【捕虜収容所】
韓国軍に捕虜として捕らえられていたウニョクとチョルヒョンら人民軍の兵士たちは、収容所脱出のため、暴動を起こす。異変に気がつき現場に駆けつけたパク・チャンジュは、逃亡するウニョクとヘギョンに銃口を向けるが、そのパク・チャンジュの姿を見つけたウニョクは思わず引き金を引く。ウニョクの銃弾を胸に受けたパク・チャンジュは危険な状態に陥ってしまう。ウニョクは妹ソンヒが愛するパク・チャンジュを撃ってしまったことに戸惑いながらも、愛するヘギョンや部下たちを救うため、必死で収容所から逃亡する。
【病院】
病院に運ばれたパク・チャンジュは出血が激しく、命の危険が迫っていた。チャンジュの傍を離れられないソンジュに対し、パク・チャンジュは最後の力を振り絞り、「オ・チョルヒョンとチェ・ウニョクを捕まえにいけ!」と怒鳴り声を上げる。次第に力を失うチャンジュは、朦朧としながらチェ・ソンヒを連れて来い、とソンジュに伝える。命が危険にさらされたパク・チャンジュを目の前に、苛立ちながらソンヒの元へ向かうソンジュ。パク・チャンジュは駆けつけたトンウにも「今は戦争中だ、オ・チョルヒョンとチェ・ウニョクを生かしておいては...」と息も絶え絶えに話し、ウニョクとチョルヒョンの2人に執着し続ける。
【捕虜収容所】
ウニョクらが脱出した収容所に向かったトンウは、やりきれない思いでウニョクとヘギョンが捕らわれていた場所に立っていた。
「ウニョク、俺は今お前を追うしかない。頼むから逃げてくれ。ヘギョンを連れて遠く、遠くへ、逃げてくれ」
【逃亡中のチョルヒョン、ウニョク】
一方、逃亡先で身を潜めていたチョルヒョンとウニョクらは陸路より海路の方が安全だと判断し、1次集結地のカッカ山で合流し万石埠頭に出ることを決断する。
「カッカ山で兵士を集結して2次集結地の万石埠頭で会おう。ヘギョンさんを無事に送ってこい」
「俺が来なかったとしても、兵士を連れて無事に逃げてくれ」
「必ず来るんだ!先生が仰った希望が何なのかまだ分からないがチェ・ウニョク、お前はそれを必ず見つけるんだ」
2人は再会を願って互いの手を取り合い、力強く握り締めた。
【病院】
ウニョクに撃たれ、命が危険だとパク・チャンジュの様子をソンジュに聞かされたソンヒは、チャンジュとの子供と共に瀕死の状態のチャンジュの元へ駆けつける。
「パクチャンジュさん!」
「兄貴、兄貴!頼むから目を開けてくれ! チェ・ソンヒが来たぞ。兄貴の子供が来たんだ...兄貴の息子だ」
「坊や、お父さんよ。覚えてる?釜山でお前が生まれた日、お父さんの顔を見たでしょう?」
チャンジュは無垢な子供の顔を見つめると、「すまない...」と一言いいながら、子供の手を握ろうと自らの手を伸ばすが、我が子の小さな手を握り締める前に息絶えてしまう。
【埠頭〜ソッキョンの部屋】
ヘギョンを連れ、埠頭に向かったウニョクは事前に助けを求めておいたムン・ソッキョンの姿を見つけるが、トンウ率いる警備兵の到着によりソッキョンに近づくことができなかった。2人が現れず、肩を落として戻ってきたソッキョンは、ヘギョンと2人で撮った写真を取り出すと、様々な想いがこみ上げてくる。
「これ覚えてる?上野で撮ったこと... 探してみたら、あなたと撮った写真はこれ1枚だけね。ケヒ、あなたにしてあげられることはないようだわ。わかってちょうだい。ここまでが私の最善なの。私には...」
ソッキョンの部屋に突然ウニョクが現れる。
「チェ・ウニョクさん!」
ちょうどその頃、トンウがソッキョンの滞在する旅館に現れるが、ソッキョンの部屋の前でウニョクの気配を察し、そっと身を潜める。
「ヘギョンは?」
「この近所に隠れています。空き家があるようですね...。港では警備隊がいたので近づくことが出来ませんでした」
「だからってここに来てどうするっていうんです?」
「ソッキョンさん、あなただけが唯一の希望です。ヘギョンを助けてください」
「だからといって収容所で暴動を起こして仁川を騒然とさせるなんて...ヘギョンを救うために 自分の人生を捨てることはできないわ。 これ以上無理を言わないで」
「分かっています。私がどれだけ無理を言っているのか... でも、それでも、わずかでも希望があるなら、ヘギョンを助けるべきです!」
「私、切に後悔しています。トンウさんの隣にいたケヒに、嫉妬していなかったら良かったのに。そうしていたらケヒは死刑囚にもなっていなかったわ」
「過去を後悔しても何の意味もありません! ...今が大切なんです」
「ムン・ソッキョンさんも、ヘギョンを大切に愛しているのを分かっています。一度だけでいいんです。ヘギョンを船に乗せてやってください」
「できないわ!」
「ムン・ソッキョンさん!」
「死ぬのが怖くてトンウさんのお父様まで告発した私です。ケヒが可哀想で気の毒だけれど これ以上はできません」
外で黙って様子を見ていたトンウがたまらず声を掛ける。
「ソッキョン。ソッキョン、寝てるのか?ソッキョン」
驚いた表情のソッキョンに、ウニョクは外に出るように促す。
「オラボニが何の用ですか?」
「港で聞いた。 ケンショウ号の船長が、ソッキョン、君がその船に乗ることになっていて、許可が下りれば出航すると...」
「それはもうお話したでしょう。港へ行くと。オラボニはご自由にどうぞ、と」
「ヘギョンは俺が収容所から連れ出そうと思っていた。
ウニョクは暴動を起こすべきではなかった。 脱出だなんて、ありえない話だ」
「チェ・ウニョクさんもヘギョンもこれ以上オラボニに迷惑をかけたくなかったんでしょう」
「俺は透徹した軍人ではないが、大韓民国の将校だ。
戦争を起こした戦犯が警備兵を殺害し脱出するのを傍観するわけにはいかない。いくらウニョクだといっても、容認するわけにはいかないんだ...。俺が助けられる人間は、ヘギョン、ただ一人だ。外港に停泊している船は全て外国船だ。君の母さんの船も、軍需物資を運ぶ船で24時間後に出航する。警察支援兵力は撤収させるが、湾岸守備隊は非常待機しているのを忘れるな」
「私にどうしろと言うのです?」
「ヘギョンを助けてくれ」
「オラボニ...」
トンウは話を聞いているであろうウニョクを意識しながら、ヘギョンをなんとか救おうと、ソッキョンとウニョクに最後の望みを託す。
【隠れ家】
ソッキョンは別れの前にヘギョンと母を会わせるため、チョン・ホンドゥに会いに行くと、隠れ家を用意するように伝える。ホンドゥにつれられ、ヘギョンの母はヘギョンとウニョクの隠れ家へ向かう。ウニョクとともに身を潜めていたヘギョンは、ようやく母と再会する。
「お母さん」
「ヘギョン...」
2人は抱きしめ合い、互いの無事を喜び合う。
一方、カッカ山の情勢を聞いたトンウは、残党を率いて逃亡中のチョルヒョンを追うことを指示し、同時に港周辺の非常警戒令を解除する。その決定に反発するソンジュは自分も捜索隊に合流し、ウニョクとチョルヒョンを自分の手で殺すとトンウに主張するのだった。
【隠れ家】
「故郷にいるべきお前が、捕虜収容所とはどういうことなんだい?」
「こんなにお母さんに苦労をかけて、私たち姉妹は親不孝ですね...。許してください、お母さん」
「子供のことで笑って、子供のことで泣いて、それが母親の人生だ。親不孝だなんてとんでもない。たまたま酷い時代に生まれて、こうも辛い目に遭わされるなんて、 可哀相な子...。 石につまずいて死んでしまうような弱い人間もいるが
、高い崖から落ちて生き残る人間もいる。諦めては駄目だ。何があっても生き残るんだよ」
「お父さんの娘で生き残った子は私一人だというお母さんの言葉は忘れません。必ず、必ず生き抜いて、お母さんにまた会いに来ます」
「ああ分かった。ウニョク、頼むよ、ヘギョンを最後までよろしくね。咸興でもどこでも 広い空の下で自由に暮らせるよう頼んだよ」
「はい、お母さん」と頷くウニョク。
「またお会いする日まで、そのときまで、どうかお体をお大事に」
しばらく離れ離れになることになってしまう大切な母に、心から感謝を込めて、挨拶するヘギョン。母ヒャングムは愛しいヘギョンを再び抱きしめる。
「あの世の使者が捕まえにきても... 百年でも、千年でも、お前にまた会う日まで、母さんは絶対に死なないから心配しないで」
「生きるのが辛かったとき、 全部放棄したくなったときも、私を救ってくれたのはお母さんでした。 いつも辛い思いをさせたけれど、また生まれ変われたとしても、何度生まれても、お母さんの娘になりたいです」
「何度生まれ変わっても、ケヒ、チェヒ、チュンヒ、マリ、うちの娘の母になるよ」
「お母さんのようになりたいです。お母さん、愛しています」
残された捕虜の自白により、万石埠頭が集結地だと割り出すソンジュ。オ・チョルヒョンが警察署を襲い、逃亡していることを聞かされたトンウはすでに許可を出した船の出港のみ許可し、港の警備を強めるため現地に向かう。
【隠れ家】
ソッキョンはヘギョンを船に乗せる時間のため、彼女を迎えに来る。ウニョクと向かい合うソッキョンは“あなたも送ってあげたいけれど、力が及ばなくて”と沈んだ表情でウニョクに伝える。
「ヘギョンだけでも十分です。俺はここですべき事が残っています」
「もう発たないと...。チェ・ウニョクさんも、どうかご無事で」
ソッキョンの服に着替えたヘギョンを迎えに行くウニョクは明るく“綺麗だな”とヘギョンに声をかける。
「オラボニ、今、そんな冗談を言ってる時ですか?早く行きましょう」
「お前、先に行ってろ」
このウニョクの言葉に驚いて振り返るヘギョン。
「俺の心配はせず、お前は先に行け。行けるなら、故郷の咸興へ行って... 川辺にある俺たちの家がまだあるかを見て、庭の雑草を抜いて、 雨漏りしていないかを見て、もうすぐ寒くなるから、 部屋が寒くなるよう暖めておいてくれ」
「何を言っているんです?」
「俺は2次集結地に行かなければならない。 そこで俺の部下が待っている」
「それなら、私も行きます」
「先に行っていてくれたら、 俺が俺たちのお母さんとウニとチョルヒョン、ソンヒも連れて行く」
不安そうにウニョクをじっと見つめると、ヘギョンは首を横に振る。
「嘘を言わないでください」
「俺を信じられないのか?」
「でも、でもオラボニ...」
「待っていてくれ。 故郷の家で俺を待っていてくれ。
一生かかっても必ず君を探しに行くから、 いつまでも、 俺を必ず待っていてくれ。そうしてくれるだろ?」
ヘギョンは覚悟を決めたウニョクの瞳を見つめると、涙をうかべウニョクの言葉に頷く。
「そうします、そうします、オラボニ。 いつまでも...必ず、オラボニを待っています」
愛し続けてきたヘギョンとの別れを覚悟し、彼女を抱き締め涙を浮かべるウニョク。ヘギョンはウニョクの頬に手を伸ばすと、“愛して..います”と呟く。
【埠頭】
ソッキョンは侍女を装い、ヘギョンを船に乗せるため車を走らせる。ちょうどその頃、万石埠頭で騒ぎが起こったために、警備が解除され、ヘギョンは無事に埠頭に到着する。
【第2次集結地】
集結地に向かうウニョクは、兵力に追い込まれ腕に銃弾を受けてしまい、とうとう逃げ場を失うと岩の陰にうずくまる。ウニョクを殺そうと焦るソンジュを制止し、トンウは“情報局で尋問する”と、ソンジュを振り切りウニョクの元へ一人歩み寄る。怪我を負い、うずくまるウニョクに銃口を向けるトンウ。
「脱出は失敗した 収容所へ戻れ」
トンウを前に、ウニョクは目の前に広がる海原を見つめながら故郷を思い出す。
「故郷の海が見たいな...。先生が亡くなられる時、何故咸興の海を見たがっていたのか今やっと分かった。 先生もお疲れだったようだ...」
「捕虜の交換が行われている。故郷に帰れるぞ」
「こんなに遠くへ来たのに、戻れるのか? この地で南と北数百万人もの人民の血が流れたのに俺に故郷の海を見る資格なんてあるのか?」
「もうすぐ休戦になる。これが最後ではない。北でお前がするべきことがあるはずだ」
「ああ、この血生臭い戦争に何の意味もなければ、 民族にとってあまりに残酷な運命だろう。 もう一度、新しい希望を見つける機会があるとすれば、そんな義務があるだろう」
「それなら俺たちでその責任を分かち合おう。お前も俺もこの時代を生きた俺たちは、 その義務感を捨てることはできないんだ」
「頼む 手を上げて後ろを向け。 俺の前では死なないでくれ、頼む!ウニョク、銃を捨ててくれ、頼む...。」
トンウの言葉に銃を捨て、手を上げて立ち上がるウニョク。その様子を息を潜めて見守っていたチョルヒョンらは動向をじっと見つめていた。人民軍の兵士の一人がトンウを狙った瞬間、その動きに気がついたウニョクは咄嗟にトンウを庇う。トンウに向かった銃弾は、
非情にもウニョクの体を貫き、苛立っていたソンジュが手にしていた銃でウニョクを撃ってしまう。ウニョクはトンウに抱きかかえられながら力を失い倒れ
る。
「ウニョク!!」
チョルヒョンは衝撃を受け、ウニョクの名を叫ぶと狙撃兵の元へ急ぐ。
「射撃中止だ!やめろ!一体なんてことしてくれたんだ!」
人民軍の兵士が潜んでいることを察知したソンジュらとチョルヒョン率いる兵士たちとの銃撃戦が始まる。次々と犠牲になる兵士たちの中、チョルヒョンも銃弾を受けるが必死でウニを守り抜こうとしていた。傷ついたチョルヒョンの元に駆け寄るウニ。抱きしめあう2人の前にソンジュが立ちはだかり、チョルヒョンに銃口を向ける。
「まず私から殺して!オラボニだってパクチャンジュさんを殺したかったと思いますか?ソンヒが子供まで産んだのに、殺したかったと思いますか?助けて...ソンヒに免じて赤ん坊に免じて」
ウニの訴えに心の揺れたソンジュは2人の命を救い、チョルヒョンを巨済反共捕虜収容所に送ることを決める。
瀕死のウニョクを抱き、泣き続けるトンウは将校イ・トンウではなく、一人の人間としてのイ・トンウに戻っていた。
「ウニョク!しっかりしろ!ウニョク!」
「まだやるべきことがあるのに... 先生との約束を守らなければならないのに...」
「そうだ、お前は生きるんだ!また立ち上がるんだ!それが前の義務だ!」
「トンウ、お前がやってくれ... また立ち上がることも、希望を探すことも...」
「ウニョク!ウニョク!」
遠のく意識の中、ウニョクの心に浮かぶのは、亡くなった姉クミの笑顔だった。
「姉さん、姉さんの自慢の弟になりたかった。俺の、俺の人生に後悔はない。でもまだ...まだ...やるべきことはたくさん残っているのに...」
「ウニョク!ウニョク!ウニョク!」
その聡明さゆえ、理念を捨てられずに生きてきたウニョクは最愛の友であるトンウの腕の中で息を引き取る。
【埠頭】
ソッキョンとして、船に乗り込むヘギョンは、愛するウニョクの死をしらずに旅立つことになるのだった。ソッキョンはヘギョンに真心をこめて挨拶をする。
「これからはお一人で行かなければなりません。私は船に乗ることができませんので。お気をつけて。もう苦しまないでください。希望を失わないでください。お嬢様、本当に、本当に幸せに暮らしてください」
「ありがとう」
命がけで自分を救ってくれたソッキョンと抱き合い、ヘギョンの瞳からは次々に涙が溢れ出す。役目を終えたソッキョンは、安心したように微笑むと、自らもまた歩き出す。ヘギョンの姿をそっと見守っていたトンウに気がつき、歩み寄るソッキョン。
「もう行くんだな」
「銃声が騒がしいですが、チェ・ウニョクさんは無事ですか?」
何も答えられないトンウに、事情を悟るソッキョン。
「チェ・ウニョクさんが、まさか...」
「ウニョクはこの世を去った」
ショックを受けるソッキョンを残し、一人埠頭をあとにするトンウは大切な友と愛する人との別れを前に、悲しみで胸が引き裂かれる思いだった。
「さようなら...どうか幸せになって...あなたを忘れない」
〜この後、休戦交渉が成立し、1953年、戦争は集結した。戦争は南と北双方におびただしい人命被害を及ぼし、以後南北離散家族と南南離散家族という悲劇をもたらした〜
【咸興 学校の教室】
「皆さん朝ごはんを食べてきましたか?皆さん、一緒に歌を歌いましょうか?」
生徒たちを前に笑顔でピアノを弾きながら歌を歌うウニョクの幻想を見るヘギョン。思わず扉をあけて教室に入るが、ふと現実に戻り、誰もいない部屋で一人涙を浮かべる。
「お母さん、オラボニ、待っています。 いつまでも希望を捨てずに待っています。 またお母さんに会える日まで、 またオラボニの明るい笑顔が見られる日まで、希望を持って生きていきます...」
咸興の海に希望を乗せた紙の小船を浮かべると、ヘギョンは目の前に広がる海原
に、愛しい人たちを想
い、わずかな希望を胸に抱きながら、長い間海を見つめ続ける。
〜fin〜
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