早く忘れて...以前の先生に戻ってくれたらと思います...
ヨンジは両手でチョインの手を包み込む。
−私は、オ・ガンホだった先生も好きですが、中国でお会いしたイ・チョイン先生の方がずっと好きですよ。
ヨンジの言葉に頷くチョイン。
−そうします、ヨンジさん...その時のイ・チョインに、戻るから...
−ええ、そうしてくださいね、絶対ですよ...
ヨンジの顔を見て少し安心したチョインは、救急センターからの呼び出しで急患の診察に向かい、その場で信じられない光景を目にすることになる。
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