青い島で出会った少女ポムこそがチミンの探していた子供だったと確信したキソは、チミ ンの言葉をひとつひとつ思い出しながら歩き始め、ソウルへ向かう船乗り場にたどり着く。
一方、ソッキョンに鼻血を見られたことを気にかけるポムに、ヨンシンは2番3番の約束を良く守れたから大丈夫とポムを安心させるように微笑みかける。家に戻った二人は、ポムの大好きなパク・チソンのポスターに口紅でいたずら書きをする祖父の姿に息を飲む。ポムは大切にしていたポスターにいたずらをされて苛立ち、ミスター・リーにむかって怒り出す。
「ママがおじいちゃんのためにどんなに大変か分かってるの?」
「イ・ボム!誰に怒鳴ってるの?おじいちゃんはあなたの友達なの?」
「おじいちゃんがママを困らせるから…」
「困らせた?誰が?こんなに楽しいのに!」
私にも塗って、と祖父の失敗を優しく受け止めるヨンシンの姿にいつの間にかポムの心も穏やかになる。ヨンシンが外に顔を洗いにでると、そこにポムを心配したソッキョンがやってきて、少し話そうとヨンシンに声をかける。
「星を良くみるのか?俺は見ないな。
ソウルには星もないし、なぜか空を見上げる余裕が持てないんだ。
俺に何か話すことはないのか?
あるはずだ。
ポムは俺の子なのか?俺はポムの父親なのか?
今言ってくれ。逃げる気も否定するつもりもないから」
「違うわ」
「母が何を言おうと責任を果たすつもりだ」
「言ったでしょ?私の声聞こえなかった?
違うってば、違うのよ。
私にあなたしか男性がいなかったとでも?
私がどうしたって?
あなたのお母さんも、親子でなぜそんなふうに私を扱うの?」
「胸が痛んで…ポムに会うたびに 変に胸がうずいてる」
「これが最後だからね、ポムの父親は他にいるのよ。
あなたの胸が痛むことまで、私が説明しなきゃならないの?」
ヨンシンの毅然とした態度に、ソッキョンはそれ以上追求するのをやめ、ヨンシンに一言詫びると、ヨンシンはソッキョンに背を向ける。そんなヨンシンにさらに続けるソッキョン。
「鼻血が出たり辛いときは、お互い助け合わなきゃだめだ。
俺が困ったときは、ありがたく人の助けをかりるし、
人が困っているときは、喜んで手を貸すよ。
人は共に助け合い寄りかかりあい生きるものだと、
そう教えてもいいんじゃないのか?
子供の教育に口を挟んで悪いが、そこはもう一度教えなおすべきだ。
今日みたいに鼻血が出て辛いときは人の助けを受けるようにと。
大人が近くにいるのに、8歳の子があたふたと1人で血を拭いて
1人で後始末をして、それはこの世に誰もいなくなって1人取り残されたとき
そのときでもいいだろう。...お前1人に背負わせて悪かった」
黙って最後までソッキョンの話を聞いたヨンシンだったが、返事は返さず、家へと戻っていく。ヨンシンの胸には、かつて心から好きで信じていたソッキョン
に、自分が友人との賭けの対象にされたという辛い記憶が蘇っていた。複雑な想いを胸に夜空の下で1人座り込み、考え事をするヨンシンのところへポムがやってくる。どんなに辛いときも、ポムの笑顔を見ると前に進むことができるヨンシンは、父親を欲しがっているポムのために見合いをするべきかと真剣に考え始める。
ソウルへの最終便の船を逃したキソは、ポムに会う勇気が持てず、ドゥソブの母が運営する宿にやってくる。ドゥソブに酒を調達してもらい、1人で飲みながら、心の中のチミンに語りかける。
「ついてきてるのか?ついてきたのなら姿を見せろよ、チミン。
少し話し合うべきだろう。頼むよ」
暗い窓の外をじっと見つめるキソ。
「あの子に、こんなふうに引き合わせたのはお前だな。
それで何?どうしろって?
明日始発の船でソウルに戻るから、
眠ければ寝ればいいし、島に居つくならいればいい」
暗闇に向かって手を伸ばしてみると、どこからかチミンの声が聞こえてくるようだった。
「先輩が私の代わりに伝えてくれる?私がもし会えなかったら…」
「その口を閉じろ。死んだ分際で誰に向かって...もういいよ。もう知るか。寝るぞ」
キソが眠ろうとして体を横たえると、ドゥソブが連れてきた女性が突然キソのいる部屋に入ってくる。キソは誰かに邪魔をされることが耐えられず、荷物を手に宿を出ると、自然と足はポムの家へと向かっていた。その頃、ヨンシンとポムは並んで布団に横になり、ヨンシンの再婚について語り合っていた。
「ママは結婚したくないの?」
「正直言うと、おじいちゃんとポミとこのまま暮らせたらいいな」
「正直言うと、未婚の母の娘じゃ嫌だな」
「未婚の母の何がいけないの?ママは人を愛してポムを産んだわ。
結婚は事情があって出来ないこともあるの。
ポムも良く分かってるでしょ?思ったとおりにいく、人生は?」
「ううん、私の思ったとおりにはならない、人生は。」
「ほらね」
「未婚の母の娘の辛さはわからないでしょ」
キソは黙って玄関先に座り、二人の話を聞きながら思わず微笑を浮かべる。ポムがヨンシンに唄う子守唄を聞きながら、そのままキソは眠りに落ちる。
翌朝、ポムが一番に目を覚まし、トイレに向かうが、玄関で寝てるキソに全く気づかない。次に起きだしたミスター・リーは、玄関先で座ったまま壁に持たれかかって眠るキソに気がつく。
「兄さん!兄さん!どうしてここで寝てるの。部屋で寝て。暖かいところで寝て」
キソの履く靴を脱がせると、キソをひきずり、ヨンシンの隣に寝かせるミスター・リー。体が冷え切っていたキソは“ああ、寒い”とポムの寝ていた布団にもぐりこむ。ミスター・リーは、“おやすみなさい”とお辞儀をするとアコーディオン片手に出かけていく。キソが咳き込む声に、ヨンシンは当然隣に寝ているのはポムだと思い、抱っこしてあげる、とキソを抱き寄せる。トイレから戻ったポムが布団に戻ろうとすると、自分の布団に男性が寝ていることに驚き、慌ててヨンシンを起こす。
「きゃ!何??
ポム、この人どうしてここで寝てるの?」
「知らない。トイレにいってきたらママが抱きしめてた。
こうやって…」
「ポミだと思ったのよ、頭が大きかったんだもん」
夢かもしれないから頬をつねって、というヨンシンに、ポムは泥棒おじさんだよと落ち着いた様子で答える。我に帰ったヨンシンは、ポムの布団で寝入っているキソに声をかける。
「ちょっとおじさん!
ちょっとおじさん!なんでここにいるの?」
なかなか目を覚まさないキソの頬をつねるヨンシンに、キソは驚いて起き上がる。事態が把握できていないキソは周りをじっと見回すと、自分が眠っていたのはポムの布団だったと気がつく。
「何でおじさんがここに?」
「お母さん!
部屋を貸したら暖房をきちんとしてくれなきゃだめでしょう?
俺が使ってる部屋の練炭、どこへやったんです?寒くて眠れなかったよ」
「それは…」戸惑ったようにつめを噛むヨンシン
「凍え死ねと?」
「昨日あのまま出て行かれたから気まずくて戻らないかと…」
こう言いかけて口ごもるヨンシンの隣にいるポムにも声をかけるキソ。
「それとお前!誰が泥棒だって?あれお前のか?」
「いいえ、おじさんの恋人の」
「俺は泥棒か?」
「いいえ」
「もう一度いってみろそんな言葉…、ポムドンと仲良くやるか?やるよ、お前に」
「本当?ポムドンとは絶対ケンカしません!」
ポムドンをもらえることになったポムがはしゃぎだすと、キソは“ああ、気持ち悪い”と布団をかぶって狸寝入りをする。
ポムドンを譲ってくれたキソのためにはちみつ湯を用意するポムと楽しそうに話すヨンシン、二人は祖父がまだ起きていないことに気がつき、ポムが様子を見に行く。祖父の姿が見えないことを心配したヨンシンとポムは、急いで探しに出る。
自転車で島内の地理を視察していたソッキョンは、海辺の埠頭でアコーディオンを演奏するミスター・リーの姿を見かけると、自転車から降り、優しく語りかける。上手く弾くことができなくなってしまった曲を、ソッキョンが演奏してあげる様子に嬉しそうに耳を傾けるミスター・リーだったが、風のいたずらでソッキョンの帽子が飛ばされたのを見つけると、急いで帽子を追いかける。ソッキョンが気づき、“おじいさん!”と大きな声で呼び止めるが、帽子を追っていったミスター・リーは海へと転落してしまう。
ポムとヨンシンの部屋で目を覚ましたキソは、チミンの会いたがっていた少女ポムの暮らす部屋をゆっくりと見つめていた。起き上がり、外に出るキソの目の前に、ずぶぬれになったソッキョンが気を失っているヨンシンの祖父を背負って現れる。祖父を探していたヨンシンとポムも戻り、祖父が運び込まれる部屋へと急ぐ。オ医師と看護士が到着し、その後祖父の容態が急変し、脈が弱まり血圧が下がり始めると、オ医師は懸命の治療を続ける。原因が分からないオ医師は、外にいるキソのことを思い出し、外に出るとキソに話しかける。
「ミン・ギソ先輩ですよね?オ・ジョンスといいます。
お父様のミン教授にご指導を受けました。ご名声はうかがっております」
キソは全く聞く耳を持たない様子で、犬小屋の中にいる犬に向かって自分の靴を返せと話し続ける。
「5つ数えるぞ!1,2,3!
お前高血圧だろ。いい塩の入ったものを食わなくちゃ。
Naclじゃなくて
Kclが多いのを」
このキソの言葉にミスター・リーが不整脈を起こした原因に気がつき、オ医師は急いで部屋に向かい、治療を施す。治療の甲斐あって、夜には元気を取り戻したミスター・リーはポムと囲碁を始めていた。ポムとの勝負で苛立つミスター・リーは、ソッキョンはヨンシンの友達だ、ソッキョンを呼んできてと言い、ヨンシンは自分のことも、ポムも、ヨンウも覚えていない祖父がソッキョンを覚えていることに驚きを隠せない。
その夜、キソと待ち合わせた酒場へとやってきたソッキョンは、気になっていたことをキソに尋ねる。
「ヨンシンの家にどうして?」
「まぁ、たまたま成り行きで」
「ヨンシンは料理も上手だし、綺麗好きで、優しい子だし。最高の宿を探しましたね。
いつまでいるの?ここを発つまで?」
うなずくキソにいきなり封筒を差し出すソッキョン。キソが封筒の中を見ると、そこには大金が入っていた。
「ご存知でしょうが、ヨンシンは若いのに女で1人で子供を育て、
おじいさんを介護し、まだ若いのに一人で全部背負って、1人で耐えて。
このままではそのうち倒れてしまうだろう。
死にそうになっても、助けてと声にも出せない子なのに。
お前が守ってくれるか?ヨンシンの側にいて助けて守ってやってくれ、お前が。
おじいさんも今日のような事故をまた起こすだろう。
ヨンシン1人では荷が重過ぎる。力仕事ならなんでもするっていったろ?」
「お前がしろよ。そんなに心配ならお前が」
「いや、出来ない、出来ないんだよ」
「一種のねぎらい金か?」
「足りなければ言え。いくらでもだすから。転んだら助けて起こし、
怪我をしたら手当てをし、助けてとさけばなくてもお前が手を差し出し
もし泣いたときは涙をふいてやってくれ。おじいさんも、ポムも…
ポムも父親のようにみてやってくれ」
ここまで話すと、ソッキョンは酔いつぶれて眠ってしまう。返せなんて言うなよ、と封筒を胸ポケットにしまうキソは、ふらふらとポムの家へと戻っていく。夜空の下、ヨンシンが1人みかんの箱を運んでいた。
「いつ来られたんですか?」
「今ですよ。手伝いますか?」
「いいえ、もう終わりますから。お酒たくさん飲んだんですか?」
ヨンシンと他愛もない会話を交わした後、キソがシャワーを浴びていると、どこからかチミンの声が聞こえてくる。
「つらいの?何がそんなにつらいの?
何がそんなにつらいのよ?弱虫 意気地なし バカ」
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