【書院 テハ、ヘウォン、テギル】
妻へウォンの首に刀を向ける推奴師の男に背後から近寄ったテハは、男の喉元に刀を突きつける。
テハ:私を追ってきたのか…
テギルはテハの声に振り向きもしないまま、ヘウォンに向かってつぶやく。
テギル:だから幸せなどという言葉は気安く口にするな…生きているからといって、皆幸せだとは限らない
怒りに満ちた声でテギルに警告するテハ。
テハ:…刀を収めろ…
一旦ヘウォンに向けていた刀を下ろし、テハの刀に手を伸ばしその刃に触れ
たテギルは、テハを前にこみ上げる怒りをこらえながら問いかける。
テギル:久しぶりだな...俺の仲間はどこだ?
テハ:私の部下たちは…お前が殺したのか?
二人の言葉から、テハの大切な部下たちが命を落としたことを知ったヘウォンは衝撃を受ける。
テギル:チェ将軍とワンソンは、どこにいる?
テハ:答えろ!お前が殺したのか?
刀を手に争い始めた二人だったが、テギルに刀を振り下ろそうとするテハを、突然ヘウォンが身を挺して遮る。
テハ:どうしたのです、夫人…
テハが
驚いてヘウォンを見つめながら答えを待っていると、テギルはヘウォンの身を払いのけ、再び
戦いを挑む。今度はテハの前に身を挺して立つヘウォン。
テギル:恐れ多くも誰の道を邪魔している?ど
け!
ヘウォン:私が死ねばいいことではありませんか!私だけ...私だけ死ねば済むことではありませんか?
ヘウォンが涙を流して訴える様子を前に、テギルが刀を収めると、事情が分からないまま立ち尽くすテハの
方へと向き直るヘウォン。
ヘウォン:この方が、私の想い人でした…私の心の全てを捧げた方
なのです。その想いをすべて断ち切って、断ち切って…ようやくあなたに心を寄せたのです。
テハ:...死んだと
、仰いませんでしたか?
ヘウォン:そう思って生きていました。それなのに、私は死ぬこともできずにいたのです。この方は私のせいで命を落としかけた方です。そして私は、この方の家の…
過去を打ち明けようとしたヘウォンの肩に手を伸ばすテハ。
テハ:想い人という言葉は、口にしないでください。あなたの想い人は、私です…
事情を知ったテハは、ヘウォンの過去に縁のあったテギルへ目線を移し、言葉をかける。
テハ:そなた、名はなんと言う?
テギル:奴婢ごときに、名乗る必要があるか?
テハ:ここで戦うというのか?他の場所へ動かぬか?
テギル:死に場所を選びたいのなら、そうしてやろう。皆が死ねば…その方が楽だからな
その場を去ろうとするテハを引き止めるヘウォン。
テハ:一度は戦わなければならない相手です。だが、悲しませることは起こりません。待っていてください。行ってきます。ソッキョン様をお願いします。ソッキョン様を…お願いします。ソッキョン様は、私たちの息子です…
テハの言葉に何度も頷くヘウォンと、その手を優しく握り締めるテハ
との姿を、テギルは複雑な思いで見つめ続ける。
【チョルン チョ学士を追う】
テハの部下を次々と追い詰め、無残に命を奪ったファン・チョルンは、チョ学士らが水原へと向かったことを聞き出
すと、すぐに目的地に向かい動き出す。
【雪原での決闘】
テギル:奴婢ごときが死ぬ場所としては、ずいぶん贅沢な場所だな
テハ:最善を尽くせ…
刀を手に闘い始めた二人だったが、将師として生きてきたテハが優勢
であることに、テギル自身も気がついていた。
テハ:お前は追うべきではない相手を追った
。私は本来奴婢ではない
テギル:俺も本来は推奴師じゃなかった
テハ:お前は殺さぬ…約束したのだ
テギル:それは困ったな…俺はお前を必ず殺そうとしているんだが
テハ:そなたは私と張り合える実力ではない。一時想い人だったという、過去の縁で今日は助けてやろう...
テギル:誰が誰の想い人だ
!俺が...あんな卑しい、家の“使用人”に対して、心を寄せるとでも?
テハ:…“使用人”…だと?
誰に“使用人”などと言っている?
使用人という言葉にテハが動揺した途端、テギルの刀がテハの
頭上をかすめ、彼の自尊心を振り払うかのように、テハの髷を切り落としてしまう。
テハ:誰が使用人だと
言った?…私の妻が“使用人”だと言ったのか?
冷たい風がテハの体に突き刺さるように吹きつけると、テハの脳裏にヘウォンの言葉が蘇る。
−ナウリ(お役人様)ではなく、夫です
“本当にそう呼ぶのがつらいのです。思い返してみると、私にそんな資格はありません…”
“奴婢より劣る存在はありません”
“私は奴婢ではありません”
テハ:奴婢では…ない…
想像もできなかった妻の過去を知ってしまい、冷静さを失ったテハは、刀を落としてしまう
。テハとテギルは、互いの胸に苦痛を抱きながら、その苦痛と闘うかのように武器を持たずに激闘を続けるが、憔悴しきった二人は雪原に倒れこむ。
テハ:言え…こう言え…奴婢ではなかったと
テギル:過ぎたことを聞くな…全て焼き捨てた
倒れこんで涙を流すテハを前に、チェ将軍とワンソンの仇を討とうとするテギルだったが、オンニョンの夫となったテハを殺すことが、オンニョンの悲しみにつながることを知っているために、到底殺すことはできず、空を仰いで慟哭する。
【ヘウォン ソッキョンの元へ】
ヘウォンはテハの言葉を支えにしながら、ようやく一歩一歩歩き出し、ソッキョンのいる部屋へと戻る。ところが部屋にはソッキョンの姿はなく、ヘウォンは衝撃を受けて外に飛び出し、泣き叫びながらソッキョンの姿を
求めて草原の中を走り続ける。市場までたどり着いたヘウォンは、チョ学士の姿を見
つけると、急いで駆け寄りソッキョンの無事を確認する。ヘウォンの声に全く耳を傾けようとしないチョ学士に、ヘウォンは心を強く持ち行く手を阻む。
−どきなさい!
−ソッキョン様をこちらへ...
−すぐに下がらぬか!
−子供を奪われたと声をあげましょうか?
−朝鮮の大業が控えているのだ
−どこへ行くにしても私がお仕えします。ソッキョン様をこちらにくださらなければ、捕校を呼び助けを求めます
テハが“私たちの息子”と話した王孫ソッキョンを守るため、ヘウォンは怯まずに立ち向かう。チョ学士が子供を抱いていることで周囲の注目を集めていると
忠告したヘウォンは、市場の終わりまで自分が抱いて、旅費を出してくれれば去ると申し出る。前を歩きなさいというチョ学士に女の私は後ろを歩きます
と答えたヘウォンは、ソッキョンをしっかりと抱きながら隙を見てチョ学士らのそばから離れていく。
【チョルン チョ学士の前へ】
ファン・チョルン:お元気でいらっしゃいましたか、チョ学士様。答える機会は一度だけです。王孫はどこです?
チョルンの姿を見て凍りつくチョ学士は、この言葉に一旦振り返りヘウォンとソッキョンの姿がないこと
に気がつくが、沈黙を守る。
チョルン:申し上げたはずですよ…
チョルンは無表情のままチョ学士に同行した
儒学者を刺殺してしまう。
チョルン:答える機会は一度だけだと。もう一度伺います。王孫はどこにいます
?
チョ学士:私は知らぬ
チョルン:誰かが
水原に連れて行ったのですか?水原のどこです?
チョ学士:私が答えるとでも思うのか?志を立てた学士は、この首に刀を突きつけられようとも信念を守るものだ
!
チョ学士の意志の固さも良く知るチョルンは、そのままチョ学士を捕らえて漢陽へと一旦戻っていく。
【オッポクら “身分の高い方”との出会い】
これまでオッポク
らに密使を送っていた人物が、ようやく彼らの前に姿を見せる。想像以上に若い人物だったことにオッポクは驚きを隠せなかったが、すでに一度始めたことを途中でやめるわけにはいかず、葛藤しながらも大きな渦の中に巻き込まれていってしまう。
【テギル テハを連れて漢陽へ】
書院へ戻ったヘウォンはテハの帰りを待ち続け
、ソルファもテギルの帰りを待ち続ける中、二人は漢陽へと向かっていた。テハもテギルの命を奪わず、テギルもテハの命を奪わなかったことで、二人の運命は絡み合い始める。
テハ:どんな訳があって、これほど執拗に私を追ってきたのだ?
テギル:推奴(逃げた奴婢を追うこと)に理由などどこにある?奴婢が逃げたら捕まえるのが仕事だ
テハ:誰の指示を受けたのだ?
テギル:俺は指示など受けていない。金だけ受け取るのさ
テハ:いっそ私を殺せばいい
テギル:そうするさ。その前に俺の仲間がどこにいるのか、それだけ言え
テハ:私は知らぬ
テギル:だから殺すって言ったんだ…
その頃、テギルの仲間チェ将軍とワンソンは、チョルンによって左議政イ・ギョンシク
の元へと送られていた。
テハ:そろそろ話せ…。家の“使用人”だったという言葉
、その意図はなんだ?
テギル:両班だった時代があるからといって、それがそんなに気になるのか?
テハ:私の妻が…奴婢だったのか?
テギル:それが何の関係がある?両班だとか、使用人だとか区別するのが一体何の意味がある?お互い心が通じ合えばそれでいいだろう
テハ:そうとはいえ、人間の根本を覆すことはできぬ
テギル:お前のような奴が官職に就くからこの世がどうしようもない。お前のような奴がいなければ、俺みたいな奴も生まれないだろうな...。お前がどんな理由でチェジュ島まで行ったのかは知らないが、結局お前は元の場所に戻りたいと、それに違いない。以前のように威張って暮らしたいんだろう
テハ:お前にそんなことを言う資格があるのか?朝鮮の秩序を正しくするために推奴をやっているというが、罪のない民をとらえ、悪輩として暮らしている
だけのことだろう
テギル:当然だろう。そうすることで生きているからだ。そうしなければ生きていけない世の中を、お前みたいな役人たちが作ったんだからな
テハ:それならお前は、一度でもそんな世の中を変えようと思ったことはあるのか?
テギル:ハハハ…おい奴婢。いや、奴婢両班!ホン・ギルトン知ってるだろう?あいつは道術まで使ったがこの世を変えることはできなかった。それなのに、道術も仕えない俺がこの世を変えられるとでも言うのか?
テハ:この世は、道術で変えるのではない。人が変えるのだ
テギル:どんなに立派な言葉を並べても
、こんな汚れた世はな、絶対に変わらないぞ
テハ:この世は変わらないという言葉をむやみに口にするな。そんな言葉を最も恐れている…人がいるからだ…
誤解を抱いたまま漢陽にたどり着くと、テギルはテハをイ・ギョンシクに引き渡すことになる。牢獄に入れられたテハに、過酷な拷問が始まる。下宿に戻り、チェ将軍とワンソンとの別れに
悲痛な涙を流しながら食事を始めたテギルの元に、オ捕校らがやってくると、テギルまでも連行されてしまう。
第15話 あらすじ / 第17話 あらすじ