変装したムヒョクに"おばさん"と呼ばれて腹を立てたミンジュが車から降りてくる。
−お前、どこ見て運転してる?
−ちょっと、おじさん!
−おばさんの車に...うちの犬がひかれたんだよ!
驚いたミンジュが車の下をのぞき込み、悲鳴を上げる。
−早く車をどけろ。車をどけろって言ってるだろう!
−気が付きませんでした...駐車する時に何も気が付かなかったし...
怯えるミンジュにムヒョクは冷たい態度のまま車をどかすようにと続ける。
−すみません、すみませんでした。保障しますから...
財布から小切手を抜き出すミンジュが、不足なら振込口座を教えて下さいと伝えると、ムヒョクがゆっくりと彼女に無言のまま近づいていく。
−何です?何なのよ...。私をからかってるの?あいにくだけど相手を間違えたみたいよ、おじさん。私はカン・ミンジュよ!むやみにこんなことしたら...
−黙って車を動かせ!1分以内に俺の目の前から消えろ、おばさん!
ミンジュが慌てて車に乗り込み、その場から去ると、ムヒョクは駐車場から人形を拾い上げ、車内で淡々と着替えをしながらユンに連絡を取り、ユンを迎えに行くために車を走らせる。ムヒョクがミンジュを騙すために使った犬のぬいぐるみを突然車の窓から投げ捨てると、そのぬいぐるみを拾おうとするウンチェに気付き、車を急停止させる。
−ああ、かわいそうに...お姉ちゃんが綺麗に洗ってあげるからね。
ウンチェが汚れた犬のぬいぐるみを抱きしめ優しく撫でる様子を見つめながら、ムヒョクは心が穏やかになるのを感じていた。
翌日、ウンチェはいつまでも目を覚まさないユンを、彼の苦手な怖い話をして目覚めさせる。仕事に向かおうと家を出てもまだウンチェに甘えて抱きつくユンを、心が揺れ動くのを振り切るようにウンチェが突き放す。
−ユン、その手を放して。放してよ!
−嫌だ...
ユンの手を振りほどくウンチェ。
−ねぇ!私はあなたの妻?あなたのママなの?気持ち悪いわね、何なのよ本当に!
−何だって?お前今何と言った?気持ち悪い?
−そうよ!そう、気持ち悪いわ!
−俺いじけたぞ!ソン・ウンチェ!マジでいじけたぞ!
ユンに背を向けスタスタと歩いて家を出たウンチェは、目の前にいるムヒョクの姿に息を飲む、また幻想を見ていると思い込む。
−...私本当に病気?...しっかりしろ、しっかり、ソン・ウンチェ!しっかりしろ、しっかりしろ!
頬を叩いてもう一度ムヒョクを見たウンチェは、目を丸くしたままムヒョクに近づいていくと、目を閉じたまま壁に寄り掛かるムヒョクの頬をつつく。パッと目を覚ましたムヒョクは、ヘッドフォンを外すと、ウンチェにじりじりと歩み寄る。
−なんでつつく?
−おじさんなのね...
−どうしてつつく!
−えっと、私が幻想を見てるのかなって確認したくて...
−お前も俺が好きなんだろ?
−いいえ!
−じゃあどうしてつつくんだ?じっとしてる人を?
−好きなんだろう?好きだからつついたんだろう?
−いいえ!
−顔色悪いな...具合悪いのか?
−いいえ...
−具合悪そうだ
−いいえ...
−顔面蒼白だけど?
−いいえ!
−お前“いいえ”しか言えないの?
−...いいえ...
−お前俺が嫌いだろ?
−いいえ...!
ムヒョクと言葉を交わした後、一度背を向けたウンチェは再びムヒョクの方へ向かう。
−ねぇ!私警告したわよね?私の前に現れたら殺すって警告したわよね!私やると言ったらやるわよ。殺すと言ったら殺すのよ、本当に!
興奮するウンチェに対し、ムヒョクは落ち着いた表情のままうっすらと微笑みながら答える。
−殺せ...殺せよ...
−あんたおかしい奴でしょう?
−うん...
−変態?
−うん...
−帰って!早く帰ってよ!国に帰りなさい!国へ帰りなさいよ!オーストラリアに帰って!オーストラリアに!
ウンチェに叩かれながらも全く動じないムヒョクだが、一度火のついたウンチェは気が収まらずさらにまくしたてる。
−早く行ってよ!帰って!あなたなんて嫌いなの!私のタイプじゃないんだってば!あんたみたいな人見るのも嫌だから帰って!帰って!
−何してる?ソン・ウンチェ!
黙ったままのムヒョクの代わりに、ユンが口火を切る。
−お前がどうして兄さんに帰れなんて言う?
相変わらずウンチェには構わず、ユンに微笑みかけるムヒョク。
−良く寝たか?
−兄さんも良く寝た?いつから来てたの?
−1時間前からだ
−今日は母さんと一緒の撮影だから、少しして母さんが出て来たら一緒に行こう、兄さん。
−...ああ...
事情を知ったウンチェが驚いた表情でユンに問いかける。
−このおじさん...新しいマネージャーが...このおじさんなの?
−そうだ、何だよ!
−おかしくなったのね?どうかしてるわ。どうしてこんな奴を...
−お前何だその言い方?こんな奴だって?この兄さんはお前より年上で、お前より...お前今日どうかしてるぞ。
−私今からあなたのコーディネーターはやらない!他の人を探して!
ウンチェが家に戻ろうとすると、オ・ドゥリが姿を見せる。
−母さん!ウンチェが僕のコーディネーターやめるって!
−え?どうして?
−知らない。他の人を探してくれって。
ユンのコーディネーターにはウンチェ以外いないとオ・ドゥリに諭されたウンチェは、しぶしぶオ・ドゥリの後について歩き出す。そんなオ・ドゥリを前に、ムヒョクは深々とお辞儀をすると、必死で笑顔を作る。
−あなた...
−今日から僕のマネージャーだよ。ムヒョク兄さん、知ってるだろう?
ムヒョクの運転する車が撮影地に到着し、撮影準備が始まると、ムヒョクは自然と母親の姿を目で追ってしまう。ユンが心を許すムヒョクだったが、オ・ドゥリはムヒョクに対して警戒心を抱き続けていた。そんな中、ムヒョクの姿が突然見えなくなり、心配になったウンチェは川のほとりへムヒョクを探しに向かう。
−おじさん!おじさん!変態のおじさ〜ん!
川の見える場所に着いたウンチェの前に、空を仰いで横になるムヒョクの姿が見えてくる。
−空が青いな〜。オーストラリアの空はすごく綺麗なのにな...
−韓国の空も綺麗ですよ
−オーストラリアの空の方が綺麗だ
−なら帰れば、オーストラリアに!そんなに綺麗なあなたの国に帰って生きて行きなさいよ。
眩しそうに空を見つめ続けるムヒョク。
−あの上へ行ったらどうだろうな...ここで見るより、かなりいかしてて、カッコいいか?
−気になるなら行ってみたら?
−行くさ、もうじき...。少しすれば...行くさ、必ず。
ムヒョクの置かれた状況を知る由もないウンチェは、その言葉の真意に気付かないまま、オ・ドゥリからの電話を受ける。起き上がったムヒョクにご飯を食べに行きましょうと声をかけるウンチェは、ふとのぞきこんだムヒョクが悲しそうな表情で一点を見つめていることに気づくと、語りかけるのをやめ、ただ傍にそっと寄り添う。歩き出したムヒョクの後をついていくウンチェ。
−飛行機のチケットを買うお金はある...ありますか?私が買いましょうか?飛行機のチケット。ユンがおじさんをクビにするわ...そうすると言ったんです。良かったんじゃないかな...苦労することもないし...
ウンチェはムヒョクが一人で歩いて行ってしまったことに気付かないまま、ぶつぶつと言い訳を続ける。
撮影を終えた一行は、スンデスープの店に向かい、食事をすることになる。食べ慣れないものを食べることになったオ・ドゥリは、店の様子に戸惑い続け、食事に手をつけようとしない。こんなものは食べられないとわがままを言うオ・ドゥリは、隣に座るウンチェに促されながらも態度を変えようとしない。その態度に腹を立てた店の女主人が、突然料理をオ・ドゥリに投げつけ、店は騒然とする。その頃、トイレにいたユンの元に電話が入り、ムヒョクとユンが店へと急ぐ。
怒りの収まらないオ・ドゥリは、ウンチェの言葉も聞き入れずに横柄な態度を取り続ける。
−クッパの商売、今日で終わりにしてやるわ、おばさん!私が息子に話して、ここから出ていってもらうから。
ユンの姿を見て自分がいかに酷い目にあったか伝えるオ・ドゥリの姿を黙って見ていたムヒョクは、息子ユンに泣きつく母親の姿を見るのに耐えられなくなり、突然暴れ始め、店を滅茶苦茶に荒らし始める。ムヒョクの豹変に驚いたウンチェは、ムヒョクを抱きかかえ必死に止める。その場を離れたオ・ドゥリとユンに対し、ウンチェは自分は知り合いの家によるから先に帰って欲しいと言い、一人撮影地に残ることになる。
ユンとオ・ドゥリをソウルへ送る車の中、ユンのために歌うオ・ドゥリの優しい歌声に耳を傾けていたムヒョクは、オ・ドゥリの膝で眠るユンと自分とが置かれた状況の差を痛いほど感じさせられ、涙を浮かべる。一方オ・ドゥリは自分を庇うためにムヒョクがとった行動を目の当たりにしたことで、ユンのマネージャーとしてムヒョクを雇う事を認める。
車内でのユンの話からウンチェがクッパの店へ行ったのだろうと耳にしたムヒョクは、その夜、自分が荒らしてしまった店にいるウンチェの元へと急ぐ。夜遅くまで店の掃除を手伝い、疲れ切ったウンチェの姿を見ていたムヒョクは、姿を隠しながらウンチェの後をついていく。最終バスが終わり、雨の降る中、宿を探したウンチェの元へムヒョクがやってくる。
−おばさん、うちの奥さんはどこ?
−ここにいるわよ...
ムヒョクがウンチェのいる部屋のドアを開けると、そこには熱を出して倒れるようにして眠るウンチェがいた。ムヒョクは雨の中薬を求めて走りまわり、ようやく薬を手に入れると、ウンチェを一晩中看病し続ける。翌朝熱が下がったウンチェが目を覚ます頃にはムヒョクは部屋を後にしていた。ウンチェは置いてあった薬の袋を手に、徹夜で自分を看病してくれたのはユンだと思い違いをしてしまう。
〜雪の華 パク・ヒョシン〜
ウンチェに情を抱き始めたムヒョクだったが、その反面でユンの恋人ミンジュに近づく計画を着々と進めていた。さらに家に戻ったウンチェに気付いたムヒョクは、ユンが看病してくれたと勘違いしたまま感激の涙を流すウンチェとユンが抱きしめ合う姿を冷たい表情で見つめながら、そっとカメラに収める。