【ウンソク 写真撮影】
手を離せば何メートルも下のコンクリートに打ち付けられるであろうウンソクの表情を目の当たりにしながら、ボックは病院にいる兄が危篤状態だと知らされ、心に迷いが生じる。
―ボックお前の兄ちゃん、息をしてないぞ…どうしたらいい?息をしてない…
携帯電話の電話口から ミスクのすすり泣く声が聞こえてくると、ボックの心に暗い影がよぎる。
―兄ちゃん、この女…連れて行くか?
するとその瞬間、優しい兄の声がどこからかボックの心に呼びかける。
―兄ちゃんは大丈夫だ、ボック。兄ちゃんはこの世で一番幸せだ、ウンソクがいるから…
迷いを振り切ったとたん、全身の力を振り絞ってウンソクを引き上げるボックだった。ウンソクを抱きしめ、倒れこんだボックに、ウンソクが涙を流しながら“ありがとう”とつぶやくと、我に返り、すぐに起き上がると、兄のいる病院へと急ぐ。
病院へ駆けつけたボックは、頭が真っ白なまま病室の前でたたずんでいた。そこへミスクが泣きながらボックの前に姿を見せる。
―ボック!
―...行ったのか?カン・ミング…死んだのか?うちの兄ちゃん…
―危険な山は越えたって…俺、本当に死ぬかと思ったよ…怖くて死にそうだったんだ
ミスクの言葉に、安堵の涙を流すボックだった。
―もう俺は病院なんて来ないからな! 絶対来ないぞ…
―ミスク!
―次からタジョンかテチュンを呼んでくれ…どうしていつも俺ばかり…俺にばかり!俺がどれだけ小心者で内向的な奴か…
―ミスク!
―もうミスクって呼ぶな…ミスクは昨夜死んだ。これから俺の名前はヨンスクだ。覚えておけ…
弱音を吐いて泣き続けるミスクに近づき、大声を張り上げるボック。
―鼻水が出てるぞ、ヨンスク!
ボックは息を整えると、恐る恐る病室のドアを開き、兄ミングのそばに近づくと、兄に微笑みかける。
―良く眠れたか?Good
morning!あ〜、朝じゃないか…知らねぇ、Good
morning…全く、こっちを見るくらいしてくれよ...
ボックは上着を脱いで隣のベッドに投げると、タオルでミングの顔を優しく拭き始める。
―あ〜あ、汚いぞ…汚れてるぞ…ミスクより汚いなんてあり得ない!兄ちゃんは俺とは違って、賢くて、めっちゃカッコよくて、優しくて、清潔で、俺がどれだけ誇らしかったか...。ちくしょう…家族の…恥さらしは全部俺にまかせろよ…
涙が溢れ出すのを必死でこらえるボックだったが、兄を失いそうな恐怖感に押しつぶされそうになり、とうとうミングにしがみついて泣き出してしまう。
【ウンソク 部屋で】
―ペルー!あんたの名前、何だった?レオンじゃなくて、ミスターカンでもなく、何だった?確かに言ってくれたはずなのに、名前も知らないわね、そういえば。
ウンソクは、ボックがミングの弟とは知らず、彼に惹かれる気持ちが抑えきれず、ぬいぐるみを相手にボックに語りかけるように独り言を続ける。
―私を殺そうとしたり、助けてみたり、どうして一貫性がないのよ?人を混乱させて!あ〜、どうしたのかしら、本当に…私どうしちゃったの?大変だわ。大変…あなた私を銃で撃ったわね?
【ボック 連絡を受けて タジョンの元へ】
その頃、タジョンは実母が亡くなったことを知り、幼い頃に生き別れた母の葬儀へ挨拶だけでもと出向くが、父親の違う弟に罵られ、別れの挨拶すらできずに嘆き悲しむ。そこへ仲間から連絡を受けたボックが姿を見せると、タジョンの弟の手からタジョンの母の遺骨を奪いとり彼女に母との別れをする時間を作ろうとする。タジョンは常に自分を守ってくれるボックの存在に心強さを感じ、笑顔を取り戻す。
【ウンソク 部屋で】
目を覚ましたウンソクは、ベッドの上に置かれた花束を見つける
と、リビングに向かう。そこにはウンソクの家族に囲まれ、父と囲碁を打つジュンソン
の姿があった。父に挨拶したウンソクは、ジュンソンに声をかけ、二人は外出する。
店に入ったウンソクは、ジュンソンと向かい合って座ると、また焼酎を手にする。ジュンソンにも焼酎をつごうとするウンソクに
、ココアでいいとさえぎるジュンソン。
―もう、情けないなぁ。一杯だけ飲もう
―いいえ、ココアを飲みます
―あっちに自動販売機があるから。飲んでから来て、それなら...
小銭を手渡そうとするウンソクの表情をじっと見つめるジュンソン。
―覚えていますか?
―何を?
―私が失敗したこと、焼酎を飲んで….私
のホテルの部屋にウンソクさんを連れて行ったんですが…覚えていないの?
ジュンソンの言葉に思わずむせるウンソク
。
―それって私を室長のホテルの部屋に連れて行ったってこと?何
をどうしようと?
―何をというより、ただ、寝ようと、一緒に…
驚いて手に持っていた箸を落とすウンソク。
―でも何もできませんでした。恐ろしい警護員のせいで...ごめんなさい。悪かった…二度とあんなことはしません。一度殴る?僕を殴ろうが斬ろうがウンソクさんの好きなようにしていいよ。ただ、もう二度と酒を飲んであいつの名前を呼ばないでくれ…そのときは、俺も我慢の限界だ
黙ったままだったウンソクは、突然スプーンを手にジュンソンの頭を
叩くと、そのまま店を出てしまい、後を追うジュンソンを無視したまま家に戻ってしまう。
家に戻ったウンソクは、ふと釜山での夜の出来事が気にかかり、親友のミソンに連絡を取る。
―ミソン姉さん、私...釜山で酒を飲んで意識
をなくしたでしょう?誰が私を連れてきたの?
―あの警護員のミスターカンとかいうおじさんよ
【ミングの病室前 ボック】
ミングの病室の前にいたボックの携帯電話が鳴り、発信者がウンソクだと気づいたボックは、淡々と電話を受ける。
―チャ・ウンソクです…聞きたいことがあって電話したの
―お話ください…お話ください
―え?
―お話、ください
―何の話?…あ〜、私がかけたんだったわ
。私がかけたのよね。あの、だからね、あのね、あの歌…あの歌あるでしょう?もしかしてあの歌、歌いませんでした?釜山で私が酔いつぶれたときよ
―どんな歌ですか?
ためらいがちに「雲」の歌を歌い始めるウンソクの声を聞きながら、表情を失うボック。
―確かに聞いたはずなのに、あの夜歌いませんでした?知らない?この歌…もしもし?もしもし?もしもし?聞えてる?
何度も兄ミングが歌ってくれた思い出の歌を口ずさむうウンソクに、返事もできずに病室のドアに背をもたれるボック
は、揺れる気持ちを抑えるように冷静に知らないと答える。
ボックはミングの治療費を稼ぐため、ヤクザからの
危険な仕事を引き受けることを決心する。
【ボック ミングと通話】
仕事中にいつものように電話越しにミングに語りかけるボック。
―気分はどうだ?俺今日は気分サイコーだよ。空も高くて、青くて、雲も芸術だ!
返事のできないはずの兄ミングの心の声が、ふとボックに伝わってくる。
―拳を使うなボック、拳はダメだ…何があろうと暴力はいけない...
―一度だけ見逃してくれ…ごめんな…
タジョンは家に訪ねてきたヤクザの存在に、ボックが良くない事に関わろうとしている嫌な予感が胸を覆っていた。
【ウンソク ボックの兄の事情を知る】
ウンソクは偶然ボックとテチュンの話を聞いてしまい、ボックの抱えている事情を知ることになる。
―お前どうかしてるぞ…どうしてヤクザなんかと手を組む!
―関わるな…個人的なことだ
―いっそのこと兄ちゃんに死ねと言えよ、この野郎!
テチュンの言葉に怒りがこみ上げ、テチュンに掴みかかると壁に押し付けるボック。
―俺がお前の兄ちゃんなら…いっそのこと死んだほうがましだ...治療費をかせぐために弟がだめになるくらいならいっそ死んでやる!お前今日そこへ行ったら、お前の人生終わりだぞ!選手生命も終わりだし、警護員もおしまいだって!ボック!!
―勝手にしろ…勝手にしやがれ…
二人の会話から、ボックが危険なことに関わろうとしていることを知ったウンソクは
、なんとか止めようと頭を悩ませ、ふとある方法を思いつく。その夜、外出先からボックの携帯電話に連絡を取るウンソク。
―もしもし?私チャ・ウンソクよ…すぐに来てくれる?
―申し訳ない。今日は勤務が終わりました。キム・ジュンギルに連絡してください
突然叫び声をあげて悪い奴らに囲まれたと咄嗟に嘘をつくウンソク
に、ボックはタクシーに乗り、その場に駆けつける。ボックの服装がいつもとあまりにも違う様子に驚くウンソク。
―あら、気づかなかったわ。こうしてると別人みたいね!
無言のまま周囲を注意深く見回すボック。
―あいつら?少し前に警察が来て捕まえてくれたわ
ウンソクの言葉に安心したボックは、すぐにその場を離れていく。
―どこへ行くの?送っていくわよ!
ウンソクの言葉に返事もせずに背を向けて行ってしまうボックだが、ウンソクはあきらめずにそっと後をつける。
その夜、ボックはヤクザとともに向かった場所で、鉄パイプを手に車を壊し始め
るが、相手の思いがけない反撃に倒れてしまい、一方的に殴られ続け
る。不利な状況に陥ったボックは一人その場に残され、大怪我を負って起き上がれないほどになってしまう。
―殴らないで!もうやめてお願い!
そこへ、ボックの後を追ってきたウンソクが姿を見せ、倒れて血を流しているボックに近づき手を伸ばすと、彼を抱きしめ守ろうとする。ウンソクの大きな瞳からは涙が溢れ、ボックが危険にさらされていることに恐怖心がこみ上げる。
―もうやめて!死んじゃうわ…私チャ・ウンソクよ
!相手にする自信はあるの?あるなら殴りなさい
ウンソクは意識を失いかけているボックの頬を叩きながら声をかける。
―ちょっと、目を覚まして
!
ボックの頭から流れる血を見てウンソクが驚いた瞬間、男たちがウンソクに殴りかかろうとするが、ボックが咄嗟に身を挺してウンソクをかばい、背中を強く叩かれるが、ウンソクだけは怪我をさせたくないと無意識に感じていたボックは、そのまま彼女を守り続ける。