ソン記者の帰宅を待つカン・オスの前に、とうとうソン記者が現れ、オスに話さなければならないことがある、と含み笑みを浮かべる。
−話してください。何です?
−今起こっている一連の事件の真犯人は、あなたたちには太刀打ちできない相手ですよ。なぜなら、その人物はすでにこの世の人物ではないからです。
−それはどういう意味です?
−死者を相手にする勝負など、はなから勝負の決まったゲームです。
−ふざけている時間はありません。隠さずに情報は全て話す方がソン記者にとっても良いはずです。
−確かに分かっていることがありますよ。ご立派なカン・ドンヒョン議員の息子オスは“殺人者”であるという事実、そして亡くなったチョン・テフンがカン・オスを苦しめ続けているという事実。カン刑事がその被害者の立場だったら、どうなさったでしょうね。命を奪われた上に加害者は正当防衛で無罪になり、母と弟まで次々と事故でこの世を去った。私が彼でも安らかに逝くことはできませんね。どのみち墓場から蘇ることがないとも言えません。
挑戦的な態度でオスを睨み付けるソン記者に、オスは冷静さを失わないよう、自分を抑え、聞いたことにまず答えてください、宅配を受け取りましたね、とソン記者に再び問いかける。宅配で届いたタロットカードは今お持ちですか、というオスの
質問に、ソン記者はタロットカードは届いていない、知らないと答える。ヘインの見た残像から、ン記者がタロットカードを受け取っていることを確信していたオスは、徐々に苛立ちが募る。
−そんなはずはない...あなたは確かにタロットカードを受け取っている。
−信じようが信じまいが、私は受け取ったこともありません。
−あなた宛に宅配が届いたことは確認されたんです。
−宅配は受け取りましたって…。ただ、中身は何もありませんでした。
−空箱が届いたと?
−そう、空箱ですよ。
−理由は何です?嘘を言う理由は何です?嘘を言う理由が一体何だと言ってるんです!
−自分が嘘をつく人間は、他人も嘘をつくと思うようだ。もし12年前私が真実を知っていたら、あなたに、いえ、カン・ドンヒョン議員に有利な記事を書くと思いますか!あれは大きな失敗でした。あなたと私は違うっていってるんです。話が終わったのならもうお引取りを。
−タロットカードは殺人予告で送られるものです。ソン記者の命に関わるということなんです!
−私を心配してくださるのはありがたいが、タロットカードは届いていません。
だいたい、あんたのような人間が刑事をやってること自体、コメディだと思ったことは?だからあんたみたいな人に守ってもらおうなんて考えはない。カン・オスという人間の方がもっと恐ろしい。...人を一度殺した人間は二度はできないはずはないからな...。
事の重大さに気づいていない様子の
ソン記者の態度に耐えかねたオスは、たまらずソン記者の頬を殴ってしまう。倒れこんだソン記者は、不敵な笑いを浮かべながらオスとカン議員を罵倒し続ける。
−何を言われてもいい...好きなだけ罵倒すればいい!あんたがどんな目的なのか知らないが、俺はあんたを死なせはしない。俺は刑事だから...それが俺の使命だから
。
−親父に伝えろ。人は必ず報いを受けると。
ソン記者に背を向けて歩き出すオスの脳裏には、12年前の父との会話が蘇っていた。
−警察に言うよ。わざと刺したんじゃなかったと...。倒れたときに偶然刺さってしまったと。
−私にまで嘘をつくのか?
−本当に事故だったんだ!俺が先に仕掛けたけ
れど、本当に事故だったんです!
オスの必死の訴えにも、父カン・ドンヒョンは、息子を少年院に行かせるわけにいかない、オス一人の問題ではない と、息子の話を全く受け止めようとしなかった。オスは望まない結果になり、自責の念が募るが、どうすることもできなかった。
翌朝、一睡もできずにヘインのところへ向かうオスは、ヘインから犯人が2箇所に宅配を送った
残像を見たことを聞かされる。「月」のカードと、男女が写った写真
が送られたのではとオスに話すヘインに、オスはソン・ジュンピョがタロットカードのことを隠していると確信するが、何故隠しているのか
が理解できない。事件のことを話しながら、前日ヘインの電話に出たのがスンハだったことが気になっていたオスは、率直にヘインに事情を聞いてしまう。
−ところで昨日はどこにいらしたんですか?オ弁護士の話ではヘインさんが寝てらっしゃるって...。
オスの少し拗ねた様な表情に、ヘインは微笑み、言葉を濁す。
−言いにくければ言わなくてもいいですよ。
−病院にいたんです。
−病院に?どうして?どこか具合でも?まさか倒れたんですか?無理をすると倒れるって話していたじゃないですか、そうなんですか?
−一晩寝ると元気になるんです。ほら、見て、何でもないでしょう?
−何でもない人がどうして倒れるんです?
−本当に大丈夫ですから、心配しないでください。
−どうして心配せずにいられるんですか?そんなの無理ですよ。今から事件のことも、タロットカードも
、何も考えず、ゆっくり休んでください。帰って、飯を食って、すぐ寝ること。僕の話分かりますね?
−それは出来ないですよ。出勤したいし、テレビも見たいし、ママとおしゃべりもしたいもの。私
、やる事がたっくさんあるんですよ。気をつけますから、だからそんなに心配しないで。
微笑むヘインに、オスは心配そうな表情のままポケット
に手を入れると、笛を取り出し、ヘインに手渡す。
−これ、見かけより役に立ちますよ。万一の護身用に。
ありがとう
、とオスから護身用の笛を受け取り、ヘインは足早に図書館へと向かう。歩き出したオスが笛の音に振り向くと、ヘインが嬉しそうにオスを見て笑っていた。
−いい音ですね。 電話ください!
その頃、オ・スンハの事務所にも差出人不明の宅配が届いていた。スンハは落ち着いた表情で箱を開けると、中には鮮やかな黄色の封筒
が入っていた。封筒に入れられていたタロットカードを取り出し、タロットの位置を変える
と、送り主が誰なのか、じっとカードを見つめながら考えをめぐらせる。
ヘインの様子が気になるスンハ
は図書館へと立ち寄り、ヘインを食事に誘う。ヘインが勧める店へ向かった二人は初めて一緒に食事を取りながら、お互い心が温かくなるのを感じていた。
−この近所で一番おいしいお店なんです。召し上がってみて、とっても美味しいの。
美味しそうに食事を取るヘインをじっと見つめるスンハ
は、本来の優しさを取り戻したように、心から安心した表情を浮かべる。
ヘインと共に過ごす時間が自分に安息をもたらすことで心が揺らぐスンハは、別れ際、ヘインに思いもよらない言葉を掛ける。
−ありがとう。美味しい食事をどうやって食べるのか、教えてくれて。
−美味しい店はこの近所に多いんですよ。また食事をしにいらしてください。
−もう、ヘインさんとはご飯は一緒に食べません。...また会いましょう。
どこか影のあるスンハに、ヘインはスンハの抱えている悲しみの深さとその傷の大きさを感じ、胸を痛める。
一方、ソクジンとナヒの関係を知ったスンギは
、オスの兄の経営するホテルに現れ、ヒスの妻に会って挨拶がしたいとヒスに話すが、ヒスは必要ないとスンギの申し出を断る。ソクジンはそんなスンギの姿を苛立つ気持ちを抑え
が、たまらずに帰り際のスンギを呼び止める。スンギは、ヒスに話しても通用しないため、ソクジンにナヒとの事を知られたくなければ済州島のカジノ運営を自分に任せ
ろと脅迫する。
その頃ミンジェと捜査中のオスは、ソン記者宛ての荷物が出された店から、スンギ宛の宅配も出された
事実を掴む。最近スンギからかかってきた電話での会話を思い出すオス
は、ソクジンとスンギが何か隠していることを察し、たまたまオスに連絡してきたソクジンとタロットカフェで落ち合う。
−事件の背後にいるのはスンギに違いない。
−確信する理由があるはずだ。理由もないのに友達を犯人だと言っているのか?
スンギを疑うソクジンの前に、オスから呼び出されたスンギが現れるとソクジンが驚いた表情でオスを見つめる。
−俺が呼んだ。聞きたいことがあるんだ。
−話って何だ?
−お前、宅配受け取っただろ
−いいや、受け取ってない。
−嘘だ。お前に宅配が送られたことは確認したんだ。
−ああ、あれか....。うっかりしてた!
−受け取ったものを届いていないといった理由を言え。中身は何だった?
−写真だ、男と女が写ってる。
その写真はどうした、というオスに、スンギが捨てたと答えると、腹を立てたオスがスンギに掴みかかる。
−俺があれほど言ったのに写真を捨てただと?納得できない、お前絶対何か隠してるな!それが何か真実を言え、さあ!
−隠してること?それを言ったら大勢が傷つくぜ...。
ソクジンやオスに自分が侮辱されているように感じていたスンギは、12年前の事件のことを持ち出し、あの時テフンを刺したのをこの目で見たとオスを鋭い目で睨む。
−気をつけろ。裏切り者は俺のような奴じゃない
。信じてる奴の中にいるもんだ...。
腹を立ててカフェを飛び出したスンギとたまたまカフェの前ですれ違ったヘインは
、スンギの顔を以前残像で見た記憶が蘇り、思わずスンギの後を追っていく。スンギが向かった先はヨンチョル
の元だった。スンギがヨンチョルに話しかける姿を遠くから見守るヘイン。
−お前がしたことなのか?宅配で送りつけてふざけてるのはお前か?違うよな?確かにお前にそんな度胸があるはずないな 。
−どいてくれ。お前みたいな奴と話などない。
スンギは事件のことを知りながら口を閉ざしたままだったヨンチョルに、一人で被害者振るなと警告する。
一部始終を見ていたヘインは、オスに連絡をすると、スンギの特徴を話し、ヨンチョルとは約束してあったという雰囲気ではなく、どうも脅迫していたようだと様子を伝える。
一方、スンハは事務長のクァンドゥから、ソン記者が12年前の事件について調べまわっていることを聞かされ
る。スンハは一人になると、送られてきたタロットカードを手に、ふと微笑を浮かべ、つぶやく。
−機会を与えたのに、結局これを選択したのか。
その夜、父親に呼び出されたオスは、一連の事件から手を引くようにという父親の言葉に失望し、酒を浴びるように飲んでいた。そんなオス
の様子を知らず、オスを電話で呼び出したスンハは、オスとの約束の場所へ向かう。
−カン刑事。
−おかけ下さい。
何本も焼酎のビンを空にし、すでに酔ったオスを見つめるスンハ。
−今日はオ弁護士でも嬉しいですよ。一人で飲む酒はひどくまずくてね。
−ずいぶんと酔われてるようですね。
−テシクのやつ、焼酎を上手そうに飲んだっけ。
−何か...あったんですか?
−弁護士さん、俺が嫌いでしょう。俺が悪党なのに、悪党が悪党を追うなんて、こっけいでしょう?たしかに、自分で考えてもおかしいよ 。
−どうして捜査をあきらめないんですか?捜査をあきらめた方が自分にとって楽ではありませんか?
−そんなことありません。そいつの顔が見たいから。そいつに会って、必ず言わなければならないことがあるんです 、俺。
−どんな話をしたいんですか?
−俺ね、人は本来優しいんだと思うんです。そいつもかつては優しかったって。それが俺のせいで悪党になって…ははは、やめましょう。とにかく俺は最後までそいつを追います。他人になんと言われようとも必ずやつを被告人席に座らせる。
俺にその資格があるかとうかはもう関係ないんです。
−やはり人間は、自らの欠点のためだけでなく、抜きんでた長所のために不幸に見舞われるものなんですね 。オイディプスのように...。
−何です?
−もしオイディプスが意志の弱い人間だったら、悲劇は避けられたでしょう。でもあきらめなかった。今のカン刑事のように 。
−難しい話しちゃって。
−でも私はカン刑事のそんなところが気に入っています。カン刑事は最後まであきらめないのが長所ですから。
店を出たオスはもう一軒行きませんかとスンハを誘うが、翌日に公判を控えているスンハは申し出を断る。帰り際、思い出したように振り返るオス。
−そうだ、俺に話があるって...。
−酔われているようなのでまた明日お話します。
−それじゃ。
別れ際、千鳥足でよろよろと歩くオスの後姿を、スンハが複雑な表情で見つめていると、ふとオスが振り返り、
スンハに微笑みかける。そんなオスの痛々しい表情を目の当たりにし、スンハは気が重くなり、うつむいてしまう。
酒に酔ったオスが向かったのは、ヘインの家の前だった。
−俺がどうかしてしまったみたいです...誰も信じられず、友達さえ信じられないんです。皆敵に見えて
、俺に何か隠しているようで...。犯人に怒りが沸いてくるんです。犯人が憎いのに、俺まで犯人に似てくるようで...いや違うな。似てるんじゃない
、ひょっとしたらこれが俺の真の姿かもしれません。俺は最初から悪党だから...それでも俺は神様が一度だけは赦してくださると思っていたのに、赦したふりをなさっただけだ
ったんだ。こんなふうに後から思い知らせるために、赦すふりをされただなんて。
−自分を責めないでください。
−自分が恐ろしい...自分が何かしでかしそうで恐ろしい...。
暗いトンネルに入り込んだオスの手を、ヘインが手を伸ばし優しく包み込む。
−カン刑事さんを失わないで。自分を守るんです。
−自信がありません。自分が分からない、自分が誰なのか、何者なのか....。
その夜、スンハのマンションにソン記者がやってくる。
−ソン記者がこんな時間に何か御用でも?
−通りがかりに思い出して寄ったんです。改めて挨拶しなければとね、“チョン・テソン弁護士さん”。 |