【川辺の草原 カン・ボック】
草原で寝転がり、空を見上げながら、カン・ボックは太陽のまぶしい陽射しを右手で遮り目を閉じると、何かに導かれるように右手を伸ばし、一筋の涙を流す。
【海岸の波打ち際 チャ・ウンソク】
撮影前、海辺の波打ち際、倒れたように横になるチャ・ウンソクもまた、何かに導かれるように右手を伸ばしていた。
【川にかかる橋の上】
カン・ボックが横たわる川原の草原から見える大きな橋の上では、一人の女性が涙を浮かべながら川を見つめていた。彼女はボックを慕いながら
もまったく相手にされないことに胸を痛め、彼の目の前で橋から飛び降りようとしていたのだ。女性の姿を見て慌てて騒ぎ立てる友人ミスクらをよそに、ボックは冷静な表情でいつものように傷だらけの顔に棒つきキャンディーを口にくわえたまま、彼女の元へ歩いていくと、彼女の隣に腰を下ろす。
−変態か?お前のパンツ…下にいる奴らに見せたいのか?パッとスカートを開いてサービスでもしてやるか?
−飛び降りるわよ
−あ〜、耳に犬でも詰まってるか…聞こえねぇ...
−死んでやる!
−牛でも詰まったか、俺の耳?
−愛してるって、一言言って。
−スクリュードライバーでも持ってない?
−...少し待ってくれ、愛してると、一言だけ言って。静かに待つわ。何も言わずに待つから…
黙ったまま小さくなったキャンディーをじっと見つめたボックは、冷たく答える。
−飛び降りろ。飛んでみろよ
キャンディーを再び口に入れると、ボックは女性に背を向け歩き出してしまう。
−一体何が足りないの?どうして無視されなきゃならないの?
絶望した女性はとうとう橋の上から飛び降りてしまい、その音にふと振り返ったボックは一瞬立ち止まるがすぐに駆け出し、橋の上から川に飛び込む。
【ウンソク 海辺】
−オッパ!オッパ!
映画の撮影中だったウンソクは、演じながら高まる感情が抑えきれず、頭を冷やそうと海の中に向かっていく。海に潜ったウンソクは、2年前に姿を消したままの恋人カン・ミングに心で語りかける。
−元気にしてる、オッパ?ウンソクも元気よ。
【ボック 川辺】
その頃、川に飛び込んだボックは女性を助け上げると、人工呼吸をして命を救い、意識を取り戻した女性を一瞥すると、"関わるのはこれで最後だ。次は助けない"と言い残し、その場を立ち去る。
【海辺からの帰り道】
海辺からの帰り道、ウンソクを乗せた車はボックらが乗る車とすれ違うと、ウンソクはふと目線を移した先の目を閉じるボックの表情に釘付けになる。
すると、懐かしいミングの歌声が突然ウンソクの脳裏に響き渡る。
あの遠い空に雲が行く...
その瞬間ボックも兄ミングの夢を見ていた。
−兄ちゃん、歌うたって
〜中間タイトル〜
ボックの魅力に夢中になる女性は数知れないが、ボックの女はただ一人だけだ。10年前、死にそうになったボックを救い、その代価に頬と背中に火傷の跡が残ったハン・
ダジョンだ。ボックだけを見つめてがむしゃらに生きていっているタジョンに責任を負うことだけがボックができる唯一の選択だった。そんなふうにタジョンを守り、自分の感情は押し殺して生きてきた。
一方、仕事を抜け出してはミングの家を訪ねるウンソクだが、有名女優チャ・ウンソクの姿に誰もが振り返る。ミングへの恋しさが募り、ウンソクは焼酎のビンを次々空にし、酒に酔うことで苦しみから必死で逃れようとしていた。
【ボック 格闘技場】
リングに立つボックの脳裏には、常に兄ミングの声が蘇ってくる。
−拳を使うな、ボック!何があろうと暴力はダメだ。ただ耐えるんだ。誰かがお前を殴ろうと、誰かがお前を蹴ろうと、ただ耐えろ耐えて殴られろ!そうしたら兄ちゃんは戻る。お前の元に戻るよ、カン・ボック…
相手を殴り、自分も殴られ、体を傷つけながら生きているボックは、ふと自分の人生を転落させた夜の事件を思い出していた。
【回想 倉庫の中 少年時代のボックを囲む不良ら】
−カン・ボック、お前の父ちゃんは人殺しのヤクザだって?
火事を起こし、多くの人を傷つけ、タジョンに火傷を負わせてしまったこの事件以来、死んだように生きてきたボックは、その夜の記憶が脳裏から離れることはなかった
仕返しに向かおうとした夜、兄ミングは去ってしまった。そのときのやりとりも、ボックには苦い記憶となって胸に刻み込まれていた。
−お前、父さんのように生きるつもりか?
−殺してやる…あいつら殺してやる…
−殴られておけ…殴られて耐えろ!誰に殴られて蹴られても耐えて耐えて耐えるんだ!
−俺がどうして殴られなきゃならない!
−お前は…父さんに良く似てる。拳を使うな…死んだように生きよう、俺たち。
−いっそ土にでも埋めてくれ!俺はこんなふうに生きられない!無様に生きるのはごめんだ!
これまでボックには優しかったミングだが、このときは毅然とした態度でボックを諭す。
−それならもう兄ちゃんとは暮らせないぞ!兄さんとは暮らせないぞ...
−脅迫か?
−脅迫じゃない、脅迫なんかじゃない、カン・ボック…
この日を最後に、兄ミングと連絡が途絶えて10年になる。兄を思いながら対戦していると、仲間から、この試合に勝つとチャンピオンになると聞いたボックは攻撃をやめ、わざと殴られ続けて負けを選ぶ。
【韓国グループ パーティ】
ミングに似た男性の後姿を見かけたが、後を追うことすら出来ずに失望したウンソクは、韓国グループの広告キャラクターとして選ばれたパーティの席でワインの注がれたグラスを次々に空にし、酩酊状態になる。そんなウンソクの様子を韓国グループの次男、キム・ジュンソンがじっと見守っていた。
ウンソクはそっと席を立つと、誰もいない非常階段で携帯電話を取り出す。
−カン・ミングです。メッセージを残してくださればすぐに連絡します
−メッセージを残せば連絡します?だから私が100回以上も電話したのにどうして連絡しないのよ…このばか!できないわ…勝手すぎるのよ。私、別れられない…死んでも無理よ。一度会って、一度だけ会って、オッパ...ウンソクに一度だけ会ってちょうだい…(涙が流れる)どうして私にこんなことするのよ!どうして私にこんなことするの!悪い奴…
声を上げて泣き出すウンソクは、泣きながら寝入ってしまう。
そのとき、商用の電話を終えたチュンソンがウンソクが階段でふさぎこむ姿を見て心配になり、彼女のもとへ歩みよる。
−チャ・ウンソクさん…チャ・ウンソクさん?
ウンソクが後ろに倒れそうになると、彼女を守ろうと後ろ頭にとっさに手を伸ばしたチュンソンは、ウンソクを抱きしめた姿勢のまま一緒に倒れてしまう。驚いて目を覚ましたウンソクに“大丈夫?”と声をかけるチュンソン。ウンソクは一度うなずくが、状況を把握できずに悲鳴を上げてしまう。その様子を隠し撮りされているとは知らずに、ウンソクはおぼつかない足取りで席へと戻っていく。誤解を解こうと後を追うチュンソン。
−ちょっと、チャ・ウンソクさん!
−あんた…私にまた触ったりしたら死ぬわよ!
隠し撮りされた動画をインターネットで投稿されたことで、大きなスキャンダルとなり、セクハラの汚名を着せられたチュンソンは築き上げてきた信頼を一瞬にして失ってしまう。
日を改めてウンソクを呼び出したチュンソンは、何か対策を立てましょうと持ちかける。
−どうしてあんなことをしたんですか?まともな方が…。お酒を飲んだせいね?あなたも。
−私は何もしていませんよ。何もしていません。自分の食事以外に手を伸ばす人間じゃない。
−食事?食事ですか?
−ですから…チャ・ウンソクさんが
−チャ・ウンソクさんがご飯なの?
−そういう意味ではなく…
−私はあなたのご飯で、デザートは誰?
−そんな話じゃないでしょう。大学出てないの?チャ・ウンソクさん。
−ええ、出ていません…あ〜、知らない。帰るわ。対策はね、一人でなんとかしてくださいね。大学を出た方が。オッケー?
歩き出すウンソクに苛立って声をかけるチュンソン。
−計画的だったんじゃありませんか?あの日、わざと私を誘惑して、なんとかして私を手に入れようと?そんな話を秘書から聞いたことがあったが、そうじゃありませんか?
怒ったように振り返るウンソク。
−おい、電信柱!姉さんが、そんなに簡単な女に見える?電信柱、あんたね、もう一度私の目の前に現れたら、そのとき死ぬと思いなさい!
つかみどころのないウンソクの反応に、チュンソンの好奇心と勝負欲が募っていく。
【トレーニングを終え家に戻るボック】
傷だらけの顔に、汚れたトレーニングウェアを着てぶらぶらと家への道のりを歩くボックを、一人の女性が待っていた。
−久しぶりね、ボックさん
−うん、久しぶり
−どうして電話の一度もくれないの?どれだけ待ったことか…
−どうして俺がお前に電話なんて...
−そうね。そんな人じゃなかったわね。私、明日結婚するの
女性の一言に、ボックの表情が曇る。
−ボックさんがするなといえば、結婚しないわ
−結婚は、人にするなといわれてしないものなのか?良かったな、結婚できて。嫁に行くのか…
−私をこのまま手放すつもり?
そこへ買い物袋を手にしたタジョンが近づき、二人の話を偶然耳にしてしまう。
−俺には女がいるんだ、
スヨン...
−分かってる。その女のために私をあきらめたのよね。こんなに愛してるのに…
−暇なのか?早く帰って結婚の準備でもしろ
−愛は…義理でするものじゃないわ。私を手放して、この先誰か愛する人と出会って暮らして、ボックさん
−おい、イ・スヨンさん…
−その女ボックさんのために火傷を負ったんでしょう?それで申し訳なくて罪責感のために、罪を償うためにカン・ボックの人生をささげてそばにいるんでしょう?そんなふうに生きるものじゃないわ
−やめろ
−そんな人生どうやって耐えるの?愛してもいない女と、そんな地獄…
−黙れといっただろう!何か大きな誤解をしてるようだが、イ・スヨンさん、俺はお前なんて愛したことは無い。大げさに振舞うのはやめて、もう帰れ。我慢していたが、ヘドが出そうだぜ。
女性がその場を後にすると、ボックはタジョンが近くで話を聞いていたことに気がつく。タジョンを気遣うボックだが、あまりの衝撃に立ち上がることすらできないタジョンは、“豆腐を買うのを忘れたから買ってきて”とボックを遠ざけ、一人で家に戻っていくと、鏡に映った火傷の跡を見つめて涙を流す。
【兄との再会】
−ボック!お前の兄ちゃん見つけたぞ!カン・ミング!10年ぶりに見つけたよ!家が分かったんだ、とうとう!
−暇なのか?
−本当だよ~。Really!お前の兄ちゃん見つけたんだって!
友人のミスクと兄が暮らす家に向かうボックは、夜勤で留守にしたままのミングの部屋に重い足取りで入っていく。兄の匂いがする部屋に、ボックは懐かしさがこみ上げるが、その感情をしまいこみ、その場を後にする。その日、部屋に戻ったミングは綺麗に片付けられた部屋を見て驚き、壁にかかれた“この野郎”の文字を見て、ボックが来たことを悟る。
その頃、タジョンを迎えに行ったボックは彼女に気安く触れる男性に怒りを感じて暴れだす。
−娘みたいな女に何してる?え?オヤジ!
男性の胸倉をつかみ、なぐりかかろうとした瞬間、懐かしい兄の声にピタッと手を止めるボック。
−ボック!
その声に振り返るボックは、目の前に兄ミングが微笑む姿を見つけると、言葉を失う。
−ボック,俺だよ、兄ちゃんだ。
笑顔を浮かべる兄の前で、振り上げた拳を男性には振り下ろさず、鏡にぶつける。
【ミングの家 屋上】
ミングがボックとの再会を祝いビールを手にして笑顔を浮かべる。
−どうしてここに座ってる?風も冷たい、部屋に入ろう
黙ったままのボックの隣に座るミングは、缶ビールを開けて手渡すが、ボックはそれをさえぎり自分で別のビールに手を伸ばす。
−兄ちゃんは"この野郎"なのか?....ごめんな…
−どうしよう?俺今も拳を使って生きてるよ。拳で金まで稼いでる
ボックの言葉に黙ってうつむくミング。
−偉そうに拳を使えば俺に会わないと脅しておいて何故だ?
−悪かったよ。兄ちゃんが悪かった、ボック。
ボックのひざにミングが手を伸ばすと、それを振り払うボックだが、すねた様子の弟を見てミングはうれしそうに笑顔を浮かべる。ミングは缶ビールを振ってボックに勢いよくビールをかけ始める。
−やめろよ!やめろって!
2人はふざけあうことで、10年の時間を取り戻していく。
その後、向かいの建物の大きな電光掲示板に映し出されるニュースに、ミングが釘付けになってしまう。
「韓国グループのキム・ジュンソン、トップスターチャ・ウンソクと婚約」
チャ・ウンソクの映像を見つめて手を伸ばし、画面に向かって近づいていく兄の後姿を見てからかうボック。
−お前チャ・ウンソクのストーカーか?目を覚ませよ。おじさん!そんな生き方でいいのか?年がいくつだと…
10年ぶりに会った兄ミングは、ボックの目の前で屋上から転落してしまう。
−兄ちゃん!兄ちゃん!