シャワーを浴びているはずのキソが笑い声をあげる様子に、何も知らずにただキソを心配したヨンシンは、大丈夫ですか、と声をかける。ヨンシンに声をかけられ、一気に現実に引き戻されたキソは無性に苛立ち、ヨンシンに“おばさん変態か?”と怒鳴りつける。恥ずかしがって布団にくるまるヨンシンをポムが心配するが、事情を話さず“宿題をしなさい”とだけ言うとまたヨンシンは顔を赤くして布団に隠れる。
翌朝、ヨンシンは落ち着かない様子でキソの朝食を持ってポムと一緒にキソの部屋へと届けにいく。ポムが“おじさん、ご飯ですよ!”と大きな声で呼びかけてもキソの返事は無く、部屋の中にいる様子が全く感じられない。
「あら?出て行ったのかな?ソウルへ帰っちゃえばいいのに」
安心したように言うヨンシンをポムはいぶかしげに見つめ、もう一度キソに声をかけてみた後扉を開けると、そこにはキソの鞄が置いてあることに気がつきポムは喜んでヨンシンに
、鞄がある、ソウルに帰っていないよと伝える。
「誰が2泊も3泊もしていいって言ったの?」
「誰に言ってるの??」
昨夜のキソとの出来事に恥ずかしい思いをしたヨンシンは、キソがいないのをいいことに、キソに対する文句を吐き出し始めると、そこへキソがジョギングから戻ってくる。
「暴力の前科があるのは確かだけれど、女に手を出した記憶はないよ」
キソはヨンシンが手に持っていた朝食をじっと見ると、朝はご飯を食べないんだと言い出し、これから朝食はトースト2枚とコーヒーを1杯とヨンシンに注文をつける。喜んだポムがこれから家にずっとずっ〜といるのかと尋ねると、うん、と頷くキソ。
「完熟卵は嫌いだ。これからは半熟にして」
“トーストとコーヒー”に魅力を感じたポムは私もこれからはトーストとコーヒーにすると浮かれているが、ヨンシンは更に苛立っていた。
「誰のためによ?誰のため?トーストとコーヒーなんて無いの、家には!」
主人に聞きもせずに長居するつもりなのかと、キソを追い出しに行こうとするヨンシンをポムが引き止める。そんなポムにヨンシンはポムドンを百個でも千個でも買ってあげるからと諭し、キソに出て行ってもらう決心は揺るがない。ヨンシンがポムを叱っているところ、キソがやってくる。もう出て行って欲しいと言い出したヨンシンに、封筒を手渡すキソ。
「最長で1ヶ月の予定です。1日10万の計算だ、もっと必要になったら言ってください。
それと、臭いのするものが苦手ですから。
塩辛、チョングッチャン、古漬けキムチみたいなもの。ね」
キソが出て行くと、キソに渡された封筒の中の大金を見てヨンシンは思わず声を上げる。
「あのおじさん、人を馬鹿にして...」
一度はお金を返しに行こうとするヨンシンだったがふとポムの方に振り返る。
「娘よ、店に行ってパンとコーヒー買ってくる?
まあ、どうせ使ってない部屋だしね...何?あなた、何考えてるの?
ママがお金のために気が突然変わったとでも?
そうね、もちろんおじいちゃんの薬代も、、、
そうよそうよ、ママはお金が好きよ。
非難して頂戴。お金の嫌いな人がいたら連れてきて」
黙ってヨンシンを見ていたポムは、“ママ、私何も言ってないのに”と遠慮がちに口にする。ポムは嬉しそうにキソに“ママがトーストとコーヒー買ってきてだって。うちにいてもいいんだよ。嬉しいでしょ?”と伝えにいく。キソはチミンのことを思い出していた。1日2万でいい、と残りのお金をキソに返すヨンシンをじっと見ていたキソはチミンの最後の言葉を思い出していた。
「きっと許してくれる。とてもいい人そうだったもの、その子のママ」
ソッキョンとの約束の場所に向かって歩くキソの後をポムが大きな声でキソを呼びながら息を切らして走ってくる。
「一緒に行こう、おじさ〜ん!一緒に行こう!」
「なにそんなに走ってる?誰かに追われてるのか?」
こんなに呼んでいたのに、どうして無視したのと、弾む息を抑えながらキソにどこに行くのか、一緒に行こうと語りかけるポム。
「お前はどこへ?」
「学校。おじさんは?」
「今何時だと思ってる?学校に行くのに...」
「遅刻です。大丈夫、私毎日遅刻だから」
「先生は怒らないのか?」
「あきらめたんだって」
「ママは?」
「ママもあきらめてるよ」
「お前“やけくそ”か?人生捨てたのか?先生は、ママは、何してるんだよ。
毎日遅刻するのが自慢か?まだ幼いがせめて生きてる間は...」
思わず口を閉ざすキソ、きょとんとしているポムに早く行け、と言うが、ポムは“やけくそ”って何?と学校に向かって歩かない。質問に答えず、早く行けとポムを見送るキソだが、スピードを出して走ってくるバイクを見つけると、思わずポムを抱き上げる。ポムの鞄についた砂を払うと、地面ばかり見ないでこれからは前を向け、とポムに話し、後姿を見送った。
ソッキョンの車に乗り込むキソ。
「聞きたいことがあるんですが。
私の下宿のおばさん、あなたにとって女なんですか?
...別に答えなくてもいいですよ」
キソの質問にソッキョンは無表情でただ一言“いいえ”と答える。目的地に着いたソッキョンは車を止めると、野球の金属バッドをキソに手渡し、10分で戻らなければ助けに来てくださいと伝えて倉庫の中へ1人で向かっていく。10分を過ぎても戻らない様子に、キソも倉庫の中へ向かうと、ソッキョンが若者1人を助けるために数人のグループと
激しい喧嘩をしていた。上司であるソッキョンの言いつけ通り、ソッキョンを助け、キソは怪我を負う。チュンテという少年を救った事情は、会社が買収しようとする土地の売却を拒む5人を説得するために、5人を手玉に取る人物であるチュンテの母に自分たちを信頼させるためだった。ソッキョンの車の中で事情を聞いたキソだったが、深い傷を負ったため、ひどく出血してしまい、これに気がついたソッキョンは急いでキソを診療所に連れて行く。
診療所で、オ医師はキソの傷口を診ようとするが、キソはこれを拒否して自分で傷口の消毒を始める。
「縫合セットをくれ」
看護師のソランにしか話しかけないキソの態度に傷ついたオ医師は、もう一度最後に聞きます。私を無視されるんですか?と言うが、相変わらずキソは返事をしないため、医者を辞めると言い放ち、白衣を脱いで診療所を出て行ってしまう。自分で縫合を始めるキソをソランとソッキョンが不安そうに見守っていた。時間が経って縫合が終わった頃、心配したオ医師が戻ってくる。冷静に話そうとするオ医師だったが、その場に水をさすようにパク
氏が酒に酔った状態で大声で叫びながら診療所へやってくる。オ医師とキソを逆恨みしているパク氏は、死ぬつもりで薬を飲んだと大騒ぎを続け、静止しようとするオ医師に“ヤブ医者め!”と暴言をはく。
「そうだ!俺はヤブだよ!
ヤブ医者でも胃洗浄はできるし、傷も縫える。わかったか!
(キソの方を向き)それに僕がいくら無能でもここまで人を無視できるのか?
名医は死ぬまで名医、ヤブは一生ヤブだって言うのか?
あんただって結局恋人を救えずに死なせたじゃない…ですか」
思わずキソに対して口走ってしまったことを気まずく思ったオ医師はその場を去っていく。その後も“死んでやる”と騒ぎ立てるパク氏に向かって“死にたければ死ねばいい”と
キソは冷たく突き放すと、無理をして立ち上がり、診療所を出ると、側についていたソッキョンに下宿まで送って欲しいと頼む。 様子を見守り続けたソッキョンはキソが医師だったと気づき、本人に尋ねる。
「医者なの?」
「質問は受けませんよ。質問はお断りです。車を出してよ、早く」
大声で騒ぎ続けるパク氏を心配し、胃洗浄をしなければというソランに、パク氏は実は薬を飲んだのは嘘だったと正直に話す。ソランから電話で事情を聞いたソッキョンは、キソに気がついていたんですねと話しかけるが、返事もしない様子に、もう質問はしませんと
それ以上話すのをやめるの。
暗い空の下、ソランから連絡を受け家の外に出てキソを待つヨンシンの姿に気がつくキソは“下宿のおばさんだ”と安心したように言
う。ヨンシンに大丈夫ですかと聞かれると、大丈夫じゃありませんと答え、手を貸そうとするヨンシンを振り払い1人で歩き出そうとするが、倒れそうになる。
「絶対動かず安静にしていなさいって...ほら、死にそうな顔してるのに」
ふらつくキソを支え、家に連れて行くヨンシンの後姿をソッキョンは車から降りずにじっと見ていた。キソを部屋に連れて行き、急いで布団
の用意をするヨンシンは部屋の隅で座り込むキソに横になるようにと話す。
「分かったから出て行って」
「横になるのを見てから出ます」
「横になるから出て行ってって」
「横になるのを見てから出ますって。
ソラン先輩にちゃんと監視してって言われてるから」
「俺が犯...俺が犯罪者だから監視するのか?
なら一緒に寝ましょうよ。
監視するんでしょ。横に寝たら監視もできるでしょ、楽に」
ヨンシンの手を握ろうとするキソの態度にヨンシンはあわてて部屋を飛び出していく。車
で待つソッキョンのところへ向かい、横になったのを見て出たから心配しないでと伝えるヨンシン。何かあったら電話してくれ
と言い車を出そうとするソッキョンを呼び止めるヨンシンは、家にあがらないで車にいたのは、私の家だからなの
かと尋ねる。何も答えずにソッキョンが去っていくとすぐに、別の車のヘッドライトがヨンシンを照らす。
車から降りてきたのはソッキョンの母だった。ヨンシンを責め立て、ヨンシンの生き方非難するソッキョンの母
は、この島をいつ出るのか、おじいさんとポミを連れて出て行け、と無謀な事を要求する。
「申し訳ないけれど、
ここを離れたらおじいちゃんはどうなってしまうでしょうか?
おばあちゃんと私の両親がこの海に眠っていて、それを覚えているから、
ここでないとおじいちゃんは生きていけないんです。
ここはおじいちゃんの命だから。何でもします、おばさんの言うとおりに。
ここを立ち去る以外なら何でも言うとおりにします、約束します」
涙を流しながら訴えるヨンシンにソッキョンの母は、早く結婚しろ、ソッキョンよりも早く結婚しろと見合い相手の話を始める。理不尽な要求をするソッキョンの母と、言い返すことも出来ないヨンシンとの全て
のやりとりを、キソは黙って聞いていた。
ポムを寝かしつけながらポムに歌いかけるヨンシン。
「あなたは誰ですか
?私はヨンシンです。
ただのヨンシンじゃなく、ポムのママのイ・ヨンシンです。
だから力持ちで、めっちゃ丈夫で、超たくましくて、痛くても顔をしかめず、
どんなに悲しくても泣きません。信じないかもしれないけれど本当です。
完璧すぎて嫌味でしょ?」
そこへソランが体温計と薬を持ってヨンシンを尋ねてくる。体温を1時間ごとに測
るようにとヨンシンに伝えるソランに、ヨンシンは出来ない、怖いよと看病を断る。腹膜炎を起こすと死ぬかもしれない
と言うソランは、思い出したようにキソの恋人の話を始める。ソランの話から、キソの恋人だった女性がすい臓がんを患い、キソが手術をしたにもかかわらず命を失ったことと、キソが罪悪感から医者を辞めたことを知ったヨンシンは、船の中でポムにクマのぬいぐるみを贈ってくれた女性のことを思い出す。
キソの深い悲しみを知ったヨンシンは、放っておくことができず、キソの眠る部屋に熱を測りに
向かう。布団に入らず床の上で寝転がるキソのおでこに触れるヨンシン。目をさましたキソは、ヨンシンに出て行ってくれ、大丈夫だからと強がる。腹膜炎を起こすと大変だというヨンシンに、俺は医者だ
、俺の体は俺が分かるから出て行けと苛立つキソ。
「かんしゃく起こさないで。布団に横になってください」
それでも動こうとしないキソに、ヨンシンはそれなら一緒に寝るから、一緒に寝るならいいでしょうと自らも布団に横になる。意地を張るのをやめてとうとう布団で眠りについたキソ
を、ヨンシンがこまめに熱を測り、タオルで頭を冷やしたりと、看病を続ける。少し楽になり、目を覚ましたキソは、隣に眠
っているヨンシンが声を上げて泣いている様子に、ヨンシンの胸の痛みを感じ、彼女の涙を拭こうと手を伸ばす。
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