【ハナ院〜ヨンジの家】
チェ・チスに筋弛緩剤を打たれた上に暴行を受けたチョインは、残る力を振り絞り、センター内で拮抗剤を探し出し自ら注射すると、命の危険が迫るヨンジの元へと急ぐ。チェ・チスはすでにヨンジの家に潜入していた。その頃、ヨンジはチョインの兄ソヌが、チョインを拉致した人物チェと共に行動していたのを目撃し、恐怖で震えながらタクシーに乗り込み家へと急いでいた。
チョインはチスがすでにヨンジの部屋にいることを察し、その手に凶器となる木の棒を持ち、静かにヨンジの部屋のドアを開け、チスの背後に迫る。鏡に映ったチョインの姿にチェ・チスが気づいた瞬間、チョインが持っていた棒でチスを殴る。
−言っただろ?お前は俺の手で殺すと...
抵抗すらできないチスに、凶器を振り上げるチョイン。
−やめてください!
部屋に戻ったヨンジが、見たこともないチョインの姿に衝撃を受けて叫ぶ。ところがカンチョルを殺されたときの記憶が鮮明に蘇るチョインが再びその手を振り上げると、ヨンジはチョインに駆け寄り凶器を持つ手を握りしめる。
−お願いやめてください!どうしたんですか?どうしてこんなことを?
ヨンジの手を振りほどき、チスを睨みつけるチョイン。しかしヨンジはチョインの前に両手を広げて立ち、説得を続けようとする。
−やめましょう...どうしてそんな怖いことするんですか?一体、この人がどんな悪いことをしたんです...
ヨンジがチスに目線を移し、早く出て行って下さいと言い、チスを逃がそうとすると、チョインが目に涙を浮かべて話し始める。
−こいつが誰だか分かりますか...ヨンジさんの兄さん、カンチョル兄さんを殺した奴なんですよ!
ヨンジがショックのあまり言葉を失っていると、チスがゆっくりと立ち上がる。チスに向かっていくチョインを咄嗟に抱きしめるヨンジ。
−先生...それでもやめてください...いくら兄さんを殺した人だからって、いけません...
チスが部屋から飛び出していくと、ヨンジが涙を流しながらチョインに話し続ける。
−先生...人を殺すような人だったんですか?カンチョル兄さん、このために先生を救ったんじゃありません...先生を殺人者にしようと救ったんじゃありません...
−ヨンジさん...
−分かります、先生の気持ち、私も良く分かります...私も憎いです...でも、先生まで殺人者になってしまったら...私には誰もいなくなってしまいます...この広い南朝鮮に、私のことを知っていて、私のことを想ってくれる人が誰もいないということなんです...ですから先生、私を少しだけ可哀想だと思うなら、お願いです、お願い、やめてください...
ヨンジの言葉に、チョインは振り上げていた右手を下ろし、怒りを手放すように凶器をその手から放すと、涙を流すヨンジを見つめる。
−ありがとうございます、ありがとうございます、先生...
【ソヌ、チョインを拉致したチェと密談】
ソヌはチョインがオ・ガンホとして韓国に入国した情報を掴み、チョインを拉致したであろうチェ・ボックンという男と連絡を取ると、あえてチョインがオ・ガンホとして生存している事実を伝えてしまう。兄として弟を心配するように装いながら、チョインの消息を調べてほしいとチェに伝えるソヌ。チェらは、ソヌの態度に不信感を抱くも、チョインを“金の塊”と呼び、自らの利益のためだけにソヌとチョインを利用しようと考え、オ・ガンホの消息を探し始める。
【ヨンジの家】
心を落ち着かせたチョインは、カンチョルの言葉を思い出しながらカンチョルの遺影を見つめていた。自分の右手に目線を移し、ヨンジにありがとう、と声をかけるチョイン。不思議そうな表情で何がですか、と答えるヨンジ。
−(右手をじっと見ながら)この手を守ってくださって...砂漠で銃に撃たれた同僚を、無意識の内に助けたことがあります。その時カンチョル兄さんが言いました。もしかしたら、私が医師だったかもしれないと...この手が私の記憶を探すことになるかも知れないと...この手を、掴んでくださってありがとうございます...
チョインを見つめながら、ヨンジはチョインが自分をかつて救ってくれたことを思い出し、胸を痛めていた。
−ヨンジさん、私たちここを離れましょう。
−何の話ですか?引っ越すと言うことですか?
−はい...チェ・チスは必ずまた来ます...その時はただ見逃すことはできません。ヨンジさんとの約束、守りたい...
−ちょうど良かった。私も先生がまたそんな奴と関わり合うのが嫌でしたから。でも、どこへ行きますか?
−ヨンジさんが望むところなら、どこでもかまいません。どこでもいいです。
−本当に、かまいませんか?
−はい。
−少し遠くてもいいですか?ソウルでなくてもかまいませんか?
笑顔で頷くチョイン。
【バスターミナル】
二人が清州へ転居するその日、バスターミナルでチケットを受け取ったヨンジの携帯電話が鳴る。イ・ソヌからの電話だった。ヨンジはチョインから距離を取ってソヌの電話に応対する。
−病院でお会いしましょうと申し上げたのに、まだおいでにならないのですか?
−それが、急用ができて行けませんでした...
−お忙しいなら私が訪ねて行きましょうか?今どちらです?
−イ・ソヌ先生、あの時私は先生にお会いして、私が知っていることを十分に申し上げました。私も生活していかなければなりませんので、忙しいんです。ですから私にもう電話下さることがないようお願いします。
何もなかったようにヨンジはチョインに声をかけ、二人はバスの乗車口へと向かう。
【清州行きのバス】
バスに乗り込む直前、ヨンジがチョインに語りかける。
−先生、このバスに乗れば、長くかかるかも知れません...先生が記憶を取り戻すのに、しばらくかかるかも知れないということです...それでも、かまいませんか?
−ええ、大丈夫です
−そんなに簡単に答えないで下さい...もしかすると、先生が探したい、愛する人も、先生を待っている人も、すごく長い間、会えないかもしれないんですよ...このバスに乗ったこと、永遠に後悔するかもしれません...
−後悔しません、ヨンジさん...絶対に、後悔しません
−それならいいです...遅れます、早く乗りましょう。
迷いを振り切り、チョインはヨンジと共にバスに乗り込む。チョインの隣で安心したように眠るヨンジの表情を見つめながら、チョインは葛藤していた。
−今進むこの道は、僕の記憶から遠ざかる道かもしれない...僕を殺そうとした人が誰なのか、そして...僕が愛する人を、長い間探すことができないかもしれない...それでも知りたい...こ
うして捨てられなければならなかった理由も...そして取り戻したい..失った記憶の中の僕は、誰なのか...ただ、僕が記憶を取り戻した時、僕の隣で眠るこの女性を、守ることができなくなるかもしれないということが...恐ろしい...
【1ヵ月後 清州】
新しい街で生活を始めた二人は、昼夜通して働きながらつつましい暮らしを送っていた。チョインは釣った魚を卸す仕事や清掃の仕事をし、ヨンジは日本人観光客向けの観光ガイドしながら、夜は夜食専門の配達を続け、温かく支え合いながら日々を過ごす。ある日、仕事の合間に昼食を食べながら、チョインが有名な作曲家について次々と語る様子に驚いたヨンジは、もしかして記憶が戻ってきたのではとチョインに尋ねる。
−記憶が戻った?...違うみたいですよ?
微笑んで食事を続けるチョインとは裏腹に、ヨンジの心は不安に包まれていく。そんなヨンジの気持ちを察したチョインは、仕事を終えるとヨンジを笑顔で迎えに行く。
【病院 精神科】
ヨンジの心情も理解しながらも、チョインは失くした記憶を求めるため、夜間病院に通い、治療と努力を続けていた。催眠療法で記憶の断片が戻り、恐怖におびえて叫ぶチョインだったが、何一つ確信できることが浮かんでこない。暗い表情のチョインに、医師は、銃に撃たれたその瞬間を超えられず、ぐるぐると回っていること、そして犯人に対する恐怖がとても強いようだと話す。失望するチョインに、医師は3回目の治療をししてみれば、近い将来記憶を取り戻せるはずだと勇気づける。頭痛のための投薬について話し終えたチョインの元に、ヨンジからの電話が入る。店が忙しく、怒ったようにチョインにどこにいるのかと聞くヨンジに、チョインは明るい声で返事をし、病院にいたことを悟られないように振る舞う。
ヨンジの待つ店へと戻ったチョインは、ヨンジの手を休ませ、自分が皿洗いを始める。チョインの背中を見つめて幸せそうにほほ笑むヨンジ。
−オ・ガンホ同志!
−はい、奥さま!
−オ・ガンホ同志は、こんな暮らしでいいんですか?明け方には網をかけ、魚を売って、朝から夕方までは力仕事、また夕方から明け方の2時まで夜食配達...こんな暮らし、楽しくないでしょう?
−いいえ、楽しいです!(手を休め、ヨンジの方へ振り向き微笑む)ヨンジさん、私はこんな暮らしが合うみたいです、とっても楽しい!(微笑み、また皿洗いに戻る)
−それなら先生はずっとずっとこのまま暮らしてもいいんですか?記憶を探さないの?
−いつか見つかるでしょう...
−その時は...私のことなんてすっかり全部忘れちゃうんですね...
振り返るチョインは無表情のままヨンジを見つめる。
−どうしたんですか?
−ヨンジさんの顔が思い出せなくて...また見つめようかと。愛する者同士って、見つめても、見つめても、また会いたくなるでしょう?僕は、ヨンジさんを、愛してるのかな?
−ふ、ふざけないでください、愛って何の愛ですか?
−そうかな...心配しないで、絶対に、忘れないから。
ヨンジに笑顔で答えたチョインが再び皿洗いに戻ると、ヨンジは言葉に出せない想いがこみ上げてくる。
−ええ...忘れないでくださいね...私は先生がこのまま記憶を取り戻さなければいいのに、と思います...私なんて愛さなくてもいいから、先生のそばで、こんなふうにずっと暮らせたら嬉しいです...
【銀行ATM〜街を歩くヨンジとチョイン】
預金の確認を終えたヨンジがチョインの元へにこやかに歩み寄る。
−先生!私たちの敷金にいれたお金300万ウォンを除いて、150万ウォンも稼ぎましたよ!
−それなら僕ら、お金持ち?
−まだ足りません。両親を連れてくるには少なくとも2,000万ウォンが必要です
−それほど多く?
−私は密航船に乗ってきましたが、両親は飛行機で迎えたいですから。そうじゃありませんか?オ・ガンホ同志、今日食べたい物があれば全部あげてみてください!私がごちそうしますよ。
−本当に?
−2,000ウォン以内でね〜!
嬉しそうにパンを頬張りながら街を歩くヨンジとチョインの目の前に、男性が一人倒れて意識を失って倒れていた。すると、チョインが突然何かに引かれるように男性に駆け寄り、心臓マッサージを始める。救命措置をしながら、チョインは激しい頭痛に襲われ、記憶の断片が脳裏に浮かぶが、男性の命を救うためにマッサージを必死で続ける。チョインの様子を見守っていたヨンジは、チョインが自分から離れてしまうことを恐れ、不安な気持ちのまま一人家に戻ってしまう。
【ソウル ソヌとソヨン】
ソヨンの心に一歩ずつ近づき始めていたソヌは、ソヨンの元を訪ねた日の帰り、ソヨンの目の前で体の自由を失い、倒れてしまう。ソヌを乗せた救急車の中で、ソヨンはソヌの抱えてきた苦しみを改めて知ることになる。
【チョイン ヨンジとの家に戻る】
−ヨンジさん、もう寝ましたか?(ヨンジの部屋の扉を開くチョイン)さっき、どうして先に帰ったんですか?僕が、ああするのが嫌でしょう?
−誰が病気の人を助けろと言ったんですか?韓国という国がどんな国か分かりますか?人を助けようとしてもし間違えば、全部オ・ガンホ先生の責任になるんですよ。そうなれば警察署に連れていかれて、問題が複雑になるかもしれないんです。
−...ごめんなさい...
−正直に言うと、私、先生がこれからそんなふうにしないといいと思います...
−はい、これからは気をつけます...おやすみ、ヨンジさん...
チョインが扉を閉めて部屋へ戻ると、ヨンジは罪悪感にさいなまれる。
−申し訳ないのは私なのに、どうして謝るんです?悪いのは私なのに...
部屋に戻ったチョインは、疲れた様子で溜息をつき、座り込むと、ポケットから"1980年全国胸部外科病院名簿"と書かれたリストを取り出し、じっと見つめる。その瞬間、いつもの頭痛がチョイン襲い、その痛みに顔をしかめながら頭痛薬を取り出し、口に含むと、チョインの脳裏に医師からの言葉がふと浮かぶ。
−頭痛のたびに記憶が戻ろうとすることから逃げるのはやめてください。痛みを伴っても、思い出したことを全てメモしてみてください。人の名前だろうが、数字だろうが...数日中に何か集中的に蘇るかもしれません。
痛みをこらえながらメモを取り始めるチョインは、ふと浮かんだ数字を携帯電話に入れ、通話ボタンを押してみると、恐る恐る電話を耳に当てる。
−イ・チョインです。私は今手術中です。終わり次第すぐに連絡差し上げます、メス!
チョインは電話の向こう側から聞こえる自分の声が、“イ・チョイン”と明るい声で話す様子に驚き、もう一度その番号を押しながら、記憶の扉が開きかけていることに期待と不安とが押し寄せてくる。
翌朝ヨンジが目を覚ますと、チョインが朝食を用意し、メモを残して出かけたことに気がつく。出かける用事があって遅くなるかもしれないので待っていないで先に寝ていてくださいと書かれたチョインのメモを見て、ヨンジは不安感に襲われる。
【チョンミン、ヘジュ 回想】
ポソン病院の経営権は本来イ・チョインの亡くなった両親のものであり、それをチョインに返すべきだと主張するチョンミンに、ヘジュはチョインがチョンミンとチェ・ヨンヒの間に生まれた子ではないのかと疑いを夫チョンミンにぶつける。ヘジュの誤解に対し呆れたように“好きなように考えろ”と答えるチョンミン。
−あなたの友人イ・ジンソンとチョインの母ヨンヒが何故交通事故で死んだんでしょう?
驚いた表情で、何の話だといいながらヘジュの目を見て衝撃の事実を悟る。
−おまえ、まさか...
−それまで何もなかった車がなぜ突然ブレーキ故障を起こすんです?イ・ジョンミンさん、あなたは犯した罪を私に先に償わなければならなかったの...そうすればあなたが愛した女がそんなふうに逝くこともなかったわ!
−お前は、お前は...
怒りに満ちた表情でヘジュに近づくチョンミンは、突然頭痛に襲われ、意識を失い倒れてしまう。全てはヘジュの企てによるものだったのだ。愛されなかった者たちの憎悪が、チョンミンと彼の愛している全ての者たちへの刃となっていたのだ。
【ソヌ、チェ社長との電話】
チョインとオ・ガンホが同一人物であることをチェ社長に知らされたソヌは、チョインが清州でオ・ヨンジと暮らしていることを知り、チョインの居場所を探し出すよう指示を出す。
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