ウノの4年目の命日の夜、チニが上衣も羽織らず、酒のビンを片手におぼつかない足取りで暗闇を歩く姿に、誰一人気づく者はいなかった。ウノとの悲しい別れから立ち直ることができずにいるチニは、
翌朝、この世を去る覚悟で川の水に入る。その様子を川岸で野宿をしていたキム・ジョンハンが見つけると、迷わずチニの命を救おうと後を追う。
−放して!放して!
命を絶とうとしていたチニは、チニを救おうとするチョンハンに抵抗するが、チョンハンに助け出される。
−一体何の真似だ!大丈夫か?
チニはチョンハンの頬を平手打ちすると、私の人生に関わるな、と鋭い目で睨みつける。
−ならば、死ぬのを放っておけと?
−私が生きたところで何になる?
−おい、初めて会う相手にその言い方はあるか?
−酒でももってこい!
−おい…
−祝盃をあげよう、切なく散った私の愛のために…
気を失ったチニをチョンハンが呆然と見つめていると、その場にチニを探していたムミョンが現れ、チニを抱き上げ教坊へと連れ
帰る。
4年の時が過ぎてもウノを忘れられず苦しむチニの心境を誰よりも知るタンシムはチニを心配していたが、チニは周囲の心配をよそに、ペンムに恨みを抱き続け、舞うのをやめ、修練すらせずに自暴自棄な日々を過ごし続けていた。
一方、松都では妓女ミョンウォルを知らないものはいないほどに、チニは知名度を高めていた。街でチニの姿を見かけたキム・ジョンハンは、
松都一と呼ばれる妓女ミョンウォルに興味を抱き、彼女を乗せた輿を止め言葉をかけるが、チニの傲慢な態度に
圧倒され、苦笑いを浮かべる。
都城でも松都教坊のミョンウォルの名声
は響き渡っていた。両班らが、最高の才能を持つ最悪の性格の持ち主だと口々に話す様子に、都城最高の風流人ピョク・ケスもまた妓女ミョンウォルに大きな関心を抱く。
天下の名妓ミョンウォルを妾として迎えようとするソクチョンに対し、チニはソクチョンの夫人を離れに置き、自分を母屋に迎えて欲しいとの条件を出す。ソクチョンは迷わずこの申し出を受けいれようとするが、チニの無礼な条件をその場に居合わせたキム・ジョンハンが叱咤する。ソクチョンの妾などになるつもりはないチニは機転を利かせてその場をしのぐ。
かつて王朝から追放されたキム・ジョンハンだっが、王命により再び呼び戻され、礼判に任命される。その頃王朝は明国からの使臣により、朝鮮の守ってきた音律の譜を焼き払われるなどの弾圧を受けていた。一度王命を断ったキム・ジョンハンだが、王の説得を受けいれ再び官服に袖を通すことになる。明の
使臣チャン大人と詩で対話することで、朝鮮の才芸が優れているかどうかを確かめて欲しいと申し出たキム・ジョンハン。これをきっかけに女楽の宴で明の文人をもてなすことになったキム・ジョンハンは、メヒャンからの申し出で、松都教坊のペンムらもこの宴に参加するようにとの通達を出す。チニのコムンゴの才能を買っているキム・ジョンハンは、チニの腕前に大きな期待を寄せる。
一度は申し出を受けいれたチニだったが、宴の直前、教坊から姿を消す。チニが寺へ向かったと聞いたチョンファンは、馬を走らせ、チニを説得するが、チニは“宴には出ない”と
断固拒否する。
−芸人の1人としての責任感もないようだな。
−責任感と仰いましたか?両班というのはずいぶんと都合がいいですね。普段は卑しい身分だとさげすんでおきながら、いまさら芸人だと持ち上げて責任感だの何だのと仰る。お帰りください。私
、吐き気がして耐えられません。警世を口実に、私腹を肥やす官たちを見るだけで吐き気がします。
−お前の言うとおりだ。そなたが正しい。世の中は理不尽だ。両班も官も、権力だけをよりどころにし、民の血を絞り、財を蓄えるのに必死で、民の苦しみなど眼中にない。しかし、朝鮮の音律は民を愛し、慈しむ心から生まれたものだ。その初心を覚えているものがいないために、この世が物騒なのだ。だからこそ、私は朝鮮の音律を必ず守りたい。それを放棄したら、その初心は永遠に忘れ去られてしまう。
−勝ち目のない勝負ですね。朝鮮の礼楽など耳をふさいで聴こうともしない者を説得できる音など、この世のどこにもありません。
−私は真心の力を信じる。そなたの指先を通して音となったその真心が、朝鮮の音律を守ってくれる。私はそう信じる。
チョンハンの言葉に、チニの心は動かされ、チニは明国の使臣の待つ宴に姿を現す。ところが、チニが持ってきたコムンゴの弦は全てはずされていた。
−大人を説得できる音など、朝鮮のどこを探しても、いえ、この世のどこを探して見つかる場所があるでしょうか?
−何だと?
−音律は耳で聴くだけでなく、心で聴くものです。しかしすでに大人は耳だけでなく心を閉ざしていらっしゃいます。ならばいかに私が美しい音を奏でようと心を込めたところで、大人を説得するなど
、はなはだ無理でしょう。違いますか?ならば大人を感服させる音律はただ一つ…大人が長い間持っていらっしゃる心の音律です。私は大人がここにいらっしゃる誰よりも礼楽を慈しむ心をお持ちのお方だと、そう信じています。いかがでしょう。今日このコムンゴでその心の音をお聞かせください。
−もし私がその音が軽薄だと批評すれば...
−大人の心は軽薄な音を奏でたことになります。
−では、その音が見事だといえば...
−そのお心は尊い音を奏でているといえます。
チニの機知に富んだ言葉の数々に、明国の使臣の顔に笑顔が浮かぶが...