ソンナン市響の指揮者を任されたカン・マエは、ルミやプロジェクト・オーケストラの団員らの待つ会席の場に姿を見せる。カン・マエは穏やかな微笑みを浮かべながら、この度の公演の努力に対して団員たちにねぎらいの言葉をかける。ところが、市響のメンバーに招かれることを期待していた彼らに対し、その考えはないことを明らかにし、次は客席でお会いしましょうと言うと、席を立ってしまう。外に出たカン・マエの後を追うトゥ・ルミ。
−機会だけでも下さい。扉だけでも開いてください。
−ああ、オーディション?もちろんやります。実力のある者に連絡を取り、非公開でね。君たちは対象外だ。君たちの実力は私が良〜く知っている、嫌になる程に。
−その嫌になるほどの実力者たちが、先ほどの公演を成功させたんです。何故でしょう?
−さあ、何故かな。天が助けて下さったのか?モーツァルトが憑依した?違うだろう。私が思うに指揮者のお陰だろう。
−私たちのために出来た市響だから、団員たちを入団させて欲しい、とは言いません。私たちもそれほど身の程知らずではありません。ただ、このままあきらめるのは…残念で、悔しいです。先生も私たちと2ヶ月を一緒に過ごしたでしょう?努力したのをご覧になったでしょう?それでも私たちの気持ちを、理解できませんか?
−それで、どんな答えを望んでいるんだ?甘い言葉か?“私にもどうしようもない。胸が痛む。君らは実力がまあまあだ、ここではなく他で成功して私に復讐しろ”こんな言葉が聞きたいのか?ああ、他人であれば、特にチョン・ミョンファンならば必ずこう言うだろう。何故?自分がいい人でありたいからだ。面倒が嫌いだからだ。そんなふうに都合よく背を向ければその人は?他のオーディションを何度も落ちながら十数年を無駄にする。“それでもチョン・ミョンファンは私を認めてくれたんだ、仕方がなく断ったのだ”と、嘘を信じたせいで。でも違う。責任者が誰かをクビにするとき、理由はただ1つだ!実力…。私は誰にでもいい人と思われようなどという気持ちはない。しかし騙すのはさらに悪いことだと思う。だからこうして話している。
ルミに近づきじっとルミの目を見るカン・マエ。
−君たちは、実力が、ない。お前、お前は特にダメだ。その耳で何が音楽だって?
呆然とするルミは、返す言葉が出てこない。
−思い当たらないか?お前が自分で言っただろう。聴こえないと。
−ただ1度だけ、そうだったんです。
−それは初期だ。私の話が信じられないのなら、ここで何の異常も無いと診断書をもらってこい。隠そうなどと思うなよ。この医者が誰だ?私の友人だ。
カン・マエは手帳とペンを取り出し、医者の連絡先を書き始める。
−正常だったら、受け入れてくれますか?
ルミにメモを手渡すマエ。
−健常だとは認める。
意気消沈した団員たちは、キム・ガビョンだけがオーディションの誘いをすでに受けていたことを知り、さらに気落ちする。その場にいたコヌの携帯電話にカン・マエからの電話が入ると、その内容が市響のオーディションの知らせだと気がつき、特にヨンギはコヌを羨ましく感じ、素直に祝福することができず、これまで共に練習してきたコヌとヨンギの間に溝ができてしまう。
一方、ルミはオーディションを受けたい気持ちが抑えきれず、夜間、カン・マエの不在を確認してから文化芸術課の事務室に忍び込むと、オーディションの場所を書き残したメモなどの手がかりを探し回る。ルミの電話に適当に返事をしたカン・マエは、仕事を終え、席を立つと、暗い事務室の中でルミが探し物をしている後姿を見つけ、静かに近づいていく。カン・マエに見つかり、観念したルミは、自分はいつも一歩遅れるために後悔ばかりだったと正直にカン・マエに話し、恥を忍んでオーディションを受けたいと伝える。
−後で跪いてでもオーディションを受ければよかったと後悔するよりはマシです。
−後悔するよりは、マシ…
−…はい。
−だが下手をすれば後悔だけでなく何一つ残らない場合もある。
意味深につぶやくカン・マエは、突然ルミの手を取り、机の上にあるペンをとると、ルミの手にオーディションの場所と時間を書くと、“君がやりたいと望んだことだ。後で私を恨むな”と言い事務室を後にする。市響のオーディションについての知らせは、公演当日参加できなかったヒョックォンの元へもメールで届いていた。仕事に見切りをつけられないでいたヒョックォンは、後輩が自分より先に昇進し、自分が部下となったことで葛藤する。
オーディション当日、団員らの中でも早い時間に順番となったヒョックォンは、カン・マエに入団を認められるが、会社をやめなければならない事実となかなか向き合うことができない。ルミから知らせを受けたプロジェクト・オーケストラの団員らもオーディションに姿を見せるが、腕前に格段の差がある他の奏者たちの演奏を耳にすると、1人、また1人とオーディション会場を後にする。その場に遅れてきたコヌが現れる。コヌは、カン・マエと団員たちが見守る中、トランペット演奏を始める。
−やめ!
カン・マエの声にコヌが演奏をやめると、椅子に座ったカン・マエがコヌに質問する。
−クラシックは“□”だ…何だと思う?
かつてのマエとのやりとりを思い出し、笑うコヌ。
−何を笑っている?
−クラシックは良く分かりませんが、音楽は、いえ、オーケストラは“共に演奏する幸せ”だと思います。
−面白くないな。“才知”程度は育てておけ。そうだ、帰りに事務所に寄ってこれからの日程を聞いていくように。次!
コヌも合格したことを知るルミたちは、自分の順番で精一杯の力を出すが、認められず、厳しい得点をつけられ、奈落の底に突き落とされたような気分で肩を落として会場を去っていく。
ルミはカン・マエに紹介された病院で、自分の聴力が腫瘍の圧迫により徐々に失われることを知らされていた。聴こえなくなるまででも、オーケストラで音楽を続けたいとコヌに打ち明けたルミ。ルミの話に驚いたコヌは、何故冷静でいられるのかとルミに問いかける。不安を抱きながらも明るく振舞うルミの表情を見つめながら、言葉の見つからないコヌはルミの手をそっと握りしめる。
家に戻ったコヌは、ルミや団員たちを受け入れて欲しいとカン・マエに直接願い出る。相変わらず気持ちの変らないカン・マエは、ルミの耳に問題があることをコヌに伝えるが、コヌはルミの診断は正常だったと嘘を話し、研究団員はどうかとカン・マエに提案する。研究団員には給料も必要なく、先生の性格を知っている彼らは話も良く聞くでしょうというコヌの言葉に、カン・マエはすんなりと良い返事をする。毎回立ったまま朝の9時から夜10時まで練習を見学させ、好きなときに辞めることもできない、と無謀な条件を並べるカン・マエは、二管編成のオーケストラに、これ以上の増員は必要ないことを付け加え、元団員たちが舞台に立つことは無いだろうと断言する。
コヌから事情を聞いた元団員たちは、少しのチャンスも逃してはならないと話し合い、カン・マエの提案を前向きに受け止める。三管、四管編成となった際、自分たちも必要とされるかもしれないとのカビョンの話に団員らは希望を持つ。そしてカン・マエ率いるソンナン市響の初めての練習日、彼らは研究団員として練習室へと向かうが...。
:::베토벤 바이러스:::
韓国MBCドラマ18部作
(韓国放送日:2008.9.10〜2008.11.12)
企画:オ・ギョンフン/演出:イ・ジェギュ/脚本:ホン・ジナ.ホン・ジャラム/主演:「白い巨塔」「不滅の李舜臣」キム・ミョンミン.「ファン・ジニ」チャン・グンソク.「太王四神記」のイ・ジア。