青山深きピョク・ケスよ
流れやすきを誇るなかれ
ひとたび大海に至れば
戻り来ること難し
明月が空山をみたすとき
その流れを緩めん
ヒョングムの言葉通り、コムンゴの演奏をしてチニの感心を惹くピョク・ケスは、チニが詠む詩に無関心を装い、馬にまたがる。ピョク・ケスが送ってきた詩
の中にチョンファンの心を感じ取っていたチニは、全てピョク・ケスの下心を見透かした上で行動を取っていた。チニが後を追ってこないことで慌てたピョク・ケスは、バランスを失い落馬してしまうが、その様子をチニは一笑に付し、虚偽では何一つ得られませんと言葉を残し、その場を去っていく。
苛立ちを抑えきれないピョク・ケスの前に、チョンファンが現れると、何故自分の詩を盗んだのかとケスに尋ねる。
−そなたの詩を盗んだ。なんとも切ない詩だった...あの女に向かうそなたの心が良く表れている。一字一句全てが絶唱だ。だからその心を盗んででもあの女の心を手に入れたかった...あざ笑いたければあざ笑えばいい。今、私もこんな自分が情けなくて死にそうだ。
−虚偽など無力だ。人の心を動かすのは、誰がなんと言おうと...
−真心か?真心などという言葉は聞き飽きた。うんざりだ。私は真心などただの一度も学んだことはない。下心を疑い、微笑を警戒せよ。真っ先に疑うべきは友、甘言に騙されるな、権力と財を蓄え女も友も買いあされ
と...
−おい...
−それが我が王族の処世術だと一瞬たりとも忘れるなと...
−権勢と財だけで帰るものなど偽物だ。
−私も初めてだ...遊びだと終わらせたくない女に出会ったのは..初めて会ったのだ。だが相手にされぬ...私のやり方では手に入らぬ!
−そなたの真心で接しろ。他人の力を借りず、自分の心を見せるのだ。それがあの人の心を掴む唯一の方法だ。
−それはどういう意味だ?
−待つのだ。抱きたい女などと思わず、一人の女として、大切に尊重してやれ。
−つまり、私とミョンウォルとの間から、そなたが身を引くということか?
−その間になど、元々おらぬ。心が通じたら、この事を教えてやってくれ。“会者定離”...別れとは、妓女と男に限ったことではない。万人の定理なのだ。あまり心を痛めてはならぬと...
チニの前から姿を消す決心をしたキム・ジョンファンは、松都を発つ準備を終えると、教坊に立ち寄り、静かに去っていく。事情を知ったチニがたまらずチョンファンの後を追う途中、ピョク・ケスの部下たちに囲まれ、襲われ
そうになる。ムミョンがチニを必死で守る中、騒ぎに気づいて駆けつけた人々に危機から救われる。チニは周囲の静止も聞かず、一人チョンファンの後を追っていく。
ピョク・ケスの悪事を知ったペンムは怒りが収まらず、直接ピョク・ケスを尋ねていくと、権力も恐れず、芸人であるチニを害することは許さないと念を押す。
船着場にチニの姿を見つけたチョンファンは、船を岸へ戻してもらうとチニの元へと歩み寄る。
−忘れたものがおありでは?
ピョク・ケスから贈られた詩をチョンファンへと差し出すチニ
−礼判様のものではありませんか?まだ...今はまだ私は受け取ることはできません。お受け取りください。この詩に込められた心が重く、持ち続ける力がありません
、礼判様。
チョンファンはチニが差し出した詩を受け取り、チニを抱きしめる。
−その詩の中の心が重く、松都を発つと仰るのですか?朝鮮の音律は、慈しみの心に生まれる、その音律を守りたい...それほどの大志を、どうして私のような妓女一人のために投げ出すのです?それは
良い考えではありません、礼判様。
−私は...そなたが近くにいると心が騒ぐのだ。そなたに惹かれるほど、そんな自分に腹が立ち、耐えられない。責任を取れない縁を作ってはならない、そう考える自分が憎い。そなたが、責任を取れないところにいる人だということも、そなたのために私ができることが何一つないということ、全て
が恨めしくて、あまりにも恨めしくてたまらないのだ。
−礼判様のそのお心は、じきに収まります。恋情というもの、愛などというものはそんなものです。歳月がながれ、この体が朽ちれば、おのずと消えていくものです。ですが、礼判様の守るべき大志はそうではありません。私達が死んでからも、その後も長く長く生き続け、礼判様がこれほどまでに大切にした民の心に広く伝わるでしょう。戻って任務をまっとうして下さい。私は礼判様に愛されたいという欲などありません。ですが礼判様が大志を成そうとしておられる姿を胸にとどめたいのです。それが私が知る礼判様の最後の姿であって欲しいのです。
チョンファンはチニの真心を受け入れ、任務に戻ることを決意し、チニもまたペンムの元で鶴の舞の修練を始める。互いに心を開いた二人は、徐々に距離を近づけていくが、心を寄せれば寄せるほど胸が痛むチョンファンは、亡きウノの代わりになってもいいと
までチニに心を打ち明ける。チョンファンの純粋さに触れるたびチニの心も痛み、切なさが募る。チニはチョンファンが傷つくのを恐れ、
自ら他の誰かと結婚させて欲しいと教坊に申し出る。チニの心情を汲み、ヒョングムはチニを長い間守ってきたムミョンを結婚相手に選ぶ。事情を知ったチョンファンは、顔色を青くして教坊へと向かうが、チニはチョンファンにあえてつれなく接する。自分のせいならば思いとどまって欲しいと言うチョンファンに、チニは自分で選んだことであり、気のない相手とは一緒にはならないと淡々と答えるが...