【テギル クンノムと再会】
−クンノム…お前か!
目の前にいる仇に怒りが噴き出したテギルは、短刀を手にクンノムに向かって走り出し、喉元に刀を突きつける。震えながらテギルを見るクンノムの表情に、テギルは冷たく笑い始める。
−…見つからないとでも思ったか?
−なぜここが…
−オンニョン…オンニョンはどこにいる?
−捕らえたら気が晴れるのか?
−…卑しい分際の奴が、恐れ多くも敬語を使わないのか?
テギルは一度起き上がるクンノムを殴り倒してしまう。
−そなたと目をあわすことすらできなかった以前の私とは違う
−両班の振りをしていた長い間に、とうとうおかしくなったな
−これ以上この世に未練はない。殺せ...。何をためらっている?そなたの父を殺して逃げた卑しい使用人だ。一息で殺せばいいではないか。そなたの父を殺したのは、私なのだ…
かつて自分が斬り付けられたように、クンノムの顔を斬りつけるテギル。
【テハとヘウォン チェジュ】
ソッキョンの居場所にたどり着いたテハとヘウォンだったが、すでにソッキョンの姿はなく命を落とした官軍が無残に倒れている姿に息を呑む。部屋に入り、ハンソムの残したはずの伝言を探すテハは、部下が王孫を連れて北へ向かったことを知る。ところが二人の前に別の官軍が現れ行く手を阻む。大勢の兵士に囲まれ、ヘウォンが恐怖に震えていると、テハは彼女を安心させるように“大丈夫です”と声をかける。一旦刀を置いたテハに一人の兵士が近づくと、一瞬の隙を突いてテハが相手の刀や縄を奪い、命を奪わぬように配慮しながら一網打尽にしてしまう。混乱の中、一人の兵士が放った矢がヘウォンに向かうと、迷わず自分の左手を盾に矢を受けるテハ。
ヘウォン: 大丈夫ですか?
テハ:ご無事ですか?
自分の体よりもヘウォンを案じるテハは、痛みをこらえて矢を折り、引き抜くと、ヘウォンの手を取り走り出す。
【テギルとクンノム】
テギルはクンノムの胸元にある奴婢の刻印が消された痕を見て冷笑する。
−いくら覆い隠しても、卑しい奴は卑しい奴だ
−ほざくのはやめて殺せ。
−なぜだ?一息に殺せばオンニョンが無事だとでも?涙が出るぜ。卑しい奴でも人間だと…自分の血縁を心配してみせるとはな
−そなたと私のことだ。私だけ殺せば終わるのではないのか?
−オンニョン…オンニョンはどこにいる?
【ハンソムと女官】
王孫ソッキョンを抱いたまま、渓谷を海に向かい走り続けるハンソムを追い、叫ぶ女官。
−お願い、助けて!ソッキョン様を助けて!何でもしますからお願い助けて!
−声が大きいぞ
−可哀想なお方です。家族を失い、王室からも追われた方ではありませんか?
−声を立てるなといっただろう!
−...分かったわ…
立ち止まりソッキョンを女官へ渡すハンソム。
−ああ、ソッキョン様、ソッキョン様
官服の胸元の地図を見ながらテハと落ち合う場所を確認するハンソムは、女官に事情を話す。
−王孫様を殺そうと、漢城から刺客が来ている。一旦逃げよう!
ふたたびソッキョンを抱こうとするハンソムに抵抗する女官。
−やめて!あなたをどう信じろと?
−全く頑固だ…俺がそんなに信用できない奴か?
−そうよ
−だろうな
−もう解放してください。私は何も見ていません!
−王孫様が左議政派にここまで追われたことを知っているのか?その左議政の、婿が来ている…行くぞ
【テハとヘウォン 洞窟】
ハンソムの向かった道をたどり、ヘウォンとともに急ぐテハは、落ちていた女官の靴を拾いあげる。
ヘウォン:誰のものでしょう?
テハ:ソッキョン様に仕える女官のもののようです。部下と一緒に逃げているようです。
歩き出そうとするテハの腕を掴み、引き止めるヘウォン。
ヘウォン:いくら急いでいても、治療をまずさせてください
テハ:後にしても…
ヘウォン:鉄の毒が回ったらどうなさるおつもりです?
観念したように目を伏せるテハを座るように促すヘウォンは、テハの袖を上げ、出血の激しい箇所を消毒し始める。
ヘウォン:“ソッキョン様に仕える”や“女官”とは何ですか?
テハ:ここでお会いする方は、制御された世子様のご子息様でいらっしゃいます。
ヘウォン:それなら王様の孫にあたる方ですか?王様のお孫様が、なぜ逃げることになるのです?
テハ:その方の命を狙う輩が多いのですが、刺客を送ったようです…
消毒した傷口にしっかりと布を巻くヘウォン。
ヘウォン:その方を救えば、後に王様になられるのですか?
テハ:そうなるべきでしょう…
テハの瞳を見つめながら、ヘウォンの脳裏にテギルの言葉が浮かぶ。
ヘウォン:王様が変われば、世の中は変わるのでしょうか?
テハ:変えなければ…
ヘウォン:どう変えるのですか?
テハ:今よりは悪くならないでしょう
ヘウォン:終わりました。
頭を下げて立ち上がるテハは、ヘウォンに“行きましょう”と声をかける。
ヘウォン:いいえ、一人で行ってください。大義を控えていらっしゃるのに、妨げになりたくありません。どうかご無事で、良い世の中を作ってください...
ヘウォンの思いがけない言葉に、しばらく黙ったままだったテハだったが、心を決めたように切り出す。
テハ:男女の礼儀に反しますが、手を握ります。走らなければならないから...
テハが差し出した手を、ヘウォンはそっと握り締め、二人はこの先の道のりを共にすることを互いに心に決める。
【テギルとクンノム】
テギル:聞くところによると、お前はずいぶんと立派な両班らしいな?近所でも評判だぞ。その立派な両班さまが、裸で通りを歩くことになるのを、一度見せてもらおうか?
すると、クンノムの家の護衛武士が、テギルの連れであるソルファを人質に姿を見せる。怯えるソルファと対照的に、全く恐れず武士に向かうテギルは、護衛武士を一息に殺害してしまう。そんなテギルに向かい歩き出すクンノム。
−あの日、私がどうしてあんなことをしたのか理由を知りたくないのか?
−お前のつまらん理由など知りたくもない。結果が重要だ
−結果はお前が招いたんだ。あの日の結果が、今日を招いたということだ。
〜回想〜
テギルは想いを寄せた奴婢オンニョンを妻として迎えたいと父親に訴えるが、これがテギルの父の逆鱗に触れてしまい、“使用人の身分で息子をたぶらかし”とオンニョンを縛り上げ、水すら与えず、オンニョンは瀕死の状態になってしまう。
−そうして瀕死の状態になった妹に、お前は何をしてやった?部屋に戻ってただ泣いていただけだろう?私もお前のように泣いてだけいたと思うのか?
クンノムは、テギルの父に跪き、何度も許しを請う。テギルの父であり、自分自身の父である男性を前に...。
−母は私を産んだ後、別の奴婢と結婚しオンニョンを産んだから...つまりお前と私は異母兄弟だ。こんな話が珍しくもないとは、両班とは実に滑稽な存在ではないか?
クンノムはこの世に生まれてから、ただの一度も自分を息子と見ようともしない父親の姿に怒りが募り、カマを手にテギルの父の部屋へ向かう。
−あの日の夜、あなたの父ではなく、私の父が死んだのだ...ここまでだ。これ以上捨てるものも、得るものもない人生だ!
クンノムの話に黙って聞き入っていたテギルが、ようやく口を開く。
−悪知恵が働く奴だ..
テギル叫び声を挙げてクンノムに斬りかかるが、クンノムを殺すことができない。
−今もオンニョンを愛しているか?ならもう忘れてくれ...オンニョンはすでに婚礼を挙げたのだ。訓練院の前判官ソン・テハと…
この言葉に凍りつくテギルは、馬に乗るソン・テハの後ろの女性に短刀を投げつけた日のことを思い出す。
−ソン・テハ…ソン・テハと言ったのか?
−あの日オンニョンは逃げたくないと言った。死んでも、お前が住む家で死にたいと...。それを私が無理に連れて行ったのだ。オンニョンはお前をただ見つめていたかっただけではないか?
−...ソン・テハと…婚礼を挙げた?
−すべての罪は私が背負って去る。これ以上探さないでくれ...それが愛というものだろう?信じて行くぞ!
呆然としたままのテギルの手の刀を掴んだクンノムは、その刀で自分の腹部を貫くと、崩れ落ちる。
−私の弟、弟よ…
クンノムの様子に気がつくこともないほどに衝撃を受けたテギル。
−ハハハ…ずいぶんといい出会いだな…奴婢同士結婚するとは…
テギルの瞳から涙がこぼれる。
−よくぞ出会った…クンノム…だがなぜソン・テハだ?星の数ほどいる男の中から、よりによって…よりによって逃げた奴婢か?クンノム!聞いているだろう、クンノム!クンノム…
崩れ落ちるテギルは、クンノムが命を落としたことに気がつかないまま、クンノムに掴みかかる。
−この野郎!くだらない嘘をつくな!すぐに目を開けぬか!誰が死ぬことを許した?すぐにその目を開け!すぐにその目を開けぬか!この野郎!クンノム!クンノム…
様子をじっと見守っていたソルファは、ゆっくりとテギルに近づいていくと、その手を握りしめる。
【洞窟の中 ハンソムら】
ソッキョンに礼をするハンソムの態度を見た女官は、驚いた表情を浮かべる。
−悪党が豹変したわ
−事情があった 申し訳ない
−あなたという人は、本当に分からない人ね
−“あなた”か…いい響きだな
−本当に刺客が来たの?婿が刺客?
−王孫様お二人が崩御されるまで、医師はおろか、薬さえ送らなかった奴らだ。それでも生き残っていらっしゃるから、目の棘なのだろう。こんな日に備えて、私がいたのだ!
−守るべき人が、どうして乱暴な態度を?
−命令だった…
〜回想 テハと部下 獄中〜
テハ:ハンソム...
ハンソム:はい、将軍
テハ:お前が抜けださなければならぬ。私を訴えて仲間を売れ!それさえすれば、お前が出られる
ハンソム:なぜそんなむごい指示を?皆で潔く死にましょう
テハ:...我々は、生き残ろう。志を立てたなら、やり遂げなければならぬ…
ハンソム:私にはそんなことはできません(涙を浮かべながら)。他の仲間に指示してください
テハ:ハンソム!...命令だ!
ハンソム:将軍…
〜回想 ここまで〜
−上官や同僚を売って生き残った奴だ。外道の振りをしなければな
−つらかったでしょう?本心を隠し、自分を偽って生きるなんて
−嘘は1つだけじゃないぞ。“土地持ち”ってのも嘘だ!
−私が知らないとでも思ったの?
−子牛が12頭いるのも嘘だ!ハハハ
−ふふふ それを信じると思った?
−“ぜいたくをさせたい”のは本心だ。
−そんなこと言わないで…女官がどうして、他の男と一緒になれるの?
−世の中は変わるだろう
ハンソムが笑顔を浮かべる。二人は再び目的地に向かってソッキョンを連れ歩き出すが、とうとうチョルンが二人の姿を見つけてしまう。
【葦原 ハンソムと女官】
−なぁ、お前の名前は何という?
−私の名前をどうして聞くの?
−生まれは?
−いいのよ、歩きましょう
−この島を出たら婚礼式を挙げよう
−とんでもないことをいうのね、本当に…
−特別持っているものもなく裕福には暮らせぬだろうが、まっとうに生きるぞ
ソッキョンを負ぶいながら歩くハンソムを見つめて頬を染める女官。
−やせなさい。そんなに太っていてどんな女が振り向くって言うの?
−いや!これは贅肉に見えるが全部筋肉だぞ!触ってみろ
−ソッキョン様が見ていらっしゃるのに何するの!
−あ、寝ていらっしゃらないのか?
−目を開いていらっしゃいますよ
−ソッキョン様。今日はどうしてお昼寝なさらないので?...だからお前の名前は何かって
−あなたの名前はどうしてハンソムなの?
−一食も抜かず米をハンソム(一俵)食べる金持ちになれという理由!それでお前の名前は?名前1つ知るのに一苦労だよ...
ハンソムの言葉に立ち止まった女官が、自分の名前を言いかけた途端、チョルンが投げた矢が彼女の背に突き刺さる。衝撃を受けたハンソムが女官を抱きかかえる。
−おい!おい!ダメだ!ダメだ!おい!ダメだ...俺を見ろ…
−...ソッキョン様を守って...
泣きじゃくるハンソムを見つめる女官。
−せっかくここまで来たんだ...生きてくれ!
−...私の...名前は…チャン…ピルスンよ…
−しっかりしろ!!
−私の実家は漢陽(ハンニャン)のピマッコル...
互いの頬に手を伸ばし涙を流す二人だったが、女官は力尽きてしまう。
−ダメだ!ざいたくさせてやると言っただろう!ダメだ!目を開けろ!
ハンソムは突然の出来事に号泣しながらソッキョンをおぶったまま草原を駆け抜ける。そんなハンソムに追いつくチョルンはいきなりハンソムに斬りつける。
チョルン:王孫を渡して安らかに死ね
チョルンに抵抗し、必死で戦うハンソムは、足を斬られ負傷し、刀を落としてしまう。チョルンが向けた刀を自分の右肩で受け、ソッキョンを守り抜くハンソムだが、絶体絶命の危機に陥る。
チョルンが刀を振り上げた瞬間、駆けつけたテハの声が渓谷に響き渡る。
−やめろ!
ヘウォンを道中に残し駆けつけた手はは、ハンソムが落とした刀を拾い上げチョルンに斬りつける。
ハンソム:将軍!
テハ:...無事だったか?
ハンソム:無事に見えますか?
チョルン:来てくれて助かったぞ。捜して殺す手間が省けたな
テハ:もうやめてくれ...共に戦った友ではないのか
チョルン:友だと?お前が私を友だと思っていたのか?いつも私を見下し、私に命令ばかりしていたのではないのか
テハ:…近づけば首を斬るぞ
チョルン:私の命を一度救ったからといって、私の首がお前のものだと?
テハ:(ソッキョンを抱くハンソムに)先に行け!
ハンソムが立ち上がり歩き出すと、チョルンがハンソムに向かっていく。遮るように刀を手にチョルンに挑むテハ。
その頃、ヘウォンは、渓谷の道に置かれたテハの剣を見つけると、大切そうに胸に抱き、テハの言葉を思い出しながらテハが戻るのをその場で待つ。
渓谷で激しい闘いを続けるテハとチョルンだったが、ついにテハの刀が、チョルンの腹部を斬りつける。倒れこむチョルンに穏やかに語りかけるテハ。
テハ:もう追うのはよせ
チョルン:...俺に命令するな!
テハ:信じて行くぞ
背を向けて走り出すテハの後姿に向かい叫ぶチョルン。
チョルン:どこへ行くのだ!終わっていない!決着をつけろ!ソン・テハ!どこへ行く!決着をつけるのだ!
テハはハンソムとソッキョンを船着き場まで連れて行くと、ヘウォンの元へ向かおうとする。
テハ:行ってくる。四半刻あれば十分だ
ハンソム:ソッキョン様を置いて何をなさるおつもりですか!
テハ:時間になっても戻らなければ、先に出発しろ。西へ進むと漁船が待っているだろう
ハンソム:将軍!
テハ:ハンソム!(ハンソムの肩に優しく手をかけ)すまない...必ず連れてこなければならない人がいる...(ソッキョンを見て)行ってまいります、ソッキョン様
刀を置いた場所へ走りだすテハ。
ハンソム:ソッキョン様、もう時間になりましたね。出発するべきでしょうか?一人の民を救えない者は、一国を救うことはできないと学びました、ソッキョン様。私は、逃げていましたが、将軍は、誰かを助けに向かったようです。本当に、あのお方こそ国を背負うべき人です。そうではありませんか、ソッキョン様…
刀を置いた場所へと駆けつけたテハは、その場でヘウォンが待つ姿のを見て胸を熱くする。戻ってきたテハに気づいたヘウォンもまた、テハの姿を見て心が安らかになる。ゆっくりと互いに向かい歩み寄る二人。
テハ:待っていてくれたんですね
ヘウォン:刀を置いていかれましたから…
テハは愛しさがこみ上げ、初めてヘウォンを抱き寄せる。風が二人を優しく包むように吹きぬけると、ヘウォンはテハにそっと頬を寄せ、その手でテハを抱きしめる。テハとヘウォンが唇を重ね、こ
の先の人生を共に歩むことを感じていた頃、テギルはヘウォンの幻想を見て悲痛な想いに胸を痛めていた。
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