【ヒョンジュン 隠れ家】
現地警察と北朝鮮の要員らに追われ、怪我を負ったまま隠れ家に潜むヒョンジュンの部屋を、何者かがノックする。朦朧としていたヒョンジュンは
物音に目を覚まし、銃を手にゆっくりとドアへと手を伸ばす。
ドアを開けて入ってきたのは、サウだった。相手がサウだと確認できたとたん、ヒョンジュンの緊張が解ける。
−状況が良くない...話は後にしてひとまずここから逃げ出そう...
ヒョンジュンの言葉に一言も返事をしないまま、ヒョンジュンが銃を置くのを確認したサウは、硬い表情のまま部屋の入り口のドアを閉める。
−ホン・スンリョンを連れて行った空港に行けば抜け出せるだろうか...
上着を身に着けたヒョンジュンがふとサウに目線を移すと、サウは冷酷な表情のままヒョンジュンに銃口を向ける
。サウの突然の行動を理解できないまま呆然と立ち尽くすヒョンジュン。
−サウ?
−すまない...命令だ...
衝撃を受けながらもまだ目の前で起こっていることが受け入れられないヒョンジュンは、微動すらできずに涙を浮かべてサウを見つめつづける。
−お前が...お前がどうして...
−お前が俺の立場だったとしても...すまない
ヒョンジュンの頬を涙が伝い落ちると、サウが銃を撃つ前に警察らがヒョンジュンの部屋へと突入する。銃撃戦となった部屋からヒョンジュンが姿を消してしまうと、サウもまたその部屋から姿を消す。
ヒョンジュンに逃げられたことで苛立つパク・チョリョンは、部下のソンファに厳しい表情で伝える。
−これ以上生かしておくわけにはいかない。射殺する。全隊員にそう伝えろ...
チョリョンの下した命令に驚いて振り返るソンファ。
−射殺してしまえば、事件の解明が不可能です
−同じ事を二度言わせるな...視界に入ったらすぐに殺す...!
【ヒョンジュン 電車庫へ潜伏】
銃創の痛みをこらえながら電車庫へと逃げ込んだヒョンジュンが、ひと目のない場所でようやく腰を下ろした頃、サウはペク・サンへと電話で連絡を取る。
−どうなった?
−失敗しました
−TK1は?
−姿を消しました。しかし北朝鮮の要員らとハンガリー警察が追っています。ブタペストを抜け出すのは難しいでしょう。
−絶対にお前が先に探し出せ。探し出して終わらせろ...
〜サウ 回想〜
ペク・サンに呼び出されたサウがヒョンジュン殺害の命令を下される。
−私にヒョンジュンを殺せと仰るのですか?できません!
−その言葉、お前がNSS要員としての職務を断ったと理解していいのか?
−なぜ殺さなければならないのです?救えばいいではありませんか!私が救出に行ってきます。
−まだ分からないのか?これは最初から予定されていたことだ。私の判断で決定できるようなことではない。
−ならば全てのことを決定しているのは誰です?お話ください。
−ヒョンジュンに出会ったのはいつだ?
−特殊部隊の頃です。
−それ以前、キム・ヒョンジュンの過去に関して何を知っている?
−......
言葉を失うサウに、ある書類の入ったファイルを差し出すペク・サン。
−なぜキム・ヒョンジュンが選ばれたのか、NSSがなぜキム・ヒョンジュンを捨てるのか、分かるだろう。出なさい...
−理由がどうあれ、私にはできません。申し訳ありません...
頭を下げ、拒否したまま部屋を出ようとするサウ。
−仕方がないな...お前が出来ないなら、他の人間を探さないとな。チェ・スンヒを呼べ
〜サウ 回想ここまで〜
スンヒにヒョンジュンを殺すという残酷な任務を背負わせることなどできるはずもないサウは、胸の引き裂かれるような思いで、任務を引き受けざるを得ない状況に追い込まれていたのだ。
【青瓦台】
大統領がユン・ソンチョル殺害事件に関して情報を得たことを知ったペク・サンは、早速大統領に直接電話で連絡し、この件は北朝鮮の内紛によるものであり、韓国とは全く関係がないはずだと嘘をつく。
【NSS】
NSSではペク・サンの命令で、一部の要員が消息を絶ったヒョンジュンがNSSに存在した痕跡を全て片付け始めると、そこへパク室長が姿を見せる。
−何の真似だ?
−キム・ヒョンジュンに関連する全てのものを押収中です。
−押収?理由は何だ?
パク室長に書状を手渡す要員は、ヒョンジュンにスパイ活動の疑いがかかっていると伝える。一同が息を呑み状況を見守る中、ヒョンジュンの使用していたものが次々と押収されていく。
【科学室室長 オ・ヒョンギル室長 パク室長を呼び止める】
科学室のオ室長は、ヒョンジュンの資料が押収されたことに驚き、パク室長に事情を尋ねる。
−一体どうなってる?キム・ヒョンジュンがスパイ容疑をかけられてる?
−私も何が何だか良くわからないんです...
−一体誰がヒョンジュンをはめたんだ?
−ペク・サン副局長かと...
−また一人犠牲になったのか...
−はい?何のことですか?
−君は入社前だから分からないかもしれないが、NSSの歴史で、同じようにスパイ容疑をかけられた要員が二人いたんだ。
−彼らはどうなったんです?
−痕跡も残さず消えたよ...。いや、本当にスパイだったら、裁判にかけるべきだろう?それなのに、跡形もなく消えてしまうんだ...
−理解できません。どうしてそんな事が?
−もう一度ヒョンジュンに会うのは、難しいだろう...
【ハンガリー ブタペスト スンヒ】
NSS所属の部下ファン・テソンに連絡を取ったスンヒは、テソンの話から消息を絶ったヒョンジュンがNSSでスパイ容疑をかけられていることを知る。信頼できる同僚にヒョンジュンのファイルを開いてほしいと依頼したスンヒだったが、すでにTK1としてのヒョンジュンのデータは全てアクセスができない状態になっていた。スンヒはわずかな糸口を見つけるため、ペク・サンの通話相手を調べてほしいと同僚に依頼する。
その夜、サウがスンヒのホテルに姿を現す。サウに事情を聞かされ、衝撃を受けるスンヒ。
−信じられないわ...ヒョンジュンさんがそんなことするはずないわ!何かの間違いよ!ヒョンジュンさんに会って直接聞いてみないと...ヒョンジュンさんは今どこ?
−ブタペストのどこかに潜んでいるだろう。北朝鮮の防衛要員たちとハンガリーの警察が追っている。
動揺するスンヒを抱き寄せるサウ。
−今俺たちが冷静に判断しなければ、ヒョンジュンも俺たちも皆危険なんだ...
【ヒョンジュン 電車庫内】
怪我を負い、傷口の治療すらできないままで気を失うように眠っていたヒョンジュンの姿を、清掃に来た女性が発見し救急車を呼ぶ。この連絡により警察と北朝鮮の防衛チームが動き出し、彼らの様子を見守っていたサウとスンヒがヒョンジュンが見つかったことを察し、助けに向かう。
物音に気がついたヒョンジュンが急いで部屋を飛び出すと、すぐにチョリョンがヒョンジュンの後を追い発砲する。追い詰められたヒョンジュンはチョリョンと対峙する事になるが、激し
い格闘でチョリョンが一瞬怯んだ隙に、ヒョンジュンは一人建物の外へと逃れる。怪我を負ったまま無我夢中で逃げるヒョンジュンの目に1台のトラックが留まり、迷わず乗り込みエンジンをかけると、建物の出口に向かいアクセルを踏み込む。西側の出口でヒョンジュンを待ち構えていた北朝鮮の防衛チームは、あと一歩のところでヒョンジュンを逃してしまう。
状況を見ていたスンヒとサウもまた、ヒョンジュンに会うことができない。
【スンヒとサウ】
サウが重苦しい表情のままスンヒのいるホテルの部屋に姿を現す。
−状況がさらに良くないな...ここに滞在し続けるのは、俺たちも危険だ。
−ヒョンジュンさんの消息は?
−まだ捕まっていないのは確かだ。
−抜け出せるわよね?
−全ての道は封鎖されている...簡単ではないだろう...
【パク・チョリョン 今後の指示を仰ぐ】
要人を暗殺するという衝撃的な事件を起こした犯人であるキム・ヒョンジュンを数度にわたり逃がしてしまったチョリョンは、上からの支持を受け、ソンファに命令を下す。
−私に与えられた時間は明日までだ。ここはお前に任せる。私が捕らえることができなければ、お前が最後まで追え。何があろうとあいつを捕らえて殺さなければならない。それがお前
と私の生き残る道だ。
【ヒョンジュン ペク・サンに電話】
追っ手から逃げ切ったヒョンジュンは、自分を捨てたペク・サンに電話をかける。
−...私です...理由は何です?私を捨てた...
−私がどんな言葉を言えば、受け止められるんだ?理由など、お前がNSS要員になった瞬間から、決められていた運命だった。
−何があっても戻ります。そしてその時は...私の運命をあんたが勝手に終わらせたことに対する対価を払ってもらいます。
−スンヒがそこにいる。どうやらチェ・スンヒの運命もお前と同じかもしれないな...
ペク・サンからスンヒの名前を聞いたとたん、ヒョンジュンの表情が凍りつく。
【ヒョンジュン スンヒの元へ】
悪夢にうなされて目を覚ましたスンヒは、暗い部屋の中に人の気配を感じ取り銃を手にする。恐る恐る灯りをつけると、目の前にいるのはヒョンジュンだった。銃を置いてヒョンジュンに駆け寄るスンヒはヒョンジュンを強く抱きしめる。
−ユン・ソンチョルの死は北の内紛によるものだと聞いたわ。NSSの要員とは何の関係もないと政府が公言したし、NSS内でも皆そう信じてる。
−いや、俺がやった。俺は確かにそう命令されたし、任務は成功した...。それなのになぜ俺を捨てる...初めからそういうつもりで俺を送ったのか?
−そんなはずないわ!
それならサウさんは?サウさんがヒョンジュンさんを助けに行ったのは知ってる?サウさんもここにいるの...私たちが一緒に行動すれば、ハンガリー警察と北の要員が追ってきたとしても、なんとか抜け出せるはずよ。
−サウは...
スンヒにサウが自分に銃口を向けたことを言い出せずに涙を浮かべるヒョンジュン。
−ユン・ソンチョルの死は南とは何の関係もないことを証明するためにも、俺は生きていてはいけない存在だ。俺と一緒にいたら、サウも、君も危険だ...もう戻れ。
−できないわ。私ヒョンジュンさんをこんなふうに置いていけない!
−スンヒ...
−ヒョンジュンさんの言葉が事実だとしても、私ヒョンジュンさんを絶対に見放さない。死ぬとしても一緒に死ぬわ!私一人だけなんて...
涙が次々に溢れ、言葉に詰まったスンヒを、ヒョンジュンは優しく抱き寄せる。唯一信じられる存在のスンヒと共にホテルを抜け出したヒョンジュンは、自分の姿をサウが監視していることには気づかない。
【チョリョン 作戦会議】
サウが情報を流したことによりヒョンジュンの居場所が北の防衛部に伝わり、早速チョリョンらが動き出す。
【ヒョンジュンとスンヒ 駅へ】
駅にたどり着いたヒョンジュンは、切符を手に入れてくるまで車で待つようにスンヒに話すと、駅の切符売り場へ向かう。ヒョンジュンが切符を手に入れスンヒの元へ戻ろうとすると、変装したヒョンジュンに気づいたパク・チョリョンが振り向く。
−止まれ!
ヒョンジュンが人質を取り、駅の構内は騒然とすると、すぐに駅にいた警察が銃を持つチョリョンを包囲する。
−銃を捨てろ!
チョリョンが身動きできない間、ヒョンジュンはゆっくりと歩き出し、外に出る。
現地の警察に自分が外交官であり、暗殺犯を追っているとの事情を説明するチョリョンだが、ふたたび目の前でヒョンジュンを逃がしてしまう。
スンヒの待つ車へと急ぐヒョンジュンが、あと数メートルで車にたどり着くそのとき、大きな爆発音と共にスンヒの乗っていた車が炎上する。激しい衝撃を受けたヒョンジュンは、身動きできずにその場に立ち尽くす。全てサウが仕組んだことだと気づかないまま、自分のせいでスンヒが命を落としたと思い込んだヒョンジュンは、悲しみを怒りに変え、銃をしっかりと持つと、追ってきた相手に向かって発砲すると、目に留まった車に乗り込み現場から抜け出していく。
猛スピードでヒョンジュンの運転する車を追うチョリョンとソンファは、激しい追撃を続けるが、結局ヒョンジュンを逃してしまう。
ヒョンジュンはホン・スンリョンを引き渡した小さな空港に向かうと、小型飛行機を乗っ取るが...