【ソウル 大学病院内】
大学病院で緊急手術の必要がある患者の家族の前に、外科レジデント4年目のミン・ギソが神経質そうな表情で手術室の前に現れる。患者の妻はキソの風貌を見て不信感をあらわにする。
「他の先生はいらっしゃらないんですか?一番腕のいい先生は?」
「知らないね...何度言えば分かるんだよ!」
キソが苛立つ様子に、看護師らはキソの腕は確かであることを患者の家族に伝えるが、男性の妻は不信感を拭い去れず不満をぶつけ続ける。
「それなら私たちの子供の父親を必ず助けられますか?約束できますか?」
「薬でも飲んだの?俺がなんでそんな約束を?冗談じゃない...。
そんなに不安なら、腕のいい先生のいる他の病院へ行くんだな!
俺は忙しいんだよ」
その場を去ろうとするキソを患者の母親がなんとか引きとめ、その後の手術でキソは見事に男性患者の危機を救う。
【高等学校卒業程度認定試験受験会場】
試験会場では1人の女性がうたた寝をしていた。彼女に声をかけようとする試験官に、近くにいた男性が“寝かせてやってほしい、若いのに認知症の祖父を抱え、弟を大学に行かせ、父親のいない子供を育てている子なんだ”と話す。うたた寝しているのはイ・ボムの母、イ・ヨンシンだった。ヨンシンは過去に自分の元を去っていた男性の夢を見ていた...。
【病院内】
キソの元へ後輩がある患者のCT画像を持ってくる。
「キソ先輩 チミン先輩が...」
CT画像を見つめるキソだったが、直後に“取り替えて来い”とつき返す。恋人であるチミンのものではないと言い張るキソ。
「そうなんです先輩 チミン先輩のものです。
私も信じられなくて確認したんですが、チミン先輩のもので間違いありません」
「これがチミンのものだと言うのなら、すい臓がんの写真か?
どうしてチミンの写真だなんて...コノヤロウ!」
【診療所】
診療院の女医であるチミンが麻薬中毒の男性患者を診察中、患者に「薬を出せ」と脅される。ちょうどその場にチミンを案じて車を飛ばしてきたキソが現れる。キソの迫力に男性は怯み、チミンから手を離すと、キソはチミンの元へ歩み寄り、様々な想いを胸に
キソは彼女を抱きしめる。
【青い島】
ヨンシンはみかんの販売のため、カメラの前に立ち、宣伝文句を考えていた。そこへ娘のポムの友達が血相を変えて駆け込んでくる。犬に追われて木の上に逃げているポムの元へ大急ぎで駆けつけるヨンシン。一度はスーパーマンという名の犬を追い払おうとするが、ポムに近づくと、ポムが胸元に子犬を抱いていることに気がつく。
「スーパーマン、ごめんね。そうとは知らずに...
今あなたの赤ちゃん返すからね。
ごめんね、分かるよ、私もママだもん。
腹が立ったでしょ?私の腕を噛んでもいいのよ」
「犬に何やってんのよ!」
と言い放ち、その場を逃げ出すポムを追うヨンシン。走り続けるポムの方に車がやってくるが、気がつかないポムは危うく車に轢かれそうになる。急ブレーキをかけた高級車から一人の男性が降りてくる。
男性はヨンシンに気がつき、久しぶりだな、と声をかける。
「どのくらいぶりだ、俺たち」
「8年ぶりです」
「もうそんなになるか...確かに俺も久しぶりの帰省なんだ」
その男性はかつてヨンシンが恋したソッキョンだった。ヨンシンが敬語を使う様子に友達なのに調子が狂うと親しみを込めて話しかけるソッキョン。ヨンシンの隣にいるポムに気がつき、その子は誰
かと問いかけると、ヨンシンは“私の娘よ”とポムを紹介する。その場にソッキョンの母親が車を追って現れ、ソッキョンの車の助手席に座っていた婚約者をあえてヨンシンに紹介するのだった。
「彼女はチェロリストなのよ」と自慢する様子に、思わずポムは「チェロリストじゃなくてチェリストでしょう?」と口をはさむ。ママは春を待つミカンの会社の社長さんなんだからと、母親をかばうポムにますます腹を立てたソッキョンの母はポムだけでなくヨンシンまで悪く言い始める。ソッキョンはヨンシンに対して家庭環境の悪さが目に付くと嫌味をいい続ける母親を制止すると、ごめんなと一言残しその場を去っていく。
「意地悪オババ...」
「イ・ボム、目上の方になんてこと言うの?お母さんにひっぱたかれたいの?」
「傷ついたでしょう?」
「全〜然」
「傷ついたんでしょう?ママのしつけが悪かったんじゃないよ。
ママのせいじゃない、ボミが勝手に悪い子になったの」
「なんであなたが悪い子なの?そうじゃないよ。
目上の人を悪く言うのはよくないけど
可愛い子に育ってるわ、本当よ。さぁ行こう」
二人は家への道のりを歩き始める。
「女はなんだかんだいっても男性に守られるのが一番なの?」
「誰がそんなことをあなたに?」
「ううん、ドォソプおじさんちのおばあちゃん...
ママが未婚の母だから男性に無視されるって」
「違うよ!」
「おじいちゃんと私がコブだって、コブつきだからって」
「あのオババめ、子供に何てこと言ってるのよ!
言っとくけど男性のプロポーズを断るのが大変なのよ。
携帯が鳴っても取らないし」
「ミカンの注文じゃないの?」
「そうじゃないのよ」
「とにかく、あなたとおじいちゃんとあなたはコブなんかじゃないわ。
あなたみたいな可愛い娘がいるからって
結婚したがる男が10人以上いるのに、なんなのよ。
私より娘が可愛いからって私と結婚したい男、
明日うちの庭にズラッと並ばせるから驚かないでよ!分かった?」
「...10人?本当に10人もいるの、ママ?」
【ソッキョン車中】
婚約者を気に入ったソッキョンの母は、揺れ動く息子の気持ちを察するかのように二人の結婚を急がせる。ところが隣に座るソッキョンの甥が突然ポムはおばあちゃんにそっくりなんだよ、と話し始める。
「ポムはおばあちゃんにそっくりなんだよ、おじさん。
唇のほくろも食べ物も...」
「どうしてあの子が私に似てるのよ!」
「似てるって言われて腹を立てるのはポミの方じゃないの?
どうしておばあちゃんが怒るの?
似てるよ。
ポミはお母さんに似ず器量が悪くて
うちのおばあちゃんに似てて、ポミがおばあちゃんの実の孫みたいだって」
ソッキョンの脳裏に若い頃の思い出が蘇り、突然車を止め、車を後進させる。同乗している婚約者や母のためにソッキョンは思いとどまり再び車を走らせ
た。ソッキョンの母親は、婚約者のいないところで、ポムの父親はソッキョンではないことをヨンシンに確認したと伝え、例えポムがソッキョンの子供であったとしてもヨンシン(との結婚)はだめだと釘をさす。
【キソとチミン】
チミンはお気に入りの店にキソを連れて大好きなメニューを注文していた。
キソのためにスープの中にご飯をいれるチミン。
「ここの一番有名なメニュー(ソンジ:牛の煮凝り汁)なの。
これを食べるためにソウルから来る人もいるくらいよ。
(キソの沈んだ表情を見て)痩せたわね?つらいことがあるの?
骨と皮がくっついてるよ」
「君にキスしたくてたまらなくてさ」
「さぁ食べてみて。最高よ、本当に」
「私の王子様がソンジを食べてうなる姿を見てから死ななくちゃ」
キソの気持ちを察して平常心を装うチミン。
「本当に会えて嬉しいわ、ダーリン。すごくすごく会いたかった」
キソはチミンの手を握ると、CTを見たと話す。
「事情があって他の患者のものと変わっていたようだ。もう一度撮ろう」
チミンは首を横に振り、自分のものだときっぱり伝える。
「すい臓ガンでしょ?
私、今すごく充実してるのよ。
仕事がいっぱいだし貧しいお年寄りや、
正しい知識がなくて助からない若い命...。
ただここに、骨を埋めるわ。残された時間も...」
その時チミンの携帯電話が鳴り急患の知らせが入ると、二人は診療所に急ぐ。診療所にはバイクで事故にあった女性が運び込まれるが、重症のためチミンは中央病院に運ぼうと提案するが、患者の女性の母親が中央病院で亡くなったことがトラウマとなっており、拒否し続ける。そこへキソが現れ、不安そうな患者の家族の目の前で有無を言わさず処置を始めると、的確な治療を施す。
診療所の外で待つキソのところへチミンがやってくる。
「ソウルへ行って、ソウルで手術しよう。
誰にも任せない、俺がやる」
「望みがないことをあがくのは嫌よ。
父も私もとうに受け入れたことなの。
先輩も受け入れてちょうだい...今はつらいだろうけど。
私今これで十分なの。さっきも言ったよね?
私の残された時間は...」
「黙れ!俺はミン・ギソだ、お前を助ける」
「駄目なものを意地を張っても無駄よ、先輩」
「黙れといったはずだ!一言でも言ったら張り倒すぞ。
俺が死んだらそうしろ。
どのみちそのときは お前を治せる人間はこの世にいないんだから。
俺が死んだら、 残された時間をここで終えようがお前の好きにしろ」
キソの説得でチミンはキソとともにソウルへ向かう。病院の医科科長でもあるチミンの父に事情を伝えにいくキソ。
「助かるなら、私もやっていた。
望みがない...だめだ、望みがないことだ、切除不可能だ」
「手術します!ここで無理なら他の病院でも...」
「科長のお嬢さんでもありますが、私の大切な女性でもあります。
必ず助けます。医者になって、初めてする約束です」
【手術室 チミンの手術】
手術台の上、麻酔で眠る彼女を見つめて様々な記憶が蘇り胸が痛むキソ。彼女の命を救いたい一心でそっと口づけをした後、覚悟を決めてメスを入れる。ところが、ガンが転移し、手術不可能な段階に進んでいることを目の当たりにしたキソは愕然とし、本来ならば手術の続行は難しい状態と知りながらも、混乱し、周囲の静止を聞かず手術を強引に続行しようとする。チミンの父親が手術室に現れる。
「終わっていません!まだ私はあきらめていない!」
「ミン・ギソを連れて行け!」
【青い島】
「10人の男性はどこにいるの?
おじいちゃん、私たちはコブなのよ」
「コブじゃないってば!」
夜が更け、ポムとおじいさんが眠りについた頃、ヨンシンは月を見上げていた。
「お久しぶりです、お月さま。
おげんきでしたか?
私もとっても元気です。見ていらっしゃいますよね?
ポムもすこぶる元気です。見ていらっしゃいますよね?
願いを聞いてくれてありがとうございます、お月さま。
ご迷惑になりますから、他のお願いはしません...」
次の朝、ポムとヨンシンが目を覚ますと祖父が家にいないことに気がつく。
2人は大急ぎで“「イ・ビョングク」を探しています”と書いた祖父の写真入のチラシを手に祖父を探しに駆け出す。“正気を取り戻していらっしゃったようです”との島の人の話に息をのみ、船に乗り込む二人。
“今回は探すな。お前もポムと幸せな人生を生きろ(中略)
お前の「コブ」おじいちゃんより”
置手紙を手に祖父を探す二人は、駅前でアコーディオンを片手に歌う祖父を発見する。
「おじいちゃん!」
「ミスター・リー!」
ところがミスター・リーはポムとヨンシンを見つけると、一目散で逃げ出すが、すぐに二人が追いつく。
「手紙見なかったか? 捜すなって言ったのに、なんで捜しにきた」
「どうして?私たちには世界にたったひとりのおじいちゃんなのに、
捜すなって言われても捜すわよ!」
「正気を取り戻しているときに行かせてくれ、お前たちの荷物になりたくない!
亡くなったお前たちの両親にあちらで合わせる顔がない!」
「お母さんとお父さんが生きていらっしゃったら
今よりずっとおじいちゃんを大事にしなさいって、そう言うわ。
私を助けるためにおばあちゃんの手を離したこと
私覚えてるよおじいちゃん。
置いていかないでおじいちゃん。
おじいちゃんのお陰で私もポムも一生懸命生きていられるのよ。
私たち家族じゃない?
お荷物だなんて何の話なの。
おじいちゃんなしじゃ生きていけないよ...」
「なぜ泣くんだ」
「私が悪いの、私がコブなんていったから。
全部私のせいだよ、ごめんなさい、
おわびに地獄へ行きます、地獄へ連れて行ってください」
ポムまで泣き出すとミスター・リーの表情が曇り、こうつぶやいた。
「やめろ やめるんだ うるさいぞ メジュ...」
【キソ、チミンを迎えに。】
チミンに会いに行ったキソは、出かけようとするチミンにどこへ行くのかと声をかける。
「会いたい人がいるの。ごめんね先輩、必ず今、会わなければならない人なの」
こう話すチミンにキソは突然旅券を見せてと話すと、チミンを乗せて車を走らせる。どこへいくつもりなのかと問いかけるチミンにここは寒いからハワイに行くと話す。現実から目をそむけるようにハワイに行ってからの夢のような話を続けるキソ。空港に着くと、キソはチミンをベンチに待たせ、ハワイ行きのチケットを購入するためチミンから離れる。キソが2枚のチケットを手にチミンのいた場所に戻ると、その場所からチミンの姿は消えていた。あわてて空港を出たキソはタクシーに乗り込むチミンの姿を見つけると、自分もタクシーに乗り彼女のあとを追う。船乗り場で降りたチミンを少し離れた場所から見守るキソ。ある島へ向かう船に大きなクマのぬいぐるみを手に乗り込むチミンの後を追い、キソも一緒に船に乗るのだった。
【青い島へ向かう船】
船の上、海の向こうの島を遠い目で見ているチミンにそっと歩み寄り、彼女に自分のコートをかけるキソ。
「内縁の男があの島に住んでるのかい?」
「死ぬ前に...お詫びをしなければならない人がいるの。
私のミスでHIVに感染した子がいるの。
そのときは怖くて、
私のミスじゃないって目をそむけて否定して逃げ回ったけど...
(事故で運び込まれるポムを思い出しながら)
急いではいけなかった。
慎重になるべきだった...。
あの島に住んでいるの、私が2年前ミスしてしまったあの子が」
「運が悪かったのさ。それがなんでお前のミスなんだ?」
「あの時は私もそう思った。
でも そうじゃない。
私が献血者をちゃんと選択していれば...」
「この世に患者を死なせようとする医者がどこにいる!
どんな場合でも加害者なんかじゃない!
お前も、俺の親父も」
寒いね、とチミンはぬいぐるみのクマの首に自分がつけていたマフラーを取り、まきつけてあげると、ぎゅっと抱きしめる。
「先輩が代わりに伝えてくれる?
もし私が会うことができなかったら、あなたが代わりに伝えて。
あの子、私のせいだったと。
故意ではなかったけれど、申し訳なかったと。
生きてる間中、片時も忘れずに苦しんだと」
苦しそうに涙を浮かべるチミンに“もう言うな、いいよ、苦しくなるだろ”と語りかけるキソ。
「きっと許してくれるはず...
とってもいい人みたいだったもの、その子のお母さん」
「嫌だね、言うもんか!
お前が死にたいのか!いい加減その口を閉じろ」
チミンを失うかもしれないという恐ろしさと、チミンの悲しみが痛いほど胸につきささるキソは船酔いしてしまう。具合の悪そうなキソに一人の女性が話しかけてくる。ヨンシンだった。
「船酔いですか?
針で指を突いて悪い血を出しましょうか?
うちのおじいちゃんも酔ったから、そうしたらすぐ良くなりましたよ。
目をつぶるとかえって気分が悪くなりますよ。
目を開いて遠くの景色を見てみて」
返事もせずに目を閉じたままのキソがますます具合が悪くなる様子を放っておけないヨンシンはキソの背中をさすってあげていた。
船の上ではポムとおじいさんがいつものように口げんかを始めていた。
「私がどうしてメジュ?私の名前はポムよ、イ・ボム!」
その声に振り返る女性、チミン。あれほど会いたかったポムと同じ船に乗り合わせていたことに気がつく。
【回想】
「まだ7つなのにエイズだって?
俺たちのポムを元に戻せ!何で誰も謝罪しに来ない?
お前たちのミスだろ!」
「ポムは死んでない。生きてるわ。もうやめて」
「姉さん、ポムはどうなるの?」
「大丈夫よ 何も起こらない(眠っているポムを負ぶうヨンシン)
エイズでも百まで生きる人がいるの。
2度とポムの前で泣かないで。
今まで生きてきたように、同じように暮らすのよ。
涙は一滴も許さない」
【船の上 ポムとの再会】
かつての自らの医療事故でHIV感染させてしまった少女ポムを見つめながら涙を流し、思わずポムの名を呼ぶチミン。
「ポマ....ポマ...」
自分の名を呼ぶ声に気がついたポム。
「私?」
ポムの答えに頷き、泣きながら安心したような微笑を浮かべるチミン。
ヨンシンがポムの元へ戻ると、ポムが大きなクマのぬいぐるみを抱いてベンチに腰掛けていた。隣に座る女性はポムの肩に寄りかかるように眠っている様子だった。
「ママ、このお姉さんポムを好きみたい。(クマのぬいぐるみを)私にくれたのよ」
「ポムに?どうして?」
「分からない。このお姉さん眠っちゃったみたい。重たいな」
「我慢してあげてね」
チミンの様子がおかしいことに気がつくキソは、悲しい予感を胸に抱きながら彼女の元へと近寄る。キソは隣に座る少女の肩に寄りかかってたチミンを抱き、チミンがこの世を去ったことに気がつくと、そっと彼女にコートをかけ必死で涙をこらえるが、悲しみがこみ上げてくる。
「何をそんなに死に急いだ?
さよならの挨拶くらいしていけ...」