【オッポク 仲間の元へ】
チョボクと別れ、仲間の待つ場所へ駆けつけたオッポクは、目の前に広がる騒然とした光景に異変を察知し、岩に身を隠すと、何者かに足元を掴まれ息を呑む。暗闇の中、オッポクの足を掴んだのは、仲間のクッポンだった。瀕死の怪我を負ったクッポンを抱き上げるオッポク。
オッポク:クッポン!クッポン!一体何があったんだ...
クッポンは咄嗟にオッポクに声を抑えるように合図を送り、周囲を見回したオッポクは、官軍と共に奴婢たちを捜索する“あの方”の姿を目にして愕然とする。
クッポン:皆、死んだよ...それでも俺、銃を持ってきたぞ
搾り出すように話した後、咳き込むクッポンを抱き寄せ涙を流すオッポク。
クッポン:逃げろ...逃げて...チョボクと...二人で暮らすんだ
激しく首を横に振るオッポク。
クッポン:恐ろしい...あいつらは、本当に、恐ろし...
オッポクに抱かれたまま、クッポンはついに力尽き、命を落としてしまう。仲間の命を奪われたオッポクは、なすすべもないまま慟哭する。
【月岳山 チャッキ】
テギルからの手紙を受け取ったチャッキは、チェ将軍から伝言の内容を聞き、目を丸くする。
チェ将軍:チャッキはソン・テハ夫人と子供を連れて鳥飛山へ。俺たちは利川の商人宿へ行けと、そこで落ち合おうとある...(チャッキに)急いで動いてくれるか?
チャッキ:そうか、そうか。(ふと顔をあげて)俺が何で?
チェ将軍:急用だから使いが来たのだろう
チャッキ:それは奴の事情であって、ここにいる俺に使い走りをさせて自分たちは逃げるって?
チェ将軍:ソン・テハ夫人が誰だと?
チャッキ:知らずに聞いてるのか?あの部屋の子連れの...
チェ将軍:その夫人が、オンニョンだ
チャッキ:そうそう...(目を見開いて)そうなのか!?
チェ将軍:急を要するゆえ、助けを求めているのだろう
事情を知ったチャッキがテギルのことを思い、押し黙ると、部下の一人がその場へ駆けつけ、見張りの者たちを殺したのは訓練院の判官らの仕業であった
と知らせる。翌朝、官軍に襲われる前に山塞を移そうと決意したチャッキは、村人たちを集めると、皆に月岳山の霊峰を離れ
、拠点を移すことを伝える。ヘウォンからの申し出で、チャッキに解放された清国の武官らは、約束の場所までチャッキと共にヘウォンとソッキョンを護衛することになる。
【オッポク 光化門へ】
仲間を失い、復讐心に突き動かされるオッポクは、銃を手に光化門に向かうと、そのあまりの大きさと厳粛な雰囲気に圧倒される。クッポンの元へ戻ったオッポクは、もう返事をしてくれるはずもないクッポンに語りかける。
オッポク:俺はチョボクがいないと生きられないみたいだ...。先に行って待っていると言ってくれたのにな。俺は犬死はしない...俺たちがいたと、俺たちのような奴婢がいたと、この世に知らしめてから死ぬぞ。そこまで出来れば、犬死じゃないだろう?(クッポンから目線を移し、チョボクを思いながら)そうだろう、チョボク?
【宮殿】
仁祖王は逃亡奴婢が掌隷院を襲撃したとの報告に怒りを露にし、臣下たちを叱咤する。イ・ギョンシクは、地方の官職者イ・ジェジュン大監たちが民心をあおり、この事態を招いたと報告し、彼らに濡れ衣を着せ、思惑通りにことを進めようと企てる。これにより王の理解を得たイ・ギョンシクは、口元に勝利の笑みを浮かべながら宮殿の外に足を向ける。
【光化門前】
命を落とした仲間たちの銃を全て背負い、オッポクは光化門の前に立っていた。
−おい...オッポク!
覚悟を決めて光化門の前に向かったオッポクに呼びかけたのは、同じ家に仕えた奴婢の一人だった。振り向いたオッポクは、迷いのない表情で、ふと
男性に微笑むと、門に向かって歩き出す。銃を手にしたオッポクに気づいた護衛官らが刀を抜くと、オッポクは構えた銃を発砲する。騒動に気がついた武官たちが次々と門を飛び出し、射撃手たちも矢を放つ中、宮殿への進入に成功したオッポクは、イ・ギョンシクに向かい再び銃を構える。イ・ギョンシクとともに歩いていたチョソンビが銃弾に倒れるが、イ・ギョンシクは
恐怖で身動きすらできずに立ち尽くす。そこへ
オッポクらを騙し、陥れた張本人である“あのお方”が駆けつけ、オッポクに向かい飛び掛ってくるが、咄嗟に振り返ったオッポクの銃弾で命を落とす。足がすくみ、その場を動けないままのイ・ギョンシクは、ついにオッポクの銃に捕らえられ、野望がかなう日を目前にして命を落とす。銃声を耳にして駆けつけたファン・チョルンは、権力に固執した義父が目の前で倒れるのを黙って見届けていた。
官軍に捕らえられたオッポクの姿を、門の向こう側で一部始終を見ていた奴婢が、瞳の奥に焼き付ける。
【テギルとテハ 鳥飛山へ】
道中、体を休めるテギルに声をかけるテハ。
テハ:疲れたか?
テギル:お前どうかしてるぜ...誰が疲れたって?
テハ:こうして共に走ることが分かっていればな
テギル:前から一緒に走っていただろう
テハ:だが共に走ったわけではない
テギル:いずれにせよ俺たちの人生はどうしようもないな。ハハハ...
テハ:そなたには申し訳ない。だが人の縁も、すべては運命ではないか?
テギル:行こう。奴らが追ってくるからな
テハ:我々が友として出会っていたらどうだったかと、考えてみた
テギル:俺は奴婢とは友にはならない
テハ:まだ私を、奴婢だと思っているのか?
テギル:この世に縛られた奴らはな、全部奴婢だよ
テギルの言葉の中に彼の真意を感じ取ったテハは、口元を緩ませる。
【チェ将軍、ワンソン、ソルファ】
利川に向かうチェ将軍とワンソンの後をついて来たソルファに、チェ将軍が何故チャッキと行かなかったのかと問いかけると、
ソルファは自分が行きたい場所へ行く、そしてそれはテギルのいる場所だと話す。チェ将軍の話から、テギルは後で利川に来ると知ったソルファは、テギルは
利川は来ないと察し、荷物を手にチャッキらが向かった鳥飛山へとたった一人で走り出す。
【鳥飛山 約束の場所へ】
テギルとテハが約束の場所へ到着すると、テハの前にヨンゴルテの部下たちが駆け寄り、さらに後方にテハの妻ヘウォンが姿を見せる。テハを見つけて微笑むヘウォン。ヘウォンを見つめて歩み寄るテハ。
テハ:遠い道のりを、大変だったでしょう...
ヘウォン:ご無事でいらっしゃったのですね
見つめ合い、微笑む二人を遠巻きに見ていたテギルは、安心したように口元を緩ませると、チャッキに挨拶に向かう。テハもまた、感謝の意を伝えにチャッキの元へと歩み寄る。
テハ:ご苦労だった
チャッキ:ご苦労“だった”?言葉短くねぇか?
テハ:感謝の気持ちを伝えきれず残念だが、すぐに発つぞ
チャッキ:“発つぞ”?(テハの胸をポンと叩く)言葉の短い奴は、命も短いものだ
テハ:分かった。忠告として受け入れよう
テハとチャッキは互いを見て笑顔を浮かべる。テハは別れを惜しむように、テギルに語りかける。
テハ:そろそろ発つが...共に参らぬか?
テギル:どうかしてるぞ。何故俺が行く?
テハ:安全な場所で、平穏に暮らすのを見届けないのか?見せたいのだ。そなたに、これ以上
負い目を感じたくはないからな
テギル:全く、複雑に考える奴だな。適当に暮らせよ、こんなクソくらえの人生。どのみちいい暮らしなどできるはずもない
テハ:共に行ってくれると信じている。安城川だ...
ソン・テハ一行と別れ、一旦チャッキらと歩き出したテギルだったが、チャッキに別れを告げると、オンニョンのいる方角へと走り出す。安城川に向かい歩くテハとヘウォンは、テギルの姿を見つけて安堵する。
一方、テギルの後を追っていたソルファは、道中出会ったチャッキにテギルの行き先を聞くと、駆け足で後を追う。その頃、ファン・チョルンもまたテハとテギルの痕跡を
見つけながら、着々と距離を縮めていた。
【利川 チェ将軍とワンソン】
利川に到着したワンソンは、テギルが自分たちのために家と農地を購入していたことを知り、チェ将軍から詳しい事情を聞くと、テギルの優しさを実感し涙を流す。
【ソン・テハ一行 山中で】
テギルに恩を感じているテハは、テギルとヘウォンが二人だけで話す時間を作るため、ソッキョンを連れてその場を離れていく。
テギル:会ったぞ...クンノム。いや、キム・ソンファンか
ヘウォン:兄上にですか?
テギル:今となっては、恩も恨みも、何もない
ヘウォン:兄上はどうされていましたか?
テギル:お互いが、お互いに対して罪を犯した...
ヘウォン:無事でいらっしゃいますよね?
テギル:だからこそ、お前が幸せに暮らさなきゃならない...そう言っていたぞ、お前の兄さんが
ヘウォン:若様・・・
テギル:もうその呼び方をしなくていいぞ。もうお前の“若様”なんかじゃないからな
言葉に出せない気持ちを心でつぶやくヘウォン。
−ここまで一緒に来てくださって、感謝します。“感謝しています”と伝えたいのです
ヘウォン:では何とお呼びすればよいのでしょう
テギル:呼ばなくていい。・・・俺はな、俺はだな・・・お前が恋しくて、探したんじゃない。ただ逃げた奴婢を、追って駆け抜けてきただけだ
ヘウォン:分かっています
テギル:ハハハ・・・分かっていたのか。先に行って舟を調達しておくと伝えておけ。お前の旦那にな
オンニョンを前にして愛しさがこみ上げたテギルは、涙が溢れそうになるのをこらえながらその場を後にする。
テハ:話はできましたか?
ヘウォン:先に行って、舟を見つけておくそうです
テハ:それだけですか?
ヘウォン:はい
・・・。二度と一人にしないでください
【仁祖王 鳳林大君と】
世子:使節団が去り、国に平穏が戻ったようです
仁祖王:すべて、私の不徳のいたすところだ
世子:いいえ、違います父上様
仁祖王:その顔色はどうした?憂いごとでもあるのか?
世子:父上様。恐れながら、お願いがひとつ、ございます
仁祖王:そうか。だがソッキョンのことであるなら、申すでない
世子:その子のことです
仁祖王:ソッキョンの名を口にすること自体、謀反だと言ったであろう
世子:私への謀反であるなら、私の口から話すのは許されるのではありませんか
仁祖王:どうしても赦免を望むなら、世子が王位についてからにせよ
世子:なぜ父上様ではいけないのですか?
仁祖王:これは、私の歴史だからだ
【ソン・テハ一行 船着場へ】
夜が明けると、ソン・テハ一行は周囲を警戒しながらテギルの待つ船着場へと歩き始める。一行が川原を歩いていると、チョルンの部下の官軍たちが現れる。テハを護衛していた清国の武官は刀を抜き、官軍と戦い始めるが、相手の数の多さに圧倒され次々と倒
されてしまう。ヘウォンとソッキョンを守るため、テハも刀を抜き、官軍に向かっていく。戦いの途中、刀を背に受けたテハだったが、チョルンの姿を目にすると、背中の刀を引き抜き、果敢に戦いに挑み続ける。次々と襲い掛かる官軍らに斬り付けられたテハは、徐々に力を失っていくが、ヘウォンとソッキョンを守るためにたった一人でチョルンらと向き合うことになる。
その頃、船着場で一行の到着を待っていたテギルは、到着が遅いことから異変を察し、走り出す。
刀にしがみつき、必死で身を起こすテハを前にしたチョルン。
チョルン:威勢がないな。また会ったら私を殺すと言わなかったか?
テハ:何がそなたを、変えてしまったのだ
チョルン:気になるか?
テハ:違う。憐憫(れんびん)だ・・・
チョルン:お前ごときの憐憫などいらん
たった一人で三人に立ち向かうテハだったが、徐々に追い詰められていくと、テギルが姿を現し、テハを援護しチョルンに立ち向かう。姿を見せたテギルを見据えるチョルン。
チョルン:お前もしつこい奴だな
テギル:言っただろう?お前の死ぬ場所に、俺が必ず立っているとな
テハ:ここが、終わりの地だ・・・
命懸けの戦いを続けるテハとテギルだったが、ヘウォンを守り続け、傷ついたテハを気遣い「早く行け」と声をかけるテギル。
テハ:そうはいかん
テギル:俺が何のためにここに来た?お前の夫人と息子を、死なせるつもりなのか?お前はただ幸せに暮らせばいい
!
ヘウォンの目の前で、ついにテハが立ち上がれないほどの傷を負ってしまう。
ヘウォン:旦那様!旦那様!・・・旦那様・・・旦那様・・・
涙を流してテハを抱き寄せるヘウォン。
テハ:大丈夫です。あなたを一人残して逝きません・・・
テギル:早く連れて行け
ヘウォン:若様・・・
テギル:生き延びて、いい世の中を作らなきゃな。そうすれば俺たちみたいな奴は二度と現れないさ・・・。オンニョン、
必ず生き延びろ・・・お前が生きてこそ、俺が生きる・・・早く行け!
自らの身を盾にし、チョルンからオンニョンを守ったテギルは、三人が無事にその場を去る姿を見届けて微笑を浮かべる。壮絶な闘いを続け、決してあきらめないテギルを前に、チョルンが問いかける。
チョルン:一体、ここまでする理由は何だ?
テギル:あいつ、一度俺の命を助けてくれたことがある
チョルン:それが全てか?
テギル:変えるってさ。このクソみたいな世の中を!
チョルン:・・・お前まで、私を惨めにさせるのか・・・
テギル:この世を恨んでも、人を、恨むものじゃない。カッコイイだろ?
深い傷を負ったテギルは、最後の力を振り絞りチョルンに素手で掴みかかり、チョルンは徐々に力を失っていく。その場にチョルンの援護のための官軍らが到着すると、テギルは刀を手に必死で立ち上がり、チョルンに語りかける。
テギル:俺たちのような奴がいないだけでも、この世はずっとマシになるだろうな
ただオンニョンの幸せを願い、兵士たちに向かって刀を振り上げ、死を覚悟して走り出すテギル。
オンニョン オンニョン
幸せになれよ
お前の夫、そしてお前の息子と
長い時が流れ、もう一度会えるとき
どんな人生だったか話してくれよ
俺のオンニョン・・・俺の、愛する人よ・・・
テギルの生き様を目にしたチョルンは、テハを追うのをやめ、自分自身との闘いに終止符をうつ
ことを決意する。
【テハとヘウォン】
深い傷を負ったテハを支えながら歩くヘウォンに、テハが語りかける。
テハ:夫人よ、夫人よ・・・
ヘウォン:つらいでしょうに、無理をして話さないでください
テハ:私の考えに、従ってくれるか?
テハの言葉に涙を流し、うなずくヘウォン。
テハ:清国には・・・行きません
ヘウソン:そうしましょう
テハ:この地に借りが多すぎて、この地を離れることができそうにありません
ヘウォン:そう言ってくださって、感謝いたします
テハ:ありがとう、夫人。そう言ってくれて・・・。すぐに回復します。治ったら、いい世の中を作らねばなりません
テハが必死でこの先の希望を見出そうとする姿を見て、ヘウォンの瞳から涙が溢れ続ける。
テハ:ヘウォン、オンニョン・・・二つの名で生きなくてもいい世の中を・・・
【ソルファ テギルの元へ】
ソルファ:お兄さん!お兄さん!ここで何してるの?私よ、私が見える?
テギル:・・・おしゃべりな、うちのチビが来たな・・・なぜついて来た?
ソルファ:男の約束なんて信じないわ
テギル:早くお前の道を行け
ソルファ:お兄さん、帰ろうよ。ご飯もつくるし、洗濯もしてあげるから。服も作ったのよ。(刺繍をした服をテギルに見せる)ほら、お兄さんの名前よ。私今は字も読めるし、漢字も書けるのよ。私と一緒にいても恥ずかしいことなんてないわ
テギル:お前って奴は・・・何て腕前だ・・・
ソルファ:愛が何だと言うの?この広い世の中には男も女もたくさんいるのに・・・
手を伸ばすテギルの様子を見て、すでに何も見えない状態であると悟ったソルファは、テギルの手を取
り、涙を流す。
テギル:すまない・・・ソルファ、俺は愚か者だから、お前の気持ちを分かってあげられなかったな
テギルの言葉に答えることもできず、涙を流し続けるソルファ。
テギル:泣くなよ・・・お前が泣くと、まるで俺が本当に死ぬみたいだろう
ソルファ:分かったわ。泣かないから、私泣かないわ
テギル:こんな天気のいい日には、いい日には、歌でも・・・歌でも・・・歌ってくれ・・・
ソルファ:何を歌おうか?民謡を歌おうか?流行り歌を歌おうか?
オンニョンへの愛を守り抜いたテギルは、自分に心を寄せ続けたソルファにようやく心を開くと、ソルファの愛に包まれながら短すぎた生涯を終える。
【チョルン ナレーション】
翌1649年夏、仁祖は在位27年でこの世を去り、世子の鳳林が王位に就き、彼こそがまさに孝宗(ヒョジョン)である。孝宗6年の1655年を最後に、逃亡奴婢を追う推奴は廃止され、その翌年、ソッキョンは配流をとかれた。
【チョボク ウンシルと太陽を見つめる】
チョボク:ウンシル・・・お日様は誰のものだと思う?
ウンシル:誰のもの?
チョボク:私たちのもの
ウンシル:どうして?
チョボク:何故かというと、私たち、何も持ったことがないからよ・・・
-fin-