チョンファンを忘れるため、ムミョンと夫婦になることを決意したチニ。チョンファンが教坊に来たことに気がついたチニは、目の前にいるムミョンの頬に手を伸ばすと、顔を近づけていく。見ていられずにその場を後にするチョンファンだったが、チニの頬を伝う涙に気づいたムミョンはチニの手をそっと頬から離す。
−自分を苦しめるために俺を利用するのはよせ。今までもこれからも俺は同じ場所にいる。だから自分を苦しめるためではなく、心を休ませるために呼んでくれ。
ムミョンが去った後、チニはチョンファンの元を訪ねて行く。胸の苦しさを抑えながら、チョンファンが目の前のチニを見つめながら語りかける。
−私が何か悪いことをしたか?そなたを想うことがいけないことか?全て捨てると言ったこと、そなたを手に入れることができるなら、今まで戦ってきた全てのこと、夢や信念さえ投げ出すこともできると言ったからか?これほどそなたに深く心を寄せたこと...それが過ちなのか?
−ならば私は、涙ながらに差し出されたあなたの手を取ればいいのですか?
−おい...
−あなたは…あなたたち両班たちの恋とは何と恩着せがましいのでしょう。どうしてあなただけが失うと思うのですか?何故あなただけが失って、私には失うものがないと、そう思えるのです?
返す言葉の見つからないチョンファンは、チニが立ち上がり、部屋を出る後姿をやるせない想いで見送る。教坊に戻り、断ち切れない想いに苦しむチニに、オムスが声をかける。
−礼判様はいいお方だ…
−ええ、分かっています。
−冷たく突き放さなければならないお前の胸の内もさぞつらいことだろう。
−私を気遣わないで下さい。愛が全てだと考えて生きることはないほど、歳月が多くのことを教えてくれました。妓女というものは女である前に芸人です....芸さえあれば一生、生きていける芸人です。
チニは揺れ動く心を鎮めるように鶴の舞の修練に励む。その頃、都城でもプヨンはメヒャンに鳴鼓舞の修練を受けていた。プヨンに指導し始めたメヒャンだったが、突然修練を中止し、鳴鼓舞に合う身体と心になるまでは太鼓に近づくなとプヨンに厳しく命じる。プヨンは先日チニに負けたことを雪辱しようと、自ら身体を作るための修練に打ち込む。
一方チニを酒宴に出席させなければならないと聞かされたペンムは、チニが修練中であるために難色を示すが、楽士と一曲奏でてくれたらいいという条件にしぶしぶ頷く。両班のために準備されたその宴の席で、オムスとチニは思いがけない人物に出会うことになる。 話の内容から、チニの母ヒョングムが愛した相手であり、チニの実父であると気がついた二人。母を軽蔑されたチニは怒りをあらわにし、演奏をやめると実父に水をかけ、宴席を飛び出していく。動揺するチニの心情を知るオムスは、その夜チニの元へやってくると、父親がヒョングムに会うために教坊に来ることを伝える。すぐに追い払うというチニを制止するオムス。
−母上が20年も待ち続けていた方だ。その希望がなければ、母上は今まで生きていられなかったかもしれん。心を落ち着かせ、母上と一緒に父上を迎えよ。何の素振りも見せず、礼儀正しく振舞うのだ。絶対に、何があっても母上を悲しませることをするな。そんなことは私が許さない。
かつて愛した人が娘のために来ると聞かされたヒョングムは、嬉しそうに身支度を整える。母ヒョングムの姿を複雑な気持ちで見つめるチニ。
−お父様がいらっしゃることを聞いた?お前を忘れていないそうよ。あなたに会うため、ここまでいらっしゃるのよ。
−嬉しいの?
−お前も私も...すっかり忘れられていると思っていた。父の顔を知らないあなたがずっと不憫だったわ。私に気がつくかしら...年を取ってしまったから...
−何を言うの?とっても綺麗よ。花嫁みたい。
−年老いた母親をからかって楽しいの?
二人の前にチニの父が現れると、チニはオムスに言われたとおりに礼儀正しく振舞う。そんなチニとヒョングムの前で、父親は終始目を伏せたまま時を過ごす。虚しい気持ちのまま母の部屋を出たチニは、オムスの部屋へと酒膳を持って向かう。コムンゴを弾きながら心を落ち着けるオムスだったが、チニの心遣いにふと微笑む。
−あの方を母に会わせた方は楽士様ですね?母にどんな言葉をかけたらいいかも教えられましたね。あの人を母に会わせてはならなかったのに…
−母上が喜んでいるではないか。
−楽士様の気持ちは?
−私はかまわない。片想いは耐えればさえよいのだ。
−一体、愛は、楽士様が信じる愛とはどんなものですか?
深いため息をつき、しばらく考え込んだオムス。
−(郷楽での)チニャン...だ。つぶやくような調べでもなく、目立つような調べでもないチニャン...穏やかでもの悲しいが、だからこそより、情深いチニャンだ。痴情に満ちたこの世の中で、こんな愛がひとつあってもいいだろう。だがお前は、お前だけはそんな恋はするな。かなわぬ恋なら、早いうちにあきらめて、かなう恋に目を向けるのだ。
一方、王の治世20周年の宴を仕切ることを命じられたチョンファンは、松都を去ることになる。チニを心に抱き続けるチョンファンは、再びチニの教坊へと足を伸ばしてしまう。
−3日後、都城へ戻る。
−伺いました。
−これでそなたの心を苦しめずに済むな...
−礼判様の心はすぐに吹っ切れるでしょう。
−これで終わりなのか?満足か?
−もちろんです。
チョンファンのためを想い、心を閉ざしたチニの様子に、チョンファンはなす術もなく肩を落として教坊を後にする。チニを含む松都教坊の人々に見送られ、チョンファンが松都を去る日がやってくる。平静を装っていたチニだったが、恋しさが抑えきれず、馬に乗るとチョンファンの後を追っていく。その頃、チョンファンもまたチニにひと目会いたい一心で、行った道を戻り始めていた。チョンファンの姿が見つけられず、思い出の場所で寂しそうにたたずむチニの元、チョンファンが現れる。表情を固くしたままのチニに歩み寄るチョンファン。
−以心伝心か…もしかして、ここに来たらそなたに会えるのではと思っていた...
−なぜ戻ってこられたのですか?
−忘れ物があって、それで戻った。
−誰かに申し付ければ届けたでしょうに...
−置いていくべきものを、持ってきてしまったのだ。友なら、いいだろうか?男女を超えた友になれば、そなたと長い間詩を交し合い、心も交し合えるだろう。
−そうでしょう...
−だがそれはできない。そなたを友にするくらいなら、いっそそなたを失うほうがいい。初めて心に宿した女だ…そして二度目はない。ゆえに心を持ってはいけないのだ。一人の女性を深く慕った男。その心をここに置いていく。
切なさがこみ上げてチョンファンの顔を見ることができないチニは背を向けたまま振り向けない。
−私を見よ。顔を見せてくれ…最後なのに、後姿で見送る気か?その姿を一生心に抱いていろと?
隠すことのできない愛に苦しみ続けてきたチョンファン、別れを予感しながらチニを抱きしめる。