チョインが失踪したことを知ったソヨンは、ソヌとともに中国へ向かい、外交部職員からチョインのパスポートとカバンを手渡される。恐る恐る
チョインのカメラの電源を入れたソヨンは、カメラに残された女性の写真と、チョインの笑顔の写真を見て、言葉を失う。チョインが宿泊したホテルを尋ねたソヨンとソヌは、彼の滞在した部屋に残されたままの書類やパソコンを見て、事態が深刻であることを悟る。ソヨン
がチョインの残したパソコンの電源を入れると、そこに学生時代の自分とチョインとソヌが映った写真が映し出される。チョインが失踪してしまった事実を受け止めるしかないソヨンが涙を流すのを、ソヌは
ただなすすべもなく見守るしかなかった。チョインの足跡をたどるようにソヨンは福建省などに向かうが、一向に彼の消息はつかめなかった。
2ヵ月後、ソヌはポソン病院の脳医学センター設立パーティで脚光を浴びながらも、どこか晴れない表情を浮かべていた。ソヌは父の手術中から異変を感じていた自分の手に感じる違和感を、この場で改めて実感することになる。ソヌは7年前の病歴が頭に浮かび、別の病院へ向かいMRI検査を受ける。
一方、中国労働者の宿舎の前で商売をしていたヨンジの前に、兄カンチョルを探しに来た北の人物らが現れる。一瞬の隙を見て逃げ出したヨンジは、必死に追手から逃げ切るが、また居場所を移さなければならない事実に茫然とする。
その頃、記憶を失ったチョインは、自分がどこの誰かも分からないまま、北朝鮮から脱出し国境地域に身を隠していた警報隊員オ・ガンチョルらとともに砂漠の中での銃撃戦に身を投じていた。チョインの目の前で重傷を負った北の兵士が“助けてくれ”と命からがら声を上げると、チョインは銃弾も恐れずに敵である兵士に駆け寄り、無我夢中で命を救おうと心臓マッサージを始める。チョインの行動を不審に思った隊員チェ・チスがチョインに“お前は何者だ”と銃口を向ける。
−覚えていない...何も覚えていない...俺の名前も、俺がどんな奴なのかも思い出せないのに、何をどうしろと...
立ち上がり、チスの銃口を自分の胸にあてるチョイン。
−撃ってください...頭を撃って胸を撃ち抜いて、記憶を取り出してくださいよ...頼むから、死んだとしても思いだせるよう...いっそのこと俺を撃ってくれ!!撃ってくれ!撃て!殺せ!
チョインの叫びにひるんだチスが引き金を引くことができずにいると、そこへ隊員の一人キソクが腹部に銃弾を受け、血を流して戻ってくる。
その頃、中国でソヌを探し続けているソヨンの元をソヌが再び訪ねていく。ソヨンがチョインとヨンジの写真を手に消息を探す姿を黙って見守るソヌは、体に異変を感じながらもソヨンの後に付いて歩く。ソヨンが振り返ると、ソヌは自由の利かなくなった手をすっと後ろへ隠し、平静を装う。
−チョインが、あの女性と逃げたわけじゃないわよね?私が嫌になって...せいぜい10年くらいしか持たない心臓のある私に、うんざりして...挨拶もなしに逃げたわけじゃないわよね?
−チョインがそんな奴じゃないこと、お前も良く分かってるだろう?
−それなら7年前のあのとき、どうして連絡もしなかったの!ひょとして他に女ができたの?それとも私にうんざりしたの?
かつてソヌとの連絡が途絶えた時の不安も打ち明けるソヨンの前で、ソヌは必死に体調の急変を隠し、ソヨンを優しい瞳で見つめ続ける。何も答えないソヌに背を向けソヨンが先に歩き出すと、ソヌは突然その場で体の自由を失い倒れてしまう。
一方、カンチョルが運転する車では、銃撃戦で怪我を負った隊員キソクの出血が止まらず、チョインがキソクを必死で介抱する。薬を探しに病院へ忍び込もうとするカンチョルに、負傷した隊員の命を軽視し、もう手遅れだと主張するチス。追われる身でありながらさらに危険を
冒す必要はないと続けるチスに腹を立てたカンチョルは突然車を止める。
−チェ・チス、お前が祖国を捨てた理由は、金だったのか?金のためだけだったのか!
−そうです。私は金が全てです!金さえあれば、北にいる私の家族らを連れてこられるではありませんか。
死にゆく同志まで見殺しにするのかと続けるカンチョルに、仕方がないことだと淡々と答えるチス。するとチスの頭部に、カンチョルによって銃口が向けられる。この部隊の隊長はこのオ・ガンチョルで、命令も私が下す、もう一度逆らえばキソクよりお前を先に殺すと警告する。カンチョルらはキソクを安全な場所に移すと、薬を取ってくると言い、チスを残してその場を後にする。朦朧としながらキソクが立ち上がるチョインの手を握りしめる。
−死ぬのは嫌だよ...金を稼いで母さんのところへ行かなきゃ...
キソクの命を救うために、チスを残し、3人は夜間の病院へ忍び込む。病院内で薬を保管する場所を真っ先に見つけたチョインは、黙々と治療に必要な薬と道具、そして輸血用の血液をかばんに詰め込む。警報器が作動し、警備員が到着するが、3人は病院から無事に脱出し、隊員の元へと急ぐ。その頃、怪我を負ったキソクの命を奪おうと、チスがキソクの首に手を伸ばす。
一方、意識を取り戻し、ホテルに帰りついたソヌがソヨンの部屋を訪ねると、そこにはソヨンの姿が見当たらず、ソヌの胸に不安がよぎる。電話で連絡のついたソヨンの元へ急ぐソヌは、雨の中、路地で訪ね人の張り紙が濡れないよう、必死でチョインの写真を守るソヨンの姿を見つけ、胸が痛む。ソヌの制止も聞かずにビニールで張り紙を守るソヨンに、ソヌが言い聞かせる。
−自分の体を心配しろ。チョインを探しだす前にお前が倒れるつもりなのか?そうなのか?一体いつから薬を飲んでいないんだ?いつまでこうしてる?もうやめろ!
−どうしてそんなことができるの?チョインは私に全てをくれたのに...私はほんの始まりなのに...やっと愛してると言えたのに...私がどうしてあきらめられるの?(左胸に手をあて)この心臓...チョインが助けてくれたのよ...チョインが救ってくれたも同然なのに...どうしてあきらめられるのよ!戻って、私1人で続けるから、オッパは先に戻ってください...
泣きながらソヌに背を向けるソヨンは、突然ソヌの目の前で意識を失い倒れてしまう。必死でソヨンの心臓マッサージをするソヌは、雨の中大声で助けを求める。
一方、薬や医療器具を持って戻ったチョインらは、キソクの意識がないことで茫然とするが、チョインが咄嗟にキソクに駆け寄り、心臓に胸を当てると、まだ心臓が動いていることに気がつく。
−除細動器を...
咄嗟につぶやいたチョインに、カンチョルがここにそんなものがあるはずも無いと答えると、チョインは電気コードを利用して、除細動器の代わりになる道具を作り始める。その手際の良さを驚いたように見つめるカンチョルらの前で、自分が感電することも恐れず、“皆さんは下がって”と言い、医療処置を続けるチョイン。
同じ頃、中国の病院へ運び込まれたソヨンは、ソヌの治療により、一命を取り留めていた。病室で眠るソヨンを見つめるソヌ。
−キム・ソヨン、7年前、俺が連絡できなかったっときも、こんなふうに俺も探してくれただろうか?
その頃、手術の準備を整えたチョインは、着々と手術を進め、キソクの腹部にあった銃弾を取り出し、すばやく傷口を縫い合わせると、安心したようにその場を離れる。状況を見守っていたカンチョルがつぶやく。
−私たちが無意識に人を殺すことがあるように、彼は無意識のうちに、キソクを助けてくれたようだな...。もしかすると南朝鮮で、とても優秀な医師だったかもしれないな。
暗い倉庫の中、降りしきる雨の音がやまない中、疲れ切ったチョインが呆然と座りこんでいると、そんなチョインにカンチョルが近づく。
カンチョルが来たことに気がついたチョインは疑問に思っていたことをカンチョルに尋ねる。
−どうして私を助けたんです?ただ見なかったことにして...捨てていくこともできたのに...。
−俺ではなく、お前の手がお前を救ったんだ。こうして、キソクを救ったように...。
立ち上がり、降り続ける雨に目線を移すチョインは、カンチョルに問いかける。
−...私は何者でしょう...
−すでに言葉の扉が開きかけている...記憶の扉も開くだろう。どちらにせよお前の手が、その記憶を探し出すかもしれないな。
目線を合わせる二人。
−御苦労だった...ありがとう。
自分の両手をじっと見つめるチョイン
は、記憶を取り戻すことができるだろうというカンチョルの言葉にかすかな希望を感じるが、それ以上に大きな不安が彼の心を重くする。
カンチョルの言葉をかみしめながら、雨に手を伸ばすチョイン。
−本当に、そんなことができるだろうか?
一方、ポソン病院では、全ての権利を握ったつもりでいたヘジュの前に、倒れる前にチョンミンが依頼していた弁護士が現れる。
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