【オ・ドゥリ 庭でユンを待つムヒョクの元へ】
−Mr.チャ!ユンは今起きて顔を洗っているから少し待ってね。
スポーツ新聞に目を通しながら朝食を食べていたムヒョクは、口元にケチャップがついているのにも気づかず、オ・ドゥリに会釈する。
−あら、顔にケチャップがついてるわよ。
慌てて洋服の袖で口の周りを拭きとるムヒョク。
−ううん、そっちじゃなくて...(手にしていた野菜ジュースをムヒョクに手渡し)これちょっと持っていて。
オ・ドゥリはムヒョクのシャツを掴み、ムヒョクの口についたケチャップを拭きとり始める。わが子に語りかけるように穏やかな表情でムヒョクに接するオ・ドゥリだったが、ムヒョクは思いがけない母の行動に雨に打たれたように、身動き一つできなくなってしまう。
−ほら、マネージャーはスターの顔だから、分かるでしょう?えっと、Mr.チャの人格がユンの人格になるの。Mr.チャの行動、言葉づかい、服装、マナー、うちのユンの妨げにならないように精一杯気を遣ってちょうだいね。オッケー?
−...オッケー...
−それと、この洋服も毎日しっかり洗濯をして清潔にね。こんなふうにだらしない恰好をせずに、ね?
ムヒョクがオ・ドゥリの言葉ひとつひとつを胸に刻むかのようにただじっと聞き入っていると、オ・ドゥリがムヒョクの手からスポーツ新聞のトップ記事である息子ユンの写真を見つけ、瞬く間にオ・ドゥリの関心はムヒョクから息子ユンへと移ってしまう。
ユンからミンジュを迎えに行って欲しいと頼まれたムヒョクは、再び変装して彼女に近づく。エレベーターの中で二人になると、あえて無関心を装うムヒョクの手から新聞を奪うミンジュ。
−通りすがりの犬相手でもこんなふうに無視するものじゃないわ。あなたそんなに立派なの?大したこともないのに笑わせないでよ...
エレベーターから降りようとするミンジュの腕を掴み、引き寄せるムヒョク。
−俺と寝たいのか?俺に関わると死ぬまで逃れられないぞ...自信がないなら関わるな
素性の知らない相手でありながら、会うたびに興味が深まるミンジュだったが、ムヒョクはその場からスッと姿を消してしまう。何食わぬ顔で服を着替え、ミンジュを迎えに行くムヒョク。
【ユン&ミンジュ 撮影現場】
ユンとミンジュの撮影がスタートすると、ウンチェはベンチに座るムヒョクが何か食べていることに気が付き急いで駆け寄る。
−ユンのファンが彼のために持って来たものなのよ!もう食べるのやめてよ!ユンのものだってば...。食べたければ自分のお金で買って食べなさい!
差し入れの食べ物を片付け始めるウンチェに苛立つムヒョク。
−どけ!
−スーパーに行ってお得意の脅迫でもしたら?
−どけよ!
−どかないわ。何よ、私も殴る?もう一度拳を使ったらその時は本当におしまいよ。その時は私がアフリカにでもパッと逃げてやるから。
ムヒョクが唖然とした表情でウンチェを見ていると、その場へユンがやってくる。ユンはムヒョクに喜んで差し入れを分け与え、ウンチェはまた言葉を失う。その後、ミンジュとユン撮影の様子を見守っていたウンチェは、ユンの目線の先にいるのが自分であって欲しいとの想いが募り、揺れる心を抑えきれずにその場を離れていく。ウンチェの心情を察したムヒョクは彼女の後を追うが、ムヒョクが見ていることにも気付かずにウンチェは車の窓にコンコンと頭を打ち付ける。
−ああ、彼にはミンジュがいるのに...このトルティン、トルティン(間抜け)...
ウンチェに近づき、彼女の頭を掴むと車からグッと放すムヒョク。
−車がへこむだろう、このトルティンア(間抜け)!
ムヒョクが車の窓ガラスを拭き始めると、ウンチェは車の向こう側でいたずら書きをする女子学生を見つける。ユンのファンなら、ユンが愛する女性も愛するべきでしょうと学生に説教するウンチェだったが、聞く耳を持たない彼女らに突き飛ばされる。助けに向かおうとするムヒョクに、構わないでという仕草を見せるウンチェ。学生らが去ると、ウンチェは鼻血を流し、顔にあざを作ったまま、必死で車に書かれた落書きを消し始める。無表情でこらえるムヒョクに語りかけるウンチェ。
−良くやったわ、おじさん。話をよく聞いていい子ね。これからも私に何か起こっても、ただ見てるだけでいいのよ、おじさん。いつもこんなふうに殴られて生きてきたんだから...。愛する女性が叩かれても、絶対に怒りを爆発させちゃだめよ。分かった?暴力は無条件でダメなのよ...おじさんに殴られたらあんなに弱い子たちは死んじゃうかもしれないのよ。
ウンチェに近寄り、車の落書きを声に出して読むムヒョク。
−カン・ミンジュ...浮気..もの?
−何言ってるのよ!可哀想に...スターは恋すらできないのね...
ユンが来る前に消さなきゃとつぶやきながら、自分の顔の手当てもせずに車をせっせと磨くウンチェをやりきれない表情で見つめるムヒョクは、少しずつ彼女の優しさに触れ、ウンチェに対する特別な感情が芽生え始めたのを感じていた。
【ムヒョク ソギョンの元へ】
カルチから連絡を受けたムヒョクは、姉ソギョンが受けた仕打ちを知り、急いでカルチの元へ駆けつける。ムヒョクが浴室へ向かうと、ソギョンは泣きながら体を洗っていた。
−姉さん...背中、流してやろうか?
怯えた様子のソギョンがまた泣きだすと、優しく手を伸ばすムヒョク。
−こんなのでこすったら痛いだろう?
やわらかいタオルをお湯に浸し、ソギョンの痛みを癒すようにソギョンの体を洗うムヒョク。
−ごめんな..この前、どなったりして...ごめん。もうしないよ、ごめん...本当に可愛いな、うちの姉さん。こうして見てみるとすごく美人だ。俺が全部綺麗にしてやるから。あいつら、どこにキスしたんだ?ここにしたのか?
涙を浮かべながら穏やかに語りかけるムヒョクに、ようやく心を開いたソギョンは、静かにうなずく。
−俺が綺麗さっぱり洗ってやるから。洗ってやるから...
胸を引き裂かれるほどの痛みを感じるムヒョクは、悲しみをこらえながらソギョンの体を優しく洗い続ける。ソギョンが眠りに着くと、ムヒョクはいつの間にか母親の住む家に足を伸ばしていた。そんなムヒョクの前に、ユンとオ・ドゥリとミンジュが楽しそうに過ごす様子を見て寂しさを感じたウンチェが、とぼとぼと歩いてくる。
−トルティンア...
−おじさん?ここで何してるの?こんな時間に...
−...俺も...抱きしめてくれ...ユンみたいに、一度だけ抱きしめてくれ...
−酔ってるのね、おじさん。
座り込んだままウンチェを見つめるムヒョクの瞳から流れる涙に気付いたウンチェ。
−抱きしめてくれ、一度だけ...
−...早く家に帰ってください。寒いのに...風邪ひくわよ。
ウンチェはムヒョクの言葉を受け止めようとせず、背を向けて歩いて行ってしまう。ムヒョクはウンチェの後ろ姿が遠ざかるのを切ない想いで見送り、その場を後にする。
【スポーツ新聞 ユンとウンチェの記事】
ユンとウンチェのスキャンダル記事に憤慨するオ・ドゥリの様子に、ウンチェの父はとうとう爆発する。
−コーディネーターが何だって?スターがどうした?スターが一度落ちぶれたらどうなる?そこでおしまいだよ!うちのウンチェはユンよりも何百倍もパワフルだ!
−オッパ...どうかしたの?
−他のことは全て我慢できても、うちのウンチェを悪くいわれるのは我慢できない!
いたたまれずに外に出たユンは、ウンチェの顔を見ても何一つ言葉が出てこない。ユンが向かったのはミンジュのマンションだった。ユンが来たことに気付きながら、怒ったようにユンに背を向けたまま長時間TV画面を見続けるミンジュは、裏切られたような気分が払拭できずに一度もユンの顔を見ることはできなかった。ミンジュに拒絶されたユンは、ショックから立ち直れずにベッドの中から出てくることができない。ユンの落ち込む姿を目の当たりにしたウンチェは、ユンが愛しているのはミンジュだということを改めて感じ、マスコミの前に出る決心をする。
ムヒョクの前で記者に囲まれるウンチェが突然のことで戸惑っていると、ムヒョクが彼女の楯になり、取材陣を追い払おうとするが、ウンチェが意を決して振り返る。
−カメラを収めてくれたらインタビューに答えます!
"ユンと私は同じ家で共に育ち、25年の歳月を過ごした友人です。私たちはママのミルクも一緒に飲んで、双子のように育ちました。私の父はユンのお母さんの運転手で、私の母は彼の家の家政婦です。私の家族はユンの家の地下部屋で過ごしてきました。ただの一度でもユンを男性として見ていたなら、自尊心が許さないので、あの家で一日すら過ごすことができなかったでしょう。それはユンも同じです。ただの一瞬も私を女として見ていたら、ミンジュをどれほど愛しているか、自分にとってミンジュがどれほど大切なのか、ミンジュのためにどれほど苦しんでいるか、そんな話は絶対にできないはずです。他に聞きたいことがありますか?"
ウンチェは取材を終えると、だまったままムヒョクの車に乗り込む。ムヒョクもまた何も言葉にせず、ウンチェを乗せた車を走らせる。
−ミュージックスタート...
ウンチェの一言にムヒョクがカーステレオをオンにすると、泣くのをこらえていたウンチェが声をあげて泣き出す。傷つき、涙を流すウンチェの傍に寄り添いながら、ムヒョクは自分のしたことがウンチェを深く傷つけてしまったことで自責の念に苦しむ。
−俺が狙ったのはユンなのに...お前が何故血を流す...トルティンア...
【ミンジュのマンション】
ムヒョクはミンジュのマンションでミンジュと年配の女性の会話を耳にする。
−ここに来るなと言ったでしょう?ここに来ないでって言ったでしょう!
スカーフで顔を隠しながらミンジュの前で背中を丸める女性が彼女の母親であることに気付くムヒョク。
−父さんが知ったら大変よ!ママも私も殺されるの!わかるでしょう?もう来ないから、二度と来ないから...ママと一緒にご飯だけ食べようよ、ね?ママがソウルホテルに部屋を取ったの。だからそこに来てちょうだい。父さんが怖ければ、そこに来てくれるでしょう?ね、ミンジュ...
−良く聞いて。ママと私の縁はママが父さんに私を押しつけたときに終わったの。みっともない真似はやめてよ!
−ミンジュ!ミンジュ!行かないで!
−やめて!私はママの娘じゃないのよ!
ミンジュが母親を振り払いエレベーターに乗り込んで行ってしまうと、ミンジュの母は泣きながらその場を後にする。ムヒョクは一歩遅れてエレベーターに乗り込み、ミンジュの母が落としていったスカーフを拾い上げる。その後、ムヒョクは駐車場で何かを探す様子のミンジュの前に姿を見せる。
−助けが必要か?
−車のキーをなくしたみたいです...
キーを見つけたムヒョクだったが、彼女には伝えないまま“どこへ行く?”と問いかける。ムヒョクはミンジュをスーパーマーケットへと乗せていくと、買い物に付き合い、荷物を手にマンションへと戻ってくる。ミンジュと共にエレベーターに乗り込んだムヒョクは、ミンジュに母親の落としていったスカーフを黙ってそっと差し出す。ミンジュの心の隙に入りこんだことを確信したムヒョク。
−警告したよな?自信がなければ関わるなと...俺にかかわれば死ぬまで逃れられなくなると...言ったよな?
こらえきれずに涙を流すミンジュは、ムヒョクをじっと見つめる。
−それなのに、何故関わった...
二人を乗せたエレベーターの扉が開くと、そこにはウンチェの姿があった。