突然門の前が静かになったことを不審に思ったウンチェが門を開けて表に出ると、そこにはオーストラリアで一文無しになった自分を救ってくれた男性の姿があった。恥ずかしさから男性に顔を隠しながら声をかけるウンチェ。
−あ!オーストラリア...もしかしてオーストラリアのメルボルンで会いました?私を覚えていませんか?
−覚えてない
−間違いないはずなのに…
不思議そうに首をかしげるウンチェに無表情のままムヒョクが話しかける。
−ここに住んでるのか?
−はい…(あの人のはずなのにという表情を浮かべたまま)違うのかな...
−ここがお前の家か?
−いいえ、私の家じゃありません。私達はここの一角に住んでいるだけで...
−この家…金持ちの家だろう?
−…まぁ、はい。
−つまり超大金持ちなんだな?
我に返ったウンチェはムヒョクが汚した塀を見て、ムヒョクを問い詰め始める。
−ところでどうして人の家の塀に向かって粗相するんです?人の家の塀にどうして粗相するのよ!
−俺の縄張りにマークした!
−...はい?
−犬コロは自分の縄張りにこうしてマーキングするんだ
−どうしてここがおじさんの縄張りなんです?
−また会おう!明日またマーキングしにくるぞ!
ウンチェの問いかけに答えないまま、彼女に背を向け歩き出すムヒョク。
−何よ、今の?それって自分が何?犬だとでも言いたいの?
不満そうにぶつぶつと文句を言うウンチェに、ムヒョクはぶらぶらと歩きながら大きな声を上げる。
−そうだ!犬だ、人間じゃなくて犬だよ、俺は!
老人に聞かされた場所へと向かい、そこで見た女性が自分の胸に抱いていた母親の姿とは全く違ったことで失望したムヒョクは、その足でカルチとソギョンの家へと向かいながら、老人の言葉を思い返していた。
「お前の母親は昔有名な女優だった。お前の弟は韓国で最高のトップ歌手だよ。カッコいいだろう?」
華やかに着飾った母親の幸せそうな姿に、空しさでいっぱいになったムヒョクは、バス停で見かけた母親オドゥリと弟ユンの広告写真を見て、彼らに対する憎しみに似た感情がこみ上げてくる
のを感じていた。
ソギョンとカルチの家に向かい、縁側に座るミン・ヒョンソクに駆け寄ったムヒョクは、老人を押さえつけ、首を締め付ける。ムヒョクの瞳は怒りと憎しみに溢れ狂気に満ちていた。
−お前ジェイソンを送ったな?俺を殺すようにとジェイソンを送ったんだな!俺が騙されるとでも思ったか?騙されるとでも!あの女がどうして俺の母親なんだ…どうしてあの女が俺の母親だ?
−...お前の母親だ!あの女がお前の母親だ!
−嘘をつくな!あんなに立派に生きてる人間が何故俺を捨てる!あの金ならミルク100トラック分は買えたはずだ...子供も1000人程度は育てられるぞ!
生きていけないわけでもなく、飢え死にすることもないのに!どうして…一人だけじゃなく二人も…自分が生んだ子を何故捨てる!!
老人の首を絞めるムヒョクの手の力が徐々に強くなるが、老人は声を振り絞る。
−お前の母親はそんな女だ!自分の行く道を阻むものがいれば、子供だろうと何だろうと何度でも捨てられるそんな女だ!自分の人生の目的ためなら、他人の人生を踏みにじるようなそんな女だ!
−黙れ…殺してやる…殺してやる!
ムヒョクが怒りを爆発させて老人の首を絞める手の力をさらに強めるが、カルチの泣き声に気がつき、我に返って手を離す。起き上がり、カルチが泣いていることを心配する老人。
−おじいちゃん、僕死んでしまいたいよ…
−どうした?母さんが何かしたのか?
−ママとは生きていけないよ…ママのせいで生きていけないよ…おじいちゃん…
その頃ウンチェはムヒョクが汚していった塀の掃除をしながら、オーストラリアで彼と過ごした時間を思い出し、ある考えが浮かび、突然ムヒョクの後を追って走り出す。
−オーストラリアから私を訪ねてきたのかしら?私が住んでいる場所どうして分かったのかな…おかしい奴?
そんなウンチェにユンからの電話が入り、買い物を頼まれたウンチェは、どことなく空しい気持ちになりながら買い物に向かう。
カルチの話
を聞いたムヒョクは、万引きをして警察署に拘留されている姉ソギョンを迎えに行くと、
実はソギョンは万引きをしたわけではなく、言いがかりをつけられていた事実を悟る。店の女主人に不条理な扱いを受ける姉の姿に胸を痛めたムヒョクは、ののしられる姉の姿の向こうで流れるテレビ番組に、自分
を生んだ母親と自分の弟の幸せそうな姿が映し出される様子に心をズタズタに切り裂かれる。店の女主人に十分な金を渡したムヒョクは、疲れ切って眠ってしまったソギョンをおぶい、家へ向かいゆっくりと坂道をのぼる。 カルチの待つ部屋に戻ると、荒れた部屋で一人
きりで眠る幼いカルチの寝顔を見つめながら、こみ上げる怒りを抑えていた。非情な現実を目にしたムヒョクは、ソギョンに罪をなすりつけた女性の店に向かい、誰もいない夜の街で
怒りを爆発させるようにその店のガラスを割ってしまう。
一方、ユンとミンジュとともにハラハラしながらチムシルバンで過ごしたウンチェ
は、二人と別れた後、とぼとぼと家に向かい歩いていると、家の前でたたずむムヒョクに気がつく。ムヒョクに駆け寄るウンチェ。
−食事はしましたか?まだでしょう?食べてないのね…私がそんなに好きだったの?どこがそんなに好きで…オーストラリアからあんなに遠くから…ここが一体どこだと...韓国に知り合いはいますか?
黙ったままのムヒョクに一方的に話し続けるウンチェ。
−知り合いもいないのに私を追って来たんですか?
ウンチェが勘違いしていることに気付いたムヒョクだったが、相変わらず黙ったまま噛んでいたフーセンガムを膨らます。
−韓国語もちゃんと習ってないみたいなのに…私一目惚れされるタイプじゃないのに…とにかくありがとうございます。私なんかを好きになってくれて。
呆気に取られてじっとウンチェを見つめたままのムヒョク。
−おかずはないけれど、うちにご飯食べに来ますか?どうぞ、おじさんの心を受け止められなくてもご飯は作ってあげます。ごめんなさい。さぁ、行きましょう。
ウンチェに手を取られ、母親の住む家の前に連れてこられたムヒョクには、ウンチェの声はすでに聞こえなくなっていた。無我夢中で母親のいる家に向かうムヒョクの心情を知る由もないウンチェは、慌ててムヒョクを引き止めるが、すでにムヒョクはリビングまで入ってしま
っていた。
オドゥリとユンの写真を食い入るように見るムヒョクは、リビングに飾られた大きな写真の中で眩しいほどに微笑む母親の顔を、時が止まったように見つめる。瞳からは涙が溢れ、あまりの胸の苦しさに足の力が抜け、その場に座り込んでしまうムヒョク。
そんなムヒョクがいることも知らず、自分の部屋で映画を観終えたオドゥリが涙を流しながら居間へとやってくる。ウンチェの陰にいるムヒョクをユンだと思い込んだままソファーに横になったオドゥリは、映画 「ラストコンサート」のステラという女性の話を
語り始め、あふれ出る感動を言葉にし続ける。ウンチェは慌ててムヒョクの姿を隠して立ったまま、映画の中の話じゃないですか、とオドゥリを慰める。
−息子よ、My
son! 母を抱きしめて慰めてくれない?ママとショッピングに行きましょう!
母親の振る舞いにじっと耳を傾け続けるムヒョク。
−おばさん、ユンじゃありません…
−誰、その人?
−それが..あの、私の知り合いなんです。家を間違えてしまって、ごめんなさい。
ようやく立ち上がり、振り返ってオドゥリを見つめるムヒョクの瞳は涙で濡れていた。その
頬をとめどなく伝ったであろう涙のあとに、ハッと息を飲むウンチェとオドゥリをよそに、ムヒョクは無言のまま外へと飛び出していく。
−...どうしてあの人泣いてるの?
−私が傷つけたみたいです...
オドゥリの家を出て急いでムヒョクの後を追うウンチェだったが、ムヒョクにはウンチェの言葉が届くはずもなかった。ウンチェはムヒョクを傷つけたのが自分だと思い込み、ムヒョクの後ろ姿に向かい語りかける。
−ごめんなさい!私みたいなのを好きになってくれてとってもありがたいのに、私の心は他の人にあって、おじさんが入る場所が無いの…ごめんなさい!
ムヒョクがカルチのために買ったおもちゃを手に二人の暮らす家へと向かうと、そこでカルチが母親を悪く言う場面を目にしてしまう。
−食べよう、ごはん。カルチ、ご飯食べよう。
−(すすめられた食事に手をつけず)食べない!もうママとは暮らせないっていったでしょう!ママのせいで恥ずかしくて死にそう!...ばかみたいに万引きして、ママのせいで恥ずかしくて死にそうなんだよ!マジでむかつくな!
−もうしないわ...もうしないよ
−毎日“もうしない、もうしない”って、ばかじゃないのママ!
黙って見ていたムヒョクが我慢しきれずにカルチに近づくと、カルチの持っていた本を取り上げカルチめがけて何度も強く振りおろす。
−お前のママがバカだと知らなかったか!知らなければ何度も何度も言えばいいだろう!お前が教えてあげればいいだろう
この野郎!
ソギョンに抱きしめられて泣いているカルチの前に座り、スプーンを握りしめるムヒョク。
−お前は腹が減ってないのか?スプーンを持て!お前俺がヤクザだって知ってるな?殴られて食うか、そのまま食うか!
泣きながらスプーンを手にご飯を食べ始めるカルチを睨み続けるムヒョク。
−さっさと食え!
ソギョンが泣きながらごはんを食べるカルチに水を手渡し、それをカルチが拒むと、ムヒョクがまた怒鳴り声をあげる。
−飲めよ!お前の母さんは
貧しくて、とんでもないバカだとしても、自分の子を捨ててないだろう…
食事中、突然気分が悪くなるムヒョクを、
ソギョンとカルチが心配そうに見守る。ホテルへ戻
ったムヒョクは、その夜オーストラリアのチヨンの家に電話をすると、懐かしい声に胸が痛むが、あえて距離を置くために英語で話を切りだす。
−It’s me.
Danny.
−ムヒョク…
−How are
you?
−韓国、無事着いたのね?
−Yeah,
thanks to you. I’m staying to the really nice hotel with the money
you gave me.You’re
right. It’s a lot of money…Enough to last you’re life time. Thank
you.
−韓国語で話さないのは何故なの、ムヒョク?何かあったの?
−I call
because, I wanted to ask you something. How long
the doctor say I have to live?
I heard that I was die, but I didn’t find out how much time that
I have left.
−ムヒョク…
−Do I have
a least?
A year? Not even… A year…?
チヨンのすすり泣く声に、自分の命が1年も残されていないことを知ったムヒョク
は、次々と自分に押し寄せる恐ろしい現実に押しつぶされそうになるのを一人きりで必死でこらえていた。
翌日、ムヒョクはユンの
仕事場に向かい、ウンチェや観衆らが見守る中、ユンがのびのびと歌い、踊る姿を冷たい眼差しで見つめ
ていた。そんなムヒョクの前で、ユンの恋人ミンジュをめぐり、揉め事が起こる。ミンジュは湖のほとりに向かうと、自分の腕を掴むユンとヨンウを遠ざける。
−悪いけれど、私愛なんて信じない。特にあなたちみたいに子供っぽい
先だけの男はもっと信じられない。ヨンウオッパ、私が死んだらついてくるっていったわね?ユン、私を自分以上に大切だっていったわね?そうなの?本当にそうなの?そんな愛があるのかな、本当に?
大勢が見ている前で、ミンジュはこう話すと突然湖に倒れこみ、冷たい水の中に落ちてしまう。湖に落ち
たミンジュを前に思わず飛び込んだユンだったが、ユンは泳ぎが全く駄目だった。ユンが泳げないことを知るウンチェは叫び声をあげて助けを求めるが、誰も応じようとしないために、上着を脱ぎ捨て湖に飛び込もうとする。そんなウンチェを引き止めたのはムヒョクだった。ムヒョクは自分の被っていた帽子をウンチェに預けると、迷わず冷たい湖に飛び込む。ミンジュに続いてムヒョクに救われたユンに駆けつけるウンチェ。
−ミンジュは?ミンジュは?
−心配しないで、大丈夫よ、ミンジュは...
二人を乗せた救急車が病院へ向かうと、ウンチェは湖のほとりでずぶぬれになって震えているムヒョクに
気付き近づくと、自分のつけていたマフラーをムヒョクにまきつけ、上着をはおらせる。
−ちょっと待っていて
くださいね。ユンの服を持ってくるからそれを着て...
立ちあがったムヒョクはウンチェから自分の帽子を取り返すと、ウンチェ
のマフラーと上着を乱暴に手渡し歩き出す。
−おじさん、待って!風邪引くわよ!寒くて死ぬわよ!
もう、話を聞かないんだから...
心配するウンチェの目の前で、ムヒョクは意識を失い倒れてしまう。
−おじさん!おじさん!しっかりして!しっかり!
ユンと同じ病院へ運び込まれるムヒョク
は、ユンと同じペースで回復し、二人は徐々に距離を近づける。病院内の広場でバスケットボールをしながら、ムヒョクが自分を助けてくれた相手だと知ったユン
は、ムヒョクに心を開き、笑顔を見せる。そんなユンにムヒョクもまた親しみを込めて接する。
−お前兄さんいないだろう?俺がお前の兄さんになろうか?俺の弟になるか?
少し答えを迷った後、ユンは嬉しそうにムヒョクに答える。
−弟か…いい
ね!