思惑通りミンジュが自分に関心を抱き始めたことを知ったムヒョクだが、ムヒョクの心の中はすでにウンチェのことで満たされ始めていた。バスルームでくもった鏡にウンチェの名前を書いてみると、ムヒョクは幸せそう
な微笑みを浮かべる。
−ウンチェ、良く寝たか?
一方、翌朝ソギョンのとなりで目を覚ましたウンチェもまた、ムヒョクに抱き始めた自分の感情を受け止めながら、幸せな気分に包まれていた。ソギョン、カルチとともに海苔巻を売りながら、ふと家族を思い出したウンチェは、公衆電話に向か
い、家に電話を入れる。居場所を告げないまま電話を切ったウンチェに、家族は心配が募る
が、どうすることもできないまま重苦しい空気が流れる。
そこへユンが姿を現し、ウンチェの捜索願いを出した方がいいと主張するが、ウンチェの両親はその必要はないとユンの申し出をキッパリと断る。
ソギョンとカルチの待つ場所へ戻ったウンチェは、ムヒョクの姿を目にすると、ムヒョクに感じ始めた愛情を改めて感じ胸を熱くする。食事に出かけ、買い物を楽しみながら、ムヒョクはウンチェが傍にいてくれることの喜びをしみじみと感じていた。
−神様...あなたが本当に存在するなら...俺はあなたに約束します。ソン・ウンチェ、俺に残された時間、この女性だけ俺の傍に置いて下さるなら...この女性が、俺に残された時間を癒してくれるのなら、これ以上俺を惑わさないでくれるなら、このまま、ここで全て終わりにします...。
憎悪も、煩悩も、全てゴミ箱に捨てて、静かに目を閉じます...。神様、俺はあなたに約束します。
妹のミンチェと連絡を取ったウンチェは、ミンチェとアイスクリームショップで待ち合わせをすると、ムヒョクに抱く気持ちを告白し始めるが、カルチを通わせる予定の学校の先生との面談約束をふと思い出し、ミンチェにソギョンを頼むと言い残して急いでその場を離れていく。ウンチェはカルチを小学校に通わせるため、学校に出向いたのだ。ミンチェは自宅にソギョンを連れていくと、用事を済ませてくるまで待っていてとユンの家の前に一人ソギョンを置いて家に入ってしまう。
一方、ウンチェのいない時間が長くなればなるほど、ユンは不機嫌になっていた。疲労が蓄積し、寂しさで疲れ切ったユンが仕事から戻ると、家の前にいる見知らぬ女性の姿に気付いて声をかける。女性の髪につけられているヘアピンが、自分がウンチェの誕生日に贈ったものだったことから、その女性がウンチェを知っていることを悟るユン。
−ウンチェを知ってるの?ウンチェを見た?ウンチェは家にいるの?
−いいえ
−ウンチェはどこ?
−アイスクリーム!
−何?
アイスクリームショップに戻ったウンチェは、そこにはすでにミンチェとソギョンの姿がないことで慌てて公衆電話に走る。ミンチェの話から、ソギョンと会ったユンが事情を悟り、ソギョンを連れて帰りたいならウンチェに家に来るようにと言っていると知るウンチェ。ユンの家に招かれたソギョンは、実の母親が住む家とは知らず、ユンにもてなされて嬉しそうにお菓子を頬張っていた。
−行くな...行くな、ウンチェ...つらい想いはさせないから...行くな
ムヒョクの傍にいてあげたい気持ちが強くなっていたウンチェの脳裏に、ムヒョクの言葉が蘇る。これまで胸に抱き続けていたユンに会うことは、ウンチェにとって勇気の必要なことだった。夜になっても一向に姿を見せないウンチェに、ユンの苛立ちは募る。退屈しはじめたソギョンは、オ・ドゥリの部屋に入り込み、ジュエリーボックスを開け、中にあるものを手にした途端、箱を落としてしまう。
ウンチェが姿を見せる前に、オ・ドゥリが帰宅すると、ソギョンの姿を見て驚く。ソギョンの素性がわからないオ・ドゥリは、ソギョンが手にしていたぬいぐるみにつけられた自分のネックレスを見て騒ぎ出す。その頃、ウンチェとソギョンの帰宅が遅いことでムヒョクは心配で居てもたってもいられずに二人を探しに外へ出ていた。
指輪が無くなったことでソギョンを疑ったオ・ドゥリは警察を呼び事を大きくし、ソギョンは不安になって泣きだしてしまう。自分の産んだ子供だとは全く気付かないオ・ドゥリは、ソギョンを犯人扱いし責め立てる。
ウンチェは家の前に着いていながらも中に入ることができず、門の前に座り込んでいた。そこへムヒョクが姿を現す。ムヒョクに気付いたウンチェは、すっと立ち上がる。
−...おじさん...あのね...だから、これは...
−姉さんはどこだ?家に帰ったのか?
−...いいえ、中にいるわ...
急いでオ・ドゥリの部屋に向かったムヒョクの前に、悲痛な光景が飛び込んでくる。泣き叫ぶ姉ソギョンを泥棒扱いする実母オ・ドゥリの姿を目のあたりにしたムヒョクは、服が乱れた様子のソギョンに黙って近づき、自分の身に着けていた上着を着せると、ソギョンをおぶい、オ・ドゥリを見つめながら血の涙を流すような表情でその場を後にする。
−神様...あなたが本当に存在するなら...俺はあなたに約束します...
ソギョンをおぶってユンの家から出て来たムヒョクを追うウンチェを見つけたユンは、ウンチェの手を強く掴み引き止める。
−離して!離してよ!
ウンチェは迷わずユンの手を振り払い、背を向けるとムヒョクの後を追う。
−おじさん!おじさん!おじさん!
ムヒョクは黙ったまま、ウンチェの声に振り帰ろうとせず、悲しみや怒りや失望を全て胸に秘めたまま、家に向かって歩き続ける。
−俺に残された時間、この女性だけ俺の傍に置いて下さるなら...この女性が、俺に残された時間を癒してくれるのなら、これ以上俺を惑わさないでくれるなら、このまま、ここで全て終わりにします...。恨みも、怒りも、全部ゴミ箱に捨てて、静かに目を閉じます...。神様、俺はあなたに約束します。
涙を流してムヒョクの後ろ姿を見つめるウンチェに、ユンが近づく。
−何だ?お前今までムヒョク兄さんの家にいたのか?...ムヒョク兄さんの家にいたのかって、今まで!おかしくなったのか?
−大声出さないで。
振り返り、強い表情でユンを見据えるウンチェ。
−どうして大声出すの?私にどうして怒鳴るのよ!私があなたに何か悪いことでもして怒鳴られてるの?それに私、おかしくなってないわよ。バカね、ユン。
−どうしたんだ、お前、他人みたいに?
−あなた今日は失礼なことしたわ。ソギョン姉さんに、ムヒョクおじさんに...ひどく無礼なことをしたのよ。
ソギョンを犯人と決めつけていたオ・ドゥリの前で、ふとミンチェが廊下に落ちていたソギョンの指輪を見つける。慌ててその指輪を受け取ったミンチェの父は、持ち主がオ・ドゥリの実の娘であることに気が付き、顔色を変えて外に飛び出す。
翌朝、自分のせいでウンチェが気分を害したと思いこんだユンは、ウンチェにチャジャン麺を食べに行こうと誘うが、ウンチェはユンの顔も見ようとしない。
−どいてよ、どいてってば!
−チャジャン麺!チャジャン麺食べよう!
ユンの足を蹴飛ばしたウンチェは“チャジャン麺、一人で食べなさいよ!”と怒りをこめて叫ぶ。
−どうしたんだよ!お前どうかしてるよ!薬でも飲んだのか?
−もし薬を飲んでいたら、今あなたを殺してるわ。あんたいくつなの?チャジャン麺?チャジャン麺食べたい?あんたのせいで、ある人は一睡もできなくて、水一杯も飲めなかったのよ!
−それが俺のせいなのか?どうして俺だけのせいにする?どうして俺だけ責める?
−情けないわ、チェ・ユン。超恥ずかしい!
−行きたいなら行ってみろ...戻らないのか?こっちへ戻らないのか!
一度背を向けて歩き出したウンチェがユンの方を振り返る。
−行けと言われれば行き、来いといわれれば来て...あたしはあんたの飼い犬じゃないのよ、このバカ!
−ソン・ウンチェ!ソン・ウンチェ!
ウンチェはその足でソギョンの住む家へと向かう。階段を一段一段重い足取りで上りながら、ウンチェはなかなかソギョンの家の門を開けることができずにいた。そこへカルチが飛び出してくる。
−学校は行かなかったの?
−はい、ママが具合が悪いんです。薬を買いに行かないと...
−それでも学生は学校へ行かなきゃ。おじさんは?
−知りません。朝起きたらいなかったんです。すぐに薬を買ってきますね!
ウンチェは罪悪感を抱きながら、そっとソギョンの部屋の扉を開け、眠っているソギョンに近づく。
−お姉さん...
目を覚ましたウンチェに気付いたソギョンは怯えてウンチェから身を離す。
−ごめんね...私のせいで、ごめんなさい、お姉さん。
−私指輪を盗んでないわ...盗んでいません...
−分かるわ、分かってるの...ごめんね、本当に...
ウンチェがユンの元へ戻ったと誤解し、さらに母親オ・ドゥリの態度で深く傷ついたムヒョクは、ユンの恋人ミンジェに再び近づき、“愛してる”と打ち明ける。ムヒョクの言葉に心揺れるミンジェは、ユンからの電話を受けることができない。カン・ヒョヌと名乗るムヒョクに、徐々に心を奪われていくミンジェの前に、ユンが姿を見せる。ユンを見ても車の窓を開けようとしないミンジェに、大声を張り上げるユンだったが、雨が激しく打ちつける中、とうとう待つことができなくなり、自分の車に戻りその場を去っていく。
1日中ソギョンの看病をしたウンチェは、ソギョンが眠りに着くと安心したように微笑み、ムヒョクの帰りを待ち続ける。ソギョンが熱を出して寝込んでいたその夜、オ・ドゥリはベッドの下から探していた指輪を見つけることになる。ソギョンにしてしまった仕打ちを思い出したオ・ドゥリは、罪悪感に胸を痛めていた。
雨の降りしきる夜の道を、ウンチェにもミンジュにも心を閉ざされ、失意の中朦朧とした状態で運転していたユンは、事故を起こしてしまう。