【チェ将軍 チョルンと激闘】
容赦なく斬りつけてくるチョルンの攻撃を長槍で交わしながら、チェ将軍はワンソンの居場所を言えと問いかけ続ける。チェ将軍の問いかけに答えるつもりのないチョルンは、誰の命令で来たのかと聞きながらチェ将軍に執拗に襲い掛かる。ついに長槍が真っ二つに折れ、地面に倒れこんだチェ将軍の視界に、岩の陰に横たわるワンソンの姿が映る。傷ついたワンソンに駆け寄ったチェ将軍は、ワンソンの意識がないことに衝撃を受け、ワンソンの名を呼び続ける。ワンソンを抱き、泣き叫ぶチェ将軍の背後に近づいたチョルンは、チェ将軍の背中に刀を振り下ろす。その頃、テギルは彼らの姿を捜し求めながら、夜の山を疾走していた。
【ヘウォンとテハ】
ヘウォン:実は、実は私は…
ヘウォンが涙を浮かべて震える姿を前に、テハは穏やかに語りかける。
テハ:つらい話なら、今度にしてもかまいません。夫婦であっても、秘めている言葉のひとつ程度はあるものですから...
テハの言葉に涙を流しながら、ヘウォンは勇気を出して打ち明け始める。
ヘウォン:私はいつも、逃げていました…。婚礼の夜もそうでしたし、その前は…
テハ:逃げたとしてもこの世は変わりません
ヘウォン:立ち向かう力も…知恵も足りません
テハ:それは何の問題にもなりません。立ち向かう心さえあれば、力も借り、知恵も借りることができるからです。自分が変わらなければ、世の中は変わりません
ヘウォン:私がどんな人生を送ってきたのか知らないから、そう言えるのです
テハ:私が夫人の過去を知らないのと同じように、夫人もやはり私の過去を知りません。そして、私たちの将来も分かりません。過去にどんなことがあったとしても、明日起こることよりも重要ではありません
ヘウォン:本当に…そう思われますか?
テハ:過去の縁や恨みが、未来を決めることはできないからです。ソッキョン様を救い出すまでは、全てが明確でした。いざ救い出してみると、何をどうすればいいのか、霧の中に立っているようです。今頃になって気がつきました。未来を考えもせず、自分が過去の義理と忠誠にしがみついていることを…。心の準備もしないまま、この時を迎えてしまいました。この愚かさを、夫人にも、部下たちにも、今まで隠していたのです。
ヘウォン:愚かさに気づかぬ人ほど、愚かな人はいないと聞きました。でも私の目に映るお役人様は、一点も愚かさなど見当たらないお方です...
テハ:“お役人様”ではなく、夫です…
常に自分を敬うヘウォンの慎ましさを、テハは穏やかな微笑を浮かべながら見つめる。
【クァンジェとハンソム】
クァンジェ:将軍は以前と違うようだな
ハンソム:何がだ?
クァンジェ:何か自信が足りないようだ
ハンソム:仕方ないだろう?これは戦場へ刀を持って出るのと訳が違う。同志といえども家の中に座った古狸のような学者たちが相手だ
クァンジェ:だが我々が何をどうやってどんな世の中を作っていくのか、そろそろ教えて下さるべきではないか?
テハ自身が不安を抱き続けていることを部下も感じ取っていた。
【テギル チェ将軍の痕跡へ】
山中をさまよい続け、足取りも重くなってきたテギルは、無残に折れたチェ将軍の長槍を発見する。槍が落ちていた場所で争いがあったことを悟ったテギルだが、そこにはすでにチェ将軍の姿はなかった。チェ将軍の名を呼ぶテギルの姿を、木の陰に隠れたまま様子を見ていたファン・チョルンは、推奴師であるテギルが“ソン・テハ”の名を叫ぶのを耳にすると
、一度引き抜こうとした刀を納め、テギルを利用しようと思いつく。
【ヘウォン 炊事場】
ヘウォンが炊事場で食事の支度をしながらソッキョンの面倒を見ていると、テハが姿を見せる。
ヘウォン:なぜ炊事場にいらっしゃるのですか?
テハ:ソッキョン様をなぜ炊事場に…
ヘウォン:母親が炊事をしているのですから、一時も離れるべきではないでしょう?皆が遠征に発てば、私しかお仕えする者はおりませんし...。
ヘウォンはテハの沈んだ表情を見てその心情を気遣う。
ヘウォン:寂しくありませんか?部下の方々と会えた途端別れだなんて...
テハ:皆に申し訳ない気持ちです。それでもどうしようもありません。どのみち進まねばならない道ですし
ヘウォン:“どのみち進まねばならない道は、道ではない”と聞いたことがあります。風に流れていく雲に、道などないことと同じではありませんか?最初から必ず進むべき道だと信じて、安心して行ってきてください
ヘウォンの笑顔を見つめながら、テハはある決意を胸にチョ学士の元へ向かう。
【テハ、部下らとチョ学士の元へ】
旅支度を整えたテハ一行は、チョ学士の元へ挨拶に向かう。
チョ学士:私の志に従ってくれてありがたいな。皆で朝鮮の新しい運命を切り開こう。大業へと踏み出すにあたり、将師の挨拶をお願いしなければな。一言申せ、ソン将軍
しばらく沈黙を守ったテハは、言葉を遮るかのように出発を促すチョ学士の言葉に、目を光らせる。
テハ:一言申し上げます
部下たちが待ち望んだテハの意思が、チョ学士に伝えられる。
テハ:方法は違うとはいえ、志は違わぬゆえ、従うべきだと考えました。どのみち伝える時がきますので、手遅れになる前にお伝えしたい。我々のすべき任務は、王を変えることではなく、世の中を変えることです!
チョ学士:ソン将軍!
テハ:振り返ってみると、ソヒョン世子様の遺志がそうだったのです
チョ学士:何を言い出すのだ?王を変えべきではないということか?
テハ:いいえ、変えなければならないでしょう。だがそれを目標にしてはならないということです
チョ学士:つじつまが合わないな
テハ:大業へと向かう将師の言葉を遮るおつもりですか?
自信を取り戻し、語気を強めるテハを前に、目線を合わせ満足そうにうなずくハンソムとクァンジェ。
テハ:今回の遠征は、兵力の規模を把握する程度で終わらせます。その後範囲を広げるのもいいでしょう。必要であれば、清国はもちろん、西域も見て回ることもひとつの方法でしょう。(チョ学士の部下である儒学者らに)学士様たちは、この国の百年の計を立てる方々ではありませんか?
チョ学士:出征の挨拶が長いな
テハ:では命令を下します。(部下にむかって)怪しまれぬよう、時間差で出発し、武官は学士様と対になり、道境を越えるまで護衛せよ。1ヶ月以内に終わらせ、戻ってこい
部下たち:はい、将軍!
【オッポクら ふたたび両班狩りへ】
両班銃殺を続けるオッポクに次に下された指令は、商人を殺すことだった。相手が悪党とは思えないオッポクは、陰の人物からの指令に次第に疑心を抱き始める。だが、この世を変えるために始めたことを途中でやめることのできないオッポクは、指定の場所へ向かいふたたび銃を構える。そこに現れたのは水牛の角に関わるものが殺されていることで警戒し、身代わりを撃たせた商人たちだった。絶体絶命の危機に陥ったオッポクらに刀が振り下ろされる瞬間、見知らぬ助っ人が颯爽と現れ、二人を救い出す。
【テギル 宿へ】
チェ将軍とワンソンを一晩中探し続けたテギルは、憔悴しきった体を引きずるようにして宿へと戻る。テギルの帰りを待っていたソルファの言葉も耳に入らない様子のテギルは、そこにチェ将軍とワンソンの姿がないことを知ると、一睡もしていない状態のまま再び外へ向かおうとするが、力を失い倒れるように眠ってしまう。悪夢にうなされ目を覚ましたテギルは、目の前にいるソルファに気づく。胸元から金を取り出したテギルは、ソルファに投げつけると、去るようにつぶやく。
テギル:ついていこうなどと思わず、故郷へ帰れ
ソルファ:私何でもするわ。炊事もするし、洗濯もするし、昨日は針仕事もしたのよ!お兄さんの服を縫おうと思って...(テギルのために縫った衣服を手にして)これを見て!
ソルファの持つ衣服をむしりとったテギルは、冷たい表情のままソルファを突き放す。
テギル:反物も買ってやったし、今ある金も渡した、もうやるものはない
何もいらないと言うソルファに、テギルは大声で怒鳴り、部屋を飛び出す。後を追ったソルファは、テギルを想う気持ちを打ち明けると、涙をポロポロと流し始める。ソルファに近づき、彼女の頬に手を伸ばしその涙を拭いたテギルは、情を断つかのようにその手でソルファの頬を叩く。
テギル:...どうかしてるぜ...お前にやりたい涙も、情もない...やりたくてもな、涙や情ごときは、とうに枯れ果てた。一歩でも近づいたら綺麗に包んでサダンの前に捨ててやる。去れ...
ソルファに背を向けたテギルは、ふと目線を移した先に見慣れぬ包みを発見する。手紙にはワンソンとチェ将軍の身につけていた物が包まれていた。
「追即死 宋太河(追えば死ぬ ソン・テハ)」
手紙の送り主がテハ本人ではないことに気づかぬまま、こみ上げる怒りを抑えることができないテギルは、目的の場所に向かい脇目もふらず街を駆け抜ける。
【出発の時】
クァンジェや部下たちがテハに出発の挨拶をする様子を物陰から見ていたチョルンは、テハの部下に狙いを定める。
チョルンの気配に気づいていないテハは、出発の時を前に、ソッキョンを抱くヘウォンに心情を語り始める。
テハ:部下に伝えました。私が愚かで申し訳なかったと…時間がかかっても道を模索しながら共に歩もうと...
ヘウォンはこの言葉に、自ら手を伸ばしテハの手を握り締め微笑む。
ヘウォン:旦那様らしい、お話をされましたね
そんな二人の元へハンソムが挨拶にやってくる。
ハンソム:皆出発しました。私は別行動をして、船に乗ります
テハ:そうか、私もそろそろ発たなければな
ハンソム:お気をつけて行ってきてください、“兄上”!
テハ:一ヵ月後に会おう
涙を浮かべながら、互いの無事を願う二人。
ハンソムが発つと、いよいよテハがヘウォンの元を去ることになる。
ヘウォン:山寺でミョンファン僧侶がこう仰いましたね。“大物になり、大きな船を浮かべる相だ”と...
テハ:“船が大きいほど、奪おうとする人も多くなる”と警告もされました
ヘウォン:その言葉を、忘れないでくださいね
テハ:すぐに戻ります。ソッキョン様をお願いします…
名残惜しそうに見つめ合う二人。
テハ:恋しくなるでしょう…
テハを安心させるように優しく微笑むヘウォン。
へウォン:ゆっくり行ってきてください。長い時間がかかっても、旦那様との…“義理”は最後まで守ります
テハがヘウォンへ想いを伝えたときの言葉を大切に感じていたヘウォンは、不器用でも、心のこもった言葉を自分からも伝え、別れのつらさに胸を痛めながらテハを見送る。
【テギル 過去と決別】
テギルは、ワンソンとチェ将軍の仇を討つことを決心し、オンニョンの人相書きを炎の中へ投げ入れると、瞳から零れ落ちる涙をしっかりと拭い取り、これまで自分が抱き続けてきたオンニョンへの愛と決別する。
【牙をむくチョルン】
先に出発したテハの部下たちに襲い掛かるチョルンは、クァンジェの前にも姿を現す。
チョルン:クァンジェ、久しぶりだな
クァンジェ:チェジュに来られたこと、聞きました
チョルン:蹴り技は健在か?
同行している学士へ“お戻りください”といい、構えるクァンジェ。ところがチョルンは、逃げ出した学士に向かい飛び掛り、一瞬で斬ってしまう。
チョルン:邪魔者から片付けないとな。お前とは時間がかかる
クァンジェ:時間をかければ私に勝てるのですか?私はソン将軍以外に負けたことはありませんが?
チョルン:ソン・テハも私には勝てぬ
激しい戦いの末、クァンジェは悪鬼のようなチョルンに敗れてしまう。血を流し、倒れているクァンジェを、その場を通りかかったテハが発見し駆け寄る。道を歩き出したばかりの大切な部下クァンジェが、無残な姿で横たわる姿に衝撃を受けるテハ。
テハ:クァンジェ!クァンジェ!目を開けてくれ、クァンジェ!...クァンジェ…クァンジェ!クァンジェ!
テハの必死の呼びかけに瀕死のクァンジェが目を開く。
クァンジェ:…将軍…
テハの腕に抱かれながら命を落としたクァンジェに、テハは慟哭する。こみ上げる悲しみをこらえながらクァンジェを丁重に弔ったテハは、チョルンが来たことを察し、残してきたヘウォンとソッキョンの元へと向かい、草原を疾走する。
【テギル ヘウォンの前へ】
ヘウォンはテハが出発した途端、チョ学士がソッキョンに挨拶に来たことが不安だったが、なすすべもなく外で待ち続ける。そんなヘウォンの背後に、仲間の仇を討つためにやってきたテギルが姿を表す。以前のテギルの姿とは全く違う風貌に息を呑むヘウォンだったが、同時に懐かしさがこみ上げ、涙が溢れ出す。
オンニョンへの想いを断ち切ったテギルは、彼女を前に冷笑を浮かべる。
テギル:逃げた奴婢ごときが…平穏に暮らせると思ったか?
ヘウォン:...私を…捜していたのですか?
テギル:奴婢どもは、主人に質問する資格はない
ヘウォン:もしや…私のことを一度でも、思い出しませんでしたか?
テギル:…どこの変人が、お前みたいな卑しい使用人を…胸に抱き続ける?さぁ、答えろ。身分差や主従が厳格であるというのに、なぜお前は天の意に背き、主人の俺を裏切った?
ヘウォンは、テギルの思いがけない言葉に悲しみがこみ上げる。
ヘウォン:身分差など、誰が作ったのです?主従とは、いつから始まったことなのです?人間として、人間らしく生きることが、本当の天の意ではありませんか?
テギル:まだ自分を人間だと思っていたのか?お前たちは…お前たちは…奴婢でしかない
心にもない言葉をヘウォンに突きつけたテギルは、彼女にゆっくりと近づくと、手にした刀をヘウォンの首に向ける。
テギル:ソン・テハは…どこだ?
ヘウォン:...夫の危険を知りながら、行き先は申し上げられません...私を見つけたのですから、罰として首を斬ってください!(跪くヘウォン)逃げた奴婢ごときが、命乞いなどできましょうか...私を殺してください。こうして生きていてくださって、それで私は幸せです…
テギル:幸せだって?何が幸せなんだ?こうして生きていることが幸せか?でなければこの姿で会えて幸せか?1日が1年のように長いことが…幸せなのか?一体何が幸せなんだ!!
そこへヘウォンの身を案じて戻ったテハが、妻ヘウォンに刀を向ける男テギルの首に、迷わず剣を突きつけ...
第14話 あらすじ / 第16話 あらすじ