ムヒョクが自分に夢中だと思い込んだままのウンチェは、複雑な胸の内を妹に打ち明ける。ウンチェが妹の質問に正直に答えると、その意味を別な方向へ解釈した妹と姉が驚き、ウンチェの母がその話を聞きつけて大騒ぎになってしまう。外に飛び出したウンチェは箒を持ってウンチェを追って来た母に見つからないように姿を隠し、
母が遠くへ行ってしまったのを確認してから、トボトボと家に戻ってくる。そんなウンチェは門の前にムヒョクの姿を見て息をのむと、ムヒョクの寂しそうな横顔にくぎ付けになるが、ふと我に帰り、それが幻だと気が付く。
−とうとう幻まで見えた?...申し訳なくて死にそう...
ウンチェは自分でも気づかないうちに、次第にムヒョクのことを想う時間が増え始めていた。その頃、ムヒョクはユンとプールで待ち合わせて
のびのびと泳いでいた。泳ぎの苦手なユンが練習中に溺れ、プールに沈んでいく様子をプールサイドで冷やかな表情で微動だにせず見つめるムヒョクだったが、ユンを見殺しにすることができず、プールに飛び込みユンを助け出す。ユンが意識を取り戻すと、フッと
微笑みを浮かべるムヒョク。
−水の味、うまいか?
−やりすぎだよ...死ぬところだったじゃないか...
−あいつに怖がるのを気付かれちゃダメだ。打ち勝って踏みこえ
てこそ、あいつと仲良くなれる
気を取り直してプールから上がったユンは、シャワーを浴びながらムヒョクに話しかける。
−兄さん!いつから水泳習ってるの?
−習ったことないぞ
−習ってない?....僕だって習ってないのに...それなら兄さんみたいに泳ぐにはどうしたらいい?
−熱心にやってみろ
−熱心にやるなら毎日来なくちゃな!
無邪気に微笑み、ムヒョクにじゃれるユンに笑顔で答えるムヒョクだったが、ユンと自分とが過ごしてきた人生の違いの大きさを感じるたびに嫉妬心が渦巻いていた。ムヒョクと一緒に過ごしたいたユンは、ミンジュのゴシップ記事が掲載されたスポーツ新聞を目にして突然腹を立て、ムヒョクの運転でミンジュの家へと急ぐ。
同じ頃、新聞記事を目にしたウンチェがミンジュの元を訪ねていた。ミンジュの態度に腹を立てたウンチェは彼女の前に新聞を投げつける。
−これ誤報よね?ユンに早く説明すべきよ。
−インタビューの通りに記事が出てるわよ?
−あんた死にたいの?ぶたれたいの?
火がついたように怒るウンチェは、ミンジュの手からゲームを奪い取ると、ユン一人だけを大切にしようとしないミンジュを睨みつけ、どうしてそんな生き方をするのかとミンジュの背中を力いっぱい叩き始める。ウンチェの怒りを全て受け止めたミンジュは、ウンチェに正直な感情を話す。
−ユンを好きになり始めたの...ユンに真剣な感情を抱き始めて...だからそうしたの。
−あなたユンが好きでしょう?
−ちょっと!
−私は恋愛博士なのよ。気付かないはずないわ。昔から気付いていたわ。男女間に友情なんてあるはずないよ。
−...何をおかしなこと言ってるのよ!今日は倒れるまで叩かれてみる?
−私のものにしようと思ったけれど、しきりにあなたが浮かぶのよね。持って行きなよ。ウンチェが彼を。
ウンチェがますます腹を立ててミンジュに掴みかかったところに、ユンが姿を見せる。
−もうよせ!ソン・ウンチェ!
ウンチェは水に打たれたように身動きができなくなる。そんなウンチェに続けて怒鳴るユン。
−一体何の真似だ?どこで誰を殴ってる!ミンジュに指一本触れるなと言っただろう!今後俺のことで、"俺たち"のことに干渉するな、ソン・ウンチェ...。大げさに振る舞うな。分かったか?出ていけ...聞こえないのか?この家からすぐに出ていけ!
黙ってユンの言葉を受け止めていたウンチェの瞳に涙が浮かぶ。ユンに叱られて大きなショックを受けたウンチェが動揺しながらミンジェの部屋から出てくると、階段でユンを待っていたムヒョクがウンチェの涙を見てしまう。
ミンジュの部屋の前に置かれたゴミを手に、寂しそうに階段を下りるウンチェを心配そうに見つめながら、ムヒョクはウンチェから少し離れた場所で、ウンチェの様子を気にしながら歩き続ける。ミンジュの出したゴミをゴミ置き場に捨てたウンチェの姿も、涙を拭きながら歩くウンチェの姿も、迷子を見つけて声をかけ慰めるウンチェ
の姿も、ムヒョクは黙って見守っていた。
−どうしたの?ママがいないの?泣かないで、泣かないのよ。お姉さんがママ探してあげるからね。いい子は泣かないのよ、ね?泣いてる子にはサンタのおじさんがプレゼントくれないのよ。泣かないの...
〜雪の華 パク・ヒョシン〜
幼い子供を慰め、その涙を拭きながら自分の涙も拭くウンチェの健気な姿を見つめていたムヒョクに、いつの間にか微笑みが浮かぶ。ウンチェが迷子を母親に手渡し、また一人ぼっちになり横断歩道の前でうつむいていると、ムヒョクがウンチェの隣に立ち、赤信号で飛び出そうとするウンチェの腕を掴む。ムヒョクに気付いたウンチェは固い表情のままムヒョクに問いかける。
−オーストラリアの首都はどこ?
黙ってウンチェをじっと見るムヒョク。
−自分が暮らした国の首都も知らないんですか?
−キャンベラ!
−...シドニーじゃないの?
−キャンベラ!
−いつ変わったの?...韓国の首都はどこ?
−ソウル!
−おかしい人じゃないのね...いいわ。私たち付き合いましょう。
ウンチェの言葉に返事もできず、ムヒョクは持っていたみかんを口いっぱいに頬張り、ウンチェをただただ見つめていた。その夜、ウンチェと屋台に向かったムヒョクは、突然激しい頭痛に襲われる。既に焼酎を何本も開けて酔っていたウンチェは苦しむムヒョクを見て勘違いする。
−恥ずかしいの?私の顔を見るのが恥ずかしくてそうしてるの?内気なのね、おじさん。無鉄砲だと思ってたのに、内気なのね...
食べ物を箸で取ったウンチェは、ムヒョクの口に運んであげようとする。
−あ〜ん。恥ずかしがらないで!付き合うとこうするものでしょう?こうして愛情表現しなきゃ。あ〜ん!
あまりの痛みに机に頭を伏せてしまうムヒョク。
−本当に照れ屋なのね...可愛い、おじさん。
−...静かにしてくれ...5分だけ寝るから、静かにしてくれ...
絞り出すような声を出すムヒョクに、ウンチェは素直に“はい”と返事をすると、ムヒョクの隣で歌を歌い始める。眠っていたムヒョクは、遠くから聞こえる懐かしい歌に、オーストラリアでのチヨンとの幸せな日々が脳裏に浮かぶ。ふと目を覚ましたムヒョク
は隣に座り歌うウンチェを長い時間見つめ、ふとチヨンと一緒にいるような気分になり、愛しさがこみ上げて思わずウンチェの頬を両手で引き寄せ、突然
ウンチェに口づける。椅子に座ったまま倒れた二人は、顔を寄せ合ったまま気を失ってしまう。
その頃、ミンジュと過ごしていたユンがふとウンチェの様子が気になりウンチェの携帯に電話をすると、聞き慣れない男性の声が聞こえてくる。
−もしもし?ソン・ウンチェさんの携帯電話ではありませんか?
−携帯電話の持ち主が気絶してるんですよ!お嬢さんのお父さんが今こっちに向かってますよ。
何度声をかけても抱き合ったまま目を覚まさないムヒョクとウンチェに店主が困り果てていると、ウンチェの父がようやく現れる。
−あのですね〜、二人は息が止まるくらいにキスしたと思ったら、気絶してしまったんですよ!
抱きしめあったまま倒れている二人を引き離そうとする店主とウンチェの父だったが、なかなか離れず困っているところ、ユンが駆け付ける。様子を見て
少し動揺しながら事情を店主に尋ねるユンに、店主はまた同じことを説明する。ようやく手を離した二人を車に乗せたユンは、ウンチェの父に問いかける。
−どうなってるんです?兄さんとウンチェがなぜ一緒にこんなことに?
−彼を知ってるのか?どうして知り合った?
−はい、好きな兄さんです。
−何をしてるんだ?
−それは分かりません...
−ユン!ウンチェが好きなものは何だ?
−鶏の足、さざえ、ごはん...
−嫌いなものは?
−お化け、オランウータン、病院、ちゃんぽん飯、どうしてです?
−父親なのに、自分の娘に関して何も知らないんだ、私は...。ウンチェ、私よりユンがより近くで見て来ただろう?
−はい。
−お前が、ウンチェを私よりずっと良く知ってるよな?ウンチェ...ウンチェがもしかして変態なのか?
驚いてブレーキを踏むユン。
−はい??
家に戻ったユンはムヒョクをベッドに寝かせると、複雑な気分でムヒョクの寝顔をじっと見つめる。翌朝、ユンのベッドで目を覚ましたムヒョクは、隣で寝息を立てるユンに声をかけずに母親の姿を求めながらリビングへ向かう階段を静かに下りていく。母が鼻歌を歌いながら朝食の支度をする物音を聞きながら台所に向かうムヒョクは、彼女の後ろ姿を見ながら胸が張り裂けそうになり、思わず目線をそらしてリビングへと移動する
と、一点を見つめたまま身動き一つ取れなくなってしまう。
一方、目を覚ましていたウンチェは落ち着かずに妹の布団の中にいつまでもくるまっていた。そんなウンチェの不審な行動に疑問を抱いた妹は
、おねしょでもしたの?お姉ちゃん、と問いかける。
−ソン・ミンチェ...相談...
妹を布団の中に引きずり込むウンチェ。
−ねえ、私の唇ちょっと見てくれない?
−唇?なんで?
−どう?キスした唇みたい?
−え?
−それがね、夢なのか現実なのかわからないのよ...夢のようでもあり、現実のようでもあり...良く見てよ!キスした唇みたい?
−キスした唇ってどんなの?
−分からないよ、私だって一度もしたことがないのに..
−その歳でしたことなかった?
−うん...あなた変な本たくさん持ってて、こんなのたくさん読んだでしょう?
−う〜ん、嵌ってるけど実際には難しいよ...
虫眼鏡を持ってきたミンチェは、ウンチェの唇を凝視する。
−私の客観的な見解では、キス、したみたい!
−あ〜、どうしよう、どうしよう!もともと体がしたことは体が覚えてるっていうじゃない?確認するためにもう一度してみたら?その人と。
−何を?
−キス!
ウンチェがムヒョクとのキスを思い出して動揺している頃、ムヒョクは母親の悲鳴に気が付き思わずキッチンの母親の元へ駆け寄る。割れた皿で足に怪我を負い、血を流すオ・ドゥリの姿に、ムヒョクは"動きまわらずそこでじっとしてろ!"と大きな声を出し、
迷わず割れた皿の上を歩いていき、オ・ドゥリを抱き上げる。
−誰なの?ねえ?あなたは誰?
騒ぎ立てるオ・ドゥリを椅子に座らせたムヒョク。
−これ以上怪我をしたくなかったらじっとしてろ!
−あなた...ウンチェのボーイフレンドじゃない?どうしてあなたがここにいるの?
オ・ドゥリの質問には耳も貸さず、彼女の足に刺さった皿の破片を取り除いたムヒョクは、自分の着ていたシャツを破って手当てを始める。
−薬はどこだ?
−ユン...ユン...
−薬はどこなんだよ!
−ユン!私の息子はどこなの!ユン!
−...ユンは寝てる...薬はどこだ!
ムヒョクを遮ってユンの名を呼びながらキッチンを出て行ったオ・ドゥリは、目を覚ましたユンに"あの人は誰なの?何でうちにいるの?私がむやみに人を家に入れるなと言ったでしょう!"と
不安な気持ちをぶつける。"あの人が怖いのよ、帰るように言って"というオ・ドゥリの言葉が、ムヒョクの胸に突き刺さり、ムヒョクは
心の痛みをこらえるように破片を強く握りしめるが、あまりの悔しさに手を切った痛みすら感じることができない。
怪我を負ったその手以上に心がズタズタに傷ついたムヒョクがユンの家から出てくると、ムヒョクの前に母親から逃げ回っていたウンチェが姿を見せる。母の手から木の棒を奪ったウンチェは、突然その棒でムヒョクを叩き、もう私の前に現れないで
、と心の中にある本心を隠しながら感情的にまくしたてる。
怪我を負った手から血を流したまま、服もやぶれたまま、失意のムヒョクが向かったのは海苔巻を売る姉ソギョンとその息子カルチの元だった。ソギョンとカルチと過ごす時のムヒョクは、これまで感じたことのない家族の温かさを感じ、常に穏やかな表情を浮かべていた。ムヒョクは手の怪我を老人に手当てしてもらいながら、問いかける。
−どうして...教えたんだ?母さんのこと...どうして教えてくれたんだ?俺に...どうしろって?どうしろっていうんだよ!
行き場のない憤りを老人にぶつけるムヒョクだったが、三人はただ静かにムヒョク寄り添う。
−お前がしたいようにすればいいことだ...さあ、できた。必ず病院に行け!
−母さんが...あの女が、じいさんにも悪いことしたのか?
−うん...
その夜、ホテルに戻ったムヒョクは、ベッドに横たわりながら何気なく見ていたTV画面にユンとミンジュの報道が流れると、スッと起き上がり食い入るように画面を見つめる。ユンにとって、カン・ミンジュという女性が
かけがえのない存在であると知ったムヒョクは、オ・ドゥリとユンに対する憎悪感を抑えきれず、ある策略を思いつく。
ユンとのデートを終えたミンジュが自家用車に乗り込むと、一人の男性が突然助手席のドアを蹴飛ばす。
−おばさん!降りな
苛立ったミンジュが車を降りると、そこには、全くの別人に変装したムヒョクがいた。