「この地獄から逃れる唯一の道は
常に自らを守ることだけだ」
犯人からオスに送られてきた手紙の文章は、ダンテの「神曲」の中から、地獄の門の一部を引用したものだろうとヘインに聞かされたオスは、手がかりを求めて再びヘインの図書館に足を運ぶ。そこで、ヘインはオスに「月」のタロットカードの持つ意味を
伝える。カードの意図することは「待つこと」であり、カードに描かれている通り、今(置かれている状況)は夜であり、何も見えないために夜が明けるまで待てということと、謎めいたことが起こること、ただその謎に対してできることは何も無く、動くほど混乱するので今は待てという意味だとオスに伝えるヘイン。
−もし、待たずに動いたら?
−人が…死にます。(カードの)中央にいるサソリが死を意味します。待たずに動くと赤いサソリに刺されると…。これ以上捜査するなという意味では?
ヘインの問いかけに、犯人の目的は別のところにあると考えているオスは、ヘインの憶測を否定すると、残像で見たのはこの男ですか、とソン・ジュンピョ記者の写真を見せる
。ところがヘインの記憶の中の男性の顔と写真の男性とは全く違っていた。弁護士のオ・スンハから、ソン記者がヘインを尾行していることを聞いていたオスは、事実をヘインに伝え、気をつけてほしい、とヘインを気遣う。
一方ソン記者は、12年前の学校での傷害事件
の記事について、当時その記事を書くよう指示した叔父を訪ねる。カン・オスがカン・ドヒョン議員の息子であると知ったソン記者は、学校に有利な記事を書いたのは、実はカン議員のためだったことに気がつき、自分の人生を踏みにじったカン議員を擁護するような記事を書いてしまった事実に愕然とする。
ソクジンのマンションにいるスンギは、二度目の差出人不明の宅配を受け取る。オスが言っていた犯人からの宅配と思われるものが、再び自分宛に届いたことに恐怖心を抱いたスンギは慌ててオスに電話を
かける。呼び出し音を聞きながら荷物を開いたスンギは、中にある写真が、オスの兄ヒスと、ソクジンの恋人らしき女性がカン家から一緒に出てくる姿が映ったもの
だったことから、オスの問いかけに言葉を濁し、あえて事実を伝えずに電話を切ってしまう。スンギはその写真からソクジンとナヒの関係を察知したのだった。その頃、ソクジンの元にも新たな写真が届くが、ソクジンはすぐに破り捨ててしまい、オスには一切連絡をせずにいた。
一方、テフンの弟テソンの消息に納得ができないクァンドゥは、かつての刑事仲間から、テソンの死因が交通事後だったこと、そしてテソンの顔も確認できないほどの状態だったことを聞かされる。同じ頃、ソン記者もまたチョン・テソンの消息を探っていた。
その頃弁護士のオ・スンハは、警察署に拘留されているソラの母親と面会していた。ガス銃は誰が送ってきたのか、誰が何のために、と興奮するキム・ジョンヨンを前に
、スンハは“あまり考えすぎないでください、有利な証拠があるので刑は軽いでしょう”と穏やかに答える。その言葉にソラの母親は安心せず、“私はあの人を殺したんです、殺したかったんです
、誰かがガス銃を送ってきたせいで、こんな目に、その人が憎い”と泣き崩れてしまう。そんなソラの母の涙を見たスンハは、押し黙ったまま悲痛な表情を浮かべ
る。その夜、スンハが向かったのは教会の告解室(懺悔室)だった。心が暗闇の中に閉ざされたままのスンハは、一言も話すことなく、教会を後にする。
オスとミンジェは、ヘインが残像で見たコインロッカーがある地下鉄の駅で潜伏していると、コインロッカーで何かを取り出そうとするヨンチョルを見つけて駆け寄る。オスはヨンチョルから彼が取り出したばかりの封筒を奪い取ると、ヨンチョルの制止も聞かずに
慌てて封筒を破り、書類を開いてしまう。中身はただの仕事用の原稿だったことで、オスが戸惑いを見せると、腹を立てたヨンチョルは
オスの手から書類を奪い返し、急いで立ち去っていく。慌ててヨンチョルを追うオスがヨンチョルに追いつき、ひきとめる。
−これは偶然だと...
お前がここに来たのが本当に偶然だって?
−原稿を取りに来ただけだ。
はぐらかすヨンチョルの襟首を掴むオス。
−そうじゃない!お前は俺がここにいるのを知っていてわざと来たんだろ!不安にまみれた俺の姿を見にきたんだろ?楽しいか?俺が振り回されているのが愉快だろ!
やるなら自分でやれよ...卑怯に他人を利用していないで自分でしてみろ!その手でやってみろ!
−同じだな...変わったことなど何ひとつ無い...今もお前は悪党だ!テフンも言ってた、お前は情けない奴だって
。今度こんなことをしたら警察に通報してやる。
事件の記憶に押し潰されそうになるオスに、12年前にどうすることも出来ず、封印してしまった一人の少年テフンの声が蘇る。
お前は卑怯者だ。
1人では何も出来ない避けない奴め...
事件の核心に近づきながらも確証をつかめないオスは、日々過去の自分を責め続け、不安と焦りから徐々に自分を見失い始める。オスは救いを求めるかのようにヘインの家へと向かう。事件について話し始めるオスに対し、ヘインはふっと微笑むと、事件と全く関連のない話題でオスの気持ちを和ませる。
−夕食は召し上がりましたか?
まだでしょう?空腹は短気のもとなんですよ。
オスがヘインの言葉に表情を緩めたとき、ヘインの家にソラの件で話し合いに来ていたスンハが顔を見せる。スンハの兄がソラを預ることになったと知ったオスが、スンハに語りかける。
−ソラをしばらくの預ってくださると伺いました。簡単なことではないのに、お兄さんはとても優しい方ですね。
−私の兄は世界で一番優しいでしょうね。
−羨ましいですね、優しい兄弟がい
らっしゃって。
−皆羨ましがりますよ。...ところで、ずいぶんお疲れのようですが無理をしないで下さい。犯人より先に倒れては大変です。
スンハの言葉に頷くオスは、ソラのことで親しそうに話し合う二人を見て複雑な想いに包まれる。
タロットカードの残像を読むヘインは、宅配は開店したばかりのコンビニエンスストアで出されたものであり、開店を祝うための風船のアーチとピエロが見える、とオスに伝える。終始沈んだ表情で思いつめるようなオスを心配するヘイン。
−今回来た手紙の内容は覚えていますか? 宅配を送った人は、カン刑事が
ダメになるのを見たいんです。自分を失い、混乱すること、それはまさに地獄です。自分を守るために一番重要なのは体力です。だから今日は何も考えず、ゆっくり寝てください。
−俺がダメになるのが犯人の目的なら、今のところ犯人の思うツボです。頭の中には同じことがめぐっています。犯人を追う資格が、そいつを憎む資格が俺にあるのかどうか
、しょっちゅう過去を振り返って、後悔しています。
ヘインが心配そうな表情を浮かべているのに気がついたオスは、ふと口元を緩ませ、笑みを浮かべる。
−俺を心配してるでしょ?
−いいえ?
−どうして心配しないの?俺は真剣なのに。
−カン刑事さんを信じてますから。
−行きましょう。
ヘインの言葉の通り、一度は家に戻ろうとしたオスだったが、門の前でためらい、
扉を開けることが出来ずに、肩を落として署へと引き返す。
珍しく酒に酔って帰ってきたソクジンに、スンギはナヒとソクジンの関係を知っていると匂わせるような言い方をしてソクジンを苛立たせる。
カン議員を擁護する記事を、かつて自分の名前で掲載してしまったソン記者は、気が治まらずに直接カン議員に接触する。ソン記者は12年前にカン議員の息子であるオスが起こした「殺人事件」について今からでも真実を暴きたいと対決姿勢で挑む。好きに書いたらどうだと
全く動じる様子も無いカン議員に、記者としての使命を果たす、とソン記者はあくまでも12年前の事件を「殺人事件」として公にする姿勢を崩さない。ソン記者の接触後、カン議員はソクジンに連絡
すると、ヒスには伏せてキョン社長という人物と連絡を取るようにと指示する。
一方、図書館でダンテの「神曲」を手に取り、残像を読むヘインは、犯人が赤い封筒に写真を入れる様子などを読み取りながら、
気力を失い始め、とうとう倒れてしまう。たまたまその場に現れたスンハが倒れたヘインを病院へと運び、疲労が蓄積していたヘインが眠る姿を
ベッドの傍で見守り続ける。この日を境に、二人はお互いに今ままで以上に好意を抱くようになる。
その頃オスらはオープンしたばかりのコンビニエンスストアを捜査するうち、宅配を依頼した人物へとたどり着くと、同じ場所からソン記者へ宅配が
発送されたことを突き止める。ヘインに早速連絡を取ったオスは、ヘインの携帯電話から聞こえてくるスンハの声に驚き、“ヘインさんが寝ているので代わりに出ました、またかけなおしてください”と
スンハが淡々と答える様子に、胸の奥から沸いてくる嫉妬心から、苛立ちを隠せない。
ソン記者は気にかかっていたチョン・テソンの消息について調査を続けていた。かつてテソンが事故に遭った現場の前にある店まで訪ねていくと、当時の様子を覚えていた老人に出会
う。その老人は事故の話は知らないが、その子たちは覚えている、と当時の様子をソン記者に語り始める。何か情報が得られそうな予感がしたソン記者は、
録音マイクを用意して老人の話に耳を傾ける。
−あの子たちのことは俺が覚えてる。ここに何度かパンと牛乳を買いに来ていたよ。いつも一緒にいたが
、かわいそうに、1人が事故で死んでしまって...あの運転手、今頃どこかでのうのうと暮らしているんだろう
。
−死んだ男子学生について他に何か覚えていますか?
−二人とも両親がいないのか、みすぼらしい格好をしていたよ。でもあの子達は気は優しかった。
−では一緒にいた友達が事故の通報を?
−そうだろうな。二人はいつも一緒だったから。
−その学生が今どこにいるかご存知ですか?
−分からない...。ただ、事故の翌朝店を開けたらそいつが1人でぼうっと立ち尽くしていた
。その日以降は二度と見ていない。
−よく覚えていらっしゃいましたね。
−そいつの名前が、小さい時に死んでしまったうちの次男坊と同じだったんだよ。でも変だったな...どうして1人なんだと聞いたら
、テソンは遠くへ行ったんですというんだ。変だよ、テソンっていうのは死んだ子供の名前じゃない。絶対きてる方が「テソン」って呼ばれていたんだ
。私の死んだ子供の名前がテソンだったんだ。
−おじいさんの勘違いですよ。亡くなった学生がテソンですから。
−もちろん聞いたさ、お前の名前はテソンだろうって。
〜いいえ。僕の名前はスンハです、おじいさん〜
−今名前は何だとおっしゃいました?
「スンハ」という名前を聞いて、全てが繋がったように感じたソン・ジュンピョ記者がマンションに戻ると、カン・オスがソン記者の帰りを待っていた。
−最近宅配を受け取りましたね?
−その前にカン刑事にお伝えしたいことが…。
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