ファンボ・ユンとチェオク、チェオクの部屋で。
ユン:
私の母は後妻だった。明け方に家を出たら、私が寝た後に帰ってこられた。体からは常に塩の匂いがする、役人(ヒョンガン)の後妻だった。母は17歳で私を産み、人々は私を庶子と指差し笑った。ファンボ・ユンという名より庶子と呼ばれるのに慣れた頃、父が亡くなった。...私が生まれて24年が経ち、初めて"父上"と呼ぶことのできたその日に、父上は亡くなられた。
:::監督版DVDのみの収録シーン ここから:::
ユン:ずいぶん恨んだ方なのに、私の心に風が吹きぬけているところを見ると、知らぬ間に父を慕っていたようだ。
:::ここまで:::
その日初めて私は後悔した。父の気持ちに気づかなかったことと、己の心を見つめることすらできぬ自分が...実に恥ずかしかったのだ。...自分の心を見つめたことがあるか?
チェオク:何をお聞きになりたいのか、私は無知ゆえ分かりません。
ユン:半分は両班の血を、半分は賎民の血を持つ私は、人間でも奴婢でもなかった。
:::監督版DVDのみの収録シーン ここから:::
ユン:人の服を身に着け、人の言葉を話し、人の飯を食べたところで、私は父や他の兄弟と同じ“人間”ではなかった。
:::ここまで:::
ユン:いっそ皆と同じように汗水流して生きたかったが、誰もそれを許さなかった。今の私は人間の服を着せられた犬、豚、それ以上でも、それ以下でもないのだ。
チェオク:ナウリ、私がまさに犬、豚のようなものです。
:::監督版DVDのみの収録シーン ここから:::
ユン:(じっとチェオクを見つめて)私はそれ以上、従順な犬のような生き方をするのが嫌で、周囲に背き、逆らった。そして家族は私の存在を捨てたのだ...。半日あれば歩いてこられる距離にいながら、9年間誰ひとり私を訪ねて来なかった。生きていかなければという意地と執念しかなかった。...人気のない庵の、漆黒のような暗闇の中、私を支え育てたのは...自分の内面に向かって振り下ろす一本の木剣と、嘘のように私の涙を止めた、一人の少女だった。7歳の少女...あのときの私の姿を覚えているか?
(黙ったままユンを見つめるチェオク)
ユン:歳月が流れた今、まだその少女は私のそばにいるが、私はその少女のために、何もしてあけげられることはないのだ。
:::ここまで:::
ユン:オガ...私はお前がこの世で無事に人間らしく生きていく姿を、そばで見守りたいだけなのだ。しかしお前は一歩進むことを望むと、二歩も進んでしまう。死地でのその一歩は、生死を分かつものだということが何故分からぬのだ。兵法も“時に一歩引け”と説いている。お前は常に背水の陣をはり、自らを窮地に追い込むのだ?私に通符(トンブ)を返せと言ったのではない。お前を手放す考えも無い。もう機嫌を直せ。
チェオク:すねてそうしたのではありません。
ユン:ならば?
チェオク:ナウリを常に苦しめてしまう自分が、嫌でたまりません。
ユン:お前がそれほど私を大切に思うのなら、これから私の指示に従えばよい。
(トンブを卓上に置くユン)
チェオク:ナウリ!ナウリほど私を拘束した方も、自由にしてくださった方もいません。しかし私はもはやナウリにとって、岩のように重い存在となってしまいました。枯れ草のように軽く卑しい私が、ナウリの荷になることなどできません。
ユン:それで?
チェオク:いっそ、出て行くほうが気が楽です。
ユン:どうしてもここを去ると申すのか?ポドチョンを去るということは、私とも終わりだと分かっているのか?もう一度聞く、本当に私との縁を切るというのだな?言ってみろ...
チェオク:それが、ナウリのための道なら...
ユン:もう良い!お前がどうしても意地を張るなら、私もそのほうが楽だ...
(立ち上がり、部屋を出るユン) |