【病院】
階段から転落し意識を失っていたヨンチョルが目を覚ます。
−気がついたか?ここは病院だ。肘にひびが入ったようだが、他には異常はないそうだ。
オスの言葉に返事もせずにヨンチョルは立ち上がると帰り支度を始める。
−ごめんな。すまない、ヨンチョル…。
−スンギが、スンギが、し、死んだらしいな。これで追いかける必要もないな。俺はいつもお前らを追いかけていたからな...二度と追い
回されないように俺がお前らを追いかけていたんだ。そうすればお前らはもう俺をいじめることもないだろうからな。だけど…スンギは誰が殺したんだ?もう知ってるのか?
【スンハ、オスの父から呼び出される】
キョン社長からの連絡でオ・スンハ弁護士がチョン・テソンであると知ったオスの父は、スンハを呼び出す。スンハはチョン・テソンとして、カン・ドンヒョンの前に姿を見せる。
−約束を守ったんだな...いつか私を訪ねるというあの約束を、結局守ったんだな。悔しかっただろう...悔しいはずだ。だが、人は錯覚を起こすことがある。置かれた状況や立場によって、まっすぐに引かれた線すら曲がって見え、曲がった線もまっすぐに見える。
−何が仰りたいので?
−12年前、私は曲がった線がまっすぐに見えた。それが正しいと考えた。息子のために父親ができる最善の選択だった。弁明しているのではない。万が一今同じ状況に置かれても、同じ選択をするだろう。それが親
というものだ。
−あなたを許すことができないのは、まさにこのためです。あなたのせいで他人の母親とその子供がどれだけ苦しんだのか…ただの一度も振り返ろうとしない。あなたが息子を愛するように、この世で最も愛する息子を無残に奪われた母親を...誰かの父親であるあなたが無視し、その存在を踏みにじったんです!その点があなたの最も重い罪です…それがあなたたちを許せない最大の理由なんです!
−君はどうなんだ?今起こっている事件が万が一君が仕組んだことなら、君もまた自分の目的のために他人を不幸にしている。君もやはり、曲がった線をまっすぐだと信じているだけだ。
−安易に考えないで頂きたい。そしてあなたには僕を非難する資格はありません。
【全て悟ったオス、兄ヒスの元へ】
憔悴しているヒスを心配するオスだが、ヒスはソクジンの容疑が気がかりでたまらずオスに尋ねる。
−ソクジンのことはどうなった?殺人容疑は晴れたのか?
−兄さん…
−なんだ、言ってみろ。どうした、何か話があるのか?
−今から俺が聞くことに、正直に答えてくれ。チェジュドで兄さんは、午後6時以降ホテルの部屋を出ていない。それ
なのに翌日の9時半は市長とのゴルフだった。
−...体調が悪かったんだ。翌日のゴルフの約束はどうしても断れなかった。
−チェジュからソウルまでは1時間…もしその夜ソウルに飛んで、翌朝一番の便でチェジュドへ戻れば9時半のゴルフには十分間に合う...
−一体何の話だ。
−もし、兄さんがソクジンと義姉さんのことを知っていたとしたらどうするだろうと、考えてみたんだ。ソクジンを許すのは難しいだろう、ソクジンを誰よりも信じていた兄さんだから。
−言いたいことは何だ?
−ソクジンの所持品を簡単に手に入れられるのはスンギを除いては兄さんだけだ。
−お前…俺がスンギを殺したと思っているのか?
−違うと願っている。本当に違うと願ってる。
−愚かなことを言うな。俺がなぜ...俺は絶対に違う。ソクジンの裏切りもスンギが死んだ後に知った。それに死んだのはソクジンではなくスンギだ。俺がソクジンの問題でスンギを殺すなど、話になると思うのか?
−空港の防犯カメラを確認しても構わないか?ミン・イボムの逮捕も時間の問題だ。
−それが俺と何の関係が?それに空港のカメラに映っていても、俺がスンギを殺した証拠にはならない。もう帰れ。
−なぜだ…兄さんがなぜ...どうしてここまで残酷に…一体どうして?
−お前どうするつもりだ?もし俺が犯人なら、お前はどうするつもりだ?お前の話は全て推測だ。俺が犯人だという証拠は何一つない。俺はスンギとは無関係だ。スンギはソクジンでなければタロットカードを送ってきた奴が殺した。お前もそう思えばいい!お前の頭の中から俺への疑いを全て消し去って、そう考えればいいんだ。オス、俺たち兄弟だ。兄弟だぞ…
兄の目を見続けることができないオスは、兄に背を向ける。
−俺は兄さんが逃げてほしい...どこか遠くにでも逃げてくれたらそれでいい...でも俺は誰よりも知ってる。人は過去を忘れても、過去は人を決して忘れないことを...
【ヨンチョルに会うテソン】
ヨンチョルの怪我を心配して、テソンがヨンチョルの部屋を訪れると、ヨンチョルは復讐の結末を前に、テフンの写真の前で興奮したように微笑を浮かべる。そんなヨンチョルにオーストラリア行きのチケットを手渡すテソン
が韓国を発つよう再度ヨンチョルを説得するが、ヨンチョルは自分が邪魔になったのかと言い、テソンの提案をきっぱりと拒否する。
その頃、警察署にはヨンチョルが長い間後を追い、撮り続けたであろうオスの写真が宅配で送られてくる。宅配の荷物の中には、「運命の輪」のタロットカードとともに最後のメッセージとも受け取れる手紙が同封されていた。
【テソン 教会へ】
後戻りの出来ない場所へ来てしまったことを痛感したテソンは、教会で一人苦悩するが、出口が見つからずどうしようもない気持ちに包まれる。テソンが教会を出ると、ヘインが姿を現す。以前オスがヘインに手渡した笛を取り出したヘインは、その笛をテソンに差し出す。
−プレゼントです。これには温かい気持ちが特別にこもっているので、性能はすごくいいんです。いつでも私が必要になったらそれで呼んでください。遠くまで良く響きますから。
涙をこらえて微笑を浮かべながらテソンに笛を手渡すヘイン。
−ヘインさん、僕が怖くないですか?僕が怖くないの?
−お二人は本当に良く似ていますね。いつだったかカン刑事さんも同じ質問をしたんですよ。自分が怖くないのかって。お二人は互いを憎みながらも互いを哀れんでいるようです。誰よりもお互いの感じる苦痛を良く分かっているから...
−そんなはずはない...私は絶対にカン・オスに同情などしませんし、絶対に許しません。
−あなたはもうカン刑事さんを許しています。それを認めたくないだけです。自分の心の声を良く聞いてみてください。かならず分かります。
−いいえ...そんなはずはありません...
ヘインの言葉に戸惑いの表情を浮かべながらも自分の心に向き合うことができないテソンだった。
【警察署】
オスは簡単に自分を逮捕することなどできはしないと確信するヨンチョルは、自ら警察署にやってくると、事情徴収を受け入れる。別
室で、ファン・デピルにヨンチョルの声の確認に協力を依頼したオスは、じっとヨンチョルの取調べを見守る。ヨンチョルは取調べには応じながらも別室にいるであろうオスに冷淡な言葉を突きつける。
−事実を話せばよかったのに…もう遅すぎる…
その頃重要参考人のミン・イボムの所在をつかんだチェミン。オスはその知らせを受け、兄を逃がしたい気持ちが生じ、思わず携帯を握り締めるが、必死で葛藤する。
【テソン、事務所】
テソンが事務所に戻ると、ヘインからの手紙を預ったクァンドゥが温かい言葉をかける。
−あなたを待つ人はたくさんいます。後ろを振り返らず、前を向いて少しでも歩いてくれたら、数歩歩けば、そこにはあなたを待つ人がいます。
クァンドゥの言葉に心が揺れるテソンは、ヘインからの手紙を開き、 その瞳に涙を浮かべる。
あなたを怖くないのかって昨日聞いたでしょう?
私はあなたがどんな姿をしていても、
少しも怖くありません。
一緒にいたくてたまらない人を
怖いと思うはずがないでしょう?
私、あなたと一緒にしたいことがたくさんあるの。
晴れた日には公園を散歩したいし、
雨の日は屋台でお酒でも飲みたい。
週末にはお兄さんの農場で
ソラとハヌルとジャガイモを掘って
そのジャガイモでパジョンを作るの。
可愛いカフェで美味しいパッピンスを食べて
クリスマスの日には教会で一緒にミサに出る。
それに来年の春には
お兄さんの農場に植えた水仙が咲くのを
あなたと一緒に見たいの。
−本当に、そんなことができるのか...そんなことが許されるのか…
ヘインの手紙を読み終えたテソンの頬に次々と涙が伝い落ちる。
【警察署】
警察署に連行されたミン・イボムは、取調べ中、この事件を指示した人物がカン・ヒスであることを明らかにしてしまう。証言を受け、ヒスが逮捕され、ソクジンの殺人容疑が晴れる。ソクジンは弁護士オ・スンハからカン・ヒスが犯人だったと知らされ大きな衝撃を受ける。
ヒスが逮捕され、オスが苦悩する姿を
目にしてしまったテソンの心が痛むが、すでに戻ることのできない場所に立つテソンにはどうすることもできない。
【カン・ドンヒョン宅】
家に向かい、父と向き合うオス。
−事実ではないはずだ。お前の兄さんは幼い頃から優しかった。道端の子犬も放っておけないような男だ。ヒスは...お前の母さんに良く似ていた。些細なことでひどく傷つく...母さんが知ったらショックを受けるだろう...。オス、私を許してくれ...この世の全ての人間が幸せになるなど無理だと思っていた。誰かの幸せの影には誰かの不幸せがあると。それがどうしようもない世の道理だと。だから強いものが生き残り、強いものだけが幸せになれると思っていた。それが私の息子たちの幸せを守る道だと信じていた。情けないことだ。この年になってこんなことが分かるとは。
−父さん…私は兄さんを守ることができませんでした。申し訳ありません。
−そんなことはない。お前もどうすることもできなかったんだ。
−兄さんのことは俺にまかせて父さんは他の場所へ行ってください。
−それはできん。ここを去ることは、お前の兄さんを捨てることだ。そんなことはできない。
−つらくても、食事は必ずなさってください。
疲れ果てたオスは、悲痛な表情で部屋を後にする。 オスが部屋を出た後、カン・ドンヒョンは
度重なる心労に心臓発作を起こし、倒れてしまう。知らせを受けて病院へ駆けつけたオスだったが、父トンヒョンはすでに息を引き取った後だった。
−謝りたかったのに、一度も言えなかった…父さん...父さん...
次々と大切な人を失うオスは、なす術もなくその場に崩れ落ちる。
【オス、一人自宅で】
全てを失ったオスは不気味なほどに鎮まり返る自宅のソファーに腰掛け、悲しみを押し殺しながらじっと一点を見つめていた。
その頃、オスの家の前に一人佇むテソンは、ペパーミントキャンディを口に含むことができず、それまで抱いてきオスへの復讐心が消えたかのように、
キャンディを手から落としてしまう。
【カン・オスとチョン・テソン】
テソンは愛しい人に別れを告げるかのようにヘインの家に向かうと、ヘインの母に、大切にしてきたオルゴールと母の指輪を託した後、兄ファン・スゴンへと明るい声で電話をし、元気で...と告げ、復讐の終わりに向かい歩き出す。その頃警察署でオスを心配していたミンジェらは、オスが射撃訓練室から銃を持ち出したことを知り顔色を失っていた。
オスからの電話で外に出たテソンは、待ち伏せしていた男に、腹部を刺されてしまう。弁護士オ・スンハによって不幸になった人物の一人が、虎視眈々と自分の命を狙っていたことに、全く気がついていなかった
チョン・テソンは、何が起こったのかもわからず、あふれ出る血をハンカチで押さえ、痛みをこらえながらオスの待つ場所へと車を走らせる。
テソンが向かったのは、兄チョン・テフンが命を奪われた、あの自動車解体工場だった。怪我を隠し、平静を装ってオスの前に一歩一歩歩みを進めるテソン。
テソンを待っていたオスは、銃を取り出し、テソンに銃口を向ける。
−お前が望むとおりにしてやる。俺がお前を殺すこと…それがお前の計画の結末だからな...
−結末にふさわしい場所ですね。ここにいるのはカン刑事と私、二人きりですから...
震える体を必死で支えながら声を振り絞って答えるテソン。オスはそんなテソンの前で空砲を撃つ。
−これからは実弾ですか?何を迷っているんです?ここには僕たち二人きりですよ...
−お前も俺のように苦しんでいるんだな。俺と同じように、地獄にいるのか?俺よりずっとつらい苦痛の中にいるのか?
テソンを憐れむ表情で見つめるオス。
−迷っていないで私を撃つんです。それで全ては終わりです。何を迷っているんです?
オスはテソンに向けていた銃をおろすと、持っていた銃を落とす。
−俺が、お前をそんなふうにしたんだ。お前を地獄に導いたのは…俺だ。お前を殺したいほど憎くても...お前を見てるとひどく胸が痛いんだ。テフンのことは...事故だろうと故意だろうがそれはお前の言うとおり、そんなことは重要じゃない。真実を明かすため俺は何一つしなかったんだ。すまない…本当にすまない。
−な、なにを言ってる?
オスの言葉にうろたえたテソンは、オスが落とした銃を拾い上げると、オスに再び銃を持たせようとする。
−終わらせるんだ...あんたが終わらせなきゃならない。俺を撃て...あんたならできる...俺はあんたの友達を全て死なせた...俺はあんたの兄さんを殺人者にして、あんたの父さんを死なせた!...早く撃て...
震えるテソンにオスが真情を伝える。
−生きろ...生きるのが苦痛で地獄のようであっても...力の限り精一杯、暗いトンネルから抜け出すんだ、テソン…その銃をこっちへよこせ。
−終わらせなければ…終わらせないと…俺は自分が許せない!あんたじゃなく、これからは自分を許せなくなる...自分を許せない
んだ...
銃を自らの頭に当てるテソンと、それを止めようとするオスとでもみ合いになる。
−終わらせないと、終わらせないと...
−何してる...やめろ!
暗闇に銃声が響き渡ると、怯えるテソンの前で、
カン・オスが力を失い崩れ落ちる。銃弾はオスの胸を貫いていたのだ。倒れるオスに駆け寄るテソン。
−しっかりしろ...カン・オス...しっかりしろ!死ぬな…死ぬなカン・オス...死ぬな…死ぬな...
オスの胸から流れ出る血を抑えながら、テソンは震える手で携帯のボタンを押そうとする。そんなテソンの手をとるオスは、息絶え絶えにテソンに最後の言葉を伝える。
−生きてくれ...力の限り精一杯…生きろ...テソン…許してくれ…俺も、そしてお前も...
−目を開けてくれ...起きろ、起きろカン・オス!
今まで抱いてきたオスへの情がこみ上げたテソンは、オスを抱きしめ嗚咽する。
−死ぬなカン・オス...死ぬな...死ぬな...死ぬなカン・オス...死ぬな…
知らせを受けたヘインが工場へ向かっている頃、テソンはオスの体にもたれながら、かつて自分を愛してくれた人たちとオスの優しい顔
を思い浮かべていた。 意識が徐々に薄れる中、テソンはオスを許し、受け入れ、そしてオスに許しを請う。
−許してくれ…僕も、それからあんたのことも...
ヘインから贈られたオスの笛を手に握りしめ、安心したように微笑むと、テソンはオスに寄り添いながら、永遠の眠りにつく。
〜fin〜
以下は「魔王」韓国版、最終話終了後画面に表示された文章です。
終わりは始まりです。
精一杯幸せになってください。
これまで“魔王”を愛してくださった視聴者の皆様へ
心より感謝申し上げます。 |