【テハとテギル 宮殿から脱出】
宣恵庁の騒動で騒然とする中、チョルンの部下ら追っ手を倒し身を隠したテギルとテハは、官軍の目を避けながら
逃亡を続ける。
テギル:世子の罠か?
テハ:これが罠ならば、はるかに多くの兵が来るはずだ。射手さえいない様子をみると...
テギル:罠ではないと?
テハ:ああ...
テギル:狼をよけたら虎の口に入っちまったわけだ
テハ:どういう意味だ?
テギル:罠でなければなぜここに俺たちがいると分かる?ファン・チョルンの奴、お前の考えを
見透かしてるということだ...行くぞ!
【テギル
かつての下宿先へ】
テハと共にかつて暮らしていた下宿先へ向かったテギルは、暗い部屋に身を潜めると、密かに若女将を呼び、食事の支度を頼む。若女将が部屋を出ると、テハは襖越しにテギルに語りかける。
テハ:他にも漢陽で助けてくれる人はいるのか?
テギル:チュノ師を助ける奴がいるか?恨みつらみで、いたるところ敵だらけだ
テハ:では、宣恵庁の火事は我々とは関係はないのだな?
テギル:気にする奴がいるか。野次馬でもあるまいし
テハ:ここの女将は信用できるのか?
テギル:役人よりはずっとマシだ。人情は厚いしな
テハ:そのように罵倒するな
テギル:イライラするぜ…これだけやられても分からないのか?
テハ:中には正直な両班や高潔な役人もいるであろう。一部だけ見てすべてを悪く言うのはよくないぞ
テギル:ザリガニはカニの味方か
テハ:そなたも両班出身ではないか
テギル:ああ、そんな時代もあったな。だがな、町で同じ釜の飯を食い、同じ服を着るうち、皆同じ庶民になるのさ。結局両班を作るのは族譜じゃなく、あの服だな。両班の服さえ着ていれば、偉そうに見えるんだ。それがこの世の真理だ
テハ:そなたが真理を悟るため、ひっきりなしに戦い続けたことがあるか?戦えども、戦えども、どうにもならず、跪き受け入れたものこそ真理だ...
テギル:つまらない生き方だな 理屈っぽいぞ、奴婢さんよ...
【オッポク 奴婢組率いるリーダーと】
山中で次の戦いに備えるオッポクは、浮かない表情でリーダーに問いかける。
オッポク:今まで両班を殺してきたが、今日初めて人を殺してしまった…。カンアジ(子犬)とまで名前を教えてくれたのに
リーダー:犠牲のない勝利がどこにあります?キユンという男も死にました。
オッポク:え?
リーダー:私が殺しました。兄上たちが集めたお金を着服していました。手形を換金したり、銃を作るたびに…
オッポク:ではあのとき壷に入っていた金は!そうだと思ったよ。とうとう手癖が直らなかったな
リーダー:味方も、我々の手で殺さなければならないときがあります。それに耐えてこそ、我々の世が作れるのです
オッポク:俺たちが勝ち、両班をこき使ったら、今と違いはないのでは?
リーダー:身分差のない世の中など、決して来る日はないでしょう。誰かが力を持てば、必ず誰かが搾取される。その力を我々が持つのです兄上
オッポク:力を持っても、搾取しなければいい。何と言ったらいいか...制度を変えるとか
リーダー:人は制度を変えられるといいますが、制度は人を変えられません
オッポク:は、はい…そうおっしゃるなら、そうでしょう。私にはさっぱり…
その夜、奴婢の服装に身を包み、オッポクらを煽る男は、本来の両班の姿で左議政イ・ギョンシクの前へ姿を見せる。男の報告から事が成功したことを知ったイ・ギョンシクは、高々と笑い声を上げ、男は報酬として土地や官職の地位を受け取ることを約束する。
その頃、山に身を潜めて仲間と共に次の指令を待つオッポクは、国を相手に戦うことに次第に疑問と大きな不安を抱き始めていた。
【ヨンゴルテ 使臣館で】
清国からの使臣ヨンゴルテは、テハも部下も戻ることなく、警備に訓練院がついていることを知り、テハと共に王孫ソッキョンを連れ、朝鮮を発つことを決意すると、出発の場所と日程がテハの耳に入れるため、噂を流すよう部下に指示する。
【テハとテギル 隠れ家】
自分が見張っている間少し寝るようにとテギルに声をかけるテハに、テギルが問いかける。
テギル:清国へ行くのか?
テハ:行かなければな
テギル:どうやって?
テハ:使節団と船に乗るつもりだ
テギル:あてもないことを言うな。使節団に会って“乗せてください”といえば乗せてくれるとでも?
テハ:使節団からすでに乗ってくれと言われたのだ
テギル:なら、出発の日を約束してあるのか?
テハ:使節団から連絡が来る
テギル:いつ?お前の居場所をどうやって知る?
落ち着いたまま、冷静にテギルの目を見据えるテハ。
テハ:そなたは兵法の知識があるか?
テギル:もったいぶってないでハッキリ言えよ
テハ:戦争の経験もないだろうな…。人間の想像をはるかに超えることが、戦場ではよく起こるのだ。すべての線が切れてしまったときでも、連絡を取る方法などいくらでもある
テギル:お前の言葉がな、確かならいいが…
【イ・ギョンシク 仁祖王に上申】
自らが影で全てを操ることを隠しながら、宣恵庁での暴動が奴婢の反乱の前兆であると仁祖王の前で主張するイ・ギョンシク。
仁祖王:奴婢が加担していたとしても、奴婢が主導したとは限らない
イ・ギョンシク:頻繁している両班への襲撃もやはり、奴婢の仕業のようです
仁祖王:推定だけで大規模な推奴や戸籍整理はできぬ。無理に事を進めれば国力が消耗し、民の不満が募ることは予測できぬのか?
王の言葉にも、イ・ギョンシクは自らの主張を曲げることなく、大規模な推奴を行い、戸籍を整理し労役を逃れた流民を捕らえるべきであり、10万近くの奴婢たちを北の築城現場に送り 清との戦いに準備すべきだと続ける。仁祖王はこの言葉にもうなずくことなく、今後もし反乱に兆しが見えたときに考慮すると答える。
【チョルンの実母 宮殿へ】
テハを逃したことで苛立ち、部下を罰するチョルンの元へ、チョルンの母が訪ねて来る。
−なぜこちらへ?
やつれた様子の息子の頬に手を伸ばすチョルンの母。
−心配でじっとしていられなくて…漢陽で事件が起こったと聞いたものだから
−大したことはありません。心配なさらないでください
−この頃家にも寄らないし、仕事が忙しいから仕方ないだろうが..
突然咳き込む母親を心配するチョルン。
−大丈夫ですか?
−私は大丈夫よ お前は何か変わりない?忙しくても無理をしないで。角を立てずに生きるのが一番だよ
−薬は飲みましたか?
−薬なんて…ああ、飲んでいるよ、飲んでいる
持ってきた包みを開くチョルンの母。
−ほら、サクラソウよ。冬にはめったに咲かないのに見つけたの。寒さに耐え抜いて咲いた花だから、煎じて飲めば万病に効くわ。一株はあなた、一株は嫁に煎じて飲めば、体にもいいし、子供も…
−母上!
思わず母親に声を張り上げてしまったチョルンは、母の手を優しく握る。
−寒いのに花なんて探して歩くから、風を引くんですよ...
−だけど珍しいものだし、売っているものでもないのよ
−そろそろ戻らなければなりません。薬を飲んで、あたたかい部屋でゆっくり休んでください。部下たちにお供させます
【チョボク 嫁ぎ先へ】
男性の奉公人、そして牛と引き換えに嫁に出されることになったチョボクは、嫁ぐその日にオッポクの姿が見えず、不安な面持ちのまま、住み慣れた家を離れることになる。
【テギルとテハ】
若女将から町で流れる噂の情報を耳にしたテギルは、若女将が部屋から出ると、早速テハに問いかける。
テギル:聞いたか?どういう意味だ?
テハ:14歳の娘を、船で運ぶといったな
テギル:千か2千というのは何だ?
テハ:あいまいな数字は省くことが多い、期日は14日で、船ならば...
テギル:黄海を越えるのか?
テハ:......ならば江華島だ
テギル:当てずっぽうじゃないだろうな
テハ:港から乗ることはない。最も早いのは江華島だけだ。14日なら…3日しか残っていない
テギル:あり得ないな。3日で王孫を迎えに行き、江華島へ抜けるのは
テハ:馬をかりて走れば…
テギル:十中八九捕まるだろう。城を出る前に…
テハ:方法は…
テギル:チャッキに頼んでここまで連れて来てもらう
テハ:使いは?
テギル:使いは、若女将に伝言を頼めばいいことだ。龍仁あたりで落ち合い、江華に抜ければ間に合うかもしれないな
【オッポク 家に戻る】
夜に控えた掌隷院襲撃の準備を
終え、家に戻ったオッポク
は、家の様子が普段と違うことに気づき、チョボクが嫁いだと知らされ顔色を失う。怒りで冷静さを失ったオッポクは、庭で大声を上げ、家主を驚かせる。
−チョボクをどこにやったんです?何も言わずにどこへ?なぜ勝手に嫁がせたりする?俺たちは獣じゃない!
大声を張り上げ、騒ぎ立てるオッポクは、主の命令で他の奴婢たちに
取り抑えられる。
−チョボクをどこへ売った!お前らが何様で、人を思いのままに売ったりする!お前は何様だ!
年上の奉公人に諭されながらもこみ上げる怒りが抑えきれないオッポク。
−こんな人生死ぬこと何が違う!
−手を出せ、とりあえず、縛られていろ…
−おじさん、パンチャクを連れて逃げてくれ
。あの家の主人は俺が殺した!
−何だと?
カマを手に仲間を振り払ったオッポクは、“ついてくるな!”と叫ぶと、迷わず主人の部屋に向かう。カマを手にしたオッポクの姿に震える主人。
−お、お前…ここをどこだと?
−俺の話をしっかり聞け!俺たちは人間か?
−(外に向かって)おい!誰かおらぬか!
−俺たちも間違いなく人間なのに、なぜ勝手に売り買いする?チョボクはどこにいる!!
−貴様…私の恩を忘れたか?…私が傍若無人や横行闊歩など無縁だろう?アリにも忠誠心があるのに、なぜこのような蛮行を?何
のつもりだ?“忍”の字を100回刻めば殺人を免れるというだろう?
−分かるように言え!
−い、命だけは助けて…チョボクは南山のファン先達の家だ
恨みの募ったオッポクの怒りは頂点に達し、とうとう手にしたカマを主人に向かって振り下ろしてしまう。
家を後にし、チョボクの嫁ぎ先に向かうオッポクの前に、仲間のクッポンがやってくると、その夜の掌隷院襲撃
時刻についての話を始める。クッポンの話には答えることなく、オッポクはチョボクのために逃亡奴婢の村の場所を
確認し、すぐに走り出す。
【テギル テハ】
地図を見ながら抜け道を検討するテハとテギルだが、意見が合
わずに苛立つテギル。
テギル:だったら適当な場所に落ち着けよ
。何でわざわざ清だ、清!
テハ:生きるために逃げることはあっても
、隠れて生きたりしない
テギル:どういう意味だ?何故だ?
テハ:そなたは世の中を恨んだことがあるか?
テギル:世の中を恨まない奴はいるのか?
テハ:それが理由だ…。(地図を指差し)ここは路地も多いが隠れやすい。お前はここへ
、私はここに走り、射手を抑える
テギル:虎を放ち
、猟犬をおびき出すつもりか?
テハ:そなたが虎であることを願うぞ
【オッポク チョボクの元へ
】
その夜、ファン先達の家にたどり着いたオッポクは、塀を乗り越え、庭に
入り込むと、大きな声でチョボクの名前を呼び続ける。そんなオッポクの声を聞いたチョボクは、部屋を飛び出
し、オッポクの声のする方へ急ぐ。騒動に気づいたファン先達の家の奴婢たちが
集まり、オッポクの行く手を阻むが、オッポクは銃を手に“動いたら撃つぞ”と怯まずにチョボクを呼び続ける。
−おじさん!
オッポクの姿を見て駆け寄るチョボクを、強く抱きしめるオッポク。
−何をしていた?逃げればいいものを...
−逃げたらおじさんが私を見つけられなくなるかと思ったから
オッポクはチョボクの手を握り締め
ると、その家を飛び出していく。人気のない山中までたどり着いた二人。
−行け!
−どこへ?
−月岳山の霊峰に行くと、逃亡奴婢の集落がある
−おじさんは?
−俺は戦いに行かないと
−私も戦うわ!
−行けって!
−嫌よ
−どうして言うことを聞かない?お前にはもう戻る家がないんだ。あの家もこの家もだめなのに、ついてきてどうする?
涙を浮かべたままオッポクを見つめるチョボク。
−チョボク、ご主人様は俺が殺した。お前を売った罪は俺が償わせたから、先に行ってろ
−今日掌隷院へ行くの?
−もうすぐだ。時間が迫っている
【奴婢組 掌隷院付近】
夜の攻撃のために集まっていたクッポンたちは、200人ほど集まるはずのメンバーがまだ来ないことに不安を覚えていた。そんなクッポンらに、リーダーの男が突然“始めましょう”と声をかける。
−え?時間でもないし、オッポクもまだきていませんよ?200人も集まっていないのに…
リーダーの男の目つきが変わり、冷笑しはじめる
と、不審に思うクッポンをよそに突然銃を手にして攻撃を始める。
−何をするんです!
−私たちだけでどうするんです!
豹変した男は、奴婢の一人の老人を無残に斬ってしまう。
クッポンらが騙されたことに気づいたときには、すでに官軍に包囲されていた。
かすかな希望を胸に、大きな陰謀に加担させられた奴婢たちは、次々に命を奪われていく。
【オッポク チョボクとの別れ】
−ご主人様を殺したなら、おじさんも帰るとこがないじゃない
−チョボク
、俺たち、逃げて二人で暮らそうか?俺は狩りをして、お前は畑を耕し、虎を捕まえて高く売ったら、花見も行って、川遊びも行って、そのうち子供も生まれて...二人で、そうやって暮らすか?そうやって生きるか?誰も知らないところで二人だけで…
−いいえ、世の中は誰
がかえるの?行って戦わなきゃ
−ありがとう
。そう言ってくれて
オッポクは手にしていた銃をチョボクに持たせる。
−お前は俺よりずっと賢いから、きっとたどり着けるよ。途中で誰かに襲われたらこれで撃つんだぞ
−来るでしょう?
−何を言う
。行くさ、当然行くよ。お前を一人にしてどうして生きていける?...俺、そろそろ行くぞ
チョボクとオッポクの瞳から、涙がとめどなく
溢れる。
−気をつけてね
オッポクは、チョボクの涙を拭
くと、名残惜しそうにしながら背を向け歩き出すが、再びチョボクのほうへ振り返り駆け寄ると、別れを決意したようにチョボクにくちづけをする。
第22話 あらすじ / 第24話(最終話) あらすじ