崖から車ごと転落したユンは、意識が薄れゆく中、幼い頃から自分の傍に居て支え続けてくれたウンチェとの日々の記憶が脳裏をよぎる。
−どこにもいかず、どんな話も聞かず、私の手だけしっかり握ってね...大丈夫、心配ないわ、何でもないわよ、ユン...
病院に運び込まれたユンが、緊急手術を受け、生死の境をさまよう間、知らせを受けて一旦病院に駆け付けたウンチェだったが、自分がユンに対して言い放ってしまった冷たい言葉をふと思い出し、ユンの元へは行かないまま病院を後にする。
息子の事故による怪我の知らせにショックを受けて寝込んでしまったオ・ドゥリは、翌朝ミンジュに支えられながらユンの病室に足を運ぶ。病室の前で佇むムヒョクを見つけたオ・ドゥリは、突然ムヒョクの頬を平手打ちし、興奮してムヒョクに当たり散らす。"どこで何をしていたの!"とムヒョクに掴みかかるオ・ドゥリの様子に、ウンチェの父が驚いて止めに入る。
−何をしてる?彼が何か悪いことでもしたのか?どうしたんだ?
−私この子を見ると気分が悪いのよ!みんなこの子のせいよ!
−何の罪もない子に何を言ってるんだ、今は神経が過敏になっているからだ、落ち着け...
ウンチェの父は"ごめんな、チャ君が理解してくれ"とムヒョクに声をかけ、オ・ドゥリを病室に連れていく。
−うちのユンに何かあったら...あなたを許さないわ!許さないわよ!
オ・ドゥリの取り乱した様子に凍りついたように立ちつくすムヒョクに、ミンジュが謝罪する。
−申し訳ありません...私が代わりに謝ります。
ムヒョクは涙をこらえたまま、じっとその場で悲しみをこらえながら、オ・ドゥリが悲痛な声を上げる様子に耳を傾けていた。ユンの病室に入ってきた医師の話から、ユンが先天的に心臓が弱いため手術が長引き、今後心臓に深刻な問題が起こる可能性があることを、偶然ムヒョクも知ってしまう。
意識を取り戻したユンが真っ先に探したのはウンチェの姿だった。ムヒョクはウンチェを連れてきてほしいとのミンジェの言葉に、ウンチェを迎えにいくため車を走らせる。食事も喉を通らず、一言も話すことのできないウンチェの部屋に、妹
ミンチェに案内されムヒョクがやってくる。妹の声に反応し、一度はムヒョクを見つめたウンチェだが、ふたたび目線をそらす。
−うちのお姉ちゃん...水を一滴も飲まず、一睡もせず...自分の中に閉じこもったままなんです。お姉ちゃんが驚くので、大きな声を出さないように気をつけてくださいね...
ミンチェが部屋を出ると、ムヒョクがウンチェに語りかける。
−ユン...意識が戻ったぞ
−意識が戻ったの?ユンは生きてるの?
−お前を探してる、ユンが...。行こう。早く連れて来いだとさ。
うつむいてじっと黙りこむウンチェ。
−トルティンア!
身じろぎもせずベッドの上でひざを抱えたままのウンチェを、日が暮れるまで黙って待ち続けるムヒョクは、夜になってもウンチェをじっと見守り続けるが、とうとう待ち切れずに部屋の電気をつける。
−お前を待つことでユンが死ぬかもしれないぞ。行こう!
ウンチェに上着を着せると、ムヒョクはウンチェを軽々と抱き上げ、嫌がる彼女を部屋から連れ出す。
−おじさん!おろして!おろしてよ!何してるの!
無理やり車に乗せられたウンチェはムヒョクに怒りをぶつける。
−何してるのよ!行かないわ!行かないの!行かないんだってば!
ムヒョクは落ち着いた様子のまま、ウンチェにシートベルトをつける。
−怒るな。怒鳴るな。一睡もせずに水も飲んでないなら、力を無駄に使うな。
−私はユンのところへは行かないんだってば!分かった?
ウンチェの言葉を無視したまま、ムヒョクは車を走らせる。
−しっかり聞いて、おじさん。私はユンのところへは行かない。行けないの...。私がユンに何をしたと思う?どれだけひどいことをしたか...。ユンと合わせる顔がないの...
−水を一滴も飲んでないくせに、涙をバケツ一杯分流すつもりか?アマガエルか?洪水になるからもう泣くのをやめろって!お前が泣き続けたら...俺がパッと連れてくぞ!メシ食おう!何でもいいから何か食べるぞ!
−車を止めて...
−メシ食うか?俺とキスするか?
−車を止めてよ、早く!
−メシ食うか?俺と寝るか?
−車のドア開けて飛び降りるわよ!
−メシ食うか!俺と生きるか!メシ食うか!俺と一緒に...死ぬか!
ムヒョクの心の底からの訴えにハッと我に帰ったウンチェは、ムヒョクと共に食堂に入り、料理を前にするが、何も口にすることができない。ウンチェを励ますように、ムヒョクは豆をつかって「食べろ」と文字を作り始める。ウンチェは、ムヒョクの作った文字の綴りが間違っていることに気付きながら、ムヒョクの優しさをしみじみと感じ取る。
−食べ物でふざけてるの?
ウンチェがようやくご飯を口に運び始めるのを見て、ムヒョクは安心したように自分もスプーンを手にすると、食事に手を伸ばす。ウンチェに何かしてあげたい気持ちが湧き上がるムヒョクは、病院へたどり着くと、助手席で眠ってしまったウンチェを温かい眼差しで見つめ続ける。
翌朝、ムヒョクの隣で目覚めたウンチェは、意を決してユンの病室へと向かう。病室にいたミンジュはウンチェが来たとたん席を立つと、引き止めるウンチェに"ユンは私のせいでこうなってしまったの。他に好きな人ができてしまった"と打ち明ける。ミンジュに怒りをぶつけるウンチェだったが、ミンジュは何故こうなったのか自分でも分からないと涙を流す。
車の中で目を覚ましたムヒョクは、ウンチェがすでにユンの元へ向かったことに気が付き、寂しそうにほほ笑む。そんなムヒョクの前に、肩を落として病院から出てくる
ミンジュの姿がうつる。ミンジュの後をつけたムヒョクはいつものようにミンジュと同じエレベーターに乗り込むと、彼女の目の前でサングラスとつけ髭を外し、ヘアースタイルを元に戻すと、いつもの帽子を被り、ガムを口に頬張る。二人が同一人物であることを知りショックを受ける
ミンジュの前で、淡々とつぶやくムヒョク。
−ある人にとっては、ガムみたいに簡単に噛んで捨てるのが愛だが、ある人にとってはその愛に命をかけたりもする...。罰を受けたと思いな、オバサン!
ミンジュは身動きすら取れないまま、エレベーターを降りて行くムヒョクの後ろ姿を呆然と見送る。ムヒョクは計画通りにミンジュの心を奪った途端、身を翻すことに成功し、マンションを後にする。
一方、一旦家に戻ったオ・ドゥリは、かつて失った子供のことを思い出しながら、胸の痛みをウンチェの父に打ち明ける。
−オッパ...ユンまで奪わないわよね?私に残ったのはユンだけなのに、私にとってあの子が全てなのに...まさかユンまでも奪うことはないでしょう?そうよね?
−もちろんだ、もちろん...
−生きていたら、27歳になっていたはずね。あのとき、この世を見ることもできずに死んだ子が生きていたなら、27歳よ...。自分でも知らないうちに、年が明けるたびに数えて来たわ。万が一、死んでいなかったら、今日が誕生日よ、オッパ...。
ウンチェの父は、オ・ドゥリの深い悲しみに触れ、さらにムヒョクとソギョンの置かれた状況の悲痛さを知り、自責の念に苦しむ。
その頃、カルチはケーキの上にろうそくを立て、ソギョンとムヒョクの誕生日を祝う準備をしていた。二人から連絡を受けたムヒョクは、笑顔を浮かべて坂道を上ってくる。
−おじさん!早くおいで〜!
ムヒョクはソギョンとカルチを抱き上げ、家族と共にいる時間の温かさを感じていた。誕生日ケーキをかこみ、慎ましくも温かいパーティをする3人の様子を、ウンチェの父がそっと見守る。そこへミン・ヒョンソクが現れると、ある女優に捨てられた二人の子供、すなわちムヒョクとソギョンがどれほど大変な人生を送ってきたのかを語り始める。当時の事情を全て知っている老人の存在に、ウンチェの父は驚きを隠せない。
そんな外の様子に気づかないまま、ムヒョクとソギョンとカルチが顔についたケーキのクリームを洗い流しながら"ウンチェを呼ばなくちゃ"と話すと、ムヒョクの表情が曇る。
−電話に出ないんだよ...ウンチェ姉さんに会いたい!
−私も会いたい!
−ウンチェ姉さんはどこにいるの?
カルチに問いかけられたムヒョクは固い表情のまま、黙って顔を洗い続ける。その夜、ユンの病院に足を運んだムヒョクは、ウンチェの姉スクチェと母との会話から、ユンがウンチェの手を絶対に離さないと話しているのを耳にする。
電気の消えた真っ暗な病室に入ったムヒョクは、ユンに手を握りしめられたまま身動きも取れずウンチェが座ったままの姿勢でうたた寝する様子を見て、そっと隣に座り、ウンチェを抱き寄せる。ムヒョクの温もりに気付いたウンチェは、ムヒョクにもう一方の手を優しく包まれた途端、安心したようにムヒョクの肩に身を預け、眠りにつく。ウンチェに看病され、徐々に回復し、ユンはようやく退院する。
ユンが気力を取り戻し、ウンチェの存在の大切さに気付いて彼女に気持ちを打ち明けているそのとき、ムヒョクは突然襲ってきた頭痛に苦しんでいた。思わずウンチェに電話をしたムヒョクだったが、ウンチェの携帯電話に出たのはユンだった。そしてユンから"ウンチェと僕は付き合うことにしたよ、兄さん"との思いがけない言葉を聞くことになってしまう。ウンチェは戸惑い、運転していた車を一旦駐車すると、ユンが握りしめたままの手を必死でふりほどこうとする。
−戸惑ってるのか、ウンチェ?過去のことは聞かないでくれ...無条件で許してくれよ。どうしてあのとき気付かなかったのか...少しの間でも姿が見えないと、母に捨てられた子供みたいに不安で、お前が好きなものを食べれば、自分が食べてるよりずっと気分が良くて...それが愛だとどうして分からなかったんだ、俺は?愛してる、ウンチェ...。ずいぶん気が付くのが遅くなって、ごめん...
自分の心にムヒョクがいることを打ち明けることができないまま、ウンチェは父さんに電話して来てもらうからと運転席から降りて歩いて行ってしまう。
その頃、ソギョンとカルチの住む家へと重い足取りで向かうムヒョクの前に、ミンジュが現れる。一体あなたは誰なの、と問いかけるミンジュに背を向け、歩きだすムヒョク。
−ユンに関係があるの?ユンに恨みでもあるの?あんたのせいでユンも失って、ウンチェも失って...こんな私を心から愛してくれた二人を失ったの...。
ミンジュの前に立ち、無表情のまま淡々と“すみません。申し訳ありません”と頭を下げるムヒョク。
−ユンに話すわよ。ユンに話すことだってできるのよ!
−好きにしろ。マネージャーに、あの悪い奴に誘惑されたって、ユンに話せよ
−その悪い奴に、まだ惹かれてることも...それも話す?
ユンに告白され、心の揺れていたウンチェだったが、自分の心に問いかけるよう街を一歩一歩と歩きながら、自分が愛しているのはムヒョクだと確信し、急ぎ足でムヒョクの家へと向かうが...。